生活保護制度の目的は「最低生活保障」と「自立支援」です。
自立支援というと,生活保護と言えば,「経済的自立」が先に思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし,それは一面に過ぎません。
「経済的自立」だけが「自立」であれば,稼働力のない高齢者や障害者の生活保護受給者は,自立は見込めないことになってしまいます。
社会福祉士は,絶対にそういった視点を持ってはならないと思います。
経済的自立できない人は,スティグマを感じがちだからです。
社会生活を送る面での「社会生活自立」,生活の自己管理ができる「日常生活自立」も自立です。
それらを効果的にすすめるのが「自立支援プログラム」です。
今日の問題に入る前に自立を整理しておきます。
就労自立
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就労による経済的自立。
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日常生活自立
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身体や精神の健康を回復・維持し、自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送ること。
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社会生活自立
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身体や精神の健康を回復・維持し、自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送ること
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それでは,今日の問題です。
第29回・問題68 事例を読んで,生活保護制度における自立支援について,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Hさん(55歳)は,仕事中頻繁に飲酒していたことから解雇され,預貯金も底をついたので生活保護を受け始めたところ,アルコール依存症の診断を受けた。担当の生活保護ケースワーカーはHさんと話し合いの上,自立支援の計画を作成することになった。
1 抗酒剤の服用により,飲酒の欲求を抑えることができると説明した。
2 求職活動の前に専門的な医療機関での治療を優先する計画を立てた。
3 飲酒しながら自立生活を営むことができるよう自立支援の計画を策定した。
4 生活習慣を見直す必要があるため,Hさんの意に反して更生施設へ入所させることにした。
5 一度作成した自立支援の計画は,変更できないと説明した。
この問題は,自立支援に向けたソーシャルワーク系の問題に分類されると思います。
制度系の科目では,珍しいものかもしれません。
この問題のポイントは,被保護者はアルコール依存症であることです。
それでは解説です。
1 抗酒剤の服用により,飲酒の欲求を抑えることができると説明した。
抗酒剤は,飲酒すると気分が悪くものです。
アルコール依存症そのものを治療する効果はありません。
それよりも,これが絶対に正解にならないのは,医療に関することに言及していることです。
2 求職活動の前に専門的な医療機関での治療を優先する計画を立てた。
これが正解です。
アルコール依存症は,病気です。
まずは,治療が絶対優先です。
3 飲酒しながら自立生活を営むことができるよう自立支援の計画を策定した。
アルコール依存症は,病気です。
医療の素人が医療のことを知らないのに,素人的発想で計画を立てるのは危険です。
主治医への相談が必要です。
もし,飲酒しながらの自立生活を営む自立支援の計画を立ててもかなり高い確率で失敗します。
節酒できるなら,アルコール依存症になりません。
4 生活習慣を見直す必要があるため,Hさんの意に反して更生施設へ入所させることにした。
生活習慣を見直すことも必要かもしれません。
しかし,意に反するのは不適切です。
また優先するのは,生活習慣の見直しよりも,アルコール依存症の治療です。
5 一度作成した自立支援の計画は,変更できないと説明した。
自立支援の計画は,状況によって変更できます。