2020年8月22日土曜日

サンプリングの方法

社会福祉調査には,「量的調査」と「質的調査」があります。


「量的調査」は,アンケートなどでデータを集めることがあります。


その場合,母集団をすべて調査する「全数調査」と母集団から標本を抽出して調査を行う標本調査(サンプリング)があります。

本来は,全数調査を行いたいところですが,規模が多くなると時間がかかる,費用が大きくなる,などのデメリットを生じます。


費用が大きくなることはデメリットとしてわかりやすいですが,時間がかかることがデメリットとなる理由は,時間がかかると,最初に調査した人と最後に調査した人では,置かれた環境が大きく変わってしまうことがあるからです。


標本調査には,無作為抽出と有意抽出の2つの方法があります。


このうち,母集団を推測できるのは,無作為抽出です。


大きな鍋料理があった場合,かき混ぜないですくうと底にあるものが入りません。


かき混ぜないで食べた人と,かき混ぜて食べた人がそれぞれその鍋料理について感想を述べた時,的確に答えられそうなのは,かき混ぜて食べた人です。


これが無作為抽出です。

かき混ぜないで食べた人は,有意抽出に当たります。

なお,無作為抽出は「確率標本抽出」,有意抽出は「非確率標本抽出」ともいいます。


それでは今日の問題です。


第29回・問題86 量的調査における標本抽出に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 単純無作為抽出法は,集団の規模にかかわらず作業時間が節約できる効率的な抽出法である。

2 系統抽出法では,抽出台帳に何らかの規則性がある場合,標本に偏りが生じる危険がある。

3 標本抽出では,男女別や年齢別の割合など,あらかじめ分かっている母集団の特性を利用してはならない。

4 用いる尺度の問題から測定上の誤差が生じることを標本誤差という。

5 機縁法は確率標本抽出の一種である。



「社会調査の基礎」が苦手な人は,結構多いようです。

実務と遠いところにあるからでしょう。

しかし,苦手意識さえなくなれば,それほど難しいものではありません。


さて,この問題の正解は,選択肢2です。


2 系統抽出法では,抽出台帳に何らかの規則性がある場合,標本に偏りが生じる危険がある。


系統抽出法とは,母集団の成員に順番をつけて,最初に抽出する番号だけを乱数表で決めて,それ以降は,等間隔で抽出する方法です。


<例>

1 父

2 母

3 兄

4 妹


5 父

6 母

7 兄

8 妹


9 父

10 母

11 兄

12 妹


13 父

14 母

15 兄

16 妹


もし,このような台帳があった場合,乱数表で4が出て,そのあと4つごとに抽出すると,すべての家の妹ばかりが抽出され続けます。


これが「抽出台帳に何らかの規則性」という意味です。


それではほかの選択肢も見てみましょう。


1 単純無作為抽出法は,集団の規模にかかわらず作業時間が節約できる効率的な抽出法である。


単純無作為抽出法は,抽出精度が最も高い抽出法です。

しかし,母集団が大きくなると乱数表を作るのが大変になります。


3 標本抽出では,男女別や年齢別の割合など,あらかじめ分かっている母集団の特性を利用してはならない。


男女別や年齢別の割合など,あらかじめ分かっている母集団の特性を利用して抽出する方法は,層化抽出法といいます。

抽出精度は若干下がりますが,適切な抽出法です。


4 用いる尺度の問題から測定上の誤差が生じることを標本誤差という。


標本誤差とは,母集団の性質とのずれのことをいいます。

標本抽出の場合,必ず標本誤差を生じますが,それがある程度の範囲で収まるように考えたのが,無作為抽出です。


5 機縁法は確率標本抽出の一種である。


機縁法は,知り合いに調査協力を行う方法です。

有意抽出=非確率標本抽出の一つです。

2020年8月21日金曜日

社会調査における倫理

社会調査,とりわけ質的調査は,文化人類学から発展してきた経緯があります。

19世紀は,科学が大きく発展したこともあり,地球が小さくなり,文化人類学者は,世界中のさまざまな地域に赴き,研究活動を行いました。

今では容認できないような調査もあったようです。

研究には,いつも高い倫理性が求められます。


それでは今日の問題です。


第29回・問題85 調査者の倫理に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 仮説と異なるデータが得られた場合でも,そのデータも含めて報告書をまとめなければならない。

