成年後見制度には,「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
両制度で大きく違う点は,法定後見制度は,成年後見人等は家庭裁判所の職権で選任するので本人が希望しない人が後見人等になる可能性があるのに対し,任意後見制度は,元気なうちに自分の後見人を決めておくことができることです。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題79 任意後見契約に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約は,任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。
2 任意後見契約の締結は,法務局において行う必要がある。
3 任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任後も,公証人の認証を受けた書面によってできる。
4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は,特別代理人を選任する必要がある。
5 任意後見人の配偶者であることは,任意後見監督人の欠格事由に該当する。
実は,この問題には元ネタがあります。
第26回・問題81 任意後見契約に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。
そっくりだと思いませんか?
ここで注目してほしいのは,最初の問題は第30回国試,2番目の問題は第26回国試のものです。
任意後見制度が国試で出題される機会は少ないです。
3年間の過去問を勉強していたら,その中には含まれないことになります。
勘の良い人は気づいたかもしれませんが,今,第30回の問題に取り組んでいる理由は,過去3年間の範囲ではないからです。
それでは,解説です。
1 任意後見契約は,任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。
任意後見契約は受任者と契約しますが,それは将来のためです。
契約の効力が生じるのは,本人を含めた請求権者が,家庭裁判所に任意後見開始の審判の請求を行い,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任した時点です。
2 任意後見契約の締結は,法務局において行う必要がある。
これは何度も何度も繰り返して出題されているものです。
任意後見契約は,公証人役場で公正証書を作成することで締結されます。
法務局は,登記する場所です。
3 任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任後も,公証人の認証を受けた書面によってできる。
任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任の前と後では異なります。
選任前は,公証人の認証を受けた書面によって解除することができます。
選任後は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得ることで解除することができます。
4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は,特別代理人を選任する必要がある。
特別代理人は,後見人と被後見人の利益が相反する場合に選任され,本人を代表します。
しかし,後見監督人がされている場合は,後見監督人が本人を代表するので,特別代理人を選任する必要はありません。
法定後見制度では,必ずしも後見監督人が選任されているわけではないので,この仕組みがあります。
しかし,任意後見制度の場合,必ず任意後見監督人が選任されています。
そのため,任意後見人と被後見人の利益が相反することがあっても,特別代理人を選任する必要はありません。必ず選任されている任意後見監督人が本人を代表するからです。
5 任意後見人の配偶者であることは,任意後見監督人の欠格事由に該当する。
これが正解です。
任意後見受任者,任意後見人の配偶者,直系血族,兄弟姉妹は,任意後見監督人になることができません。
第26回の問題の正解は,もうわかりますね。
選択肢5が正解です。
このほかの選択肢は,なぜ誤りなのかを答えられるようにしておいてください。
任意後見人の職務は,財産目録にある法律行為についての代理権が付与されて,それらについての代理権を行使することです。
取消権と同意権は付与されません。