2025年6月16日月曜日

働者災害補償保険制度

 日本の社会保険は,5種類あります。


年金保険制度と医療保険制度は,従来あった制度を利用して,国民皆保険・皆年金を構成しているため,制度が複雑です。


それに比べると,戦後にできた労働保険(労災保険と雇用保険)は,制度がシンブルです。


今回は,そのうちの労災保険(労働者災害補償保険)です。


労災保険の特徴は,被保険者という概念がないことです。


すべての労働者(賃金の支払いを受ける者)は労災保険が適用されます。


保険事故は,業務災害と通勤災害です。


保険料は,災害の発生率によって上下するメリット制です。

発生率が高ければ保険料が上がり,低ければ保険料が下がります。


つまり,メリット制のメリットとは,事業者が労災防止に努めると保険料が下がるという意味です。


メリット制が適用されるのは,業務災害です。通勤災害は管理者の責任が及ばない場所で発生するため,メリット制は適用されません。


保険料負担は,事業主のみです。労働者負担はありません。この制度を取り入れているため,労災保険はすべての労働者に適用されます。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題53

次のうち,労働者災害補償保険制度に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 労働者の業務災害に関する保険給付については,事業主の請求に基づいて行われる。

2 メリット制に基づき,事業における通勤災害の発生状況に応じて,労災保険率が増減される。

3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。

4 労働者災害補償保険の適用事業には,労働者を一人しか使用しない事業も含まれる。

5 労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。


この問題は,労災保険の特徴を表わす良い問題だと思います。


それでは,解説です。


1 労働者の業務災害に関する保険給付については,事業主の請求に基づいて行われる。


労災保険は,労災があった労働者が労働基準監督署に請求を行います。


事業主が請求してくれれば楽だと思うかもしれません。


しかし,メリット制によって保険料が上がることを避けたい事業主は,労災隠しをすることもあります。


労災隠しを防ぐためにも請求するのは,労働者本人であることが重要です。


2 メリット制に基づき,事業における通勤災害の発生状況に応じて,労災保険率が増減される。


メリット制が適用されるのは,業務災害です。


通勤災害にはメリット制はありません。


3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。


労災保険の保険料は,事業主のみが負担します。


なお,事業主が保険料を滞納していても労災保険の補償を受けることができます。


4 労働者災害補償保険の適用事業には,労働者を一人しか使用しない事業も含まれる。


これが正解です。


一人でも労働者がいる事業場には,労災保険が適用されます。


5 労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。


健康保険が適用されるのは,労災保険が適用されない傷病です。


つまり,業務災害には健康保険は適用されません。多くの制度は,選択できるようには作られません。

それぞれの適用範囲は極めて明確です。

2025年6月12日木曜日

医療保険の組合

  

現役世代の公的医療保険を大きく分けると,健康保険と国民健康保険の2つがあります。

 

それぞれの保険者には,組合があります。

 

健康保険組合は,大企業などが独自に組合を作り,保険業務を行います。

 

国民健康保険は,同業者などが独自に組合を作り,保険業務を行います。

 

それでは,今日の問題です。

  

35回・問題52

公的医療保険における被保険者の負担等に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 健康保険組合では,保険料の事業主負担割合を被保険者の負担割合よりも多く設定することができる。

2 「都道府県等が行う国民健康保険」では,都道府県が保険料の徴収を行う。

3 「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者が,入院先の市町村に住所を変更した場合には,変更後の市町村の国民健康保険の被保険者となる。

4 公的医療保険の保険給付のうち傷病手当金には所得税が課せられる。

5 保険診療を受けたときの一部負担金の割合は,義務教育就学前の児童については1割となる。

(注) 「都道府県等が行う国民健康保険」とは,「都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険」のことである。

 

知識なしでは,5分の1以上の確率では正解できないかなり難しい問題です。

 

国家試験が終わると,いろいろな団体や個人が,いわゆる「難問・奇問」と位置づける問題がありますが,実は,このような問題の方が正解するのが難しいものです。

 

