ずっと読んでいただいた方は,かなりこの科目に慣れてきたのではないでしょうか。
国試で大きな差が出るのは,法制度をいかにしっかり押さえているか,ということです。
歴史や人名は多くの受験者の方たちも苦手としています。
もちろんそういったところで点数を積み上げることは重要です。
しかしそれは法制度をしっかり押さえていることが前提です。
まだ勉強が進んでいないという方は,
人体の構造の機能及び疾病
心理学理論と心理的支援
社会理論と社会システム
現代社会と福祉
は飛ばしていきましょう。
現代社会と福祉は,本当は先に取り組んだほうが良い科目ですが,慣れないと難解に感じると思うので,この科目も飛ばしてしまいましょう。
こういったところで時間をかけすぎて,法制度を学ぶ時間がなくなってしまうのは,大きな戦略ミスとなります。
法制度をいかにしっかり押さえるか。
今の国試問題は,文字数がとても短くなってきているのが特徴です。
「のみ」「すべて」といった正誤が判別しやすい表現は極力避ける傾向にもあるようです。
法制度は,知っていれば簡単ですし,知らなければまったく解けないものとなります。
さて,今日も障害者雇用率の問題を紹介します。
気づいている方もいらっしゃると思いますが,前回の問題は「就労支援サービス」で出題されたものです。
今日も同じです。
第30回・問題143 障害者雇用率制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。(現在に合わせて一部改変)
1 2018年(平成30年)4月1日から,法定雇用率の算定基礎の対象に精神障害者が含まれている。
2 重度身体障害者は,障害者雇用率の算定上,一人をもって三人とみなされる。
3 特例子会社とは,事業内容を勘案して障害者の雇用義務を課さないと認められた子会社のことである。
4 法定雇用率未達成の事業主は,利益率に応じて障害者雇用納付金を納付しなければならない。
5 国や地方公共団体には,一般の民間企業より低い法定雇用率が課せられている。
今回取り上げる問題は,第30回国試で出題されたものです。
今改めて見ると,とても白々しい感じがしますね。
さて,正解は,選択肢1です。
勉強した人なら,すぐ正解にできたはずです。
2018年4月改正の法制度の中では,精神障害者が雇用義務化されて,障害者雇用率を算定するための算定基礎に精神障害者が加わることは,最もホットなテーマだったからです。
第27回でも同様に出題されていて,施策的にとても重要なのだ,ということを示唆していました。
3障害の中で精神障害者の雇用が進みにくいのは,病状が固定されていないという理由もあります。
しかし,近年は薬剤の開発が進み,服薬さえしっかりしていれば,精神症状は安定したものとなります。
日本では,統合失調症患者によるライシャワー事件をきっかけに,精神障害者を隔離する政策に逆戻りしてしまいましたが,ようやく近年地域移行が進んできました。
現在は,まだ正式な施策ではありませんが,「精神障害者アウトリーチ推進事業」という,地域生活をしている精神障害者に積極的に働きかけて,治療につなげていくという試みも始まっています。
さて,そうしてようやく,2018年4月にようやく精神障害者の雇用が義務化されたのです。
それでは解説です。
1 2018年(平成30年)4月1日から,法定雇用率の算定基礎の対象に精神障害者が含まれている。
これが正解ですね。
勉強している人にとっては,とても簡単な問題です。
しかし,知らなければ解けないものです。
2 重度身体障害者は,障害者雇用率の算定上,一人をもって三人とみなされる。
障害者雇用率を算定する際,ダブルカウント,ハーフカウントという仕組みがあります。
テレビのコメントで,当事者団体の代表者が「障害者雇用率はダブルカウント,ハーフカウントというものがあって,もともと信用できないものだと思っていた」と語っていらっしゃいました。
1人のひとなのに,障害の程度によって,2人と数えてみたり,働く時間によって0.5人と数えてみたり,数合わせだと思われて当然でしょう。
しかし,障害者雇用をすすめる上では,福祉政策による誘導は欠かせません。
その一つが重度身体障害者を雇用した場合,1人を2人とカウントするダブルカウントです。
よって間違いです。
3 特例子会社とは,事業内容を勘案して障害者の雇用義務を課さないと認められた子会社のことである。
特例子会社は,一定の要件を満たした子会社で雇用した障害者を親会社あるいはグループ全体の雇用として算定できる制度です。
よって間違いです。
全国の企業をみると,クリーニングや清掃などにかかわる会社が多いようです。
4 法定雇用率未達成の事業主は,利益率に応じて障害者雇用納付金を納付しなければならない。
障碍者雇用納付金は,制度の中心をなすものです。
法定雇用率を達成できなかった企業は,不足した人数に応じて障害者雇用納付金を納付しなければなりません。よって間違いです。
雇用義務は45.5人以上雇用する企業に課せられていますが,障害者雇用納付金の対象となるのは,101人以上を雇用する企業です。
達成企業には,納付金を財源として,調整金・報奨金を支給します。
納付金を納付しても雇用義務がなくなるわけではありません。
5 国や地方公共団体には,一般の民間企業より低い法定雇用率が課せられている。
白々しく感じるのは,この選択肢です。
・国・地方公共団体,特殊法人(44人以上) 2.5%。
・都道府県等の教育委員会(50人以上) 2.4%。
・一般の民間企業(45.5人以上) 2.2%。
となっています。よって間違いです。
それぞれ従来よりも0.2%ずつ引き上げられています。
いくら一般の民間企業よりも高い法定雇用率が課せられていても,水増しして報告していたらまったく意味がありません。
障害者雇用納付金は,実は障害者雇用をすすめる上では重要な制度です。
企業にとっては,障害者を雇用することで調整金・報奨金が支給されるので,納付金を納付するよりも,実は得だからです。
一か月以上「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」は今回で終了です。
次回からは,次の科目「低所得者に対する支援と生活保護制度」に移ります。
分野論の科目では覚えるべき法制度が少ないので,攻略は比較的簡単です。