2024年5月9日木曜日

ノーマライゼーションの国家試験問題

 今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。


前説なしで,今日の問題です。


第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。

2 1950年代のデンマークにおける精神障害者本人の会の活動を通して生み出された。

3 ニィリエ(Nirje,B)が唱えた原理には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれる。

4 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)らの働きにより,スウェーデンにおいて世界で初めて法律の基本的理念として位置づけられた。

5 全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)において,倫理的原理の一つとして明記された。


それでは,詳しく見ていきましょう。


1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。


世界人権宣言は,第二次世界大戦で多くの人権が踏みにじられたことを受けて,戦後の1948年に国際連合で決議されたものです。


ノーマライゼーションが世界で初めて明文化したのは,デンマークの1959年法です。


つまり世界人権宣言の時はまだノーマライゼーションは存在していないことになります。


そこからも推測できますが,誤りです。


2 1950年代のデンマークにおける精神障害者本人の会の活動を通して生み出された。


今でこそデンマークは高福祉の国として知られていますが,歴史をひもとけば,貧しかった時代が長く続きました。


アンデルセン童話の「マッチ売りの少女」はデンマークの話です。アンデルセン自身がデンマークの人です。


ノーマライゼーションは,バンク-ミケルセンが,知的障害児が保護の名のもとに施設収容されている現状を変えようと,知的障害児の親の会と一緒に処遇改善を行ったことが始まりです。


よって×。


3 ニィリエ(Nirje,B)が唱えた原理には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれる。


ニィリエはスウェーデン時間です。バンク-ミケルセンが「ノーマライゼーションの父」とするなら,ニィリエは「ノーマライゼーションの育ての父」と呼ばれます。


なぜなら,ニィリエは,ノーマライゼーションとはどのようなものを指すのかを明確にしたからです。


ノーマライゼーションは,ノーマル化することです。つまりどのようなものをノーマル(健常)にするのか,かが分かっていることでノーマライゼーションは一層進みやすくなります。


ニィリエが提唱した「ノーマライゼーションの8つの原理」とは以下のようなものです。


①1日のノーマルなリズム

②1週間のノーマルなリズム

③1年間のノーマルなリズム

④ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験

⑤ノーマルな個人の尊厳と自己決定

⑥その文化におけるノーマルな性的関係

⑦その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利

⑧その地域におけるノーマルな環境形態と水準


問題文の「ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験」はこのうちの4つめの原理です。よって,これが正解です。


バンク-ミケルセンやニィリエに共通しているのは,障害があってもなくても同じ社会で生活することです。


日本は「地域共生社会」の実現に向けて動き始めています。


地域共生社会の理念の原点は,ノーマライゼーションやソーシャル・インクルージョンにあります。


4 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)らの働きにより,スウェーデンにおいて世界で初めて法律の基本的理念として位置づけられた。


育ての父であるニィリエの功績で,ノーマライゼーションはスウェーデンで大きく花が咲きました。


そのため,勉強不足の人は,ノーマライゼーション=スウェーデン,だと思ってしまいがちです。


バンク-ミケルセンの活動の理念を世界で初めて法に取り入れたのは,デンマークの1959年法です。


よって×。


5 全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)において,倫理的原理の一つとして明記された。


倫理的原理

サービス,社会正義,人の尊厳と価値,人間関係の重要性,誠実,コンピテンス


6つです。ノーマライゼーションは含まれていません。


よって×。


これはかなり勉強していないと分からない選択肢のように思うかもしれません。

しかし倫理綱領はたいてい大きな理念で構成されます。


ノーマライゼーションはそれらから考えると方法論の一つだと言えます。

そこから考えると,ノーマライゼーションは入って来ないだろうと予想することはできそうです。

2024年5月8日水曜日

ソーシャルワーク4科目で合格をつかむ

ソーシャルワーク系の4科目は,社会福祉士になるためにはとても重要な科目です。


今日は,そのうちの共通科目の「ソーシャルワークの基盤と専門職」です。


少し難しいかもしれませんが,しっかり覚えれば点数を稼ぐ科目になります。


それでは,今日の問題です。


第26回・問題91 

2007年(平成19年)の社会福祉士及び介護福祉士法改正の背景に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉ニーズの多様化に対応するため,2015年(平成27年)までに社会福祉士登録者数を20万人にすることが求められた。

