旧生活保護法(昭和21年・1946年)は,GHQが責任を示した「社会救済に関する覚書」(SCAPIN775)の
①無差別平等の原則
②公私分離
③必要充足の原則
3原則に基づいて成立したものです。
しかし,保護請求権を認めていない,民間人である方面委員を市町村長の補助機関として位置づけて保護を実施する,欠格条項がある,などの問題点がありました。
これらを見ると気づく人もいると思いますが,旧生活保護法のこれらは戦前の救護法から引き続いて規定されたものです。
しかし,欠格条項があったとは言え,無差別平等の原則が規定されたことは,救護法から大きく前進したと言えるでしょう。
その後,日本国憲法が施行され,第25条生存権(最低限度の生活保障)を具現化するものとして,現生活保護法が作られます。
それでは今日の問題です。
第24回・問題56 旧生活保護法(昭和21年)の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 第1条の保護の目的は,最低生活の保障と無差別平等であった。
2 保護を行う責任は,都道府県知事によることとされていた。
3 教育及び住宅に関する保護は,生活扶助に含まれていた。
4 国家責任を明確にする目的から,保護費のすべてを国が負担していた。
5 数次の基準改訂を行い,エンゲル方式による最低生活費の算定方式の導入を行った。
この問題はかなりの難問です。
この科目の問題は,それほど難易度が高いものは出題されませんが,ちょっと目先を変えて出題したために,とんでもなく難しくなりました。
それでは,解説です。
1 第1条の保護の目的は,最低生活の保障と無差別平等であった。
こういった出題があると,何条に何が規定されているのかも覚えなければならない,と思う人もいるかもしれません。
しかし,そこが問われているわけではありません。今までで条項の知識が問われたのは,日本国憲法第25条「生存権」のみです。
最低生活の保障は,現生活保護法が規定しているものです。
旧生活保護法は,日本国憲法が施行される前に作られたものであることを考えると最低生活の保障が旧法で規定されていたことは考えにくいと判断できそうです。
旧法の第1条
この法律は,生活の保護を要する状態にある者の生活を,国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して,社会の福祉を増進することを目的とする。 |
ということで,旧法の第1条には「無差別平等」が規定されています。
2 保護を行う責任は,都道府県知事によることとされていた。
旧法は,SCAPIN775を受けて成立したものであることを紹介しました。
SCAPIN775が国家責任と公私分離を示した理由は,日本国政府が保護は民間に任せて,それに対して補助するという及び腰の対応にくぎを刺すためです。
3 教育及び住宅に関する保護は,生活扶助に含まれていた。
これが正解です。
この問題の難易度が高くなった理由は,これが正解だったためです。
これを正解だと思えるためには,各法で規定された扶助の種類を理解しておくことが必要でした。
救護法 生活扶助,医療扶助,生業扶助,助産扶助
旧生活保護法 救護法 + 葬祭扶助
現生活保護法 旧法 + 住宅扶助と教育扶助
現在は,介護保険に伴い介護扶助が加わり,8つの扶助となっています。
住宅扶助と教育扶助が旧法では生活扶助に含まれていたかはわからなかったとして新法でこの2つが加わったことを考え合わせると,正解になりそうだと推測することが可能です。
4 国家責任を明確にする目的から,保護費のすべてを国が負担していた。
この問題は少し作り方が下手です。
選択肢2では,保護を行う責任は誰? と出題しながら,この選択肢では「国家責任」と出題しています。
他の問題にヒントになるものが存在してはいけませんが,この問題では,同じ問題の中にヒントを出してしまうという初歩的なミスを犯してしまっています。
旧法の国の負担割合は,10分の8でした。
現在は4分の3です。
5 数次の基準改訂を行い,エンゲル方式による最低生活費の算定方式の導入を行った。
エンゲル方式は,現生活保護法で導入されたものです。
〈生活扶助基準の改訂方法の変遷〉
標準生計貴方式(昭和21年~22年)
↓ ↓
マーケットバスケット方式(昭和23年~35年)
↓ ↓
エンゲル方式(昭和36年~39年)
↓ ↓
格差縮小方式(昭和40年~58年)
↓ ↓
水準均衡方式(昭和59年~)