「難問・奇問」は,焦らないで冷静に考えると意外と正解できます。

 

今日の問題のような内容の問題は,どれだけ考えても知識なしでは,答えを導きだすことができません。

 

それでは解説です。

 

1 健康保険組合では,保険料の事業主負担割合を被保険者の負担割合よりも多く設定することができる。

 

これが正解です。

大企業などが独自に組織する健康保険組合は,かなり自由に運営することができます。

 

保険料も独自に設定することができます。

 

そのほかには,法定給付以外に組合独自の給付である「付加給付」を設定することもできます。

 

2 「都道府県等が行う国民健康保険」では,都道府県が保険料の徴収を行う。

 

社会保険の中で,都道府県が保険者となる制度は,国民健康保険のみです。

 

しかし,保険料の徴収を行うのは市町村です。

 

このような一般住民を対象とする事務は,都道府県には向きません。

 

3 「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者が,入院先の市町村に住所を変更した場合には,変更後の市町村の国民健康保険の被保険者となる。

 

国民健康保険には「住所地特例」という制度があり,入院前の市町村が引き続き保険者となります。

 

この制度は,介護保険でも採用されています。

 

4 公的医療保険の保険給付のうち傷病手当金には所得税が課せられる。

 

傷病手当金には,所得税はかかりません。

 

5 保険診療を受けたときの一部負担金の割合は,義務教育就学前の児童については1割となる。

 

一部負担金は,義務教育就学前の児童については2割です。

2025年6月8日日曜日

社会保障制度に関する事例問題の着眼点


2025年(令和7年)2月に実施された第37回国家試験から,令和元年度カリキュラムに沿った内容に移行しています。


大きな変更はなく,科目の再編が中心です。


全体の出題数は150問から129問になり,大きく減りましたが,「社会保障」の出題数は,7問から9問と2問も増えています。


増えた分は,事例問題(問題の類型ではタクソノミーⅢ型)で出題されてくると思うので,結構やっかいです。


タクソノミーⅢ型は,知識の総合問題だと言えるからです。


知識ゼロでは正解することは,困難です。


〈社会保障の事例問題の主な着眼点〉

1.けがの原点となった事故が起きたのは,仕事中だったか,プライベートだったのか

2.医療保険の場合,健康保険なのか,国民健康保険なのか

3.年金保険の場合は,何歳なのか

4.国民年金の場合は,第何号被保険者なのか


1の場合は,仕事中の事故なら,健康保険は適用されないからです。

2の場合,世帯主が健康保険加入者であれば,家族は被扶養者になる可能性がありますが,国民健康保険加入者の場合,被扶養者という制度はありません。

3の場合,介護保険の場合は,40~64歳は第二号被保険者,65歳以上は第一号被保険者,国民年金の場合は20歳以上~60歳未満が加入します。

4の場合,配偶者が厚生年金加入者(国民年金の第二号被保険者)の場合,被扶養配偶者は,第三号被保険者となる可能性があります。配偶者が国民年金加入者(国民年金の第一号被保険者)の場合,被扶養配偶者も第一号被保険者として加入します。これらの場合も年齢に注意します。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題51

事例を読んで,社会保険制度の加入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Gさん(76歳)は,年金を受給しながら被用者として働いている。同居しているのは,妻Hさん(64歳),離婚して実家に戻っている娘Jさん(39歳),大学生の孫Kさん(19歳)である。なお,Gさん以外の3人は,就労経験がなく,Gさんの収入で生活している。 

1 Gさんは健康保険に加入している。

2 Hさんは国民健康保険に加入している。 

3 Jさんは健康保険に加入している。

4 Jさんは介護保険に加入している。

5 Kさんは国民年金に加入している。


最初に注意するのは,年齢などの属性です。


Gさん(76歳)は,被用者なので70歳になるまで,厚生年金に加入していたと考えられますが,70歳になった時点で厚生年金の加入権を失っています。医療保険は,74歳までは,健康保険に加入していました。75歳になった時点で健康保険から後期高齢者医療制度に変わっています。


