国試問題は出題数よりも多く作られます。
そのため試験委員でさえ,自分が作問したものが出題されるかどうかはわかりません。
以前は,使われなかった問題はすべて破棄して,次年度はすべて新しく作っていました。実にもったいないです。
現在は「問題のプール制」という方式を取っています。
使われなかった問題は破棄するのではなく,保管しておいていつか出題されるかもしれないチャンスを待ちます。
試験委員は数年で交代しますが,試験委員をおりた後にも自分が作った問題が出題されることもあるということです。
何を言いたいかと言うと,問題は以前よりも数多く準備されているということです。
どの問題が破棄されずにリサイクルされたものであるかは実際には分かりません。
試験委員が数多く入れ替わっても,問題の難易度を大きく変えないためにも問題のプール制は重要な手段なのかもしれません。
それでは今日の問題です。
第26回・問題90
質的調査データの整理と分析に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながら,思いつくままにコードを書き込んでいくことをプリコーディングという。
2 研究がある程度進展した段階で,比較的少数の概念的カテゴリーにコードを割り振っていくことをオープン・コーディングという。
3 インタビュー等において対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをインビボ・コーディングという。
4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおいてデータの分析を行う際には,事前に設定した仮説や既存の理論に沿って進めることが重要である。
5 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。
必要な知識は,コーディング,グラウンデッド・セオリー・アプローチ,KJ法などです。
それでは,詳しく見ていきましょう。
1 インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながら,思いつくままにコードを書き込んでいくことをプリコーディングという。
コーディングは,得られたデータにコードをつけていく作業のことです。
最初から分かっているものにコードをつけることはプリコーティングと言います。
例えば,1.10歳代,2.20歳代,3.30歳代,4.40歳代,などです。
それに対して,データを見ながらコードをつけていく作業もあります。これはアフターコーディングと言います。
例えば,「あなたが社会福祉士を目指す理由は何ですか」という自由記述の質問に対して,コーディングしていきます。
これはデータを集めてからしかできません。データを見ながらコード化することがアフターコーディングです。
1.生活のため,2.ご利用者のため,などです。
さて,問題に戻ります。
インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながらコード化しているので,アフターコーディングだと分かります。
プリコーディングではないので×。
2 研究がある程度進展した段階で,比較的少数の概念的カテゴリーにコードを割り振っていくことをオープン・コーディングという。
今は参考書に書いてあるのでそれを読めば分かりますが,出題当時はものすごく難しかったことでしょう。
オープン・コーディングは,グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法です。
グラウンデッド・セオリー・アプローチとは・・・
先に仮説があるのではなく,分析を通して新しい理論を見つけ出すものです。
古典的には,グラウンド・セオリー(理論にもとづく)・アプローチがあります。
既にある理論に基づいて分析を進める手法です。
それに対して,グラウンデッド・セオリー・アプローチは,先述のように,分析を通して新しい理論を見つけ出します。
既にある理論から始まるのではないということで,グラウンド・セオリー・アプローチに対抗してグラウンデッド・セオリー・アプローチと名付けたので,うまい日本語訳はありません。
グラウンデッド・セオリーは,グラウンド・セオリーではない
という感じで押さえると良いでしょう。
オープン・コーディング
↓ ↓
軸足コーディング
オープン・コーディングでカテゴリー化したものを少数にまとめること。
選択的コーディング
難しいですね。
問題に戻ります。
オープン・コーディングは分析の最初に行う作業です。
「研究がある程度進展した段階」と書かれているのでこの段階でオープン・コーディングではないと分かります。
正しくは軸足コーディングです。
よって×。
これは本当に難しいです。
聞いたことも見たこともないので,〇も×もつけられません。
このような時は,決して焦らず冷静になって▲をつけておきます。
4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおいてデータの分析を行う際には,事前に設定した仮説や既存の理論に沿って進めることが重要である。
事前に設定した仮説や既存の理論に沿って行うものは,グラウンド・セオリーです。
グラウンデッド・セオリーは難しいですが,データ収集と分析を通してアプローチは新しいセオリーを見つけ出す手法であることだけが分かっていれば,×はつけられたことでしょう。
勉強不足の人は,この文章はもっともらしく見えるので,きっとこれを正解にしてしまったのではないでしょうか。
もちろん×です。
5 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。
言い切り表現に正解少なし。
「質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない」と言っていますが,今はコンピューター時代です。面倒な分析をしてくれるソフトは誰かが開発していると考えるのが妥当でしょう。
実際には,テキストマイニングというものが既にあります。
文章を区切って,分析するものです。文章を区切ることで分析してくれますが,文章を区切るのは,人の手で行わなければなりません。
答えは×です。
1・2・4・5が×なので,▲をつけていた3を〇に昇格させてこれを正解にします。もちろん3が正解です。
オープン・コーディングはこの時が初めての出題ですが,軸足コーディングは,現行カリキュラムの第1回にあたる第22回国試で出題されています。
<今日のおまけ問題>
第22回・問題83
質的データの分析に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,データの収集と分析が一体となり,繰り返し実施されるのが,その特徴の一つである。
2 KJ法を利用して質的データを分類するには,理論的枠組みに基づいてあらかじめ設定された分類軸が必要である。
3 ドキュメント分析を行う際,公的機関の統計や文書あるいは新聞・雑誌などのメディア文書は分析の対象となるが,日記や手記などの個人的記録は分析の対象とはならない。
4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一の事象に対して,複数のコードをはり付けていくことである。
5 KJ法は,質的データの分析において,主として仮説の検証を試みる際に活用される。
まだ勉強が進んでいないと難しいかもしれませんが,答えは1です。
ここでKJ法を説明すると・・・
カードに書き出したものをカテゴリー化して,新しい発見をするものです。
開発者の川喜田二郎先生のイニシャルを取ってKJ法と呼ばれています。
グループワークなどで実際に体験したことのある人も多いのではないでしょうか。
3はドキュメント(記録)分析ですが,日記や手記なども分析対象になります。
3の軸足コーディングはオープン・コーディングによってカテゴリー化したものを少数にカテゴリー化すること。
5のKJ法は,仮説を立てて行うよりも,分析する中で新しい発見などを行う時によく使われます。
いすれにしてもグラウンデッド・セオリー・アプローチは,要チェックです。
グラウンデッド・セオリー・アプローチで最低限必要な知識は
データの収集と分析を通して,理論(セオリー)を見つけ出すこと。
オーブンコーディングは,最初の段階で,コード化すること。
分析を何度も繰り返してこれ以上何も出てこない状態のことは理論的飽和という。
軸足コーディング,選択的コーティングは,正解選択肢になることはまず考えられません。
この2つだけを覚えておけば,グラウンデッド・セオリー・アプローチの問題は,ばっちりです。