2 社会福祉士登録者数が大幅に増加し飽和状態になったため,有資格者の量的抑制が求められた。

3 利用者がサービスを選択できる制度が導入されたことに伴い,サービスの利用支援,成年後見,権利擁護等の新しい相談援助業務の拡大に対応できるよう,社会福祉士の知識及び技術の向上が求められた。

4 社会福祉士の業務内容の変化に対応するため,5年ごとの更新制が導入されることになった。

5 福祉事務所への社会福祉士の配置が義務化されたため,相談援助業務範囲の拡大が求められた。


今となっては,2007年はずいぶん前に感じますが,ここからほとんど変更がないので,これが現在の社会福祉士の立ち位置ととらえて良いと思います。


それでは,それぞれを詳しく見ていきます。


1 福祉ニーズの多様化に対応するため,2015年(平成27年)までに社会福祉士登録者数を20万人にすることが求められた。


残念ですが,社会福祉士は数を確保しなければならない資格ではありません。必要がなければ,目標数値を掲げることに意味を持ちません。


もちろん答えは×です。


2 社会福祉士登録者数が大幅に増加し飽和状態になったため,有資格者の量的抑制が求められた。


答えは,もちろん×です。


3 利用者がサービスを選択できる制度が導入されたことに伴い,サービスの利用支援,成年後見,権利擁護等の新しい相談援助業務の拡大に対応できるよう,社会福祉士の知識及び技術の向上が求められた。


これは正解っぽいですが,この時点ではよく分からないので,とりあえず冷静に▲をつけておきます。

結果的にこれが正解となります。


4 社会福祉士の業務内容の変化に対応するため,5年ごとの更新制が導入されることになった。


更新制は,介護支援専門員には導入されていますが,社会福祉士には導入されていません。


勉強が足りない人は,「5年ごとの更新制ってどこかで聞いたことある」と思ってこれを正解にした人もいたと思います。


もちろん間違いです。


合格する人としない人は,こういうところに差が出ます。


5 福祉事務所への社会福祉士の配置が義務化されたため,相談援助業務範囲の拡大が求められた。


社会福祉士は福祉事務所には配置義務はありません。よって×。


現在のところ,社会福祉士の配置義務があるのは,地域包括支援センターのみです。



<今日の補足>


福祉事務所に配置義務があるのは社会福祉主事となります。


社会福祉主事はGHQの指導で作られたものです。


サンフランシスコ平和条約で日本は独立国家になりました。


しかし,現在でも保護事務は社会福祉主事の聖域になっているみたいで,社会福祉士が配置義務になることは極めて難しそうです。

2024年5月7日火曜日

国家試験に採用されている問題のプール制とは

国試問題は出題数よりも多く作られます。

 

そのため試験委員でさえ,自分が作問したものが出題されるかどうかはわかりません。

 

以前は,使われなかった問題はすべて破棄して,次年度はすべて新しく作っていました。実にもったいないです。

 

現在は「問題のプール制」という方式を取っています。

 

 

使われなかった問題は破棄するのではなく,保管しておいていつか出題されるかもしれないチャンスを待ちます。

 

試験委員は数年で交代しますが,試験委員をおりた後にも自分が作った問題が出題されることもあるということです。

 

何を言いたいかと言うと,問題は以前よりも数多く準備されているということです。

 

どの問題が破棄されずにリサイクルされたものであるかは実際には分かりません。

 

試験委員が数多く入れ替わっても,問題の難易度を大きく変えないためにも問題のプール制は重要な手段なのかもしれません。

 