Hさん(64歳),Jさん(39歳),Kさん(19歳)はいずれも就労経験はなく,Gさんの収入で生活しています。


これらを頭に入れておいて,各選択肢を考えていきます。


1 Gさんは健康保険に加入している。


Gさんが加入している医療保険制度は,後期高齢者医療制度です。


2 Hさんは国民健康保険に加入している。


これが正解です。


Gさんが75歳になるまでは,健康保険に加入していたので,被扶養者としてHさん自身は医療保険に加入する必要はありませんでした。


しかし,後期高齢者医療制度には被扶養者という制度がないために,Hさん,Jさん,Kさんは,全員,国民健康保険に加入しなければなりません。


3 Jさんは健康保険に加入している。


Jさんは,就労していないので,健康保険に加入できません。健康保険に加入するためには,現時点(2025年6月)では,月の収入として88,000円以上が必要です。


4 Jさんは介護保険に加入している。


この家族の中で,介護保険に加入しているのは,Gさん,Hさんの2人のみです。


Jさんは,40歳になると第二号被保険者となります。


5 Kさんは国民年金に加入している。


Kさんは,20歳になると,国民年金に加入します。


〈おまけ〉

Kさんが現時点で,事故や病気などになり,国民年金の障害等級表の1級,2級に相当する障害となった場合は,20歳になると,障害基礎年金が給付される可能性があります。


このように,障害基礎年金の場合,保険料を納付せずとも,保険料を受け取れる可能性があります。

この場合には,社会保険制度には珍しく所得制限が設けられています。所得が高いと,年金の減額や停止が行われます。


このほかにも学生納付特例制度を利用している最中に国民年金の障害等級表の1級,2級に相当する障害となった場合も障害基礎年金を受け取ることができます。受給するのに,保険料の追納は必要ありません。

2025年6月5日木曜日

難民条約の批准

 日本は,1982年(昭和57年)に難民条約を批准しています。


この批准に伴い,ほとんどの社会保障制度から国籍要件が撤廃されています。


外国人であっても,それぞれの要件に合う場合は,日本人と同じ保障を受けることができます。


ただし,生活保護法は,国民を対象としているため,外国人を対象としません。


その代わりに,法的根拠はないものの,予算措置によって,生活保護を受けることができます。


それでは今日の問題です。


第35回・問題50

日本の社会保険に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民健康保険は,保険料を支払わないことで自由に脱退できる。

