2025年6月16日月曜日

働者災害補償保険制度

 日本の社会保険は,5種類あります。


年金保険制度と医療保険制度は,従来あった制度を利用して,国民皆保険・皆年金を構成しているため,制度が複雑です。


それに比べると,戦後にできた労働保険(労災保険と雇用保険)は,制度がシンブルです。


今回は,そのうちの労災保険(労働者災害補償保険)です。


労災保険の特徴は,被保険者という概念がないことです。


すべての労働者(賃金の支払いを受ける者)は労災保険が適用されます。


保険事故は,業務災害と通勤災害です。


保険料は,災害の発生率によって上下するメリット制です。

発生率が高ければ保険料が上がり,低ければ保険料が下がります。


つまり,メリット制のメリットとは,事業者が労災防止に努めると保険料が下がるという意味です。


メリット制が適用されるのは,業務災害です。通勤災害は管理者の責任が及ばない場所で発生するため,メリット制は適用されません。


保険料負担は,事業主のみです。労働者負担はありません。この制度を取り入れているため,労災保険はすべての労働者に適用されます。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題53

次のうち,労働者災害補償保険制度に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 労働者の業務災害に関する保険給付については,事業主の請求に基づいて行われる。

2 メリット制に基づき,事業における通勤災害の発生状況に応じて,労災保険率が増減される。

3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。

4 労働者災害補償保険の適用事業には,労働者を一人しか使用しない事業も含まれる。

5 労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。


この問題は,労災保険の特徴を表わす良い問題だと思います。


それでは,解説です。


1 労働者の業務災害に関する保険給付については,事業主の請求に基づいて行われる。


労災保険は,労災があった労働者が労働基準監督署に請求を行います。


事業主が請求してくれれば楽だと思うかもしれません。


しかし,メリット制によって保険料が上がることを避けたい事業主は,労災隠しをすることもあります。


労災隠しを防ぐためにも請求するのは,労働者本人であることが重要です。


2 メリット制に基づき,事業における通勤災害の発生状況に応じて,労災保険率が増減される。


メリット制が適用されるのは,業務災害です。


通勤災害にはメリット制はありません。


3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。


労災保険の保険料は,事業主のみが負担します。


なお,事業主が保険料を滞納していても労災保険の補償を受けることができます。


4 労働者災害補償保険の適用事業には,労働者を一人しか使用しない事業も含まれる。


これが正解です。


一人でも労働者がいる事業場には,労災保険が適用されます。


5 労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。


健康保険が適用されるのは,労災保険が適用されない傷病です。


つまり,業務災害には健康保険は適用されません。多くの制度は,選択できるようには作られません。

それぞれの適用範囲は極めて明確です。

2025年6月12日木曜日

医療保険の組合

  

現役世代の公的医療保険を大きく分けると,健康保険と国民健康保険の2つがあります。

 

それぞれの保険者には,組合があります。

 

健康保険組合は,大企業などが独自に組合を作り,保険業務を行います。

 

国民健康保険は,同業者などが独自に組合を作り,保険業務を行います。

 

それでは,今日の問題です。

  

35回・問題52

公的医療保険における被保険者の負担等に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 健康保険組合では,保険料の事業主負担割合を被保険者の負担割合よりも多く設定することができる。

2 「都道府県等が行う国民健康保険」では,都道府県が保険料の徴収を行う。

3 「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者が,入院先の市町村に住所を変更した場合には,変更後の市町村の国民健康保険の被保険者となる。

4 公的医療保険の保険給付のうち傷病手当金には所得税が課せられる。

5 保険診療を受けたときの一部負担金の割合は,義務教育就学前の児童については1割となる。

(注) 「都道府県等が行う国民健康保険」とは,「都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険」のことである。

 

知識なしでは,5分の1以上の確率では正解できないかなり難しい問題です。

 

国家試験が終わると,いろいろな団体や個人が,いわゆる「難問・奇問」と位置づける問題がありますが,実は,このような問題の方が正解するのが難しいものです。

 

「難問・奇問」は,焦らないで冷静に考えると意外と正解できます。

 

今日の問題のような内容の問題は,どれだけ考えても知識なしでは,答えを導きだすことができません。

 

それでは解説です。

 

1 健康保険組合では,保険料の事業主負担割合を被保険者の負担割合よりも多く設定することができる。

 

これが正解です。

大企業などが独自に組織する健康保険組合は,かなり自由に運営することができます。

 

保険料も独自に設定することができます。

 

そのほかには,法定給付以外に組合独自の給付である「付加給付」を設定することもできます。

 

2 「都道府県等が行う国民健康保険」では,都道府県が保険料の徴収を行う。

 

社会保険の中で,都道府県が保険者となる制度は,国民健康保険のみです。

 

