2020年8月10日月曜日

医療ソーシャルワーカー業務指針

医療ソーシャルワーカー業務指針に目を通したことがありますか?

 「保健医療サービス」では,医療ソーシャルワーカーの対応に関する事例問題が出題されますが,その時に,同業務指針で示されている「業務の範囲」が手がかりになります。

 

医療ソーシャルワーカー業務指針の「業務の範囲」(全文)

二 業務の範囲

医療ソーシャルワーカーは、病院等において管理者の監督の下に次のような業務を行う。

 

() 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助

 入院、入院外を問わず、生活と傷病の状況から生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、患者やその家族からの相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。

① 受診や入院、在宅医療に伴う不安等の問題の解決を援助し、心理的に支援すること。

② 患者が安心して療養できるよう、多様な社会資源の活用を念頭に置いて、療養中の家事、育児、教育就労等の問題の解決を援助すること。

③ 高齢者等の在宅療養環境を整備するため、在宅ケア諸サービス、介護保険給付等についての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連携の下に患者の生活と傷病の状況に応じたサービスの活用を援助すること。

④ 傷病や療養に伴って生じる家族関係の葛藤や家族内の暴力に対応し、その緩和を図るなど家族関係の調整を援助すること。

⑤ 患者同士や職員との人間関係の調整を援助すること。

⑥ 学校、職場、近隣等地域での人間関係の調整を援助すること。

⑦ がん、エイズ、難病等傷病の受容が困難な場合に、その問題の解決を援助すること。

⑧ 患者の死による家族の精神的苦痛の軽減・克服、生活の再設計を援助すること。

⑨ 療養中の患者や家族の心理的・社会的問題の解決援助のために患者会、家族会等を育成、支援すること。

 

() 退院援助

 生活と傷病や障害の状況から退院・退所に伴い生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、退院・退所後の選択肢を説明し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。

① 地域における在宅ケア諸サービス等についての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連携の下に、退院・退所する患者の生活及び療養の場の確保について話し合いを行うとともに、傷病や障害の状況に応じたサービスの利用の方向性を検討し、これに基づいた援助を行うこと。

② 介護保険制度の利用が予想される場合、制度の説明を行い、その利用の支援を行うこと。また、この場合、介護支援専門員等と連携を図り、患者、家族の了解を得た上で入院中に訪問調査を依頼するなど、退院準備について関係者に相談・協議すること。

③ 退院・退所後においても引き続き必要な医療を受け、地域の中で生活をすることができるよう、患者の多様なニーズを把握し、転院のための医療機関、退院・退所後の介護保険施設、社会福祉施設等利用可能な地域の社会資源の選定を援助すること。なお、その際には、患者の傷病・障害の状況に十分留意すること。

④ 転院、在宅医療等に伴う患者、家族の不安等の問題の解決を援助すること。

⑤ 住居の確保、傷病や障害に適した改修等住居問題の解決を援助すること。

 

() 社会復帰援助

 退院・退所後において、社会復帰が円滑に進むように、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、次のような援助を行う。

患者の職場や学校と調整を行い、復職、復学を援助すること。

関係機関、関係職種との連携や訪問活動等により、社会復帰が円滑に進むように転院、退院・退所後の心理的・社会的問題の解決を援助すること。

 

() 受診・受療援助

 入院、入院外を問わず、患者やその家族等に対する次のような受診、受療の援助を行う。

生活と傷病の状況に適切に対応した医療の受け方、病院・診療所の機能等の情報提供等を行うこと。

診断、治療を拒否するなど医師等の医療上の指導を受け入れない場合に、その理由となっている心理的・社会的問題について情報を収集し、問題の解決を援助すること。

診断、治療内容に関する不安がある場合に、患者、家族の心理的・社会的状況を踏まえて、その理解を援助すること。

心理的・社会的原因で症状の出る患者について情報を収集し、医師等へ提供するとともに、人間関係の調整、社会資源の活用等による問題の解決を援助すること。

入退院・入退所の判定に関する委員会が設けられている場合には、これに参加し、経済的、心理的・社会的観点から必要な情報の提供を行うこと。

その他診療に参考となる情報を収集し、医師、看護師等へ提供すること。

通所リハビリテーション等の支援、集団療法のためのアルコール依存症者の会等の育成、支援を行うこと。

 

() 経済的問題の解決、調整援助

 入院、入院外を問わず、患者が医療費、生活費に困っている場合に、社会福祉、社会保険等の機関と連携を図りながら、福祉、保険等関係諸制度を活用できるように援助する。

 

