知識は価値を伴って実践力になっていきます。
実践力を伴わない知識では意味がありません。
人によって,「実践は実践」「勉強は勉強」と割り切ることが必要だ,という人もいます。
しかし,それは今の国試を知らない人です。
現在のカリキュラムは,科目名に「●●学」「●●論」という言葉がありません。
学問や理論を学ぶものではないことを示しています。
国試の問題に批判が出ることがありますが,すべての問題には意図があり,社会福祉士としての実践に必要なものです。
ソーシャルワークには。無意図のものはありません。
それでは,事例問題を見てみましょう。
第25回・問題99
事例を読んで,家族システムの視点に基づいたA社会福祉士の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Bさん(48歳,男性)は,専業主婦の妻(46歳),息子(17歳),娘(14歳)と4人暮らしである。Bさんは,優秀な会社員であり,家族関係も良好であった。ところがBさんは,半年くらい前から物忘れが増え,仕事のミスが目立ち,病院で検査をした結果,若年性の認知症であると告げられた。Bさんは自暴自葉になり,妻や2人の子どもに対して当たり散らすなど,家族関係は悪化した。妻から相談を受けた医療ソーシャルワーカーのA社会福祉士は,Bさんとその家族に対応した。
1 家族間相互のストレスを緩和するために,一時的に別居することを勧めた。
2 家族システムの開放を目指して,近隣住民にBさんの家族を頻繁に訪問して見守ってもらうように依頼した。
3 家族関係悪化の原因は,Bさんの荒れた態度だと判断し,その改善を図るために,Bさんとの面接を繰り返した。
4 家族の規範に配慮しつつ,Bさんの状態に対応して,それぞれの役割を見直すよう家族で話し合うことを促した。
5 家族内で問題が解決できるように,妻との面接を繰り返した。
こういった問題で注意しなければならないのは「●●に基づいた」「●●に基づいて」というものです。
事例の中で,より適切な対応があっても「●●に基づいた」ものでなければ,正解にはなりません。
こういった出題がなされるのは,ワーカーには様々な視点が必要だということです。
支援の方法論には,答えがたくさんあります。
方法論をたくさん持っているのが優れたワーカーだと言えるのかもしれません。
さて,今日の問題の答えは,
4 家族の規範に配慮しつつ,Bさんの状態に対応して,それぞれの役割を見直すよう家族で話し合うことを促した。
システム理論は,人と環境を一体のものとしてとらえ,人と環境の「交互作用」に着目するところに特徴があります。
Bさんと家族の交互作用を活用したものは,この選択肢しかありません。
1 家族間相互のストレスを緩和するために,一時的に別居することを勧めた。
3 家族関係悪化の原因は,Bさんの荒れた態度だと判断し,その改善を図るために,Bさんとの面接を繰り返した。
5 家族内で問題が解決できるように,妻との面接を繰り返した。
これらは,すべてシステムの構成要素,Bさん,妻を一体のものととらえたものではありません。
2 家族システムの開放を目指して,近隣住民にBさんの家族を頻繁に訪問して見守ってもらうように依頼した。
家族システムの解放という何だかわからないものを含めていますが,「交互作用」は活用していません。
地域福祉の問題なら,これが正解であっても不思議ではありません。
しかし設問に「システム理論に基づいて」という条件がつけられているので,この選択肢は「より適切」とは言えないものとなります。
<今日の一言>
「現場実践を知っているから,事例問題は得意だ」と言う人は多いです。
しかし,事例問題は決して易しくありません。
「得意だ」と思っていると慎重さを欠きますので注意が必要です。
今日の問題のように知識が必要な事例があるからです。