2022年12月10日土曜日

ちょっと古い問題~ヒラリー

前回取り上げたヒラリー(Hillery,G.)を今回も取り上げます。

前回の問題

https://fukufuku21.blogspot.com/2022/12/blog-post_9.html


第20回・問題31 コミュニティの理論に関する次の記述のうち,正しいものに〇,誤っているものに×をつけた場合,その組み合わせとして正しいものを一つ選びなさい。

A テンニース(Tonmies,F.)は,多様なコミュニティに関する定義を整理し,その共通項として,地域性と共同性を挙げた。

B 奥田道大は,住民の価値意織と行動様式から地域社会の分析枠組みを用いてコミュニティモデルを提示した。

C マッキーバー(McIver,R.)は,社会の統合類型としてゲマインシャフトとゲゼルシャフトを提起した。

D ヒラリー(Hillery,G.)は,コミュニティをアソシエーションの対置概念とし,共同生活と地域社会を関連づけてとらえた。


今はない組み合わせ問題です。

この当時の組み合わせは,選択肢が1つ少ないです。


今から比べるとずっと解きやすいと思いませんか。


それでは解説です。


A テンニース(Tonmies,F.)は,多様なコミュニティに関する定義を整理し,その共通項として,地域性と共同性を挙げた。


これがヒラリーのことです。


B 奥田道大は,住民の価値意織と行動様式から地域社会の分析枠組みを用いてコミュニティモデルを提示した。


これは正解です。奥田道大が出題されたのはこれが最初で最後です。


C マッキーバー(McIver,R.)は,社会の統合類型としてゲマインシャフトとゲゼルシャフトを提起した。


これは,テンニースのことです。


D ヒラリー(Hillery,G.)は,コミュニティをアソシエーションの対置概念とし,共同生活と地域社会を関連づけてとらえた。


これは,マッキーバーのことです。


この頃の国家試験は,本当に3か月勉強でも合格できたのかもしれません。組み合わせ問題は,答えがわからなくても正解できる可能性があったからです。

今の正しいもの(適切なもの)を選ぶ問題は,難易度が高い出題方法です。覚悟を決めて勉強をすることが必要です。半端な気持ちでは合格させてくれません。

2022年12月9日金曜日

ヒラリーとウェルマン

今回は,ヒラリー(Hillery,G.)とウェルマン(Wellman,B.)を取り上げたいと思います。

 

ヒラリーの業績は,さまざまなコミュニティの定義を分析した結果,それらに共通するものとして

・社会的相互作用

・空間の限定

・共通の絆

 

があることを発見したことです。

 

時代は進み,交通や通信機器が発達していきます。

 

ウェルマンの業績は,「空間の限定」に縛られない新しいコミュニティが存在することを発見したことです。これを「コミュニティ解放論」といいます。

 

現代では,SNSの中でのつながり,お気に入りの芸能人のコンサートなら全国どこにでも出かける熱狂的なファン,などが存在します。

 

ヒラリーが発見した「空間の限定」に縛られないコミュニティは,世の中にはいっぱい存在しています。

 

それでは今日の問題です。

 

第24回・問題32 コミュニティに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 マッキーヴァー(Maclver,R.)は,国家はアソシエーションであり,家族はコミュニティであるとした。

2 ベヴァリッジ(Beveridge,W.)は,5つの巨悪と呼ばれる人々のニーズのうち,窮乏に対してはコミュニティによる対策が有効であるとした。

3 ウェルマン(Wellman,B.)は,コミュニティの定義の多くが社会的相互作用と共通の絆から成り立っているとした。

4 ヒラリー(Hillery,G.)は,都市化はコミュニティを近隣社会から解放し,地域という空間的枠組みを超えたネットワーク形成を促すとした。

5 パットナム(Putnam,R.)は,ソーシャル・キャピタルを,個人間のつながりである社会的ネットワークとそこから生じる互酬性と信頼性の規範が強くかかわっているとした。

 

苦手な人なら,見るのもいやだと思う問題かもしれません。

 

それでは解説です。

 

3 ウェルマン(Wellman,B.)は,コミュニティの定義の多くが社会的相互作用と共通の絆から成り立っているとした。

 

4 ヒラリー(Hillery,G.)は,都市化はコミュニティを近隣社会から解放し,地域という空間的枠組みを超えたネットワーク形成を促すとした。

 

この2つは入れ替えているものです。

 

それを戻すと,以下の文章となります。

 

