成年後見人の事務は,
財産管理と身上監護です。
成年後見人の事務ではないものには,日常の生活の世話や介護(事実行為という),手術方法の同意などがあります。
成年後見制度に関して,2016(平成28)年に民法の改正がありました。
その時に手術方法の同意に関して今後検討することが付帯決議に含められたので,今後はその部分は変更されることがあるかもしれません。
この改正の時に,新しく加わったものがあります。
(成年後見人による郵便物等の管理) 第八百六十条の二 家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。 (成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限) 第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。 一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為 二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済 三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。) |
特に2つめの「成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限」は,実際の事務において重要です。
成年被後見人が亡くなると,後見契約は終了します。
そのため,財産管理はできなくなります。そのために,死後事務をどうするかは以前から課題となっており,そのためにこの規定を追加しました。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題82 次のうち,民法上,許可の取得などの家庭裁判所に対する特別な手続を必要とせずに,成年後見人が単独でできる行為として,正しいものを1つ選びなさい。
1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送
2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄
3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結
4 成年被後見人の居住用不動産の売却
5 成年被後見人のための特別代理人の選任
民法改正があったのは,2016(平成26)年,この問題が出題されたのは,2018(平成28)年です。
満を持して出題したというところでしょうか。
この問題のポイントは「家庭裁判所に対する特別な手続を必要とせずに,成年後見人が単独でできる行為」です。
このような問題の設定を忘れてはなりません。
それでは解説です。
1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送
信書等の郵便物の転送は,2016年改正で新しく加わったものです。
思わずこれを正解にしてしまいそうですが,家庭裁判所の許可が必要です。
2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄
これが正解です。
成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄は,財産管理に含まれます。
基本的な財産管理は,家庭裁判所の許可を必要としない成年後見人の事務です。
3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結
成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結も2016年の改正で加わったものです。
これも家庭裁判所の許可が必要です。
4 成年被後見人の居住用不動産の売却
財産管理のうち,成年被後見人の居住用不動産の売却は,家庭裁判所の許可が必要です。
(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
5 成年被後見人のための特別代理人の選任
特別代理人は,成年後見監督人がされておらず,成年被後見人と成年後見人の利益が相反する場合に選任されます。
特別代理人の選任は,成年後見人が家庭裁判所に請求して,家庭裁判所が職権で選任します。