2018年9月28日金曜日

生活保護法の徹底理解~国・都道府県・市町村の役割~その1

今回から,国・都道府県・市町村の役割を押さえていきたいと思います。

国家試験では,第27回,第29回,第30回と出題されているので,第31回には出題されない可能性が高いですが,一応押さえていきたいと思います。

保護の実施機関は,都道府県知事,市長,福祉事務所を設置している町村長です。

補助機関は社会福祉主事,協力機関は民生委員です。


複雑なのは,福祉事務所を設置していない町村にも保護の役割があることです。


福祉事務所を設置しない町村長

その町村の区域内において特に急迫した事由により放置することができない状況にある要保護者に対して,応急的処置として,必要な保護を行うものとする。

保護の実施機関又は福祉事務所の長が行う保護事務の執行を適切ならしめるため,次に掲げる事項を行うものとする。

一 要保護者を発見し,又は被保護者の生計その他の状況の変動を発見した場合において,速やかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を通報すること。

二 第二十四条第十項の規定により保護の開始又は変更の申請を受け取った場合において,これを保護の実施機関に送付すること。

三 保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,被保護者等に対して,保護金品を交付すること。

四 保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,要保護者に関する調査を行うこと。

驚くほどたくさんありますね。

それでは今日の問題です。


第27回・問題66 生活保護制度について,国,都道府県及び市町村の役割とその運用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 都道府県知事は,市町村の行う生活保護に関する事務について監査を実施することができない。

2 福祉事務所を設置していない町村の長は,保護の実施機関ではないことから,生活保護の決定及び実施に関する事務を行わない。

3 市町村長は,保護施設の運営について,必要な指導をしなければならない。

4 都道府県は,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護につき市町村が支弁した保護費,保護施設事務費及び委託事務費の4分の1を負担する。

5 国,都道府県及び市町村以外は,保護施設を設置することができない。

第27回の国試問題ですが,問題文にばらつきがあります。

1 できない。
2 行わない。
3 しなければならない。
4 負担する。
5 できない。

選択肢4が少し趣きが違います。

答えは,選択肢4「負担する」です。

試験センターは,このように表現にばらつきがあると,それがヒントになることにとうとう気がついてしまったようです。

現在は,表現はそろえるようになっています。

つまり,肯定形なら肯定形で統一,否定形なら否定形で統一,というように工夫してきているようです。ただしそれが徹底されているわけではありませんので,突破口は残っています。

おそらくこの出題傾向は,今後も変わることはないと思いますので,勘で「答えはこれかな?」と選ぶことはほとんどできないでしょう。

しかし,基本的な知識があれは,必ず対処可能です。

それでは,答えは分かっていますが,解説します。


1 都道府県知事は,市町村の行う生活保護に関する事務について監査を実施することができない。

都道府県知事は,監査を実施しなければなりません。

よって間違いです。


2 福祉事務所を設置していない町村の長は,保護の実施機関ではないことから,生活保護の決定及び実施に関する事務を行わない。

前説のように,福祉事務所を設置していない町村の長も行うべき事務はたくさんあります。

よって間違いです。


3 市町村長は,保護施設の運営について,必要な指導をしなければならない。

保護施設の保護施設に配置する職員及びその員数などは,厚生労働大臣が定める基準に従って,都道府県が条例で定めます。

つまり保護施設は都道府県が所轄庁なので,必要な指導は都道府県が行います。

よって間違いです。

保護施設は,最も多い救護施設でさえ,全国には約180しかありません。
市町村がかかわるほどのものではないことは分かるでしょう。


4 都道府県は,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護につき市町村が支弁した保護費,保護施設事務費及び委託事務費の4分の1を負担する。

これが正解です。保護に要する費用は,国が4分の3,福祉事務所を設置する自治体が4分の1を支弁します。

しかし,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護に要する費用は,都道府県が負担します。


5 国,都道府県及び市町村以外は,保護施設を設置することができない。

保護施設については,後日改めて詳しく紹介していきますが,設置できるのは極めて限定されています。

保護施設の設置主体

都道府県
市町村
地方独立行政法人
社会福祉法人
日本赤十字社

この5つのみです。

よって間違いです。また改めて紹介しますが,最後の部分を医療法人,特定非営利活動法人などど変えて出題されています。

保護施設の設置主体の出題があったときは,一番最後の部分を特に注意してみればよいということになります。


<今日の一言>

保護の費用の負担についてです。

国の費用負担は,4分の3です。制度ができたときは,10分の8だったので,それから比べると少なくなっています。しかし,それでも他制度よりも国の負担率は高いです。

これは「国家責任の原理」に関係していると考えられます。

国の費用負担が4分の3なのは,生活困窮者自立支援法の必須事業である「自立相談支援事業」と「住宅確保給付金」も同じです。

そのほかの事業では,費用負担が5割を超えるものは,おそらくないのではないでしょうか。少なくとも国試で出題されるものについてはありません。

もちろん,保護観察のように,地方の費用負担はなく,国がすべてを負担するものはあります。

最新の記事

児童手当法と児童手当

  今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...

過去一週間でよく読まれている記事