<生活保護法の基本原理・原則>
国家責任の原理 ➡ 国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行う。
保護は国の責任で行います。国家責任は,GHQの指令書「社会救済(SCAPIN775)」で要求されたもので,旧・生活保護法から貫かれています。
無差別平等の原理 ➡ 困窮に陥った理由により差別を受けることなく,また信条・性別・社会的身分によって差別されることなく,保護を受けることができる。
無差別平等もGHQの指令書「社会救済(SCAPIN775)」で要求されたもので,旧・生活保護法から貫かれています。
旧法と現行法の違いは,旧法は欠格条項があるのに対して,現行法で本来の無差別平等が実現しています。
最低生活の原理 ➡ この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
最低限度の生活保障は,憲法第25条「生存権」が根拠となっています。最低限度の生活は「健康で文化的」な生活です。
補足性の原理 ➡ 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。
保護は最低限度の生活を送るのに不足する分を扶助するものです。
申請保護の原則 ➡ 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。
保護は申請に基づき行われますか,急迫した場合は職権保護も行われます。職権保護は,恤救規則以来ずっとあります。
しかし現・生活保護法がそれまでと違う点は,「国民は保護を受ける権利があること」が前提としていることです。
基準及び程度の原則 ➡ 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならない。
保護は「最低限度の生活保障」(ナショナルミニマム)です。
基準のラインで保護がなされます。
この基準をこえても下回ってもだめなのです。
生活扶助には各種加算があります。加算がある理由は加算がないと基準を下回ってしまうからです。
必要即応性の原則 ➡ 保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。
保護は,個別の必要(ニード)を考慮して行います。有効且つ適切に行うもので画一的に行うものではありません。
世帯単位の原則 ➡ 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。
保護は世帯単位が原則ですが,家族の抱えている問題によっては世帯分離も行われます。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題64 生活保護法が規定する基本原理・原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 日本国憲法第26条に規定する理念に基づく。
2 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。
3 保障される最低限度の生活とは,肉体的に生存を続けることが可能な程度のものである。
4 生活困窮に陥った年齢によって,保護するかしないかを定めている。
5 生活保護の基準は,厚生労働省の社会保障審議会が定める。
基本原理・原則は,出題頻度が極めて高いにもかかわらず,言葉が分かりにくいこともあり,難しいと思う人が多いようです。
それでは解説です。
1 日本国憲法第26条に規定する理念に基づく。
第26条ではなく,第25条です。
第25条は,生存権を規定しています。
こんな問題を出題するのは変だと思っていましたら,第35回では,第21条と出題されていました。
少なくとも第25条くらいは覚えておいてほしいものです。
2 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。
これが正解です。
世帯単位の原則です。
3 保障される最低限度の生活とは,肉体的に生存を続けることが可能な程度のものである。
最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものです。
4 生活困窮に陥った年齢によって,保護するかしないかを定めている。
現・生活保護法には,無差別平等の原理が規定されています。
5 生活保護の基準は,厚生労働省の社会保障審議会が定める。
保護基準を定めるのは,厚生労働大臣です。