ヒラリー(Hillery,G.)は,コミュニティの定義の多くが社会的相互作用と共通の絆から成り立っているとした。

 

ウェルマン(Wellman,B.)は,都市化はコミュニティを近隣社会から解放し,地域という空間的枠組みを超えたネットワーク形成を促すとした。

 

今なら参考書に書かれているものですが,ウェルマンが国家試験に登場したのは,この時が初めてです。

 

この問題を目にした人は今よりもさらに難しく思ったことでしょう。

 

それではこのほかのものも解説します。

 

1 マッキーヴァー(Maclver,R.)は,国家はアソシエーションであり,家族はコミュニティであるとした。

 

マッキーバーは,これに何度も出題されているおなじみの人です。

 

マッキーバーのコミュニティ論の特徴は,家族をアソシエーションに分類したことです。

 

2 ベヴァリッジ(Beveridge,W.)は,5つの巨悪と呼ばれる人々のニーズのうち,窮乏に対してはコミュニティによる対策が有効であるとした。

 

ベヴァリッジはマッキーバーよりも出題回数が多い超おなじみです。

 

ベヴァリッジは,5大巨悪(5つの巨人)を以下の方法で根絶することを考えました。

 

窮乏 ➡ 社会保険制度

疾病 ➡ 保健・医療制度

無知 ➡ 教育・科学制度

不潔 ➡ 住宅・環境制度

無為(怠惰) ➡ 労働・完全雇用制度

 

5 パットナム(Putnam,R.)は,ソーシャル・キャピタルを,個人間のつながりである社会的ネットワークとそこから生じる互酬性と信頼性の規範が強くかかわっているとした。

 

これが正解です。パットナムの名前は覚えなくても良いので,ソーシャル・キャピタルは必ず覚えておきたいです。

2022年12月8日木曜日

社会福祉協議会の基本的機能

1962(昭和37)年に出された「社会福祉協議会基本要項」に関連する出題は結構多いです。

 

第3回国試で既に登場しています。

 

第3回・問題81 社会福祉協議会に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 福祉活動指導員は,市町村社会福祉協議会に配属され,地域福祉の推進にあたる。

2 1962(昭和37)年に策定された「社会福祉協議会基本要項」は,社会福祉協議会の運営に関する官民一体の原則を明記した。

3 市町村社会福祉協議会の法制化は,在宅福祉サービスが実体化してきた1975(昭和50)年に社会福祉事業法が改正されて行われた。

4 市町村社会福祉協議会は,法律により,当該市町村区域内の社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が参加するものでなければならない。

5 日本の社会福祉協議会は,国民の慈善意識の高揚と富国強兵を補完するために,1908(明治41)年,内務省により設立された。

 

今でもそのまま出題されそうな問題ですが,出題の仕方がせこいです。

 

これは今日の問題ではありませんが,一応解説します。

 

1 福祉活動指導員は,市町村社会福祉協議会に配属され,地域福祉の推進にあたる。

 

市町村社協に配属されるのは,福祉活動専門員です。福祉活動指導員が配属されるのは都道府県社協です。

 

2 1962(昭和37)年に策定された「社会福祉協議会基本要項」は,社会福祉協議会の運営に関する官民一体の原則を明記した。

 

社会福祉協議会基本要項で示されたのは「住民主体の原則」です。

 

3 市町村社会福祉協議会の法制化は,在宅福祉サービスが実体化してきた1975(昭和50)年に社会福祉事業法が改正されて行われた。

 

せこいと言ったのはこの選択肢です。

 

市町村社協が法制化されたのは,社会福祉事業法の改正であることは適切ですが,1975年の改正ではなく,1983年の改正の時です。今はこんな出題はしません。

 

4 市町村社会福祉協議会は,法律により,当該市町村区域内の社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が参加するものでなければならない。

 

これが正解です。

 

これまでに何度同じような出題がされてきたことでしょう。

 

この問題では正解となりましたが,多くの場合は,誤りとして出題されています。

 

更生保護事業のところをほかのものに変える。

過半数が参加するものを3分の1や3分の2と変える。

 

といったように出題されています。

 

5 日本の社会福祉協議会は,国民の慈善意識の高揚と富国強兵を補完するために,1908(明治41)年,内務省により設立された。

 

1908(明治41)年,内務省により設立されたのは,全国社会福祉協議会の源流の一つである中央慈善協会です。

 

初代会長は,渋沢栄一が務めました。

 