2 学術研究上の調査は,調査対象者に強制的に回答を求める必要がある。

3 調査対象者への謝礼は,謝礼目的で迎合的な回答をする恐れがあるので,禁じられている。

4 調査対象者に調査の協力依頼をする際には,誤解がないように電話ではなく,文書で行わなければならない。

5 公益社団法人日本社会福祉士会が作成した社会福祉士の倫理綱領および行動規範には,調査や研究に関する専門職としての倫理責任についての項目はない。


この問題はそれほど難しくないかもしれません。


しかし,だからといって甘く見ていると間違う恐れがあります。

それが国試です。


ミスが少ない人は合格し,ミスが多い人は不合格になります。

国試とはそういうものです。


この問題の答えは,選択肢1です。


1 仮説と異なるデータが得られた場合でも,そのデータも含めて報告書をまとめなければならない。


考え込むと,これを正解には見えなくなってきます。


なぜなら「まとめなければならない」というところに引っ掛かりを感じるからです。

迷う理由は「まとめなければならない」という「義務か?」と思うからでしょう。

この文章が

1 仮説と異なるデータが得られた場合でも,そのデータも含めて報告書をまとめる。


であれば,迷わないと思います。


しかし,国試はそんなところに引っ掛けポイントは作りません。


さて,この選択肢は極めて重要です。


得られたデータは,自分にとって有利とならないこともあるかもしれません。


刑事ドラマなら,それも含めて発表しようとしていた研究者がそのデータが発表されたら窮地に立たされる企業によって殺害されるというシナリオができそうです。


2 学術研究上の調査は,調査対象者に強制的に回答を求める必要がある。


調査は常に自発的協力によって行われます。

「強制的」であってはなりません。


3 調査対象者への謝礼は,謝礼目的で迎合的な回答をする恐れがあるので,禁じられている。


市場調査の場合など,調査対象者に謝礼を渡すことはよくあります。


みなさんの中にもも,調査に協力してクオカードなどをもらったことがある,という人もいるのではないでしょうか。


何事も度を過ぎれば不適切でになりますが,すべては運用次第です。


4 調査対象者に調査の協力依頼をする際には,誤解がないように電話ではなく,文書で行わなければならない。


調査の協力依頼は,文書でなくても,口頭や電話でもOKです。


そうでなければ電話調査や街頭での聞き取り調査は行えなくなってしまいます。


5 公益社団法人日本社会福祉士会が作成した社会福祉士の倫理綱領および行動規範には,調査や研究に関する専門職としての倫理責任についての項目はない。


もちろんあります。


<今日の一言>


ゲシュタルト崩壊という認知心理学の用語があります。

国試では出題されたことがありません。


ゲシュタルト崩壊とは,同じ文字などを見続けると,その文字を認知できなくなる現象などのことを言います。


国試問題にも同じような効果があるように思います。


読み間違いしないように,慎重に問題文を読むことは必要ですが,じっくり読むことにより,重要なサインが見えなくなってくるのではないかと思います。


特に社会福祉士の国試は,誤っているものを消去することが極めて重要です。

最初は「?」と思ったことも,じっくり読んでいるうちにその違和感がなくなっていき,どれもが正解に見えて,逆にすべてが不正解に見えてきてしまいます。

慎重に読みながらも,直感を信じることも時には必要です。

2020年8月20日木曜日

社会福祉調査とは?

