2020年8月16日日曜日

成年後見制度の「保佐」「補助」の特徴

  

法定後見には,「後見」「保佐」「補助」の類型があります。

 

後見の対象

保佐の対象

補助の対象

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者

精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者

精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者

 

 

3類型に共通するものには,以下のものがあります。

 

日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない!

 

しっかり覚えておきたいです。このほかにも結婚や遺言などの身分行為も取消すことができません。

 

補助の対象は「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」なので,ほかの類型とは異なる規定があります。

 

まずは,補助開始の審判です。

家庭裁判所が,本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければなりません。

成年後見等の審判を行う場合,本人の同意を必要とするのは,補助のみです。

 

次に,成年後見人等への権限の付与です。

 成年後見人へ権限を付与する場合,本人の同意を必要とせず,保佐人の場合は,代理権を付与する場合,本人の同意が必要です。保佐人には常に同意権と取消権が付与されます。

 

それに対して,補助人へ権限を付与する場合は,すべて本人の同意が必要です。

 

因みに保佐人に付与される同意権の範囲は以下の通りです。

 

保佐人の同意が必要な法律行為

一 元本を領収し、又は利用すること。

二 借財又は保証をすること。

三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。

四 訴訟行為をすること。

五 贈与、和解又は仲裁合意をすること。

六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。

七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。

八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。

九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること。

 

これらの法律行為を保佐人の同意を得ずに行った場合,保佐人は取消すことができます。

 

補助人の場合は,これらの項目のうちから選んで範囲を決めます。

 

成年後見人の場合は,日用品の購入その他日常生活に関する行為以外の法律行為を取消すことができます。

 

それでは,今日の問題です。

 

29回・問題81 保佐及び補助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保佐及び補助における判断能力の判定に際して,いずれも原則として医師等の専門家による鑑定が必要である。

2 保佐開始及び補助開始の申立てにおいては,いずれの場合も本人の同意が必要である。

3 保佐開始又は補助開始後,保佐人又は補助人はいずれも被保佐人又は被補助人がした日用品の購入など日常生活に関する行為の取消しを行うことができる。

4 保佐開始後,被保佐人が保佐人の同意を得ずに高額の借金をした場合,被保佐人及び保佐人いずれからも取り消すことができる。

5 補助人に同意権を付与するには,被補助人の同意は不要である。

 

保佐と補助を一緒に出題するという高度な問題だと思います。

 

保佐と補助の違いが明確にわかる問題です。

難易度はかなり高いですが,しっかり理解しておきたい問題です。

 

それでは解説です。

 

1 保佐及び補助における判断能力の判定に際して,いずれも原則として医師等の専門家による鑑定が必要である。

 

前説では触れませんでしたが,判断能力を判定するにあたって,原則として鑑定が必要ですが,補助の場合は,鑑定を必要としません。

 

鑑定は自由診療なので,健康診断書のように,料金は,医療機関が独自に設定することができます。

 

裁判所の統計によると金額は以下のようになっています(2019年)。

  鑑定費用

5万円以下

54.7

5~10万円

40.6

1015万円

4.0

1520万円

0.5

20万円超え

0.2

金額にものすごく開きがあります。

そのためなのか,実際に鑑定を実施したのは,7.0%だったそうです。

 

2 保佐開始及び補助開始の申立てにおいては,いずれの場合も本人の同意が必要である。

 

本人の同意が必要なのは,補助開始の申立てのみです。

 

3 保佐開始又は補助開始後,保佐人又は補助人はいずれも被保佐人又は被補助人がした日用品の購入など日常生活に関する行為の取消しを行うことができる。

 

日用品の購入など日常生活に関する行為は,3類型ともに取消すことができません。

 

日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない!

 

頭にたたきつけておきましょう。

 

4 保佐開始後,被保佐人が保佐人の同意を得ずに高額の借金をした場合,被保佐人及び保佐人いずれからも取り消すことができる。

 

これが正解です。

 

保佐人の同意が必要な法律行為には,「借財又は保証をすること」があります。

この借財が「借金」のことです。

 

保佐人には常にこれらの法律行為に対して「同意権」と「取消権」が付与されています。

 

5 補助人に同意権を付与するには,被補助人の同意は不要である。

 

補助人へ権限を付与するには,すべて被補助人(本人)の同意を必要とします

 


<今日の一言>

 

法定後見制度には,3類型あります。

 

どのような違いがあるのか,今日の問題をもとに,表にして整理しておくことをおすすめします。

 

参考書などに書いてあるものをコピーしてどこかに貼っておいても良いでしょう。

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