() 地域活動

 患者のニーズに合致したサービスが地域において提供されるよう、関係機関、関係職種等と連携し、地域の保健医療福祉システムづくりに次のような参画を行う。

他の保健医療機関、保健所、市町村等と連携して地域の患者会、家族会等を育成、支援すること。

他の保健医療機関、福祉関係機関等と連携し、保健・医療・福祉に係る地域のボランティアを育成、支援すること。

地域ケア会議等を通じて保健医療の場から患者の在宅ケアを支援し、地域ケアシステムづくりへ参画するなど、地域におけるネットワークづくりに貢献すること。

関係機関、関係職種等と連携し、高齢者、精神障害者等の在宅ケアや社会復帰について地域の理解を求め、普及を進めること。

 

医療ソーシャルワーカーの業務の範囲として,6つが示されていますが,この中で,特に気をつけたいのは,「(4)受診・受療援助」です。

 

受診・受療援助は,医療職に変わって,患者に対して治療方針やその方法を説明するようなものではないということを頭にたたきつけておきたいです。

 

それでは今日の問題です。

 

29回・問題75 Kさん(20歳,男子大学生)は,2週間前にスノーボードの事故で脊椎損傷になり,特定機能病院に搬送され,入院となった。現在,両下肢不全麻痺があり,リハビリテーションが必要だが拒否しており,怒りや落ち込みなど精神的に不安定な状態にある。

 Kさんの担当になった医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)が医療ソーシャルワーカー業務指針に沿って援助計画を立案するに当たって行うこととして,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 急性期治療から回復期リハビリテーション,さらに復学支援まで自分が担当すると説明する。

2 精神的に不安定なKさんの支援のために,精神科医に診療を依頼する。

3 Kさんの家族に対して,治療方針と予後に関して説明する。

4 将来の在宅療養を予想し,Kさんの居住する地域の「障害者総合支援法」に基づく協議会に参加して,患者に関する情報を提供する。

5 Kさんに対して面接を行い,その中でリハビリテーションを受け入れない理由などの情報を収集する。

(注)1 医療ソーシャルワーカー業務指針は,平成141129日に改定されたものである。(厚生労働省健康局長通知)

2 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

 

この事例問題のポイントは「医療ソーシャルワーカー業務指針に沿って援助計画を立案する」です。

 

支援計画の内容は適切だったとしても,医療ソーシャルワーカー業務指針に沿っていなければ,不適切になります。

 十分に注意しましょう。

 それでは解説です。

 

1 急性期治療から回復期リハビリテーション,さらに復学支援まで自分が担当すると説明する。

 医療ソーシャルワーカーの業務の一つには,「療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助」です。

 

同じワーカーが支援することは,心理的な安心につながるかもしれません。

しかし,業務指針に沿うためには,どのように心理的問題を解決するかを明確にしなければならないでしょう。

 

2 精神的に不安定なKさんの支援のために,精神科医に診療を依頼する。

 精神的に不安定なKさんの支援に医療ソーシャルワーカーがかかわるとしたら,心理的な支援です。

 医療判断など,医療にかかわるものは医療ソーシャルワーカーの業務ではありません。

 

3 Kさんの家族に対して,治療方針と予後に関して説明する。

 医療にかかわるものは医療ソーシャルワーカーの業務ではありません。

 

4 将来の在宅療養を予想し,Kさんの居住する地域の「障害者総合支援法」に基づく協議会に参加して,患者に関する情報を提供する。

 医療ソーシャルワーカーが参加するものとして示されているのは,「入退院・入退所の判定に関する委員会」です。

 

5 Kさんに対して面接を行い,その中でリハビリテーションを受け入れない理由などの情報を収集する。

 これが正解です。

 

〈受診・受療援助〉

② 診断、治療を拒否するなど医師等の医療上の指導を受け入れない場合に、その理由となっている心理的・社会的問題について情報を収集し、問題の解決を援助すること。

 

この選択肢を選択肢では,「情報収集する」で終わっていますが,情報収集の目的は,問題の解決のためです。

 

<今日の一言>

 

Y問題について

 

社会福祉士のカリキュラムの中で学ぶことはないかもしれませんが,1970年代に「Y問題」という事件が起きています。

 

精神衛生センター(現在の精神保健福祉センター)の精神科医療ソーシャルワーカー(PSW)が医師の診断もなく,本人の意思に反して精神疾患患者を強制入院させたものです。

 

いろいろな問題はあったかと思いますが,医療ソーシャルワーカーは何をすべきなのかが明確になっていないこともあったのではないでしょうか。

このあとに,PSW協会が倫理綱領を定めています。

 そして,1989年(平成元年)には,厚生省(当時)によって業務指針が作られます。

 医療ソーシャルワーカーは,医療現場の中で活動するので,役割を明確にしておかなければ,不適切な行動をしてしまうこともあるかもしれません。

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