2025年1月31日金曜日

医療保険制度における現金給付

福祉の古典的ニーズは,貧困です。

 

労働者が病気になり,働けなくなり労働力を失うことは貧困に陥る大きなリスクとなります。

 

そのために,社会保障制度には医療保障がありますが,国によって,社会保険によって運営する国と,税財源によって運営する国があります。

 

日本は,前者,つまり社会保険制度を取り入れています。

ドイツ,フランスも社会保険制度です。

 後者は,イギリス,スウェーデンなどが知られます。

 

日本の医療保障は,このように社会保険制度が中心です。

医療の現物給付である「療養の給付」と現金給付があります。

 

特に覚えておきたいのは,医療保険の傷病手当金,出産育児一時金,出産手当金です。

 

傷病手当金は,2022年4月に変更された点があります。

出典:厚生労働省ホームページ「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22308.html

 

ここにある待期期間は,連続する3日間です。

 

出産育児一時金は,被保険者が出産した場合に定額が給付されます。現在の基本的な金額は50万円です。

 

健康保険の場合は,被保険者の被扶養者の出産の際にも「家族出産育児一時金」が給付されます。内容は一緒です。

 

国民健康保険は,健康保険と異なり,被扶養者という制度はありません。

 

出産手当金は,被保険者の出産に伴い,仕事ができず給与の支払いがなかった場合に,出産前42日,出産後56日の分が給付されます。

 

出産手当金は,被扶養者の出産には給付されません。所得補償だからです。

 

それでは,今日の問題です。

 

31回・問題70 

日本の公的医療保険の給付内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 療養の給付に係る一部負担金割合は,被保険者が75歳以上で,かつ,現役並み所得の場合には2割となる。

2 高額療養費の自己負担限度額は,患者の年齢や所得にかかわらず,一律に同額である。

3 食事療養に要した費用については,入院時食事療養費が給付される。

4 出産育児一時金は,被保険者の出産費用の7割が給付される。

5 傷病手当金は,被保険者が業務上のケガで労務不能となった場合に給付される。

 

いろいろな制度を混ぜて出題しています。

社会保障の科目でも出題される内容が含まれているので,整理してしっかり覚えておきたいです。

 

それでは解説です。

 

1 療養の給付に係る一部負担金割合は,被保険者が75歳以上で,かつ,現役並み所得の場合には2割となる。

 

現役並み所得のある75歳以上の後期高齢者の自己負担は3割負担です。

 

2 高額療養費の自己負担限度額は,患者の年齢や所得にかかわらず,一律に同額である。

 

高額療養費は,自己負担限度額を超えた分が戻ってくる制度です。

 

限度額は,年齢,所得によって異なります。

 

3 食事療養に要した費用については,入院時食事療養費が給付される。

 

これが正解です。

 

入院時食事療養費とは,入院した際の食事費の自己負担分を引いた分を保険給付するものです。

 

4 出産育児一時金は,被保険者の出産費用の7割が給付される。

 

出産育児一時金は,定額給付です。定率給付ではありません。

 

前説のように現在は,原則として50万円が給付されます。

 

5 傷病手当金は,被保険者が業務上のケガで労務不能となった場合に給付される。

 

健康保険は,労災保険が適用されない場合に適用される制度です。

 

被保険者が業務上のケガで労務不能となった場合は,労災保険が適用されるので,傷病手当金は給付されません。

 

その代わり,同等の内容である休業補償給付が適用となります。

2025年1月30日木曜日

生活保護法が規定する基本原理と原則

 

生活保護には,原理・原則と呼ばれるものがあります。

基本原理

①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理



基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則


原理と原則の違いは,正式にあるのだと思いますが,国家試験で問われることはないと思います。

大体のイメージとしては,原理は例外のないルール,原則は例外のあるルールといった感じで良いではないかと思います。

法学者ではないので,これで十分でしょう。


<基本原理>

①国家責任の原理
 この法律は,日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。

この原理は,生活保護制度の根本となるもので,法の目的でもあります。

はるか昔,マルクスは,資本家(ブルジョアジー)と労働者(プロレタリアート)の闘争が,共産主義を生み出すと考えました。マルクスによると共産主義は資本主義よりも上の社会であるとされました。

その時代は,国民は権利として自由をつかみ取った結果としての古典的自由主義の時代です。国家による干渉は最少のものにとどめられます。

その結果,発生したのは貧困問題です。一方では共産主義を実現し,もう一方ではナショナルミニマム(国家による最低生活の保障)を資本主義に取り入れて,修正資本主義を実現します。

現在では,多くの共産主義国家は崩壊し,資本主義国家は福祉国家に生まれ変わりました。

生活保護法は,日本国憲法第25条の理念に基づき,「貧困に陥った場合でも,国家責任で最低生活を保障します」と高らかに宣言したものです。

資本主義国家が資本主義国家であり続けるためには,国家責任で最低限度の生活保障が必要なのです。

保護を受けることがスティグマに感じるような世の中であっては絶対にならないのです。


②無差別平等の原理
 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。

多くの場合,法の名称は変更しても改正して,法は存続します。

しかし,1946年に成立した生活保護法は廃止して,1950年に新しく同じ名称の法として成立させています。

改正レベルで対応できなかった理由はたくさんありますが,その一つとして旧法では,無差別平等でありながら,実際には救護法に引き続き,欠格条項があったことがあります。

無差別平等の原理とは,困窮に陥った理由は問わないというものです。

原理は,例外のないルールです。どんな場合であっても,困窮に陥った理由は問われることなく,困窮の事実に基づいて保護が実施されます。


③最低生活の原理
 この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。

憲法第25条の「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権を保障するものが生活保護法なので,最低生活も一緒なのは当然のことです。