それでは今日の問題です。

 

第30回・問題32 社会福祉協議会の歴史に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 1951年(昭和26年)に,現在の全国社会福祉協議会の前身となる中央慈善協会が設立された。

2 1962年(昭和37年)に,全国社会福祉協議会は「社会福祉協議会基本要項」の中で,社会福祉協議会の基本的機能はコミュニティ・オーガニゼーションの方法を地域社会に適用することであるとした。

3 1979年(昭和54年)に,全国社会福祉協議会は「在宅福祉サービスの戦略」の中で,ボランティアが行政サービスを代替すべきであると提言した。

4 1983年(昭和58年)に,都道府県社会福祉協議会による事業が拡大する中で,都道府県社会福祉協議会が法的に位置づけられた。

5 1992年(平成4年)に,全国社会福祉協議会は「新・社会福祉協議会基本要項」の中で,「住民主体の原則」を初めて明文化した。

 

正解は,選択肢2です。

2 1962年(昭和37年)に,全国社会福祉協議会は「社会福祉協議会基本要項」の中で,社会福祉協議会の基本的機能はコミュニティ・オーガニゼーションの方法を地域社会に適用することであるとした。

 

社会福祉協議会基本要項が出題される時にはそれまでは「住民主体の原則」に関するものだったので,これが正解になったのはちょっとびっくりでした。

 

このようにして,覚えることが必要なものがどんどん増えていくのです。

 

社会福祉協議会基本要項の記述

社会福祉協議会はひろく住民の福祉増進を目的とする組織であるので,その機能は広範かつ多岐にわたることはいうまでもない。しかし社会福祉協議会の基本的機能はコミュニティ・オーガニゼーションの方法を地域社会にたいして総合的に適用することである。

 

ロス(Ross,M.)のコミュニティ・オーガニゼーションの理論が日本の社会福祉協議会の活動に影響を受けていることがよく現われていると思います。

 

それでは,正解以外を解説します。

 

1 1951年(昭和26年)に,現在の全国社会福祉協議会の前身となる中央慈善協会が設立された。

 

中央慈善協会が設立されたのは,1908(明治41)年です。

 

3 1979年(昭和54年)に,全国社会福祉協議会は「在宅福祉サービスの戦略」の中で,ボランティアが行政サービスを代替すべきであると提言した。

 

在宅福祉サービスの戦略を知らずともこの選択肢は消去できるでしょう。

 

4 1983年(昭和58年)に,都道府県社会福祉協議会による事業が拡大する中で,都道府県社会福祉協議会が法的に位置づけられた。

 

1983年(昭和58年)に法制化されたのは,市町村社会福祉協議会です。都道府県社会福祉協議会は,1951(昭和26)年に社会福祉事業法ができた時に全社協とともに法制化されています。

 

5 1992年(平成4年)に,全国社会福祉協議会は「新・社会福祉協議会基本要項」の中で,「住民主体の原則」を初めて明文化した。

 

「住民主体の原則」を初めて明文化したのは,1962(昭和37)年の「社会福祉協議会基本要項」です。

2022年12月7日水曜日

住民主体の原則とは

 

住民主体の原則は,全国社会福祉協議会が「社会福祉協議会基本要項」(1962・昭和37年)で述べられたのが最初です。

 

この中で,社会福祉協議会の性格として,以下のように書かれています。

 

社会福祉協議会は一定の地域社会において,住民が主体となり,社会福祉,保健衛生その他生活の改善向上に関連のある公私関係者の参加,協力を得て,地域の実情に応じ,住民の福祉を増進することを目的とする民間の自主的な組織である。

 

住民の中には,社協は公的機関だと思っている人も多いようです。

  

(住民主体の原則)

 「住民主体」とは,地域住民のニードに即した活動をすすめることをねらいとし,それに必要な組織構成を充実するということである。

 

この時期に「社会福祉協議会基本要項」が作られたのは,市町村社会福祉協議会がまだ法制化されていなかったこともあったかもしれません。

 

市町村社協が法制化されるのは,1983(昭和58)年の社会福祉事業法の改正まで待たなければなりません。

 

この要項から国家試験に出題されたものの中には,社会福祉協議会の基本的機能があります。

 

これについては次回に改めて取り上げたいと思います。

 

それでは今日の問題です。

 

第31回・問題33 地域福祉に関する理念や概念に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 ソーシャルキャピタルとは,地域における公共的建築物や公共交通といった物的資本の整備状況を示すことをいう。