それでは今日の問題です。

 

26回・問題90

質的調査データの整理と分析に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながら,思いつくままにコードを書き込んでいくことをプリコーディングという。

2 研究がある程度進展した段階で,比較的少数の概念的カテゴリーにコードを割り振っていくことをオープン・コーディングという。

3 インタビュー等において対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをインビボ・コーディングという。

4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおいてデータの分析を行う際には,事前に設定した仮説や既存の理論に沿って進めることが重要である。

5 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。

 

 質的調査は,量的調査ほどは難しくないですが,整理と分析は少し難しいです。

 

 

必要な知識は,コーディング,グラウンデッド・セオリー・アプローチ,KJ法などです。

 

それでは,詳しく見ていきましょう。

 

1 インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながら,思いつくままにコードを書き込んでいくことをプリコーディングという。

 

 

コーディングは,得られたデータにコードをつけていく作業のことです。

最初から分かっているものにコードをつけることはプリコーティングと言います。

 

例えば,1.10歳代,2.20歳代,3.30歳代,4.40歳代,などです。

 

それに対して,データを見ながらコードをつけていく作業もあります。これはアフターコーディングと言います。

 

例えば,「あなたが社会福祉士を目指す理由は何ですか」という自由記述の質問に対して,コーディングしていきます。

 

これはデータを集めてからしかできません。データを見ながらコード化することがアフターコーディングです。

 

1.生活のため,2.ご利用者のため,などです。

 

 

さて,問題に戻ります。

 

インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながらコード化しているので,アフターコーディングだと分かります。

 

 

プリコーディングではないので×。

 

 

 2 研究がある程度進展した段階で,比較的少数の概念的カテゴリーにコードを割り振っていくことをオープン・コーディングという。

 

 

今は参考書に書いてあるのでそれを読めば分かりますが,出題当時はものすごく難しかったことでしょう。

 

オープン・コーディングは,グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法です。

 

 

グラウンデッド・セオリー・アプローチとは・・・

 

 

先に仮説があるのではなく,分析を通して新しい理論を見つけ出すものです。

 

 

古典的には,グラウンド・セオリー(理論にもとづく)・アプローチがあります。

既にある理論に基づいて分析を進める手法です。

 

それに対して,グラウンデッド・セオリー・アプローチは,先述のように,分析を通して新しい理論を見つけ出します。

 

既にある理論から始まるのではないということで,グラウンド・セオリー・アプローチに対抗してグラウンデッド・セオリー・アプローチと名付けたので,うまい日本語訳はありません。

 

グラウンデッド・セオリーは,グラウンド・セオリーではない

 

という感じで押さえると良いでしょう。

 

 ところでグラウンデッド・セオリー・アプローチの分析プロセスは以下のようになっています。

 

 

オープン・コーディング 

 似たものにコードをつけてカテゴリー化する(まとまりをつくる)こと。

 

  ↓   ↓

 

軸足コーディング 

 

オープン・コーディングでカテゴリー化したものを少数にまとめること。

   ↓   ↓

 

選択的コーディング 

 軸足コーディングで少数にまとめられたカテゴリーを関連付けて,理論を導き出すこと。

 

 

難しいですね。

 

 

問題に戻ります。

 

オープン・コーディングは分析の最初に行う作業です。

 

「研究がある程度進展した段階」と書かれているのでこの段階でオープン・コーディングではないと分かります。

 

正しくは軸足コーディングです。

 

よって×。

 

 3 インタビュー等において対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをインビボ・コーディングという。

 

 

これは本当に難しいです。

 

聞いたことも見たこともないので,〇も×もつけられません。

 

このような時は,決して焦らず冷静になって▲をつけておきます。

 

4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおいてデータの分析を行う際には,事前に設定した仮説や既存の理論に沿って進めることが重要である。

 

事前に設定した仮説や既存の理論に沿って行うものは,グラウンド・セオリーです。

 