 今回から,専門科目に入っていきます。

 最初の科目は「社会福祉調査の基礎」です。

 

 それでは,今日の問題です。


第29回・問題84 社会調査の種類と意義に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 センサスとは,民間企業が消費者の動向を把握するために行う調査である。

2 研究者が個人で行うフィールドワークは,社会調査には含まれない。

3 新聞社が行う世論調査が,社会調査の最も古い起源である。

4 社会踏査とは,社会的な問題を解決するために行われる調査である。

5 統計的なデータとして結果をまとめられない調査は,社会調査とはいえない。

 

この国試が実施された当時,「センサス」はそれまでの国試に出題されたことがありませんでした。

 

初めて出題されるものが正解になるのは,多くの場合,ほかの選択肢を消去できる問題です。

 

社会福祉調査の基礎は,第22回国試から加わったものですが,社会福祉調査の内容は,旧カリキュラム時代でも,「社会学」(現在の社会理論と社会システムに当たる科目)や「社会福祉援助技術」で出題されていました。

 

第4回・問題102 社会調査(social research)に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。

1 クロス集計とは,は,二つ以上の標識(要因,変数)の組み合わせに関して,度数を示した相関表をつくることである。

2 多変量解析(multivariate analysis)とは,クラスター・アナリシス,因子分析などを指しており,その最も簡単な形態は三重クロス集計によるエラボレーションである。

3 パス解析(path analysis)とは,あらかじめ因果連鎖のモデルを想定して,変数間の相関係数の大きさを因果の道筋にそって分解し,因果関係を分析する方法である。

4 社会調査の歴史的に最も古い系譜は,社会改良を目指す実践的調査で,社会踏査(social survey)と呼ばれるものの流れである。

5 パネル調査(panel survey)とは,固定した対象者に対し,反復して同一質問により調査を行う縦断的調査法のことである。

 

科目として独立している現在でもかなり難しい内容です。科目が独立していなかった当時ではとてつもなく難しかったと思います。

 しかし,この問題で正解するのは,決して難しくありません。

 なぜなら,現在は存在しない「誤っているものを一つ選ぶ」問題だからです。

 誤っているものは,

4 社会調査の歴史的に最も古い系譜は,社会改良を目指す実践的調査で,社会踏査(social survey)と呼ばれるものの流れである。

 

社会踏査は,社会改良を目指す実践的調査です。

 

社会改良が始まっていくのは,1800年代のことです。

「最も古い」というのは,ちょっと怪しいものだと感じます。

 

そう思えると正解できます。

 

今は,一つ消去できたところで,得点することはできません。

しかし,消去できないよりも消去できた方が得点できる確率が格段に上がります。

 

それでは,今日の問題に戻ります。

 

1 センサスとは,民間企業が消費者の動向を把握するために行う調査である。

 

「センサス」を見て,慌てる人は,国試に合格するのはかなり難しいタイプです。

知識をつけてもつけても,こういったところで慌ててしまい,冷静な判断ができず,思わず選んでしまいます。

 

正解を1つ(あるいは2つ)選ぶ問題の落とし穴です。

 落ち着いて問題を読めば,センサスの意味はわからなくても,民間企業が消費者の動向を把握するために行う調査は,市場調査(マーケットリサーチ)であることは推測できそうです。

 センサスとは,公的な統計調査のことです。

 実は,第29回国試が実施された2017年に,第2回の「経済センサス」が実施されました。そのため,当時公共交通機関や官庁などにポスターが掲示されていました。

 そういったトレンドで出題したのかもしれません。しかし,こういったものがいきなり正解になることは,ほとんどありません。慌ててはなりません。

 

2 研究者が個人で行うフィールドワークは,社会調査には含まれない。

 

社会調査は,一般的に大がかりな調査であるイメージがあるので出題してきたのでしょう。

フィールドワークは,野外活動のことですが,一人で行っても大勢で行っても社会調査です。

 

3 新聞社が行う世論調査が,社会調査の最も古い起源である。

 

第4回国試よりもこちらの文章の方が,もっと怪しいものだと思えます。

今は「最も古い」と思われているものであっても,新しい史実が出てきたら,変わることがあり得ます。

そう考えると,最も古いのが何か知らなくても,正解にしにくいと思いませんか?

