2018年8月1日水曜日

「障害者に対する支援」の都道府県と市町村の役割の整理法~その3

社会福祉士の国家試験の文字数を調べた人の話を聞くと,最も多かったのは第24回国試だったそうです。

現在よりも1.5倍のボリュームがあります。

ボリュームが多かったからと言って,受験時間が長かったわけではありません。

同じ国試とは思えないくらいに過酷なものと言えます。

問題文が長くなれば,引っ掛けポイントがいくつも作れます。

実力のある人でも間違いやすい問題だったと言えます。

解説までは載せませんが,最も難しい問題だったのは,こんなものがあります。

第25回・問題21 環境問題のとらえ方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 自然環境主義とは,生活上の知識や経験の集成である生活文化,地域に固有の環境への働きかけの伝統をもとに,当該地域の居住者の生活の立場から環境問題の所在や解決方法を考えようとする立場である。
2 自然資源の共同管理制度及び共同管理の対象である資源そのものを意味するコモンズは,環境資源の慣習的な共同管理制度を持つ伝統社会では環境保全に役立っていたが,私有財産制の社会には存在しない。
3 環境問題では,被害・苦痛を被る範囲である受苦圏と利益・便益を受ける範囲である受益圏とが一致しないことが多いなか,ニンビー(NIMBY)と呼ばれる社会運動が提起されると,その多くは社会的理解を得て,問題解決の促進に役立っている。
4 環境問題では,低所得層や人種的マイノリティなど社会的弱者に対して被害が集中することがある。このような不平等を是正し,あわせて環境からの便益の分配における不平等も是正しようという考え方を環境正義という。
5 経済成長と環境保全は二律背反的なものであり,技術革新によって環境保全を図ることはできるが,同時に経済成長も持続していくことはできないという考え方をエコロジー的近代化という。

答えだけ述べると正解は4の環境主義です。

この問題は,今まで最も合格基準点が低い72点だった第25回国試の問題です。合格率も過去最低の18.8%です。

第30回国試の合格基準点は,過去最高の99点となりましたが,おおよそ6割というラインから考えると振れ幅は,第25回のマイナス18点のほうが大きいことになります。

おそらく90点を超える点数が取れた人は皆無だったのではないでしょうか。

試験センターは,多くのデータを蓄積しています。

第30回国試は,多くの人からの批判を浴びることになりましたが,データとしては,低い方,高い方のデータが集まったので,これからしばらくは,試験センターの思惑通りの結果が得られる試験になると思います。

しかし,現時点ではその思惑とはどのようなものか分かりません。

さて,問題文が長いと,文章が破たんしやすくなるので,勘の良い人は得点できてしまいます。

一方では,先述のように間違いポイントが増えるので,実力のある人でも間違いやすくなります。

実力だけを考えた場合,単純に言えば,第25回で72点ぎりぎりで合格した人と99点ぎりぎりで合格した人では,実力は一緒だったと言えます。

つまり第25回では,27問は本来は得点できる問題にもかかわらず,得点できなかったと言えます。

勘が良いことは,ソーシャルワークに必要な機転につながるので,良いことです。

しかし知識が足りなくても点数が取れるのは,本来はあってはならないことです。

努力した人は解けて,努力が足りない人は解けないといった問題でなければ,良い国試問題とは言えません。

さて,今日も都道府県と市町村の役割を取り上げたいと思います。

早速,今日の問題です。

第28回・問題60 「障害者総合支援法」における都道府県の役割に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 自立支援医療の更生医療を実施する。

2 指定特定相談支援事業者の指定を行う。

3 サービス管理責任者研修事業を行う。

4 介護給付費等の支給決定を行う。

5 障害福祉計画を策定する。


余計な言い回しは,一切ありません。

以前は,選択肢ごとの文字数もそろっていなくて,正解選択肢だけが妙に長いといった時代もあったのです。

問題文の中で,説明しているからです。

現在の問題は,表現もそろっていることが多く,4つが否定形,1つが肯定形という問題文も少なくなっています。

勘では解けないように作られるようになった証拠です。

今日の問題は,都道府県と市町村の役割を考えた時,典型的な問題だと言えます。

しっかり押さえましょう。

1 自立支援医療の更生医療を実施する。

医療に関しては,基本的は都道府県の役割です。市町村がかかわることはほとんどありません。
障害者総合支援法のサービスの実施主体は市町村です。
そのため,同法によって規定される自立支援医療は,医療にもかかわらず市町村の役割です。

自立支援医療
 育成医療(児童福祉法)
 更生医療(身体障害者福祉法)
 精神通院医療(精神保健福祉法)

の3種類がありますが,そのうち精神通院医療だけは都道府県の役割です。

精神通院医療は,ライシャワー駐日大使を統合失調症患者が刺すというライシャワー事件によってできたものです。精神障害者を野放しにするな,といった世間の声で精神衛生法が改正されて規定されました。

そのため,社会的責任が多いために,同じ自立支援医療の中でも精神通院医療は,都道府県の役割のままとなっています。


2 指定特定相談支援事業者の指定を行う。

相談支援事業者には,2種類あります。

地域移行する「地域相談支援」を行う,指定一般相談支援事業者

ケアマネジメントである「計画相談支援」を行う,指定特定相談支援事業者


地域移行は,もともとは精神障害者を対象としたものです。

そのため,やっぱり都道府県が指定するのです。

指定特定相談支援事業者の指定は,市町村です。


3 サービス管理責任者研修事業を行う。

専門職の育成・研修は都道府県の役割です。

市町村は,研修を行うだけの体力はありません。


4 介護給付費等の支給決定を行う。

支給決定を行うのは,介護保険法と同じく市町村です。


5 障害福祉計画を策定する。

障害福祉計画は,都道府県も市町村も策定します。

正解は,3と5ということになります。

相談支援事業者の指定は覚えにくいので,国試ではねらわれやすいと言えるでしょう。


<今日の一言>

今の国試は,努力が必ず報われます。

しかし,正しい努力が必要です。

法制度は,必ず理由があります。

それらを考えるのは,大変だと思いますが,ほかの科目と結びつけて法則性を見つけ出すことができる人は,得点が伸びます。

今日で言えば,精神医療に関するものは,市町村は行わなそうだ。

といったことです。

勉強を続けてみて,もし例外事項が出てきたら,それを覚えればよいのです。

これで学習の効率化ができます。

そのためには,一つの科目に時間をかけるのではなく,何度も全体を繰り返すことが大切なのです。

そうすると必ず見えてくるものがあります。



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