2006年に国連で採択された「障害者権利条約」に日本が批准したのは2014年のことです。
世界人権宣言や障害者の権利宣言に代表される「〇〇宣言」は,国連が世界各国に呼びかける程度のものであり,法的拘束力を持ちません。
しかし,条約や規約は法的拘束力を持つため,それらに規定された内容に違反する施策があった場合は,国連に報告されてペナルティを受けることになります。
そのために日本は,採択された2007年に署名したものの国内法を整備しながら,2014年にようやく批准することになったのです。
この間,整備された国内法は・・・
障害者基本法改正(2011)
障害者虐待防止法(2011)
障害者総合支援法(2012)
障害者差別解消法(2013)
障害者雇用促進法改正(2013)
障害者優先調達推進法(2014) → 成立したのは批准後
障害者権利条約の批准に向けて,障害者施策が大きく動いたことが分かるでしょう。
さて,今回取り上げるのは,このうちの障害者虐待防止法です。
障害者の定義は,障害者基本法と同じです。
日本には虐待防止に関する法制度は,児童虐待防止法(以下,児),高齢者虐待防止法(以下,高),障害者虐待防止法(以下,障),そしてDV防止法があります。
DV防止法はちょっと趣きが他法とは違うので,虐待防止3法というとらえ方をして良いと思います。
今回は,3法を比較検討してみます。
虐待の種類
(高・障) 「身体的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つ。
(児) 「身体的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」「性的虐待」の4つ。
虐待の定義
(児) 保護者(親権を行う者,未成年後見人その他児童を現に監護する者)によるもの。
(高) 養護者によるもの&養介護施設従事者等によるもの
(障) 養護者によるもの&障害者福祉施設従事者等によるもの&使用者によるもの。
虐待を発見した時の対応
(児) 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,これを市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
(高) 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報するよう努めなければならない。
(障) 「養護者」による障害者虐待(十八歳未満の障害者について行われるものを除く)を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。
「障害者福祉施設従事者等」による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。
「使用者」による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,これを市町村又は都道府県に通報しなければならない。
通報等を受けた場合の措置
(児) 市町村又は都道府県の設置する福祉事務所が通告を受けたときは,市町村又は福祉事務所の長は,必要に応じ近隣住民,学校の教職員,児童福祉施設の職員その他の者の協力を得つつ,当該児童との面会その他の当該児童の安全の確認を行うための措置を講ずるとともに,必要に応じ一時保護等の措置を採る。
(高) 市町村は養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは,速やかに,当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに,当該市町村と連携協力する者「高齢者虐待対応協力者」という)とその対応について協議を行う。
(障)
(養護者による虐待)
市町村は,通報又は障害者からの養護者による障害者虐待を受けた旨の届出を受けたときは,速やかに,当該障害者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに,当該市町村と連携協力する者(「市町村障害者虐待対応協力者」という)とその対応について協議を行う。
(障害者福祉施設従事者等による虐待)
市町村が通報若しくは届出を受け,又は都道府県が報告を受けたときは,市町村長又は都道府県知事は,障害者福祉施設の業務又は障害福祉サービス事業等の適正な運営を確保,社会福祉法,障害者総合支援法による権限を行使する。
(使用者による虐待)
市町村は,通報又は届出を受けたときは,厚生労働省令で定めるところにより,当該通報又は届出に係る使用者による障害者虐待に関する事項を,当該使用者による障害者虐待に係る事業所の所在地の都道府県に通知しなければならない。
都道府県は,通報,届出,通知を受けたときは,使用者による障害者虐待に関する事項を,都道府県労働局に報告しなければならない。
3法を比べてみると,障害者虐待防止法が少し複雑になっていることが分かります。
これは,障害者の状況がいろいろあることを物語っています。
特に特徴的なのは,使用者による虐待があることでしょう。そのため,都道府県は都道府県労働局に報告義務があります。
それでは,今日の問題です。
第25回・問題62 「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 市町村長は,毎年度,障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況,虐待があった場合に採った措置等を公表しなければならない。
2 養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,市町村に通報しなければならない。
3 市町村障害者虐待防止センターの長は,精神障害者,知的障害者に対する後見開始等の審判の請求をすることができる。
4 都道府県及び都道府県障害者権利擁護センターは,使用者による障害者虐待の通報を受けたときは,公共職業安定所(ハローワーク)に報告しなければならない。
5 地域の住民による虐待は,この法律における障害者虐待に当たる。
答えは,すぐ選択肢2だと分かるでしょう。
なぜなら発見者は,通報義務があるからです。
注意すべき点は「虐待を受けたと思われる」になっているところです。
虐待の事実があるかどうかではなく,疑われる場合に通報義務があります。
それでは解説です。
1 市町村長は,毎年度,障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況,虐待があった場合に採った措置等を公表しなければならない。
公表するのは,都道府県知事です。よって間違いです。
2 養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,市町村に通報しなければならない。
これが正解です。
3 市町村障害者虐待防止センターの長は,精神障害者,知的障害者に対する後見開始等の審判の請求をすることができる。
後見開始の申立て権者は,「本人」「配偶者」「四親等以内の親族」「検察官」等です。よって間違いです。
4 都道府県及び都道府県障害者権利擁護センターは,使用者による障害者虐待の通報を受けたときは,公共職業安定所(ハローワーク)に報告しなければならない。
使用者による虐待の通報先は,都道府県労働局です。よって間違いです。
5 地域の住民による虐待は,この法律における障害者虐待に当たる。
障害者虐待防止の定義は,養護者によるもの&障害者福祉施設従事者等によるもの&使用者によるものです。地域住民による虐待は障害者虐待には当たりません。
よって間違いです。
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