2020年8月15日土曜日

国家公務員による不法行為

不法行為とは,他人の権利や利益を侵害する違法行為をいいます。

 故意や過失によって不法行為を生じた場合は,民法によって被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。

 ただし,不可抗力によって生じた損害は除外されます。

対象になるのは,故意または過失によって生じた損害です。

 さて,今日のテーマは,公務員の不法行為です。

 公務員の職務上の不法行為は「国家賠償法」が適用されます。

 

国家賠償法

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

つまり,公務員の職務上で生じた不法行為について,損害賠償請求は,公務員本人に行うのではなく,国又は公共団体に対して行うことになります。

 

一般民間人は,不法行為による損害賠償責任があるのに対して,公務員はその責任が問われません。

公務員にこのような規定があるのは,公務を確実に行ってもらうためです。

ミスを恐れて,仕事をしなくなることを防ぐためらしいです。

 

職務上の不法行為に関連して「外形標準説」を覚えておいてほしいと思います。

 

外形標準説とは,職務ではないですが,はた目から見ると職務中なのか職務外なのかわからない場合,見た目で判断する考え方です。

 

例えば,会社名の入った車を職務外で運転していた場合,職務中に準じるとみなされ,使用者には使用者責任が生じます。

 

また,勤務していない時間に,警察官の制服を着ていた場合,職務中なのか,そうでないのか,周りの人はわかりません。

そういった場合も,職務中に準じるとみなされ,国家賠償法の対象となります。

 

それでは,今日の問題です。

 

29回・問題80 国家賠償法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は,国家賠償責任に加えて,公務員個人の民法上の不法行為,責任も問うことができる。

3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

4 公務員が家族旅行に行った先で,誤って器物を損壊したことに対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

 

この問題は,難しめに感じますが,じっくり読めば答えは見えてくるはずです。

 

しかし,「権利擁護と成年後見制度」は,午前中の最後の科目であり,疲れ切ったところで解かなければなりません。

 

頭はふらふら,目はしょぼしょぼ,といった状態で問題を解きます。

 

普段,文章を読むことを仕事にしていない人は,かなり厳しい時間だと言えます。

 

人によっては,じっくり問題を読む力は残っていないかもしれません。

 

その中で,このような問題を解かなければならないことを覚えておきたいです。

実は,この試験は体力勝負とも言えます。

 

一度でも受験したことがある人なら,このことがよく知っているのではないでしょうか。

 

それでは,解説です。

 

1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

 

公立の福祉施設の職員の過失は,国家賠償法の対象です。

民間委託されていた場合は,民法によって損害賠償請求を行うこともできねと思いますが,国家賠償法の対象にもなり得ます。

 

2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は,国家賠償責任に加えて,公務員個人の民法上の不法行為,責任も問うことができる。

 

公務員の違法な公権力行使により損害を被った場合は国家賠償法の対象となるので,当該公務員に対して損害賠償請求を行うことはできません。

 

3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

 

公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害を被った場合も国家賠償法の対象となります。

 

4 公務員が家族旅行に行った先で,誤って器物を損壊したことに対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

 

これが正解です。

家族旅行は,公務ではありません。

 

公務員であっても職務上ではないものは国家賠償法の対象とはならず,民法によって損害賠償責任が生じます。

 

5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

 

非番の警察官が制服を着用して行った行為は,外形標準説がとられて,国家賠償法の対象となります。

 

<今日の一言>

 

この問題が難しそうに見えてもよく読めばそうでもないという理由は,グループ分けができるものだからです。

 

1~3は,公務中

4と5は,公務以外

 この問題は,正解を1つ選ぶ問題なので,同じタイプの1~3は消去できそうです。

 4と5が残ります。

 ここまで絞り込めれば,ほぼ正解することができるでしょう。

混乱しそうになったら,このようにグループ化してみると答えが見えてくることがあるので,覚えておきましょう。

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