しかし,保険料の徴収を行うのは市町村です。

 

このような一般住民を対象とする事務は,都道府県には向きません。

 

3 「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者が,入院先の市町村に住所を変更した場合には,変更後の市町村の国民健康保険の被保険者となる。

 

国民健康保険には「住所地特例」という制度があり,入院前の市町村が引き続き保険者となります。

 

この制度は,介護保険でも採用されています。

 

4 公的医療保険の保険給付のうち傷病手当金には所得税が課せられる。

 

傷病手当金には,所得税はかかりません。

 

5 保険診療を受けたときの一部負担金の割合は,義務教育就学前の児童については1割となる。

 

一部負担金は,義務教育就学前の児童については2割です。

2025年6月8日日曜日

社会保障制度に関する事例問題の着眼点


2025年(令和7年)2月に実施された第37回国家試験から,令和元年度カリキュラムに沿った内容に移行しています。


大きな変更はなく,科目の再編が中心です。


全体の出題数は150問から129問になり,大きく減りましたが,「社会保障」の出題数は,7問から9問と2問も増えています。


増えた分は,事例問題(問題の類型ではタクソノミーⅢ型)で出題されてくると思うので,結構やっかいです。


タクソノミーⅢ型は,知識の総合問題だと言えるからです。


知識ゼロでは正解することは,困難です。


〈社会保障の事例問題の主な着眼点〉

1.けがの原点となった事故が起きたのは,仕事中だったか,プライベートだったのか

2.医療保険の場合,健康保険なのか,国民健康保険なのか

3.年金保険の場合は,何歳なのか

4.国民年金の場合は,第何号被保険者なのか


1の場合は,仕事中の事故なら,健康保険は適用されないからです。

2の場合,世帯主が健康保険加入者であれば,家族は被扶養者になる可能性がありますが,国民健康保険加入者の場合,被扶養者という制度はありません。

3の場合,介護保険の場合は,40~64歳は第二号被保険者,65歳以上は第一号被保険者,国民年金の場合は20歳以上~60歳未満が加入します。

4の場合,配偶者が厚生年金加入者(国民年金の第二号被保険者)の場合,被扶養配偶者は,第三号被保険者となる可能性があります。配偶者が国民年金加入者(国民年金の第一号被保険者)の場合,被扶養配偶者も第一号被保険者として加入します。これらの場合も年齢に注意します。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題51

事例を読んで,社会保険制度の加入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Gさん(76歳)は,年金を受給しながら被用者として働いている。同居しているのは,妻Hさん(64歳),離婚して実家に戻っている娘Jさん(39歳),大学生の孫Kさん(19歳)である。なお,Gさん以外の3人は,就労経験がなく,Gさんの収入で生活している。 

1 Gさんは健康保険に加入している。

2 Hさんは国民健康保険に加入している。 

3 Jさんは健康保険に加入している。

4 Jさんは介護保険に加入している。

5 Kさんは国民年金に加入している。


最初に注意するのは,年齢などの属性です。


Gさん(76歳)は,被用者なので70歳になるまで,厚生年金に加入していたと考えられますが,70歳になった時点で厚生年金の加入権を失っています。医療保険は,74歳までは,健康保険に加入していました。75歳になった時点で健康保険から後期高齢者医療制度に変わっています。


Hさん(64歳),Jさん(39歳),Kさん(19歳)はいずれも就労経験はなく,Gさんの収入で生活しています。


これらを頭に入れておいて,各選択肢を考えていきます。


1 Gさんは健康保険に加入している。


Gさんが加入している医療保険制度は,後期高齢者医療制度です。


2 Hさんは国民健康保険に加入している。


これが正解です。


Gさんが75歳になるまでは,健康保険に加入していたので,被扶養者としてHさん自身は医療保険に加入する必要はありませんでした。


しかし,後期高齢者医療制度には被扶養者という制度がないために,Hさん,Jさん,Kさんは,全員,国民健康保険に加入しなければなりません。


3 Jさんは健康保険に加入している。


Jさんは,就労していないので,健康保険に加入できません。健康保険に加入するためには,現時点(2025年6月)では,月の収入として88,000円以上が必要です。


4 Jさんは介護保険に加入している。


この家族の中で,介護保険に加入しているのは,Gさん,Hさんの2人のみです。


Jさんは,40歳になると第二号被保険者となります。


5 Kさんは国民年金に加入している。


Kさんは,20歳になると,国民年金に加入します。


〈おまけ〉

Kさんが現時点で,事故や病気などになり,国民年金の障害等級表の1級,2級に相当する障害となった場合は,20歳になると,障害基礎年金が給付される可能性があります。


このように,障害基礎年金の場合,保険料を納付せずとも,保険料を受け取れる可能性があります。

この場合には,社会保険制度には珍しく所得制限が設けられています。所得が高いと,年金の減額や停止が行われます。


このほかにも学生納付特例制度を利用している最中に国民年金の障害等級表の1級,2級に相当する障害となった場合も障害基礎年金を受け取ることができます。受給するのに,保険料の追納は必要ありません。