2 住民主体の原則とは,行政の指導の下で地域住民が主体となって行う地域活動の原則のことをいう。

3 ノーマライゼーションとは,障害のある人に,障害のない人と同じような暮らしが可能となる生活条件を作り出していく考え方のことをいう。

4 地域移行支援とは,住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供することで,在宅の限界点を高めることをいう。

5 ソーシャルインクルージョンとは,全ての人々を孤独や孤立,排除や摩擦から援護し,社会の構成員として包み支え合う社会を目指すことをいう。

 

内容盛りだくさんの問題です。

 

正解は,選択肢3と5です。

 

3 ノーマライゼーションとは,障害のある人に,障害のない人と同じような暮らしが可能となる生活条件を作り出していく考え方のことをいう。

 

5 ソーシャルインクルージョンとは,全ての人々を孤独や孤立,排除や摩擦から援護し,社会の構成員として包み支え合う社会を目指すことをいう。

 

ノーマライゼーションとソーシャル・インクルージョンのそろい踏みの問題となりました。

 

こんな問題はめったにあるものではないでしょう。

 

それでは正解以外の解説です。

 

1 ソーシャルキャピタルとは,地域における公共的建築物や公共交通といった物的資本の整備状況を示すことをいう。

 

地域における公共的建築物や公共交通といった物的資本の整備状況を示す用語は何というかよくわかりませんが,社会資本に関連するものです。

 

ソーシャルキャピタルを訳すと社会資本になってしまうので,社会関係資本と訳されることが多いようです。

 

互酬性と信頼性に基づくネットワークがソーシャルキャピタル(社会関係資本)です。

 

 

2 住民主体の原則とは,行政の指導の下で地域住民が主体となって行う地域活動の原則のことをいう。

 

今日のテーマの「住民主体の原則」が登場してきました。

 

前説のように,住民主体の原則とは,地域住民のニードに即した活動をすすめることをねらいとし,それに必要な組織構成を充実することを原則とすることです。

 

4 地域移行支援とは,住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供することで,在宅の限界点を高めることをいう。

 

住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供することで,在宅の限界点を高めることは,地域包括ケアシステムのことです。

 

地域移行支援は,障害者等が病院・施設から地域で生活することを支援することです。

 

障害者総合支援法が規定する指定一般相談支援事業者が地域相談支援として地域移行支援を行います。

2022年12月6日火曜日

ノーマライゼーションとソーシャル・インクルージョン

今回は,ノーマライゼーションとソーシャル・インクルージョンを取り上げます。


まずはノーマライゼーションです。

社会福祉士の国家試験で初めて出題されたのを確認できるのは,第6回国家試験です。


第1・2回にも出題されていたかもしれませんが,国試問題は非公開だったのでわかりせん。


第6回・問題5 次の組み合わせのうち,誤っているものを一つ選びなさい。 

1 エリザベスⅠ世 ――――― 改正救貧法

2 バーネット夫妻 ――――― トインビー・ホール

3 J.アダムス ――――――― ハル・ハウス

4 T.ルーズベルト ――――― 白亜館児童会議 

5 バンク-ミケルセン ―――― ノーマライゼーション


今は存在しない「誤っているもの」を選ぶ問題です。「正しいもの」を選ぶ問題よりも比較的簡単です。


今見ると簡単ですが,試験対策の参考書などが充実していなかった当時はそれなりに難しかったのかもしれません。


しかし,内容は問われていません。


誤っているのは,選択肢1です。エリザベスⅠ世が関係するのは,エリザベス救貧法です。


さて,ノーマライゼーションは,デンマークでバンク-ミケルセンが知的障害者の親の会と一緒に処遇改善の活動を行ったことに始まります。この運動は,デンマークの1959年法の成立につながります。


次は,ソーシャル・インクルージョンです。国試に初めて登場したのは,第14回です。


第14回・問題1 次の文章の空欄A,B,Cに該当する語句の組み合わせとして,正しいものを一つ選びなさい。

 「貧しい社会における貧困者の救済を中心とした(  A  )な社会福祉から,豊かな社会の中における国民生活の下支えとしての社会福祉へ,少子・高齢社会において安心できる社会福祉へと普遍化が図られてきた。(略)

社会福祉は,その国に住む人々の社会連帯によって支えられるものであるが,現代社会においては,その社会における人々の『つながり』が社会福祉によって作り出されるということも認識する必要がある。(略)

