受験生の不安の一つは,どれだけ勉強してもこれだけでやればよいと思えないので,どれだけ勉強しても不安は消えないと思います。
国試問題は,5つの選択肢で構成されます。
正解以外は,根幹からちょっと外れた枝葉の部分であることが多いです。
参考書の類いが年々厚くなっていくのは,なるべく多くのものに対応しようと考えるからです。
しかし,実際には,国試ではたった一回しか出題されたことがないものは限りなく多くあります。
社会福祉士国試の参考書で最もボリュームがあるのは,中央法規「受験ワークブック」でしょう。
理論上,ワークブックを完璧に覚えられれば,8割は取れることになります。
しかし国試はそんな点数が取れなくても合格できます。
また,国家試験は,すべての選択肢の内容がわからずとも,正解できる問題が多いのも事実です。
必要なことは,根幹を押さえることです。今日の問題はそんな問題です。
それでは今日の問題です。
第26回・問題81 任意後見契約に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。
今日の問題は,前回の法定後見制度に続いて,任意後見制度です。
法定後見制度は2000年の民法改正によってできた制度ですが,任意後見制度は,任意後見契約に関する法律によってできた制度です。
法定後見と任意後見は同じような部分もありますが,違う部分もあります。
法定後見のように類型が分かれておらず,1つしかないのでシンプルです。
それでは詳しく見ていきましょう。
1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
任意後見制度の特徴は,将来の事理弁識能力喪失を見越して事理弁識能力がクリアなうちに任意後見契約を結ぶものです。
ここには危険をはらんでいます。
当事者間だけで契約で成立すれば,委任者が事理弁識能力を喪失したときに,本当に受任者に委任していたのかが証明できないことが出てきてしまいます。
法律は極めて合理的に作られるので,そのようなことが起きないようになっています。
そこで任意後見契約は,必ず公正証書によって行われなければなりません。
公正証書は,公証役場で保管されますので改変される恐れがありません。
そのために公正証書で行うことが必要です。
よって×。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
任意後見制度は,将来の事理弁識能力喪失を見越して事理弁識能力がクリアなうちに任意後見契約を結ぶものです。
つまり自分が認知症などになった場合,Aさんに後見人になってくださいね,と自分の意思を託すものです。
法定後見が職権で選任するので,自分はAさんにお願いしたいと思っていたのに,必ずAさんが後見人になるわけではありません。
そのためにできた制度が任意後見制度です。職権で任意後見人を選任するのであれば制度の意味がなくなってしまいます。
よって×。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
特別代理人とは,利益相反する場合に選任されるものです。
例えば,子どもと親権者の間に利益相反する場合には特別代理人を選任しなければなりません。
しかし,法定後見と違い,任意後見制度は任意後見監督人が選任されて初めて効力が発生します。そのため必ず任意後見監督人が選任されているわけです。
任意後見監督人の職務の一つに,任意後見人と本人の利害が対立する行為の場合、代わりに任意後見監督人が本人を代理するものがあります。そのため特別代理人を立てる必要はありません。
よって×。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
任意後見監督人の監督のもとに任意後見人はその業務を行います。
そのために本人から遠い人が選任されます。
任意後見監督人になれないのは,本人,本人の配偶者,直系血族,兄弟姉妹です。
よって×。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。
任意後見人は,正当な理由があり,家庭裁判所の許可がある場合に限って辞任することができます。
よって正解です。
任意後見人には,法定後見と違って,取消権と代理権がありません。
特に取消権がないのは,この制度を使いにくいものにしているように思います。
任意後見制度を利用しても状態が悪化した場合,新たに法定後見の利用を考えなければならないからです。