流動性知能は,新しいことへの適応力です。
その場の判断力なども流動性知能の一つです。
高齢者の自動車運転による事故が社会問題化していますが,事故を起こす原因の一つには,流動性知能の低下が考えられます。
このように流動性知能は加齢とともに低下します。
結晶性知能は,経験などにより培われていく知能です。
いわば,「おばあちゃんの知恵袋」といったところでしょうか。
結晶性知能は,流動性知能と異なり,加齢に伴ってそれほど低下しません。
もちろん個人差はありますが,人によってはかなりの高齢期まで結晶性知能が高まるという人もいます。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題11
前期高齢者(65~74歳)における認知機能や知的機能の一般的な特徴について,適切なものを1つ選びなさい。
1 作動記憶の機能は,加齢による影響が顕著にみられる。
2 エピソード記憶の機能は,加齢による影響がほとんどみられない。
3 意味記憶の機能は,加齢による影響が顕著にみられる。
4 流動性知能は,加齢による影響がほとんどみられない。
5 結晶性知能は,加齢による影響が顕著にみられる。
認知と知能をミックスして出題しています。
それぞれの用語は,特別なものを出題しているわけではありませんが,確実な知識が求められるために,正解するのは決して簡単ではないように思います。
今後は,こういった出題が増えるではないかと思います。
それでは解説です。
1 作動記憶の機能は,加齢による影響が顕著にみられる。
これが正解です。
作動記憶(ワーキングメモリー)は,短期記憶の情報処理を行うための記憶です。
ウェクスラー式知能検査では,検査者が言った言葉を覚えておいて,それを正しく答える(順唱),順番を逆に答える(逆唱)をするなどして作動記憶の知能指数を測ります。
作動記憶は,加齢の影響を受けることが理解できるでしょう。
2 エピソード記憶の機能は,加齢による影響がほとんどみられない。
エピソード記憶は,過去の記憶です。
過去の記憶という点では,個人の体験である自伝的記憶もエピソード記憶に含まれると言えるのかもしれません。
しかし,自伝的記憶は,はるか昔の記憶であるのに対し,エピソード記憶は,それほど過去の記憶ではなく,比較的最近の記憶であることに違いがあります。
加齢による影響がほとんどみられないのは,自伝的記憶です。認知症高齢者であっても,若い頃の記憶をよく覚えているのは,自伝的記憶は加齢の影響を受けにくい記憶であるということから説明できます。
エピソード記憶は,比較的最近の記憶です。
今日や昨日の出来事を覚えていないのは,認知症でなくてもよくあることです。
特に加齢の影響を受けがちな記憶だと言えるでしょう。
3 意味記憶の機能は,加齢による影響が顕著にみられる。
意味記憶は,ものの意味の記憶です。
花を見て,花の名前は思い出せなくても,花であるということは分かります。
このように,意味記憶は,加齢の影響を受けにくい記憶です。
4 流動性知能は,加齢による影響がほとんどみられない。
5 結晶性知能は,加齢による影響が顕著にみられる。
今日のテーマの登場です。
流動性知能は,新しいことへの適応力です。加齢の影響を受けます。
結晶性知能は,経験などにより培われていく知能です。加齢の影響はあまり受けず,人によってはかなりの高齢期まで高まっていく人もいるくらいです。