グラウンデッド・セオリーは難しいですが,データ収集と分析を通してアプローチは新しいセオリーを見つけ出す手法であることだけが分かっていれば,×はつけられたことでしょう。

 

勉強不足の人は,この文章はもっともらしく見えるので,きっとこれを正解にしてしまったのではないでしょうか。

 

もちろん×です。

 

5 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。

 

 

 

言い切り表現に正解少なし。

 

 

「質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない」と言っていますが,今はコンピューター時代です。面倒な分析をしてくれるソフトは誰かが開発していると考えるのが妥当でしょう。

 

実際には,テキストマイニングというものが既にあります。

 

文章を区切って,分析するものです。文章を区切ることで分析してくれますが,文章を区切るのは,人の手で行わなければなりません。

 

答えは×です。

 

1245が×なので,▲をつけていた3を〇に昇格させてこれを正解にします。もちろん3が正解です。

 

 

オープン・コーディングはこの時が初めての出題ですが,軸足コーディングは,現行カリキュラムの第1回にあたる第22回国試で出題されています。

 

 

<今日のおまけ問題>

 

22回・問題83

質的データの分析に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,データの収集と分析が一体となり,繰り返し実施されるのが,その特徴の一つである。

2 KJ法を利用して質的データを分類するには,理論的枠組みに基づいてあらかじめ設定された分類軸が必要である。

3 ドキュメント分析を行う際,公的機関の統計や文書あるいは新聞・雑誌などのメディア文書は分析の対象となるが,日記や手記などの個人的記録は分析の対象とはならない。

4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一の事象に対して,複数のコードをはり付けていくことである。

5 KJ法は,質的データの分析において,主として仮説の検証を試みる際に活用される。

  

 

まだ勉強が進んでいないと難しいかもしれませんが,答えは1です。

 

ここでKJ法を説明すると・・・

  

カードに書き出したものをカテゴリー化して,新しい発見をするものです。

 

開発者の川喜田二郎先生のイニシャルを取ってKJ法と呼ばれています。

 

グループワークなどで実際に体験したことのある人も多いのではないでしょうか。

 

 2は,グラウンド・セオリー。

 

3はドキュメント(記録)分析ですが,日記や手記なども分析対象になります。

 

3の軸足コーディングはオープン・コーディングによってカテゴリー化したものを少数にカテゴリー化すること。

 

5KJ法は,仮説を立てて行うよりも,分析する中で新しい発見などを行う時によく使われます。

 

 

いすれにしてもグラウンデッド・セオリー・アプローチは,要チェックです。

 

グラウンデッド・セオリー・アプローチで最低限必要な知識は

 

データの収集と分析を通して,理論(セオリー)を見つけ出すこと。

 

オーブンコーディングは,最初の段階で,コード化すること。

 

分析を何度も繰り返してこれ以上何も出てこない状態のことは理論的飽和という。

 

 

軸足コーディング,選択的コーティングは,正解選択肢になることはまず考えられません。

 

この2つだけを覚えておけば,グラウンデッド・セオリー・アプローチの問題は,ばっちりです。

2024年5月6日月曜日

基礎知識を固めて,試験委員のトラップを潜り抜けろ!!

難解に思える「社会福祉調査の基礎」でも,ちぁ~んと突破口は存在しています。


しっかり勉強すれば満点に近い点数は取れる手堅い科目になることでしょう。


と言うか・・・


「量的調査の集計と分析」以外はしっかり覚えると得点できるようになります。


出題されても1・2問の「量的調査の集計と分析」です。そんなに怖いことはないです。


さて,それでは今日の問題です。



第26回・問題89 

社会調査における面接法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 非構造化面接では,対象者に自由に回答してもらうことになるので,調査内容に精通していない調査員を採用して,面接を実施してもらうのがよい。