2 健康保険の給付費に対する国庫補助はない。

3 雇用保険の被保険者に,国籍の要件は設けられていない。

4 民間保険の原理の一つである給付・反対給付均等の原則は,社会保険においても必ず成立する。

5 介護保険の保険者は国である。


今日のテーマは,選択肢3に出題されています。

答えはわかると思いますが,解説します。


1 国民健康保険は,保険料を支払わないことで自由に脱退できる。


社会保険の特徴は,強制加入であることです。


国民健康保険から脱退するのは,生活保護を受給する場合,後期高齢者医療制度に加入する場合です。


2 健康保険の給付費に対する国庫補助はない。


もちろん国庫補助はあります。


ただし,健康保険組合の給付費には国庫補助はありません。


3 雇用保険の被保険者に,国籍の要件は設けられていない。


これが正解です。


雇用保険に限らず,ほとんどの社会保障制度には国籍要件はありません。


4 民間保険の原理の一つである給付・反対給付均等の原則は,社会保険においても必ず成立する。


民間保険は,保険の原理に従って運営されています。


給付・反対給付均等の原則とは,支払う保険料は,受ける保障の期待値と等しく設定されるというものです。


たとえば,民間医療保険では,保障を大きくしたい場合は,それに合わせて保険料も高く設定されます。


しかし,社会保険は,さまざまな背景によって運営されるので,給付・反対給付均等の原則は成立しません。


たとえば,公的年金保険では,将来受け取る年金額を高くしたいと思っても,それはできません。


5 介護保険の保険者は国である。


国が保険者となる社会保険制度は,厚生年金,国民年金,雇用保険,労災保険です。


介護保険の保険者は,市町村,あるいは市町村の広域連合です。


都道府県が保険者となる社会保険は,国民健康保険のみです。

2025年6月3日火曜日

第38回国家試験の試験日

 令和7年度の国家試験は,第38回です。

国家試験の実施機関である社会福祉振興・試験センターから,今年度の試験概要が発表されました。

https://www.sssc.or.jp/shakai/gaiyou.html


試験日

令和8年2月1日(日)


今年度も2月の第一週の日曜日です。


試験の申込み手続き

https://www.sssc.or.jp/shakai/tetsuzuki.html


各学校から受験についてのオリエンテーション等があると思いますが,以上の情報は覚えておきたいです。


※今日の問題はお休みします。

2025年6月1日日曜日

日本の社会保障の歴史

 歴史が苦手だ,という人はたくさんいます。


それはそれで仕方がないのですが,覚えるべきポイントはそれほど多くはないので,苦手だと思わず取り組んでほしいと思います。


年号がわからなくて,解けないという問題はほとんどありません。


覚え方のコツは


★我が国初の社会保険制度は,健康保険法


★社会保険制度は,医療保険制度が先で,後から年金保険制度


このような覚え方ができるのは,国家試験はどのように出題されているのかを知っているからです。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題49

日本の社会保障の歴史に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会保険制度として最初に創設されたのは,健康保険制度である。

2 社会保険制度のうち最も導入が遅かったのは,雇用保険制度である。

3 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。

4 1986年(昭和61年)に基礎年金制度が導入され,国民皆年金が実現した。

5 2008年(平成20年)に後期高齢者医療制度が導入され,老人医療費が無料化された。


正解はすぐわかると思います。

とても基本的なものが正解となっています。


歴史問題の出題内容は限られているので,実は得点しやすいです。


選択肢3については,同じ内容が3回も出題されています。


〈第27回〉

1950年の社会保障制度審議会勧告は,日本の社会保障制度について,租税を財源とした社会扶助制度を中心に充実させるとした。


〈第32回〉

1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。


〈第35回〉

1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。


第32回と第35回は,まったく同じ文章で出題されています。これはとても珍しいことです。


それでは解説です。


1 社会保険制度として最初に創設されたのは,健康保険制度である。


前説のようにこれが正解です。


医療保険制度は,先に被用者が対象の健康保険ができて,そのあとに自営業者などが対象の国民健康保険ができました。


年金制度では,先に被用者が対象の厚生年金ができて,そのあとに全国民が対象の国民年金ができました。


〈成立順〉

健康保険

  ↓

国民健康保険

  ↓

厚生年金

  ↓

国民年金


2 社会保険制度のうち最も導入が遅かったのは,雇用保険制度である。


日本の社会保険制度は5種類です。


〈成立順〉


医療保険(健康保険)

 ↓

年金保険(厚生年金)

 ↓

労働保険(雇用保険と労災保険)

 ↓

年金保険(国民年金)

 ↓

介護保険


3 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。


社会保障制度審議会の勧告(1950年)では,社会保険制度を中心に充実すべきであることを提言しています。


この勧告は,社会保障制度の範囲と方法を示しています。


4 1986年(昭和61年)に基礎年金制度が導入され,国民皆年金が実現した。


国民皆年金が実現したのは,1961年(昭和36年)の国民年金法の施行です。


5 2008年(平成20年)に後期高齢者医療制度が導入され,老人医療費が無料化された。


70歳以上の老人医療費を無料化したのは,1973年(昭和48年)です。

1982年(昭和57年)に老人保健法が成立して,医療費を一部負担することになります。

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