 なお,この場合における『つながり』は(  B  )を示唆し,多様性を認め合うことを前提としていることに注意する必要がある。(略)

 イギリスやフランスでも,(  C  )が一つの政策目標とされるに至っているが,これらは『つながり』の再構築に向けての歩みと理解することも可能である。

『(厚生省『社会的な援護を要する人々に対する社会福社のあり方に関する検討会報告(抜粋)』平成12年)

   A     B            C

1 救貧的--------共生----------------ノーマライゼーション

2 選別的--------対等・平等---------ソーシャル・インクルージョン

3 救貧的--------対等・平等---------ノーマライゼーション

4 選別的--------共生----------------ノーマライゼーション

5 選別的--------共生----------------ソーシャル・インクルージョン


この問題も今は存在しない穴埋めです。穴埋め問題は存在しないのに,未だに穴埋め形式で覚えさせる受験参考書が存在しますが,非効率的のように思います。


正解は,選択肢5です。


この問題に示されている「社会的な援護を要する人々に対する社会福社のあり方に関する検討会報告」(厚生省,平成12年)が,ソーシャル・インクルージョンという言葉が公文書に登場した最初のものだと言われています。


ソーシャル・インクルージョン自体は,1980年代に西ヨーロッパで登場してきたものですが,国家試験に出題するには,根拠となる資料がなければ難しいことがよくわかります。


もしかするとこの問題は,出題された当時よりも今のほうが解ける人は多いかもしれません。


なぜなら,共生という用語は浸透してきたからです。


さて,長くなりましたが,今日の問題です。


第20回・問題32 地域福祉の理念に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 ノーマライゼーションという用語が用いられた最初の政府文書は,イギリス保健省の「保健と福祉におけるコミュニティケアの進展」である。

2 自立生活運動は,デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源である。

3 コミュニティケアは,アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の障害学生の生活を保障することをきっかけとして始まった。

4 ソーシャル・インクルージョンは,共生社会,排除しない社会を目指す考え方として登場した。

5 「住民主体の原則」は,エンパワーメントの考え方に強い影響を受けて生まれた。


この問題もなかなかの難問です。


それでは解説です。


1 ノーマライゼーションという用語が用いられた最初の政府文書は,イギリス保健省の「保健と福祉におけるコミュニティケアの進展」である。


ノーマライゼーションが最初に使われた政府文書は,デンマークの1959年法です。


2 自立生活運動は,デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源である。


デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源であるのは,ノーマライゼーションです。


自立生活運動(IL運動)は,アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の障害学生のロバーツさんの生活を保障する運動が起源です。

 


3 コミュニティケアは,アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の障害学生の生活を保障することをきっかけとして始まった。


コミュニティケアの始まりはどこにあったのかはよくわかりません。しかし,後半は明らかに誤りです。


4 ソーシャル・インクルージョンは,共生社会,排除しない社会を目指す考え方として登場した。


これが正解です。ソーシャル・インクルージョンは,社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)の反対の概念として生まれてきたものです。


5 「住民主体の原則」は,エンパワーメントの考え方に強い影響を受けて生まれた。


この問題の難易度を上げているのは,この選択肢です。


「住民主体の原則」は,1962(昭和37)年の全国社会福祉協議会「社会福祉協議会基本要項」で登場したものです。


住民主体の原則は,地域住民のニードに即した活動をすすめることをいいます。


一方エンパワーメントの概念が登場するのは,1970年代に入ってからです。


この関係性がわかれば,「住民主体の原則」は「エンパワーメント」に影響を受けたものではないと推測することができそうです。


これに似たようなものには「精神薄弱者福祉法はノーマライゼーションの理念に影響を受けて成立した」という文章も誤りであることがわかるでしょう。


精神障害者福祉法(現・知的障害者福祉法)は,1960(昭和34)年に成立しています。デンマークでは1959年にノーマライゼーションが公的文書に登場したばかりなので,さすがに翌年にそれに影響を受けて日本が法制度をつくることは考えられません。

最新の記事

障害者総合支援法に規定される障害福祉サービスの実施主体

障害者総合支援法に規定される障害福祉サービスの実施主体は,市町村です。 同法における都道府県の役割は,障害福祉計画の作成,地域生活支援事業の実施,障害福祉サービス事業者等の指定などに限られます。 なお,自立支援医療には,育成医療,更生医療,精神通院医療の3種類がありますが,このう...

過去一週間でよく読まれている記事