今回から,専門科目に入っていきます。
第29回・問題84 社会調査の種類と意義に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 センサスとは,民間企業が消費者の動向を把握するために行う調査である。
2 研究者が個人で行うフィールドワークは,社会調査には含まれない。
3 新聞社が行う世論調査が,社会調査の最も古い起源である。
4 社会踏査とは,社会的な問題を解決するために行われる調査である。
5 統計的なデータとして結果をまとめられない調査は,社会調査とはいえない。
この国試が実施された当時,「センサス」はそれまでの国試に出題されたことがありませんでした。
初めて出題されるものが正解になるのは,多くの場合,ほかの選択肢を消去できる問題です。
社会福祉調査の基礎は,第22回国試から加わったものですが,社会福祉調査の内容は,旧カリキュラム時代でも,「社会学」(現在の社会理論と社会システムに当たる科目)や「社会福祉援助技術」で出題されていました。
第4回・問題102 社会調査(social
research)に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。 1 クロス集計とは,は,二つ以上の標識(要因,変数)の組み合わせに関して,度数を示した相関表をつくることである。 2 多変量解析(multivariate analysis)とは,クラスター・アナリシス,因子分析などを指しており,その最も簡単な形態は三重クロス集計によるエラボレーションである。 3 パス解析(path analysis)とは,あらかじめ因果連鎖のモデルを想定して,変数間の相関係数の大きさを因果の道筋にそって分解し,因果関係を分析する方法である。 4 社会調査の歴史的に最も古い系譜は,社会改良を目指す実践的調査で,社会踏査(social survey)と呼ばれるものの流れである。 5 パネル調査(panel survey)とは,固定した対象者に対し,反復して同一質問により調査を行う縦断的調査法のことである。 |
科目として独立している現在でもかなり難しい内容です。科目が独立していなかった当時ではとてつもなく難しかったと思います。
4 社会調査の歴史的に最も古い系譜は,社会改良を目指す実践的調査で,社会踏査(social survey)と呼ばれるものの流れである。
社会踏査は,社会改良を目指す実践的調査です。
社会改良が始まっていくのは,1800年代のことです。
「最も古い」というのは,ちょっと怪しいものだと感じます。
そう思えると正解できます。
今は,一つ消去できたところで,得点することはできません。
しかし,消去できないよりも消去できた方が得点できる確率が格段に上がります。
それでは,今日の問題に戻ります。
1 センサスとは,民間企業が消費者の動向を把握するために行う調査である。
「センサス」を見て,慌てる人は,国試に合格するのはかなり難しいタイプです。
知識をつけてもつけても,こういったところで慌ててしまい,冷静な判断ができず,思わず選んでしまいます。
正解を1つ(あるいは2つ)選ぶ問題の落とし穴です。
2 研究者が個人で行うフィールドワークは,社会調査には含まれない。
社会調査は,一般的に大がかりな調査であるイメージがあるので出題してきたのでしょう。
フィールドワークは,野外活動のことですが,一人で行っても大勢で行っても社会調査です。
3 新聞社が行う世論調査が,社会調査の最も古い起源である。
第4回国試よりもこちらの文章の方が,もっと怪しいものだと思えます。
今は「最も古い」と思われているものであっても,新しい史実が出てきたら,変わることがあり得ます。
そう考えると,最も古いのが何か知らなくても,正解にしにくいと思いませんか?
試験委員も調べ尽くすことは不可能です。
4 社会踏査とは,社会的な問題を解決するために行われる調査である。
第4回国試に出題されていたように,正解はこれです。
歴史的に有名なのは,ブースやラウントリーらの貧困調査があります。
新しいカリキュラムの科目名は「社会福祉調査の基礎」となることは先に述べました。
社会調査は,もともと福祉と親和性があるものですが,科目名を「社会調査の基礎」としたことで,福祉を学ぶ人の心から離れてしまいがちになったことを引き戻すために「社会福祉調査」としたのではないかと推測しています。
5 統計的なデータとして結果をまとめられない調査は,社会調査とはいえない。
社会調査は,大がかりな量的調査であるイメージを持っている人が多いことからの出題でしょう。
社会調査は,大きくわけると,「量的調査」と「質的調査」があります。
統計的データをまとめられるのは,量的調査です。
インタビューや観察などによって行う「質的調査」は,統計的データにまとめることはできませんが,それでも社会調査です。
<今日の一言>
社会調査には「量的調査」と「質的調査」があります。
「量的調査」はアンケートなどを実施して,得られたデータを分析して仮説を検証します。
社会調査のイメージを「量的調査」に持つ人も多くいることでしょう。
しかし,福祉人にとって,「質的調査」を忘れてはなりません。質的調査は,インタビューや観察によって得られたデータから新しい知見を見出すものです。
新しいカリキュラムでは,質的調査の中に「事例研究」が加わります。
そうなると,「社会調査=量的調査」というイメージはなくなることでしょう。
ソーシャルワークでの会話をすべて書き起こす「逐語記録」を分析することで,ソーシャルワークの効果を考えることもできます。
ソーシャルワークは科学的なアプローチです。
そういった意味で,今の科目の後継となる「社会福祉調査の基礎」はますます重要になる科目となることでしょう。