2025年6月5日木曜日

難民条約の批准

 日本は,1982年(昭和57年)に難民条約を批准しています。


この批准に伴い,ほとんどの社会保障制度から国籍要件が撤廃されています。


外国人であっても,それぞれの要件に合う場合は,日本人と同じ保障を受けることができます。


ただし,生活保護法は,国民を対象としているため,外国人を対象としません。


その代わりに,法的根拠はないものの,予算措置によって,生活保護を受けることができます。


それでは今日の問題です。


第35回・問題50

日本の社会保険に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民健康保険は,保険料を支払わないことで自由に脱退できる。

2 健康保険の給付費に対する国庫補助はない。

3 雇用保険の被保険者に,国籍の要件は設けられていない。

4 民間保険の原理の一つである給付・反対給付均等の原則は,社会保険においても必ず成立する。

5 介護保険の保険者は国である。


今日のテーマは,選択肢3に出題されています。

答えはわかると思いますが,解説します。


1 国民健康保険は,保険料を支払わないことで自由に脱退できる。


社会保険の特徴は,強制加入であることです。


国民健康保険から脱退するのは,生活保護を受給する場合,後期高齢者医療制度に加入する場合です。


2 健康保険の給付費に対する国庫補助はない。


もちろん国庫補助はあります。


ただし,健康保険組合の給付費には国庫補助はありません。


3 雇用保険の被保険者に,国籍の要件は設けられていない。


これが正解です。


雇用保険に限らず,ほとんどの社会保障制度には国籍要件はありません。


4 民間保険の原理の一つである給付・反対給付均等の原則は,社会保険においても必ず成立する。


民間保険は,保険の原理に従って運営されています。


給付・反対給付均等の原則とは,支払う保険料は,受ける保障の期待値と等しく設定されるというものです。


たとえば,民間医療保険では,保障を大きくしたい場合は,それに合わせて保険料も高く設定されます。


しかし,社会保険は,さまざまな背景によって運営されるので,給付・反対給付均等の原則は成立しません。


たとえば,公的年金保険では,将来受け取る年金額を高くしたいと思っても,それはできません。


5 介護保険の保険者は国である。


国が保険者となる社会保険制度は,厚生年金,国民年金,雇用保険,労災保険です。


介護保険の保険者は,市町村,あるいは市町村の広域連合です。


都道府県が保険者となる社会保険は,国民健康保険のみです。

2025年6月3日火曜日

第38回国家試験の試験日

 令和7年度の国家試験は,第38回です。

国家試験の実施機関である社会福祉振興・試験センターから,今年度の試験概要が発表されました。

https://www.sssc.or.jp/shakai/gaiyou.html


試験日

令和8年2月1日(日)


今年度も2月の第一週の日曜日です。


試験の申込み手続き

https://www.sssc.or.jp/shakai/tetsuzuki.html


各学校から受験についてのオリエンテーション等があると思いますが,以上の情報は覚えておきたいです。


※今日の問題はお休みします。

2025年6月1日日曜日

日本の社会保障の歴史

 歴史が苦手だ,という人はたくさんいます。


それはそれで仕方がないのですが,覚えるべきポイントはそれほど多くはないので,苦手だと思わず取り組んでほしいと思います。


年号がわからなくて,解けないという問題はほとんどありません。


覚え方のコツは


★我が国初の社会保険制度は,健康保険法


★社会保険制度は,医療保険制度が先で,後から年金保険制度


このような覚え方ができるのは,国家試験はどのように出題されているのかを知っているからです。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題49

日本の社会保障の歴史に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会保険制度として最初に創設されたのは,健康保険制度である。

2 社会保険制度のうち最も導入が遅かったのは,雇用保険制度である。

3 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。

4 1986年(昭和61年)に基礎年金制度が導入され,国民皆年金が実現した。

5 2008年(平成20年)に後期高齢者医療制度が導入され,老人医療費が無料化された。


正解はすぐわかると思います。

とても基本的なものが正解となっています。


歴史問題の出題内容は限られているので,実は得点しやすいです。


選択肢3については,同じ内容が3回も出題されています。


〈第27回〉

1950年の社会保障制度審議会勧告は,日本の社会保障制度について,租税を財源とした社会扶助制度を中心に充実させるとした。


〈第32回〉

1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。


〈第35回〉

1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。


第32回と第35回は,まったく同じ文章で出題されています。これはとても珍しいことです。


それでは解説です。


1 社会保険制度として最初に創設されたのは,健康保険制度である。


前説のようにこれが正解です。


医療保険制度は,先に被用者が対象の健康保険ができて,そのあとに自営業者などが対象の国民健康保険ができました。


年金制度では,先に被用者が対象の厚生年金ができて,そのあとに全国民が対象の国民年金ができました。


〈成立順〉

健康保険

  ↓

国民健康保険

  ↓

厚生年金

  ↓

国民年金


2 社会保険制度のうち最も導入が遅かったのは,雇用保険制度である。


日本の社会保険制度は5種類です。


〈成立順〉


医療保険(健康保険)