2 半構造化面接では,インタビューのおおむね半分程度の時間を,質問内容や質問の順番などが詳細に決められた質問紙によって面接が進められる。

3 面接における会話を録音できない場合には,正確な面接記録を作成するために,面接時はできるだけ会話の書き取りを優先しなければならない。

4 非構造化や半構造化で行われることが多いフォーカスグルーブインタビューでも,質問内容や討議のルールなどを示したインタビューガイドを準備する方がよい。

5 面接法では,対象者との間に十分な信頼関係を築くことが重要であり,いわゆるオーバーラポールの状態を目指すのがよい。


旧カリキュラムでは,「社会調査の基礎」という科目名だったので「社会調査」と出題していますが,「社会福祉調査」と同じです。


さて,面接法には質問内容によって以下のように分類できます。



非構造化面接(自由面接)

半構造化面接

構造化面接



構造化とは・・・


前もって聞く質問を決めておくこと。


構造化面接は,それに沿って面接を行うことを言います。


非構造化面接は,逆に前もって質問項目は決めておかない面接法です。そのため,自由面接と言われます。


非構造化面接は質問が決まっていないので,インタビュアには高度な技術が求められます。


半構造化面接は,テーマに沿った質問をいくつか行って,その後は自由に語ってもらいます。


構造化面接は,決められた質問構造に沿って行われるので,比較的誰でも同じような答えを引き出すことができます。


これらを頭に入れておいて,それぞれを詳しく見て行きましょう。


1 非構造化面接では,対象者に自由に回答してもらうことになるので,調査内容に精通していない調査員を採用して,面接を実施してもらうのがよい。


非構造化面接は,自由に回答してもらいますが,ただ自由に回答してもらうだけではなく,必要な時には修正したり,深く聞き出すことが求められます。


調査のために雇われたアルバイト学生では難しいです。


よって×。


2 半構造化面接では,インタビューのおおむね半分程度の時間を,質問内容や質問の順番などが詳細に決められた質問紙によって面接が進められる。


久々に出ました。これは試験委員が勉強不足の受験生をひっかけようと意図して出したものです。


「半構造化」の意味が分からない受験生は,「半」という意味に引っ張られます。


「半構造化面接」→「半分の時間」と言ったように,「半」→「半」でつなげています。


勉強不足な人は,このような仕掛けに面白いように引っ掛かります。

作問者の思うつぼです。


半構造化の「半」の意味は,構造化面接と非構造化面接の中間なので「半」という表現をしています。


インタビューの時間の「半」分という意味ではありません。


よって×。


勉強が進んだ人なら,絶対に間違わないような問題で間違うのです。

試験委員は引っ掛けポイントを巧みにかくして作問します。問題に慣れていくと,そういうものが見えてくるようになります。

試験中にそれに気がつくと,笑いが止まらなくなってしまうので,注意が必要です。本当ですよ!


3 面接における会話を録音できない場合には,正確な面接記録を作成するために,面接時はできるだけ会話の書き取りを優先しなければならない。


今は,ICレコーダーのようなものがあるので,インタビューの時はそれを使うこともあるでしょう。


しかし録音機器を使用する場合は,調査対象者の許可が必要です。


隠し撮りするようなことは倫理上許されません。また事前に承諾を得ていたとしても,終わってから,録音したものを破棄するように求めてきた場合には,その意向に沿って録音内容を消去しなければなりません。


録音することを承諾されなかった場合,メモすることが必要です。


ここにソーシャルワークの力が活かされます。


会話の聞き取りを優先したために適切な対応ができなかったら,良いインタビューにはなりにくいでしょう。


書き取りに手間を取られていたとしても,うなずくことや相槌を入れることはできます。もしそれができないとすれば,ソーシャルワークスキルを磨くように心がける必要があるでしょう。


ある人は,1時間面接した内容は1時間かけて思い出せなければならないと言い切ります。


録音しておけば安心ですが,ソーシャルワークの面接の内容を録音することは稀です。


正確な面接記録を作成するのは,逐語記録を作成するためには必要ですが,対象者が語ったことの内容の中で特に重要な部分を書きとめておけば,後から思い出すきっかけになるはすです。