試験委員も調べ尽くすことは不可能です。

 

4 社会踏査とは,社会的な問題を解決するために行われる調査である。

 

第4回国試に出題されていたように,正解はこれです。

 

歴史的に有名なのは,ブースやラウントリーらの貧困調査があります。

 

新しいカリキュラムの科目名は「社会福祉調査の基礎」となることは先に述べました。

 

社会調査は,もともと福祉と親和性があるものですが,科目名を「社会調査の基礎」としたことで,福祉を学ぶ人の心から離れてしまいがちになったことを引き戻すために「社会福祉調査」としたのではないかと推測しています。

 

5 統計的なデータとして結果をまとめられない調査は,社会調査とはいえない。

 

社会調査は,大がかりな量的調査であるイメージを持っている人が多いことからの出題でしょう。

 

社会調査は,大きくわけると,「量的調査」と「質的調査」があります。

 

統計的データをまとめられるのは,量的調査です。

インタビューや観察などによって行う「質的調査」は,統計的データにまとめることはできませんが,それでも社会調査です。

 

<今日の一言>

 

社会調査には「量的調査」と「質的調査」があります。

「量的調査」はアンケートなどを実施して,得られたデータを分析して仮説を検証します。

社会調査のイメージを「量的調査」に持つ人も多くいることでしょう。

しかし,福祉人にとって,「質的調査」を忘れてはなりません。質的調査は,インタビューや観察によって得られたデータから新しい知見を見出すものです。

 

新しいカリキュラムでは,質的調査の中に「事例研究」が加わります。

そうなると,「社会調査=量的調査」というイメージはなくなることでしょう。

 

ソーシャルワークでの会話をすべて書き起こす「逐語記録」を分析することで,ソーシャルワークの効果を考えることもできます。

 

ソーシャルワークは科学的なアプローチです。

そういった意味で,今の科目の後継となる「社会福祉調査の基礎」はますます重要になる科目となることでしょう。

2020年8月19日水曜日

国家試験に合格するための勉強法

社会福祉士の国家試験を受験するためには,国試を実施する「公益財団法人 社会福祉振興・試験センター」が発行する「受験の手引き」が必要です。

今の時点(8月)で,まだ入手していないという人は,すぐに請求するようにしましょう。


どのくらい勉強したら合格するか


勉強は量ではなく質です。

たとえば,参考書に書かれているものを必死にノートに書いて覚えるという人がいます。子どもの頃に,書いて覚えたという体験からなのでしょう。

漢字や単語を覚えるなら,そういった勉強も有効でしょう。しかし,覚えるのは,漢字や単語ではありません。

しかも国家試験は,筆記式ではありません。

歴史の試験なら,「小河滋次郎」を「小河滋二郎」と間違って書いたら不正解になりますが,社会福祉士の国試は,そういった試験ではありません。

必要なのは,小河滋次郎を正しく書けることでは,大阪で民生委員の源流となる方面委員制度を作ったという知識です。

ノートに書く勉強は,時間ばかりかかって,効果は薄いと言えます。

理由は,ノートに書くことで満足してしまって,理解したということにならない恐れがあるからです。

このような勉強を1日1時間かけて勉強したところで,合格は遠いと言えるでしょう。そういった意味で,国試のために別ノートを作るのは,おすすめしません。


それでも「私は書いて覚える」という人がいます。


理由を聞くと「今まではそれでやってきたし,介護福祉士やケアマネ試験もそれで合格したから」と言います。


勉強方法は,人それぞれで良いと思いますが,目的は「国家試験に合格すること」です。


おすすめの勉強法


もう既に参考書にはいっぱいマーカーを引いているかと思いますが,これより先はマーカーを引くのはやめにしましょう。


その代わりに,参考書のすき間に,メモするようにしましょう。


先ほどの方面委員を例に出すと,


岡山の済世顧問制度と間違わないように注意!


などです。


参考書が色とりどりのなっているといかにも勉強したという感じがすると思いますが,マーカーを引くことで覚えたつもりになっていることがあります。


必要なのは,国試で点数が取れる勉強です。


決してきれいなノートを作ることや参考書をカラフルに彩ることではありません。


国試会場に行くと,カラフルな参考書などを持ち込んで,ギリギリまで勉強している受験生がたくさんいます。


そういった光景は,つわものに見えて,意気消沈しそうです。


しかし,よくよく見てみると,折り目や手あかがほとんどなく,きれいなままの人がたくさんいます。


そういった人は,3か月勉強組だと判断できます。


国家試験を受験する人であっても,多くの人は知識不足で国試に臨んでいます。

1日1時間勉強であってもノーツに書き写す勉強で合格できる試験ではありません。

参考書で基礎力をつけて,過去問で国試問題に慣れて,模擬試験で実践力を養うといった地道で計画的な勉強が必要です。


次回からは,第29回国試の専門科目を学んでいきたいと思います。

2020年8月18日火曜日

責任無能力者による不法行為の責任はだれが負う?