 ↓

年金保険(厚生年金)

 ↓

労働保険(雇用保険と労災保険)

 ↓

年金保険(国民年金)

 ↓

介護保険


3 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。


社会保障制度審議会の勧告(1950年)では,社会保険制度を中心に充実すべきであることを提言しています。


この勧告は,社会保障制度の範囲と方法を示しています。


4 1986年(昭和61年)に基礎年金制度が導入され,国民皆年金が実現した。


国民皆年金が実現したのは,1961年(昭和36年)の国民年金法の施行です。


5 2008年(平成20年)に後期高齢者医療制度が導入され,老人医療費が無料化された。


70歳以上の老人医療費を無料化したのは,1973年(昭和48年)です。

1982年(昭和57年)に老人保健法が成立して,医療費を一部負担することになります。

2025年5月29日木曜日

男女雇用機会均等法における間接差別

 

男女雇用機会均等法では,性別を理由とする差別を禁止しています。

 

一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練

二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの

三 労働者の職種及び雇用形態の変更

四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

 

それ以外に間接差別も禁止しています。

 

間接差別とは

性別以外の事由を要件とする措置であって,他の性の構成員と比較して,一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを合理的な理由がないときに講ずること。

 

〈間接差別の例〉

・労働者の募集又は採用に当たって,労働者の身長,体重又は体力を要件とするもの

・総合職の労働者の募集又は採用に当たって,転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること

・労働者の昇進に当たり,転勤の経験があることを要件とすること

 

上記の場合であっても,合理的な理由がある場合は,間接差別とはなりません。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題31

男女雇用機会均等政策に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 常時雇用する労働者数が101人以上の事業主は,女性の活躍に関する一般事業主行動計画を策定することが望ましいとされている。

2 セクシュアルハラスメントを防止するために,事業主には雇用管理上の措置義務が課されている。

3 総合職の労働者を募集・採用する場合は,理由のいかんを問わず,全国転勤を要件とすることは差支えないとされている。

4 育児休業を取得できるのは,期間の定めのない労働契約を結んだフルタイム勤務の労働者に限られている。

5 女性労働者が出産した場合,その配偶者である男性労働者は育児休業を取得することが義務づけられている。

 

今日のテーマは,選択肢3に出題されています。

 

それでは,解説です。

 

1 常時雇用する労働者数が101人以上の事業主は,女性の活躍に関する一般事業主行動計画を策定することが望ましいとされている。

 

女性の活躍に関する一般事業主行動計画は,女性活躍推進法で規定されているものです。

 

常時雇用する労働者数が101人以上の事業主には,策定が義務づけられています。

 

努力義務ではありません。

 

2 セクシュアルハラスメントを防止するために,事業主には雇用管理上の措置義務が課されている。

 

これが正解です。

 

男女雇用機会均等法に規定されています。

 

3 総合職の労働者を募集・採用する場合は,理由のいかんを問わず,全国転勤を要件とすることは差支えないとされている。

 

前説のように,・総合職の労働者の募集又は採用に当たって,転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすることは,間接差別になり,禁止されます。

 

ただし合理的な理由があれば認められます。

 

〈合理的な理由の例〉

・広域にわたり展開する支店,支社等があり,広域にわたり展開する計画がある場合。

 

4 育児休業を取得できるのは,期間の定めのない労働契約を結んだフルタイム勤務の労働者に限られている。

 

育児休業は,有期契約の労働者でも取得できます。

 

2022年に,申出時点で入社1年以上という要件も原則として廃止されています。

 

  

5 女性労働者が出産した場合,その配偶者である男性労働者は育児休業を取得することが義務づけられている。

 

このような規定はありません。

2025年5月27日火曜日

社会福祉法が定める苦情の解決

 

社会福祉法では,苦情の解決のため,社会福祉事業の経営者に以下の努力義務を規定しています。

 

社会福祉事業の経営者による苦情の解決

第八十二条 社会福祉事業の経営者は,常に,その提供する福祉サービスについて,利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない。

 

 

