主だった報告書の出題数と出題回
報告書名 |
出題数 |
出題回 |
シーボーム報告 |
11回 |
第3・4・5・6・13・14・17・18・23・29回 |
エイブス報告 |
1回 |
第29回 |
ウォルフェンデン報告 |
2回 |
第17・29回 |
バークレイ報告 |
8回 |
第5・12・15・16・17・18・23・29回 |
ワグナー報告 |
2回 |
第17・18回 |
グリフィス報告 |
7回 |
第5・12・13・17・18・23・29回 |
模擬試験などではよくみられますが,実は第22回国家試験以降に出題されたのは,第23回と第29回のわずか2回しかないことがわかります。
この記事では,この2つの問題を解説します。
まずは,第23回の問題です。
第23回・問題33 イギリスのコミュニティケア,公私関係に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ベヴァリッジ(Beveridge,W.)は,「ベヴァリッジ報告」の後,「ボランタリーアクション」を公刊し,ボランタリーセクターに対する福祉国家の優位性を強調した。
2 「シーボーム報告」を受けて,「地方自治体社会サービス法」が成立し,地方自治体において利用者ごとの分野別部局体制が強化された。
3 「バークレイ報告」を受けて,「社会サービス法」が成立し,より包括的なノーマライゼーションなどの理念に基づくコミュニティケアが推進された。
4 「グリフィス報告」を受けて,福祉施設を公的に整備するための「国民保健サービス及びコミュニティケア法」が成立した。
5 ブレア政権は,ボランタリーセクターやコミュニティの役割を重視し,政府セクターとボランタリーセクターが「コンパクト」と呼ばれる協約を結ぶ政策を展開した。
歴史が苦手な人にとってはカタカナも多いですし,かなり難問に感じるでしょう。
しかも正解は,
5 ブレア政権は,ボランタリーセクターやコミュニティの役割を重視し,政府セクターとボランタリーセクターが「コンパクト」と呼ばれる協約を結ぶ政策を展開した。
というよくわからないものでした。この後にも一度も出題されたことがありません。
ほかの選択肢を消去しないと正解できない問題です。
1 ベヴァリッジ(Beveridge,W.)は,「ベヴァリッジ報告」の後,「ボランタリーアクション」を公刊し,ボランタリーセクターに対する福祉国家の優位性を強調した。
ベヴァリッジの考え方は,繰り出し梯子理論と呼ばれるもので,ベヴァリッジ報告はウェッブ夫妻が提唱した「ナショナル・ミニマム」を盛り込んだものとして知られます。
最低限度の生活は,国が保障し,それ以上のものは,民間保険が担うことを提唱しています。
この関係性のことを繰り出し梯子理論といいます。
戦後に出した「ボランタリーアクション」は,繰り出し梯子の2階部分にあたる民間の活動について述べたものです。
これで勘の良い人は気づいたと思いますが,国とボランタリーセクターは,協働関係にあります。
国が保障するものを基盤にそれ以上の部分をボランタリーセクターが担います。
2 「シーボーム報告」を受けて,「地方自治体社会サービス法」が成立し,地方自治体において利用者ごとの分野別部局体制が強化された。
シーボーム報告は,今までの中で最も出題回数が多いものです。
イギリスは,部局ごとに福祉政策が発達していきましたが,シーボーム報告を受けて,3部局あったものを一元化しました。
3 「バークレイ報告」を受けて,「社会サービス法」が成立し,より包括的なノーマライゼーションなどの理念に基づくコミュニティケアが推進された。
社会サービス法は,スウェーデンの法律です。
これとほとんど同じ問題が,第17回に出題されています。
スウェーデンの社会サービス法は,1990年代に行われたエーデル改革の根拠となったものです。
イギリスの法律は,地方自治体社会サービス法です。この法律がシーボーム報告を受けて成立したものです。
4 「グリフィス報告」を受けて,福祉施設を公的に整備するための「国民保健サービス及びコミュニティケア法」が成立した。
グリフィス報告を受けて,国民保健サービス及びコミュニティケア法が成立したのは適切です。
間違っているのは,「福祉施設を公的に整備するため」の部分です。
「国民保健サービス及びコミュニティケア法」では,サービスの購入者(財政)と提供者を分離し,民間のサービスを積極的に活用することが盛り込まれたのが特徴です。
ウォルフェンデン報告で示された福祉の提供者は多様な主体が担う福祉多元主義を具現化したのが,国民保健サービス及びコミュニティケア法だと言えます。
次は第29回の問題です。
第29回・問題33 イギリスの各種の報告書における地域福祉に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 シーボーム報告(1968年)は,社会サービスにおけるボランティアの役割は,専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあることを強調した。
2 エイブス報告(1969年)は,地方自治体がソーシャルワークに関連した部門を統合すべきであることを勧告した。
3 ウォルフェンデン報告(1978年)は,地方自治体の役割について,サービス供給を重視した。
4 バークレイ報告(1982年)は,コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践であるコミュニティソーシャルワークを提唱した。
5 グリフィス報告(1988年)は,コミュニティケアの基礎となるナショナル・ミニマムの概念を提唱した。
エイブス報告が唯一出題された問題です。
正解は,選択肢4です。
4 バークレイ報告(1982年)は,コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践であるコミュニティソーシャルワークを提唱した。
バークレイ報告の特徴は,初めてコミュニティソーシャルワークを提唱したことです。
コミュニティケアは,関節援助技術であることに対して,コミュニティソーシャルワークは,地域で起きている課題に対して介入する直接援助技術であることがまったく異なります。
言葉は似ていますが,別物です。
バークレイ報告は,コミュニティソーシャルワークはミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践である,と提唱しています。
そのほかの選択肢です。
1 シーボーム報告(1968年)は,社会サービスにおけるボランティアの役割は,専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあることを強調した。
シーボーム報告が提唱したのは,複数あった部局を統合することです。
2 エイブス報告(1969年)は,地方自治体がソーシャルワークに関連した部門を統合すべきであることを勧告した。
エイブス報告は,社会サービスにおけるボランティアの役割は,専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあると述べています。
3 ウォルフェンデン報告(1978年)は,地方自治体の役割について,サービス供給を重視した。
ウォルフェンデン報告は,福祉の提供者は多様な主体が担う福祉多元主義を提唱したのが特徴です。
5 グリフィス報告(1988年)は,コミュニティケアの基礎となるナショナル・ミニマムの概念を提唱した。
ナショナル・ミニマムの概念を提唱したのは,ベヴァリッジ報告です。