不法行為とは,他人の権利や利益を侵害する違法行為をいいます。

故意や過失によって不法行為を生じた場合は,民法によって被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。

 

ただし,不可抗力によって生じた損害は除外されます。

対象になるのは,故意または過失によって生じた損害です。

 

これらは,本人の責任能力がある場合です。

 

今日のテーマは,本人が責任無能力者であった場合,不法行為の責任はだれが負うのか? です。

 

民法では,以下のように規定しています。

(責任能力)

第七百十二条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

第七百十三条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

 

(責任無能力者の監督義務者等の責任)

第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

 

責任無能力者が,不法行為の責任を負わない場合は,監督義務者等がその責任を負うことになります。

 

それでは今日の問題です。

 

第29回・問題83 事例を読んで,関係当事者の民事責任の説明に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 V社会福祉法人が設置したグループホーム内で,利用者Lが他の利用者Mを突き飛ばしてケガを負わせた。ホームの職員Aは,Lに腹を立て,事実関係も確認せず,その場にLを長時間正座させ,他の利用者らの面前でLを叱り続けた。これが原因で,Lは体調を大きく崩して,長期の入院加療を余儀なくされた。

1 Lが認知症であれば民法713条が定める責任無能力者として免責されることになるので,LのMに対する不法行為責任は成立しない。

2 LのMに対する不法行為責任が認容される場合には,Vに民法714条の法定監督義務者責任を理由とする不法行為責任は成立しない。

3 LがAに不法行為責任に基づく損害賠償請求をする場合に,Vに民法715条の使用者責任に基づく損害賠償請求を併せて行うことはできない。

4 LがVに債務不履行責任に基づく損害賠償請求をする場合に,Vに民法715条の使用者責任に基づく損害賠償請求を併せて行うことはできない。

5 VがAの使用者責任に基づきLに損害賠償を支払った場合でも,VがAに求償することはできない。

 

午前中最後の問題がこれです。入れ込んだ事例問題なので,読むのも面倒です。

時間との闘いの中,この問題をゆっくり読むことは難しいでしょう。

 

以下は,この問題にたどり着いたときに,時間が比較的残っていた場合の対応法です。

問題の横に以下を書き出します。

 

V 社会福祉法人

A ホームの職員

L 利用者

M ほかの利用者

 

このように書き出さないと,こんがらがります。

そして,事例に戻って確認することになるので,余計に時間がかかります。

 

時間がなければ,一回読んで,答えの見当がつかなければあきらめて,答えをマークします。

 

国試で絶対に避けたいのは,時間切れでマークできなかった問題が発生することです。

マークできれば,5分の1の確率で正解することができますが,マークできなければ,正解する確率はゼロです。

 

第31回国試以降,また徐々に問題の文字数が長くなる傾向にあるため,時間がなくなりやすいので,この辺りの対策は,確実に行っておくことが必要です。

 

それでは解説です。

 

 

1 Lが認知症であれば民法713条が定める責任無能力者として免責されることになるので,LのMに対する不法行為責任は成立しない。

 

認知症であっても,民法713条が定める責任無能力者ではありません。

責任無能力者は,「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」です。

 

認知症の程度によって,責任無能力者になることもあるかもしれませんが,認知症であることをもって責任無能力者となるわけではありません。

 

2 LのMに対する不法行為責任が認容される場合には,Vに民法714条の法定監督義務者責任を理由とする不法行為責任は成立しない。

 

これが正解です。

 

法定監督義務者責任を負うのは,責任無能力者が不法行為の責任を負わない場合です。

 

この場合は,Lは不法行為責任があることが認められているので,V社会福祉法人は,法定監督義務者責任を理由とする不法行為責任は成立しないということになります。

 