また,都道府県社会福祉協議会に設置される運営適正化委員会が,福祉サービスに関する利用者等からの苦情の解決に当たります。

 

運営適正化委員会は,苦情の解決に当たり,当該苦情に係る福祉サービスの利用者の処遇につき不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは,都道府県知事に対し,速やかに,その旨を通知しなければなりません。

 

都道府県知事は,その通知に基づき,指導や指定の取消しなどを行います。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題30

福祉サービスの利用に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者に対し,常に,その提供する福祉サービスの利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならないと規定している。

2 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者が,福祉サービスの利用契約の成立時に,利用者へのサービスの内容や金額等の告知を,書面の代わりに口頭で行っても差し支えないと規定している。

3 福祉サービスを真に必要とする人に,資力調査を用いて選別主義的に提供すると,利用者へのスティグマの付与を回避できる。

4 福祉サービス利用援助事業に基づく福祉サービスの利用援助のために,家庭裁判所は補助人・保佐人・後見人を選任しなければならない。

5 福祉サービスの利用者は,自らの健康状態や財力等の情報を有するため,サービスの提供者に比べて相対的に優位な立場で契約を結ぶことができる。

 

今日のテーマは,選択肢1に出題されています。

 

問題づくりが下手な問題なので,知識がなくても正解できそうな問題かもしれません。

 

それでは,解説です。

 

1 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者に対し,常に,その提供する福祉サービスの利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならないと規定している。

 

これが正解です。苦情の解決は努力義務です。

 

苦情を適切に解決しなければならない。

 

と出題されると誤りとなります。

 

2 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者が,福祉サービスの利用契約の成立時に,利用者へのサービスの内容や金額等の告知を,書面の代わりに口頭で行っても差し支えないと規定している。

 

(利用契約の成立時の書面の交付)

第七十七条 社会福祉事業の経営者は、福祉サービスを利用するための契約(厚生労働省令で定めるものを除く。)が成立したときは、その利用者に対し、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。

 一 当該社会福祉事業の経営者の名称及び主たる事務所の所在地

 二 当該社会福祉事業の経営者が提供する福祉サービスの内容

 三 当該福祉サービスの提供につき利用者が支払うべき額に関する事項

 四 その他厚生労働省令で定める事項

 

3 福祉サービスを真に必要とする人に,資力調査を用いて選別主義的に提供すると,利用者へのスティグマの付与を回避できる。

 

スティグマの付与を回避しやすいと言えるのは,普遍主義です。

 

選別主義を用いた制度の代表は,生活保護制度です。

 

スティグマを感じやすいのがイメージできるでしょう。

 

4 福祉サービス利用援助事業に基づく福祉サービスの利用援助のために,家庭裁判所は補助人・保佐人・後見人を選任しなければならない。

 

社会福祉法に規定される福祉サービス利用援助事業は,日常生活自立支援事業のことです。事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる人を対象とします。

 

補助人等を選任しなくても,判断能力があると認められれば利用できます。

 

5 福祉サービスの利用者は,自らの健康状態や財力等の情報を有するため,サービスの提供者に比べて相対的に優位な立場で契約を結ぶことができる。

 

利用者は,サービス提供事業者よりも情報などが不足しているため,契約するのに不利です。

 

これは,情報の非対称性と呼ばれるものです。

 

そのため,第三者評価など,サービスの内容を知る仕組みが必要です。

 

社会福祉事業の経営者には,以下の努力義務が規定されています。

 

福祉サービスの質の向上のための措置等

第七十八条 社会福祉事業の経営者は,自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより,常に福祉サービスを受ける者の立場に立つて良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければならない。

 

現在のところでは,第三者評価の受審義務があるのは,社会的養護施設(児童養護施設・乳児院・母子生活支援施設・児童心理治療施設・児童自立支援施設)のみです。

2025年5月25日日曜日

日本の将来推計人口

国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の将来推計人口」は,国勢調査のデータをもとに推計したもので,5年ごとに公表しています。


現時点(令和7年5月)の最新データは,令和2年(2020年)の国勢調査のデータをもとにした令和5年(2023年)推計です。


国家試験では,50年後のデータが出題されます。

2070年ということになります。


中位推計では,2070年の総人口は,9,159万人になると予想されています。


平成29年推計(2065年時点)よりもわずかながら人口減少が緩やかになっていますが,これは外国人の増加を期待しているためです。


それでは今日の問題です。


第35回・問題29

日本における人口の動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 第二次世界大戦後,1940年代後半,1970年代前半,2000年代後半の3回のベビーブームを経験した。

