社会調査,とりわけ質的調査は,文化人類学から発展してきた経緯があります。
19世紀は,科学が大きく発展したこともあり,地球が小さくなり,文化人類学者は,世界中のさまざまな地域に赴き,研究活動を行いました。
今では容認できないような調査もあったようです。
研究には,いつも高い倫理性が求められます。
それでは今日の問題です。
第29回・問題85 調査者の倫理に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 仮説と異なるデータが得られた場合でも,そのデータも含めて報告書をまとめなければならない。
2 学術研究上の調査は,調査対象者に強制的に回答を求める必要がある。
3 調査対象者への謝礼は,謝礼目的で迎合的な回答をする恐れがあるので,禁じられている。
4 調査対象者に調査の協力依頼をする際には,誤解がないように電話ではなく,文書で行わなければならない。
5 公益社団法人日本社会福祉士会が作成した社会福祉士の倫理綱領および行動規範には,調査や研究に関する専門職としての倫理責任についての項目はない。
この問題はそれほど難しくないかもしれません。
しかし,だからといって甘く見ていると間違う恐れがあります。
それが国試です。
ミスが少ない人は合格し,ミスが多い人は不合格になります。
国試とはそういうものです。
この問題の答えは,選択肢1です。
1 仮説と異なるデータが得られた場合でも,そのデータも含めて報告書をまとめなければならない。
考え込むと,これを正解には見えなくなってきます。
なぜなら「まとめなければならない」というところに引っ掛かりを感じるからです。
迷う理由は「まとめなければならない」という「義務か?」と思うからでしょう。
この文章が
1 仮説と異なるデータが得られた場合でも,そのデータも含めて報告書をまとめる。
であれば,迷わないと思います。
しかし,国試はそんなところに引っ掛けポイントは作りません。
さて,この選択肢は極めて重要です。
得られたデータは,自分にとって有利とならないこともあるかもしれません。
刑事ドラマなら,それも含めて発表しようとしていた研究者がそのデータが発表されたら窮地に立たされる企業によって殺害されるというシナリオができそうです。
2 学術研究上の調査は,調査対象者に強制的に回答を求める必要がある。
調査は常に自発的協力によって行われます。
「強制的」であってはなりません。
3 調査対象者への謝礼は,謝礼目的で迎合的な回答をする恐れがあるので,禁じられている。
市場調査の場合など,調査対象者に謝礼を渡すことはよくあります。
みなさんの中にもも,調査に協力してクオカードなどをもらったことがある,という人もいるのではないでしょうか。
何事も度を過ぎれば不適切でになりますが,すべては運用次第です。
4 調査対象者に調査の協力依頼をする際には,誤解がないように電話ではなく,文書で行わなければならない。
調査の協力依頼は,文書でなくても,口頭や電話でもOKです。
そうでなければ電話調査や街頭での聞き取り調査は行えなくなってしまいます。
5 公益社団法人日本社会福祉士会が作成した社会福祉士の倫理綱領および行動規範には,調査や研究に関する専門職としての倫理責任についての項目はない。
もちろんあります。
<今日の一言>
ゲシュタルト崩壊という認知心理学の用語があります。
国試では出題されたことがありません。
ゲシュタルト崩壊とは,同じ文字などを見続けると,その文字を認知できなくなる現象などのことを言います。
国試問題にも同じような効果があるように思います。
読み間違いしないように,慎重に問題文を読むことは必要ですが,じっくり読むことにより,重要なサインが見えなくなってくるのではないかと思います。
特に社会福祉士の国試は,誤っているものを消去することが極めて重要です。
最初は「?」と思ったことも,じっくり読んでいるうちにその違和感がなくなっていき,どれもが正解に見えて,逆にすべてが不正解に見えてきてしまいます。
慎重に読みながらも,直感を信じることも時には必要です。