2018年8月16日木曜日

精神保健福祉法の徹底理解

今回は,精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)を学んでいきましょう。

精神保健福祉法の歴史をひもとくと,精神衛生法として成立し,精神保健法となり,そして精神保健福祉法となっています。

ここで流れを確認しておきましょう。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html


精神保健福祉法は学ぶべきポイントが多いわりに,精神保健福祉士とすみわけがなされているのか,実は社会福祉士の国試ではほとんど出題されたことがないのです。

その中で唯一一問出題されたのが今回取り上げる精神保健福祉法が規定する入院形態に関する問題です。

種類は4つあります。覚えるのは面倒ですが,第31回は出題されそうなので,一応押さえておきたいところです。


①任意入院
任意入院は,看護職員によって入院患者が殺された宇都宮病院事件によって,精神衛生法が精神保健法に改正されたときにできた制度です。

本人の同意で入院するものです。それまで本人の意思で入院するというものがなかったというのはちょっとびっくりですが,精神障害者に対する施策は,隔離だったということなのでしょう。

入院は自分の意思で行われるので,退院も自分の意思でできます。

しかし,悲しいですが退院制限というものがあります。

精神保健指定医が退院制限する場合は,72時間が限度です。

精神保健指定医ではない場合は,12時間が限度です。

退院制限があるのは,任意入院のみです。

任意入院以外は,医師の判断で退院の可否が決まるからです。


②医療保護入院
自傷他害の恐れはないものの入院が必要な時,本人の同意がなくても,家族等の同意で行う入院です。


③措置入院/緊急措置入院
措置入院は,自傷他害の恐れがある場合,都道府県知事の措置による入院です。

ただし簡単に措置入院が行われるものではありません。

精神保健指定医が2人以上で診察を行ったうえで,その診察結果が一致して初めて実施されます。

緊急措置入院は,ライシャワー駐日大使が精神障害者によって刺された事件によって,精神衛生法が改正されてできた制度です。

措置入院の一形態で,緊急を要する時に,精神保健指定医の診断は1人で措置入院を行うことができますが,入院時間は72時間が限度です。


④応急入院
応急入院は,精神保健法の成立によってできた制度です。

入院治療が必要な場合,本人や家族等の同意がなくても,精神保健指定医が必要性を認めることで行われる入院です。

精神保健指定医が診断した場合は72時間を限度,精神保健指定医ではない場合は,12時間が限度です。

さて,ここで整理しましょう。


任意入院と医療保護入院
 本人あるいは家族等の同意で行う入院です。


措置入院,緊急措置入院,応急入院
 本人あるいは家族の意思とは別に行われる入院です。


退院制限があるのは,任意入院のみ。


入院に時間の制限があるもの
 緊急措置入院,応急入院。


措置入院に時間の限度が設けられていない
 理由は,精神保健指定医2人の判断が一致した場合に行われるからです。


時間の限度を整理すると,

72時間と12時間しかありません。

24時間,36時間といったものが問題文の中に出てきたらすぐさま消去できます。


72時間・12時間法則は,入院も退院も共通

時間の限度を精神保健指定医とそれ以外という視点で整理すると,

精神保健指定医 → 72時間

それ以外 → 12時間



それでは今日の問題です。

第27回・問題60

事例を読んで,Gさんの入院に対する対応として,適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 Gさん(28歳)は精神障害があり家族はいない。過去に放火をしたため「医療観察法」による通院処遇を3年間受けて,2年前に裁判所から処遇終了の決定を受けている。現在は地域活動支援センターを利用している。最近,Gさんの状態が悪化したため,通院している精神科病院で精神保健指定医の診察を受けたところ,「自傷他害のおそれはないが入院が必要」と診断された。Gさんは入院に同意できる状態ではないが,後見人は入院に同意している。

1 「医療観察法」による鑑定入院の命令

2 「医療観察法」による入院処遇の決定

3 「精神保健福祉法」による措置入院

4 「精神保健福祉法」による医療保護入院

5 「精神保健福祉法」による応急入院


医療観察法は,「更生保護制度」で学びますが,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者を対象としたものです。

それでは解説です。


1 「医療観察法」による鑑定入院の命令

鑑定入院は,精神障害があるかどうか判断するために入院させるためのものです。医療観察法による処遇は終了しているので,当てはまりません。


2 「医療観察法」による入院処遇の決定

入院処遇は,鑑定したあとに入院させて治療するものです。選択肢1と同様に当てはまりません。


3 「精神保健福祉法」による措置入院

ここからが本番です。措置入院は,自傷他害の恐れがある場合,都道府県知事の措置によって行われる入院です。

この場合は,「自傷他害のおそれはない」という精神保健指定医が診断しているので当てはまりません。


4 「精神保健福祉法」による医療保護入院

 これが正解です。本人が同意できないときに,家族等の同意によって入院するものです。後見人は家族等に含まれます。


5 「精神保健福祉法」による応急入院

 本人や家族等の同意がなくても,精神保健指定医が必要性を認めることで行われる入院です。この場合は,後見人が同意しているので当てはまりません。


<今日のまとめ>

同意という視点で整理してみましょう。

任意入院 → 本人の同意で入院

医療保護入院 → 本人の同意がない時に,家族等の同意による入院


措置入院/緊急措置入院 → 自傷他害のおそれがあるために,同意に関係なく都道府県知事の措置による入院。


応急入院 → 同意に関係なく行われる入院。

措置入院(緊急措置入院)は,都道府県知事の措置によって入院する制度です。

しかし応急入院は,同意でもなく措置でもなく,12時間という時間制限はありますが,精神保健指定医でなくても,応急入院は行われます。


相模原事件から早2年。

試験に出題されるかどうかにかかわりなく,しっかり押さえておきたいところです。

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