2022年12月6日火曜日

ノーマライゼーションとソーシャル・インクルージョン

今回は,ノーマライゼーションとソーシャル・インクルージョンを取り上げます。


まずはノーマライゼーションです。

社会福祉士の国家試験で初めて出題されたのを確認できるのは,第6回国家試験です。


第1・2回にも出題されていたかもしれませんが,国試問題は非公開だったのでわかりせん。


第6回・問題5 次の組み合わせのうち,誤っているものを一つ選びなさい。 

1 エリザベスⅠ世 ――――― 改正救貧法

2 バーネット夫妻 ――――― トインビー・ホール

3 J.アダムス ――――――― ハル・ハウス

4 T.ルーズベルト ――――― 白亜館児童会議 

5 バンク-ミケルセン ―――― ノーマライゼーション


今は存在しない「誤っているもの」を選ぶ問題です。「正しいもの」を選ぶ問題よりも比較的簡単です。


今見ると簡単ですが,試験対策の参考書などが充実していなかった当時はそれなりに難しかったのかもしれません。


しかし,内容は問われていません。


誤っているのは,選択肢1です。エリザベスⅠ世が関係するのは,エリザベス救貧法です。


さて,ノーマライゼーションは,デンマークでバンク-ミケルセンが知的障害者の親の会と一緒に処遇改善の活動を行ったことに始まります。この運動は,デンマークの1959年法の成立につながります。


次は,ソーシャル・インクルージョンです。国試に初めて登場したのは,第14回です。


第14回・問題1 次の文章の空欄A,B,Cに該当する語句の組み合わせとして,正しいものを一つ選びなさい。

 「貧しい社会における貧困者の救済を中心とした(  A  )な社会福祉から,豊かな社会の中における国民生活の下支えとしての社会福祉へ,少子・高齢社会において安心できる社会福祉へと普遍化が図られてきた。(略)

社会福祉は,その国に住む人々の社会連帯によって支えられるものであるが,現代社会においては,その社会における人々の『つながり』が社会福祉によって作り出されるということも認識する必要がある。(略)

 なお,この場合における『つながり』は(  B  )を示唆し,多様性を認め合うことを前提としていることに注意する必要がある。(略)

 イギリスやフランスでも,(  C  )が一つの政策目標とされるに至っているが,これらは『つながり』の再構築に向けての歩みと理解することも可能である。

『(厚生省『社会的な援護を要する人々に対する社会福社のあり方に関する検討会報告(抜粋)』平成12年)

   A     B            C

1 救貧的--------共生----------------ノーマライゼーション

2 選別的--------対等・平等---------ソーシャル・インクルージョン

3 救貧的--------対等・平等---------ノーマライゼーション

4 選別的--------共生----------------ノーマライゼーション

5 選別的--------共生----------------ソーシャル・インクルージョン


この問題も今は存在しない穴埋めです。穴埋め問題は存在しないのに,未だに穴埋め形式で覚えさせる受験参考書が存在しますが,非効率的のように思います。


正解は,選択肢5です。


この問題に示されている「社会的な援護を要する人々に対する社会福社のあり方に関する検討会報告」(厚生省,平成12年)が,ソーシャル・インクルージョンという言葉が公文書に登場した最初のものだと言われています。


ソーシャル・インクルージョン自体は,1980年代に西ヨーロッパで登場してきたものですが,国家試験に出題するには,根拠となる資料がなければ難しいことがよくわかります。


もしかするとこの問題は,出題された当時よりも今のほうが解ける人は多いかもしれません。


なぜなら,共生という用語は浸透してきたからです。


さて,長くなりましたが,今日の問題です。


第20回・問題32 地域福祉の理念に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 ノーマライゼーションという用語が用いられた最初の政府文書は,イギリス保健省の「保健と福祉におけるコミュニティケアの進展」である。

2 自立生活運動は,デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源である。

3 コミュニティケアは,アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の障害学生の生活を保障することをきっかけとして始まった。

4 ソーシャル・インクルージョンは,共生社会,排除しない社会を目指す考え方として登場した。

5 「住民主体の原則」は,エンパワーメントの考え方に強い影響を受けて生まれた。


この問題もなかなかの難問です。


それでは解説です。


1 ノーマライゼーションという用語が用いられた最初の政府文書は,イギリス保健省の「保健と福祉におけるコミュニティケアの進展」である。


ノーマライゼーションが最初に使われた政府文書は,デンマークの1959年法です。


2 自立生活運動は,デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源である。


デンマークにおける知的障害者の親の会を中心とした運動が起源であるのは,ノーマライゼーションです。


自立生活運動(IL運動)は,アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の障害学生のロバーツさんの生活を保障する運動が起源です。

 


3 コミュニティケアは,アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の障害学生の生活を保障することをきっかけとして始まった。


コミュニティケアの始まりはどこにあったのかはよくわかりません。しかし,後半は明らかに誤りです。


4 ソーシャル・インクルージョンは,共生社会,排除しない社会を目指す考え方として登場した。


これが正解です。ソーシャル・インクルージョンは,社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)の反対の概念として生まれてきたものです。


5 「住民主体の原則」は,エンパワーメントの考え方に強い影響を受けて生まれた。


この問題の難易度を上げているのは,この選択肢です。


「住民主体の原則」は,1962(昭和37)年の全国社会福祉協議会「社会福祉協議会基本要項」で登場したものです。


住民主体の原則は,地域住民のニードに即した活動をすすめることをいいます。


一方エンパワーメントの概念が登場するのは,1970年代に入ってからです。


この関係性がわかれば,「住民主体の原則」は「エンパワーメント」に影響を受けたものではないと推測することができそうです。


これに似たようなものには「精神薄弱者福祉法はノーマライゼーションの理念に影響を受けて成立した」という文章も誤りであることがわかるでしょう。


精神障害者福祉法(現・知的障害者福祉法)は,1960(昭和34)年に成立しています。デンマークでは1959年にノーマライゼーションが公的文書に登場したばかりなので,さすがに翌年にそれに影響を受けて日本が法制度をつくることは考えられません。

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