もしより正確な記録を残さなければならない調査であったとしたら,録音が承諾されないことも見込んで,記録係と一緒に行うべきだと考えます。


もしその準備をしなかったのであれば,研究デザインに誤りがあったと考えるべきでしょう。


ということでこの選択肢は×です。


4 非構造化や半構造化で行われることが多いフォーカスグルーブインタビューでも,質問内容や討議のルールなどを示したインタビューガイドを準備する方がよい。


これが正解です。

インタビューガイドとは,どのようにインタビューを進めていくかを先に作っておくものです。


非構造化面接は,構造化面接と違い,あらかじめ作成した質問項目によって進められるものではありません。


しかし,先述したように,聞きたいことを深めたり,良くない方向に進みそうになった時には,インタビュアの介入が必要となります。


面接は「出たとこ勝負」(準備なし)であってはなりません。そのために非構造化面接だとしてもインタビューガイドは必要です。


5 面接法では,対象者との間に十分な信頼関係を築くことが重要であり,いわゆるオーバーラポールの状態を目指すのがよい。


ラポールとは,ソーシャルワークでもおなじみですね。「信頼関係」のことを言います。


信頼関係があることで,普通の人だったら聞き出せないような話を引き出すことができることもあります。


しかしその関係が過剰になった場合は,本音を言いづらくなったり,また分析する過程で自分の感情が重なったりすることがあります。


昔から「過ぎたるは及ばざるがごとし」というように,何事もほどほどが良いものです。


よって×。


チームfukufuku21は,国試で出題されるものはすべて意味のあるものだと考えています。人によっては,国試は現場とは違う。勉強だと割り切って勉強すること,と言う人もいるみたいです。


社会福祉士の制度ができたときはそういうこともあったかもしれません。しかし今は出題が吟味されており,すべてがソーシャルワークを深めるものになっていると考えています。


もし,国試の勉強は資格を取るための意味しか持たないものであれば,その資格はペーパー以上の意味を持つことはないことになります。


一見ソーシャルワークに直接関係ないような科目に見える「社会調査の基礎」ですが,今日の問題で分かるように,ソーシャルワークを深めるためのヒントがたくさん含まれています。


先日の問題の質問紙を作るときの注意事項も,面接に応用できるものです。

国家試験は,社会福祉士に求められる姿を求めて出題します。

2024年5月5日日曜日

問題を解くには,柔らか頭が欠かせません!!

国試会場で最も避けたいのは,周りの雰囲気に飲まれて,普段通りの力を発揮できないことです。


以前・・・


ルーティーンを作ろう


と呼びかけました。


具体的には,普段勉強する時から,同じパターンの行動を癖にすることです。


それと同じ行動を試験当日にも行うことで,緊張感を和らげよう,というものです。


実力があっても得点できるとは限らない,過酷な試験です。

なるべくプレッシャーが少ない状態で臨めるようにしたいものです。



さて,今日の問題も社会福祉調査の基礎です。


今日取り上げる問題は,「えっ? こんな問題が出題されるの?」と思ってしまうような変わった出題です。


それでは問題を見てみましょう。


第26回・問題88 

事例を読んで,調査結果の読み方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Y市社会福祉協議会に勤める社会福祉士は,「いきいきサロン」を利用している高齢者100人へのアンケートで,日頃どのようなスポーツを行っているのかを尋ね,100人すべてから有効回答を得た。選択肢として,(a)ウォーキング,(b)水泳,(c)テニス,(d)その他のスポーツの4つを用意して,普段行っているものにすべて〇を付けてもらった。〇の数の集計結果は,(a)30,(b)15,(c)10,(d)25となった。

 この結果について,K社会福祉士は次のように考えた。

1 ここから,100人中80人は普段何らかのスポーツを行っていると分かる。

2 スポーツを行っている人に限ると,(c)のテニスをする人は8分の1である。

3 この100人の中で,普段何もスポーツを行っていない人は少なくとも20人いてもっと多い可能性もある。

4 卓球は明記されていないので,実際はウォーキングより多かったかもしれない。

5 (d)その他のスポーツに〇を付けた25人のうち,ゲートボールをする人が15人いた場合には,エアロビクスをする人は10人以下になる。


とても変わった問題だと思いませんか? 


