障害者総合支援法の実施主体は市町村ですが,都道府県が担うものもあります。
〈障害者総合支援法で都道府県が担う事務〉
・障害福祉サービス事業者の指定
・指定一般相談支援事業者の指定
・都道府県の障害福祉計画の策定
・地域生活支援事業のうち,都道府県が行うもの
・自立支援医療のうち,精神通院医療の支給決定
など
これら以外は,基本的に市町村の役割です。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題58 「障害者総合支援法」における自治体の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 市町村は,精神通院医療について支給認定を行う。
2 市町村長は,自立支援給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針を定める。
3 都道府県は,障害児通所給付費の給付決定を行う。
4 都道府県知事は,介護給付費等に係る処分の審査請求事案を取り扱う。
5 都道府県知事は,指定特定相談支援事業者の指定を行う。
(注) 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
知識不足の人がこの問題を確実に正解することはかなり難しいと思います。
奇をてらった出題ではなくても問題の難易度を上げることができています。
資格試験の理想は,勉強した人は解ける,勉強不足の人は解けない問題で構成されることです。勉強した人も解けない,勉強不足の人でも解ける,という問題が多い試験は不適切です。そういう点で,この問題は資格試験の理想的なものだと言えます。
複雑ですが,確実に覚えることが必要です。覚え方のコツはいくつかあると思いますが,その一つはほかの分野の似たような制度と比較して押さえることがあります。
障害者総合支援法の場合は,介護保険法です。
それでは解説です。
1 市町村は,精神通院医療について支給認定を行う。
障害者総合支援法が規定する自立支援医療は3種類あります。
以下のように役割が分かれます。
育成医療(障害児に対する医療) → 市町村の役割
更生医療(身体障害者に対する医療) → 市町村の役割
精神通院医療 → 都道府県の役割
2 市町村長は,自立支援給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針を定める。
基本指針,基本計画など「基本●●」は,基本的に中央省庁が定めるものです。
障害者分野には,障害者基本法の「障害者基本計画」と障害者総合支援法の「基本指針」があり,たびたび受験生を混乱させるように出題します。
障害者基本計画を定めるのは,「政府」です。
基本指針を定めるのは,「厚生労働大臣」です。
3 都道府県は,障害児通所給付費の給付決定を行う。
児童の分野も受験生を悩ませるものです。
通所は市町村の役割です。
入所は都道府県の役割です。
4 都道府県知事は,介護給付費等に係る処分の審査請求事案を取り扱う。
これが正解です。
障害者総合支援法に関する審査請求先は,都道府県知事です。
介護保険法の審査請求先は,都道府県に設置される介護保険審査会です。
障害者総合支援法は介護保険法を参考にして作られたものですが,似ているところもありますが,異なるところもあります。
その一つが審査請求先です。
このような違いが生まれる理由は,介護保険審査会の設置は義務であるのに対し,障害者介護給付等不服審査会の設置は任意であるためです。
障害者介護給付等不服審査会の設置は任意であるために設置しない都道府県も生まれます。
そのために審査請求先を障害者介護給付等不服審査会とすることができませんでした。
その結果として,審査請求先は都道府県知事と位置づけることになりました。
障害者総合支援法と介護保険法が似ているものの一つには,地域包括支援センターと基幹相談支援センターはいずれも市町村が任意で設置で設置することがあります。
5 都道府県知事は,指定特定相談支援事業者の指定を行う。
相談支援事業は2種類あります。
一般相談支援事業
→ 地域移行支援と地域定着支援を行う → 指定は都道府県
特定相談支援事業
→ 障害者のケアマネジメントを行う → 指定は市町村
ケアマネジメントを行う事業者指定の部分も障害者総合支援法と介護保険法が似た制度となっています。
事業者指定を行うのは基本的に都道府県の役割ですが,障害者総合支援法の特定相談支援事業者と介護保険法の居宅介護支援事業者の指定はいずれも市町村の役割です。
〈今日の一言〉
今日の問題は覚えどころ満載でした。極めて基本的な内容ですが,複雑な分,国家試験に出題されるととてつもなく難易度が上がります。
こういったものを確実に覚えていくことが国家試験合格には必要です。