なんと複雑な問題なのでしょう。午前中の最後の問題でなかったとしても,正解するのは難しいのではないでしょうか。

 

しかし,しっかり覚えておきましょう。

 

法定監督義務者責任を負うのは,責任無能力者が不法行為の責任を負わない場合

 

3 LがAに不法行為責任に基づく損害賠償請求をする場合に,Vに民法715条の使用者責任に基づく損害賠償請求を併せて行うことはできない。

 

民法では使用者責任というものを規定しています。


使用者責任

(使用者等の責任)

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

使用者責任が免責されるのは,相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときです。

 

この事例では,V法人がそういったことをしたという記載がないので,使用者責任が問われることになります。

 

4 LがVに債務不履行責任に基づく損害賠償請求をする場合に,Vに民法715条の使用者責任に基づく損害賠償請求を併せて行うことはできない。

 

この場合の債務不履行とは,「安全な介護を提供します」といったものだと考えられます。

 

ホームの職員Aが,利用者を正座させたり,叱り続けたりすることは,どんな理由があっても認められることはないでしょう。

 

安全な介護どころか,ひどい介護の提供です。債務不履行と言えるでしょう。

もちろん,選択肢3のようにV社会福祉法人は使用者責任も生じます。

 

5 VがAの使用者責任に基づきLに損害賠償を支払った場合でも,VがAに求償することはできない。

 

使用者責任として,

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

と規定しています。

 

つまり,職員は,利用者から損害賠償請求を起こされる可能性と同時に法人からも損害賠償責任を起こされる可能性があることになります。

 

高齢者施設での虐待報道がなされますが,そのあと,どのようなことになったのか,までの報道がなされることはほとんどないように思います。

 

今日の問題でわかることは,職員が虐待事件を起こした場合,施設側がその職員をきっちり指導していたことを証明できなければ,施設側も使用者責任を負うことになるということです。

 

<今日の一言>

 

今日の問題は,2017(平成29)年の1月に実施された国試で出題されたものです。

 

2016(平成28)年3月に,認知症で徘徊しているうちに,鉄道の軌道内に入り込み,その方が亡くなり,鉄道会社がその遺族に対して損害賠償を求めていた裁判の最高裁の判決が出されました。

 

この時の論点が「監督義務者責任」です。

 

この判決では,遺族を監督義務者として認められないとして,損害賠償請求を退けました,

 

しかし,監督義務者等として,認められた場合は,損害賠償しなければならない可能性があることを示したものでもあります。

 

これは,かなり影響の大きな話です。

 

そんなこともあり,第32回国試では以下のように出題しています。

 

第32回・問題80 成年後見制度に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 子が自分を成年後見人候補者として,親に対する後見開始の審判を申し立てた後,家庭裁判所から第三者を成年後見人とする意向が示された場合,審判前であれば,家庭裁判所の許可がなくても,その子は申立てを取り下げることができる。

2 財産上の利益を不当に得る目的での取引の被害を受けるおそれのある高齢者について,被害を防止するため,市町村長はその高齢者のために後見開始の審判の請求をすることができる。

3 成年被後見人である責任無能力者が他人に損害を加えた場合,その者の成年後見人は,法定の監督義務者に準ずるような場合であっても,被害者に対する損害賠償責任を負わない。

4 判断能力が低下した状況で自己所有の土地を安価で売却してしまった高齢者のため,その後に後見開始の審判を申し立てて成年後見人が選任された場合,行為能力の制限を理由に,その成年後見人はこの土地の売買契約を取り消すことができる。

5 浪費者が有する財産を保全するため,保佐開始の審判を経て保佐人を付することができる。

 

注意したいのは,

3 成年被後見人である責任無能力者が他人に損害を加えた場合,その者の成年後見人は,法定の監督義務者に準ずるような場合であっても,被害者に対する損害賠償責任を負わない。

 

先の鉄道会社が起こした訴訟は,法定の監督義務者と認めなかったので退けられていますが,法定の監督義務者と認められた場合は,損害賠償責任を負うことになります。

 

法は人に対して時には牙をむくこともあります。

 

理不尽とかそういうことではなく,法とはそういうものです。


この問題の正解は,選択肢2です。

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