2025年5月21日水曜日

貨幣的ニードと非貨幣的ニード

  

福祉ニーズには,金銭給付によって充足できるものと金銭給付では充足できないものがあります。

 

日本社会事業大学の学長を務められた故・三浦文夫先生は,前者を「貨幣的ニード」,後者を「非貨幣的ニード」と呼びました。

 

古くからある福祉ニーズは,貧困です。

 

貧困に対しては,金銭給付されれば,そのニーズは充足します。こういったタイプの福祉ニーズが貨幣的ニードです。

 

しかし,介護や育児といった比較的新しい福祉ニーズは,金銭給付されても,提供されるサービスがなければ充足しません。

 

こういったタイプの福祉ニーズは,非貨幣的ニードといいます。

 

非貨幣的ニードを充足するためには,それに合わせたサービスの提供が必要です。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題27

福祉のニーズとその充足に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ジャッジ(JudgeK.)は,福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に,市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。

2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は,福祉ニーズを充足する部門を,インフォーマル,ボランタリー,法定(公定)の三つに分類した。

3 三浦文夫は,日本における社会福祉の発展の中で,非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで,あるいはそれに代わって,社会福祉の主要な課題になると述べた。

4 ブラッドショー(BradshawJ.)は,サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として,「規範的ニード」を挙げた。

5 フレイザー(FraserN.)は,ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況を,「必要解釈の政治」と呼んだ。

(注) 「ウルフェンデン報告」とは,1978 年にイギリスのウルフェンデン委員会が発表した報告書「The Future of Voluntary Organisations」のことである。

 

福祉ニーズが出題されると難しいなぁ,と感じる人もいるかもしれません。

 

しかし,福祉現場だけではなく,制度をつくる際にも何に着目するかというのは,とても重要です。

 

いわゆるニーズ判定です。

 

それでは,解説です。

 

1 ジャッジ(JudgeK.)は,福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に,市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。

 

ラショニングは,ここでは,割当と出題されていますが,配給とも訳されます。

 

配給と言えば,日本では第二次世界大戦の戦中戦後が頭に浮かぶ人もいるでしょう。

 

需要に対して,供給量が足りない場合,市場メカニズムに従うと,商品の金額が上がってしまいます。

 

そのようにならないために,ラショニング(配給)を行います。

 

例えば,10枚つづりのお米券は,一家族は,1セットのみといったように限定して販売します。

 

このように,ラショニングは,市場メカニズムを活用しないで,需要を満たす福祉政策です。

 

2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は,福祉ニーズを充足する部門を,インフォーマル,ボランタリー,法定(公定)の三つに分類した。

 

イギリスのウルフェンデン報告(1978年)が示した福祉サービスを提供する部門

・インフォーマル

・ボランタリー

・法定(公定)

・営利

 

重要な営利部門が抜けています。

 

営利部門が参入することで,競争原理が期待できます。

 

コスト削減も期待できるでしょう。

 

3 三浦文夫は,日本における社会福祉の発展の中で,非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで,あるいはそれに代わって,社会福祉の主要な課題になると述べた。

 

これが正解です。

 

今日の日本を考えてみるとよく理解できるでしょう。

 

4 ブラッドショー(BradshawJ.)は,サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として,「規範的ニード」を挙げた。

 

サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型は,感得されたニードです。

 

規範的ニードは専門職などが望ましい状態と比較することで,ニードの有無を判断するニードです。

 

ブラッドショーは,ニーズを以下のように類型化しています。

 

感得されたニード

(フェルト・ニード)

ニードがあることを本人が自覚したニード

表明されたニード

(エクスプレスト・ニード)

ニードがあることを自覚した結果,行動に出たニード

規範的ニード

(ノーマティブ・ニード)

社会的に望ましい状態(社会規範)に照らしてみてニードがあるとみなされるニード

比較ニード

(コンパラティブ・ニード)

サービス受給していないが,サービス受給している人と比べてみることでニードがあるとされるニード

 

 

5 フレイザー(FraserN.)は,ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況を,「必要解釈の政治」と呼んだ。

 

必要解釈の政治とは,世の中に起きている事象に対して,ニーズ判定を行う政治手法です。

 

ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況は,必要充足の政治といいます。

 

福祉制度を作り上げていく過程で必要なのが,「必要解釈の政治」,制度を運営していく過程,つまりストリードレベルの官僚(行政の窓口担当者)が必要なのが「必要充足の政治」です。

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