2 15~64歳の生産年齢人口は,高度経済成長期から1990年代後半まで減少を続け,以後は横ばいで推移している。

3 「『日本の将来推計人口』における中位推計」では,65歳以上の老年人口は2025年頃に最も多くなり,以後は緩やかに減少すると予想されている。

4 「2021年の人口推計」において,前年に比べて日本人人口が減少した一方,外国人人口が増加したため,総人口は増加した。

5 1970年代後半以降,合計特殊出生率は人口置換水準を下回っている。 

(注)1 「『日本の将来推計人口』における中位推計」とは,国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」における,出生中位(死亡中位)の推計値を指す。

2 「2021年の人口推計」とは,総務省「人口推計2021年(令和3年)10月1日現在」における推計値を指す。


この問題は,一つ前のデータを使って出題しています。

出題するときは,令和5年推計となります。


しかし,この問題自体は,最新のデータを知らずとも正解できる可能性はあります。

正解となったのは,選択肢5だからです。


5 1970年代後半以降,合計特殊出生率は人口置換水準を下回っている。


人口置換水準とは,親世代と子世代の人数が等しくなる出生率の水準のことです。


しかし,これでは意味がわかりにくいので,人口を維持するために必要な合計特殊出生率だと考えると良いです。


2人の親から2人の子が生まれるだけでは,人口は維持できません。

一般的には,2.1程度が必要だとされています。


日本の場合,乳児死亡率が低いため,2.1よりも少し低くても人口が維持できます。それでも,2.07前後は必要です。


日本が人口置換水準を下回ったのは,1974年(昭和49)年のことです。


段階の世代(第一次ベビーブーム)が子どもを多く生んだ時代(第二次ベビーブーム)の直後,人口置換率を下回ったことになります。


それでは,これ以外の解説です。


ただし,令和5年推計のデータで解説します。


1 第二次世界大戦後,1940年代後半,1970年代前半,2000年代後半の3回のベビーブームを経験した。


第二次ベビーブームの世代が社会に出た時代は,バブル景気崩壊のあとの不況でした。


そのため,企業は新卒採用を控えたため,正規採用されるのがとても困難でした。


いわゆる「就職氷河期」です。


子どもを産み育てるには,安定した収入が必要です。非正規雇用での収入は安定しないため,第三次ヘビーブームは起きずに終わりました。


歴史に「もし」はありませんが,もしバブル崩壊がなければ,現在の少子化傾向はもう少し違っていたことでしょう。


2 15~64歳の生産年齢人口は,高度経済成長期から1990年代後半まで減少を続け,以後は横ばいで推移している。


子が減り続けているため,生産年齢人口も減少を続けています。


3 「『日本の将来推計人口』における中位推計」では,65歳以上の老年人口は2025年頃に最も多くなり,以後は緩やかに減少すると予想されている。


令和5年推計によると,老年人口が最も多くなるのは,2043年頃だと予想されています。


4 「2021年の人口推計」において,前年に比べて日本人人口が減少した一方,外国人人口が増加したため,総人口は増加した。


外国人人口は増加していますが,その分よりも日本人人口が減少しているため,総人口は減少しています。


総人口がピークだったのは,2008年(平成20年)でした。2010年に一度だけ前年を上回りましたが,その年以外は,すべて前年を下回り続けています。

2025年5月23日金曜日

法の目的

 

近年の国家試験では,法の目的や基本理念が出題されるようになってきました。

 

多くの人は,その部分に力を入れて勉強することが少ないために,出題されると焦るのではないかと思います。

 

しかし,その法の目的には,その法が目指すものが書かれているので,覚えなくても何とかなります。

 

それでは,前説なしに今日の問題です。

 

35回・問題28 

生活困窮者自立支援法の目的規定に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い,生活困窮者の自立の促進を図ること。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

 

すべての文章を「生活困窮者の自立の促進を図ること」で締めくくっているために違いが見えにくくなっています。

 

それを外すと以下のようになります。

 

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行うこと。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずること。

 

すっかり丸裸になりました。

 

この状態で間違う人は,ほとんどいないではないかと思います。

 

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずること。

生活困窮者自立支援法

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずること。

生活保護法

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行うこと。

介護保険法

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずること。

教育基本法

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずること。

障害者基本法

 

ということで,正解は選択肢1でした。

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

 

この中で,生活困窮者を対象とすると明記されているのはこれだけです。

 

〈今日の一言〉


国試会場では,こういった問題は,共通部分を線で消して考えると良いです。

さらには,重要部分はアンダーラインや〇で囲みます。

 

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い,生活困窮者の自立の促進を図ること。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2025年5月21日水曜日

貨幣的ニードと非貨幣的ニード

  

福祉ニーズには,金銭給付によって充足できるものと金銭給付では充足できないものがあります。

 

日本社会事業大学の学長を務められた故・三浦文夫先生は,前者を「貨幣的ニード」,後者を「非貨幣的ニード」と呼びました。

 