しかし実は大学の入学試験では,データをどのように読み取るのか,といった問題が出題されます。学校でもそれを学んでいます。


落ち着いて問題を読めば,決して答えを引き出すのは難しいものではないでしょう。

しかし,先述のように,試験会場の独特の雰囲気は,普段ならできることができなくなるものです。


だからこそ・・・


問題を解く訓練が欠かせない


今日の問題を解く時のコツは,字面だけを追うのではなく,どのような可能性があるのか,を想像することです。


創造力が豊富なのは,ソーシャルワーカーにとってとても大切なことです。


国家試験で社会福祉調査の基礎を担当する試験委員は,社会福祉調査の専門家ではありません。社会学や社会福祉学の先生方が作問しています。


そのため,社会福祉調査を学ぶための出題ではなく,社会福祉士に求められるものを必ず出題の中に込めていると考えられます。


それでは詳しく見ましょう。


1 ここから,100人中80人は普段何らかのスポーツを行っていると分かる。


問題文の中に,普段行っているものにすべて〇を付けてもらったという表記があるので,一人が複数選択している可能性があることが想像できます。


そうなると80人が何らかのスポーツをしている,ということにはならないかもしれません。


よって×。


2 スポーツを行っている人に限ると,(c)のテニスをする人は8分の1である。



1で述べたように複数回答している人がいる可能性を考えるとスポーツを行っている人数は分かりません。


テニスをしているのが10人であることは分かりますが,分母が不明です。


そのため8分の1であるかは分かりません。


よって×。


3 この100人の中で,普段何もスポーツを行っていない人は少なくとも20人いてもっと多い可能性もある。


複数回答している人はいないと仮定すると,80名が何らかのスポーツをしていることになります。


つまりスポーツをしていない人は20名となります。


複数回答した人が多くなればなるほど,80名から減っていきますので,スポーツをしていない人数は20名よりも増えて行きます。


よって正解です。


4 卓球は明記されていないので,実際はウォーキングより多かったかもしれない。


卓球は,選択肢の中にはないので,卓球を行っている人がいた場合は,「その他のスポーツ」を選択することになります。


ところが,ウォーキングは30名,その他のスポーツは25名なので,その他のスポーツがすべて卓球だとしてもウォーキングの30名を上回ることはありません。


よって×。


5 (d)その他のスポーツに〇を付けた25人のうち,ゲートボールをする人が15人いた場合には,エアロビクスをする人は10人以下になる。


「その他のスポーツ」は25名です。ゲートボールとエアロビクスの両方を行う人がいた場合は,10名ではなくてもっと多い可能性があります。


よって×。



今日の問題はかなり奇異な問題です。

毎年このような新奇な出題があると考えておくと良いと思います。


今日のお題「頭を柔らかく」というのは,このような問題に対応するために必要です。



<今日のおまけ問題>


第27回・問題23

社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1つ選びなさい。

1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ

2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ

3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ

4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ

5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ


この問題もかなり新奇だったと思います。ベヴァリッジ報告の「5つの巨人」とはなんだっけ? と考えるだけで答えを出すのは簡単ではありません。


この問題を解くために必要なのは,第二次世界大戦の時代と現在では社会構造が変わったことは何だろう,と考える想像力です。


4以外はどれも5つの巨人のうちの経済的な問題,つまりは窮乏です。


そう考えると答えは4しかあり得ません。4の子育て問題,介護問題は新しいリスクです。

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