古くからある福祉ニーズは,貧困です。

 

貧困に対しては,金銭給付されれば,そのニーズは充足します。こういったタイプの福祉ニーズが貨幣的ニードです。

 

しかし,介護や育児といった比較的新しい福祉ニーズは,金銭給付されても,提供されるサービスがなければ充足しません。

 

こういったタイプの福祉ニーズは,非貨幣的ニードといいます。

 

非貨幣的ニードを充足するためには,それに合わせたサービスの提供が必要です。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題27

福祉のニーズとその充足に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ジャッジ(JudgeK.)は,福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に,市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。

2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は,福祉ニーズを充足する部門を,インフォーマル,ボランタリー,法定(公定)の三つに分類した。

3 三浦文夫は,日本における社会福祉の発展の中で,非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで,あるいはそれに代わって,社会福祉の主要な課題になると述べた。

4 ブラッドショー(BradshawJ.)は,サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として,「規範的ニード」を挙げた。

5 フレイザー(FraserN.)は,ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況を,「必要解釈の政治」と呼んだ。

(注) 「ウルフェンデン報告」とは,1978 年にイギリスのウルフェンデン委員会が発表した報告書「The Future of Voluntary Organisations」のことである。

 

福祉ニーズが出題されると難しいなぁ,と感じる人もいるかもしれません。

 

しかし,福祉現場だけではなく,制度をつくる際にも何に着目するかというのは,とても重要です。

 

いわゆるニーズ判定です。

 

それでは,解説です。

 

1 ジャッジ(JudgeK.)は,福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に,市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。

 

ラショニングは,ここでは,割当と出題されていますが,配給とも訳されます。

 

配給と言えば,日本では第二次世界大戦の戦中戦後が頭に浮かぶ人もいるでしょう。

 

需要に対して,供給量が足りない場合,市場メカニズムに従うと,商品の金額が上がってしまいます。

 

そのようにならないために,ラショニング(配給)を行います。

 

例えば,10枚つづりのお米券は,一家族は,1セットのみといったように限定して販売します。

 

このように,ラショニングは,市場メカニズムを活用しないで,需要を満たす福祉政策です。

 

2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は,福祉ニーズを充足する部門を,インフォーマル,ボランタリー,法定(公定)の三つに分類した。

 

イギリスのウルフェンデン報告(1978年)が示した福祉サービスを提供する部門

・インフォーマル

・ボランタリー

・法定(公定)

・営利

 

重要な営利部門が抜けています。

 

営利部門が参入することで,競争原理が期待できます。

 

コスト削減も期待できるでしょう。

 

3 三浦文夫は,日本における社会福祉の発展の中で,非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで,あるいはそれに代わって,社会福祉の主要な課題になると述べた。

 

これが正解です。

 

今日の日本を考えてみるとよく理解できるでしょう。

 

4 ブラッドショー(BradshawJ.)は,サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として,「規範的ニード」を挙げた。

 

サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型は,感得されたニードです。

 

規範的ニードは専門職などが望ましい状態と比較することで,ニードの有無を判断するニードです。

 

ブラッドショーは,ニーズを以下のように類型化しています。

 

感得されたニード

(フェルト・ニード)

ニードがあることを本人が自覚したニード

表明されたニード

(エクスプレスト・ニード)

ニードがあることを自覚した結果,行動に出たニード

規範的ニード

(ノーマティブ・ニード)

社会的に望ましい状態(社会規範)に照らしてみてニードがあるとみなされるニード

比較ニード

(コンパラティブ・ニード)

サービス受給していないが,サービス受給している人と比べてみることでニードがあるとされるニード

 

 

5 フレイザー(FraserN.)は,ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況を,「必要解釈の政治」と呼んだ。

 

必要解釈の政治とは,世の中に起きている事象に対して,ニーズ判定を行う政治手法です。

 

ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況は,必要充足の政治といいます。

 

福祉制度を作り上げていく過程で必要なのが,「必要解釈の政治」,制度を運営していく過程,つまりストリードレベルの官僚(行政の窓口担当者)が必要なのが「必要充足の政治」です。

2025年5月19日月曜日

日本の救貧制度の整理

 現行の生活保護法に至るまでの流れをまず押さえましょう。



治以降の日本の救貧制度は以下の4つです,


①恤救規則

②救護法

③旧・生活保護法

④現・生活保護法


発展過程はこれらを押さえておくだけで大丈夫です。

たったこれだけです。



恤救規則


救済の対象 ➡ 無告の救民(児童は13歳以下の孤児,老人は70歳以上の老衰者)
救済の方法 ➡ 米代の金銭給付 ※コメの現物給付じゃないよ!!
救済の実施 ➡ 国 ※地方じゃないよ!!


救護法

救護の対象 ➡ 65歳以上の老衰者,障害などで仕事に支障がある者など。
 ※「性行著しく不良又は著しく怠惰な場合は救護しなくてもよい」「扶養義務者が扶養できる者は,急迫な事情がある場合を除いて保護しない」。

救護の種類 ➡ 生活扶助 医療扶助 助産扶助 生業扶助(4種類) 
救護の実施 ➡ 市町村
補助機関  ➡ 方面委員 ※協力機関ではないよ!!


旧・生活保護法

保護の対象 ➡ 「無差別平等の原則」。ただし欠格条項あり(労働意欲がない, 素行不良者,扶養可能な扶養義務者がいるなど)。「扶養義務者が扶養できる者は,急迫な事情がある場合を除いて保護しない」。しかし,「無差別平等」は打ちだしている。

保護の種類 ➡ 生活扶助 医療扶助 助産扶助 生業扶助 葬祭扶助(5種類) 
保護の実施 ➡ 市町村
補助機関  ➡ 民生委員
元になるもの ➡ 社会救済(SCAPIN775) ※GHQによる指令書です。



現・生活保護法

保護の対象 ➡ 本来の「無差別平等の原則」が実現。
保護の種類 ➡ 生活扶助 医療扶助 助産扶助 生業扶助 葬祭扶助 教育扶助 住宅扶助 + 介護扶助(8種類) 
保護の実施 ➡ 市町村
保護機関  ➡ 福祉事務所
補助機関  ➡ 社会福祉主事
協力機関  ➡ 民生委員
元になるもの➡ 日本国憲法第25条(生存権)


それでは今日の問題です。


第35回・問題26

福祉六法の制定時点の対象に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 児童福祉法(1947年(昭和22年))は,戦災によって保護者等を失った満18歳未満の者(戦災孤児)にその対象を限定していた。

2 身体障害者福祉法(1949年(昭和24年))は,障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし,その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられていた。

3 (新)生活保護法(1950年(昭和25年))は,素行不良な者等を保護の対象から除外する欠格条項を有していた。

4 老人福祉法(1963年(昭和38年))は,介護を必要とする老人にその対象を限定していた。

5 母子福祉法(1964年(昭和39年))は,妻と離死別した夫が児童を扶養している家庭(父子家庭)を,その対象外としていた。


今日のテーマは,選択肢3に出題されています。


それでは解説です。


1 児童福祉法(1947年(昭和22年))は,戦災によって保護者等を失った満18歳未満の者(戦災孤児)にその対象を限定していた。

現在の児童福祉法の児童の定義は,

児童とは、満十八歳に満たない者

この定義は,児童福祉法ができた当初から同じです。

戦災孤児に限定していません。


2 身体障害者福祉法(1949年(昭和24年))は,障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし,その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられていた。

障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし,その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられているのは,障害者基本法です。


3 (新)生活保護法(1950年(昭和25年))は,素行不良な者等を保護の対象から除外する欠格条項を有していた。

欠格条項があったのは,救護法と(旧)生活保護法です。

日本国憲法に基づいて作られた(新)生活保護法には,無差別平等の原理があります。

貧困に陥った理由は問われません。


4 老人福祉法(1963年(昭和38年))は,介護を必要とする老人にその対象を限定していた。

老人福祉法では老人を定義していませんが,対象は限定していません。


5 母子福祉法(1964年(昭和39年))は,妻と離死別した夫が児童を扶養している家庭(父子家庭)を,その対象外としていた。

これが正解です。

現在の母子及び父子並びに寡婦福祉法は,当初は母子を対象としていました。

その後,寡婦を対象に加え,さらに父子が加わり,現在に至ります。

2025年5月17日土曜日

福祉の歴史に登場する人物

 

今日の問題で出題されている人物の過去の出題回数は以下の通りです。

(第3~37回国家試験)

 

石井十次

岡山孤児院

18

山室軍平

救世軍

5回

留岡幸助

家庭学校

15

野口幽香

二葉幼稚園

7回

石井亮一

滝乃川学園

7回

 

以前に調べた時には,留岡幸助がトップでしたが,いつのまにか石井十次がトップになっていました。

 

いずれにせよ,この2人の出題頻度は飛びぬけています。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題25

近代日本において活躍した福祉の先駆者に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 石井十次は岡山孤児院を設立した。

2 山室軍平は家庭学校を設立した。

3 留岡幸助は救世軍日本支部を設立した。

4 野口幽香は滝乃川学園を設立した。

5 石井亮一は二葉幼稚園を設立した。

 

これは,ものすごくシンプルに出題されていますが,これは珍しいです。

 

この問題の答えは,

 

1 石井十次は岡山孤児院を設立した。

 

あとは,解説しません。

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