国試では,「肉体を維持するのに必要な」といったように出題されますが,それではだめなのです。「健康で文化的」でなければなりません。

以前は,エアコンは被保護世帯には認められるものではありませんでした。その結果として脱水による死亡事件が発生しました。

「健康で文化的」はあいまいなものではありますが,少なくとも,「肉体の維持」ではないことは間違いありません。

生活保護の不正受給などがあると,被保護者に対するバッシングが起こります。不正受給は徹底的に排除されなければなりませんが,一般的な被保護者に対して肩身の狭い思いをさせることがあってはなりません。

なぜそう思うかと言えば,「健康」には心の健康もあるからです。

スティグマを感じながらの生活の中で,心の健康を保つのはとても大変なことだと思います。中にはスティグマを感じない人もいるでしょう。

しかしそれはほんの一部の人です。

表には出てこないスティグマに思いを馳せることができるのが,社会福祉士なのではないでしょうか。


④保護の補足性の原理
 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。

保護の補足性とは,さまざまなものを活用して,それでも最低生活に足りない場合,足りない分を給付するというものです。

また第2項の規定によって,生活保護法は,最後に機能するため,セーフティネットだと言われます。

扶養義務者による扶養は生活保護よりも優先されますが,扶養を受けなければ保護を受けられないというものではありません。


基本原則

①申請保護の原則
 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。

「但し」以降は,例外事項です。原則は申請ですが,職権による保護もあるという例外です。

②基準及び程度の原則
 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。

基準及び程度の原則が国試で問われることの一つには,「基準は誰が定めるのか」があります。

何度も「都道府県知事が定める」と出題されていますが,地方公共団体が条例で定めるものではありません。

定めるのは「厚生労働大臣」です。生活保護法の目的の一つには「最低限度の生活保障」があります。

保護は国家責任で行われるものですから,基準を定めるのも国でなければならないのです。

また,保護は,最低限度の生活保障(ナショナルミニマム)は,基準を上回っても,下回ってもだめです。基準ライン上で保護しなければなりません。

国試では「こえなければならない」と出題されますが,超えたらだめなのです。



③必要即応の原則
 保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。

国試では,「必要即応の原則」に関しては,その言葉の印象から「保護は急いで行わなければならないので,画一的に行う」といったように出題されます。

この原則を定めている理由は,保護は画一的に行ってはならない,ということを明らかにするためです。


④世帯単位の原則
 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。

いかにも,原則という感じですね。例外のあるルールです。

原則は,世帯単位,例外は個人単位です。


それでは,今日の問題です。


第22回・問題60 

生活保護法における基本原理及び原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 無差別平等の保護とは,生活に困窮した国民は無条件で保護を受ける資格があるという意味である。

2 保護の申請は,要保護者の扶養義務者には認められていない。

3 急迫した事由がある場合には,保護の要件を満たしていなくとも申請を受け付けた上で緊急的に保護を開始することができる。

4 保護は,個人を単位としているが,特別の場合には世帯を単位とすることもできる。

5 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。


こういった問題を見ると,勉強をおろそかにしたくなる気持ちがわかるようです。


合格する人とそうでない人の違いは,このようなものを正解できるかできないかの違いです。


決して難しい問題を正解しなければ合格できないという試験ではありません。


今日の問題のように,出題頻度が高く,そして覚えにくいものを覚えた人は合格し,覚えられなかった人は,残念な結果となります。


悔しい思いをしたくなけれぱ,覚えにくいものこそ覚えるべきではないかと思います。


それでは,解説です。


1 無差別平等の保護とは,生活に困窮した国民は無条件で保護を受ける資格があるという意味である。


無差別平等は,無条件という意味では決してありません。生活保護法が定める要件が必要です。


2 保護の申請は,要保護者の扶養義務者には認められていない。


この選択肢は,国試の癖を考えたとき,とても重要なことを教えてくれます。


国家試験を作成する試験委員は「人」です。


多くの試験委員は,「無」から「有」を作り出すことはしません。


つまり元ネタがあって,そこから問題文を考えます。


この場合は,「要保護者の扶養義務者」も保護の申請をすることができる,という規定が元ネタです。


3 急迫した事由がある場合には,保護の要件を満たしていなくとも申請を受け付けた上で緊急的に保護を開始することができる。


うっかりすると間違ってしまいそうな選択肢です。


急迫,つまり放っておくと生死にかかわるような場合は,職権保護が行われます。


申請を受け付けて保護を開始することができるくらいなら,急迫した状況とは言えないと思いませんか。


急迫している場合は,申請がなくても保護します。


4 保護は,個人を単位としているが,特別の場合には世帯を単位とすることもできる。


世帯単位の原則です。


原則は,世帯単位です。必要な場合に世帯分離を行って,個人単位で保護することもあります。


5 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。


これが正解です。


生活保護制度は,最も下に位置します。


ほかの制度では救済されない場合,最後の最後の切り札として,生活保護制度で救済します。

2025年1月29日水曜日

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)の重要ポイント

童の権利に関する条約(子どもの権利条約)は,国際連合によって,1989年に採択されたものです。日本は1994(平成6)年に批准しています。


批准とは,条約を国内に適用させます,と宣言するものです。

そのあと,条約を締結します。


このように,条約と批准と締結は,ちょっと違ったものですが,国家試験ではそこの違いを問われることは絶対にあり得ません。


それはさておき,日本が批准するまでに5年の歳月を要しています。


理由は,批准するためには国内法を整備する必要があるからです。

条約は,法的拘束力をもつので,国内法で条約の内容に反するものがあった場合,条約違反となってしまいます。


児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)の特徴は,古典的な権利である「受動的権利」とともに「能動的権利」を児童に保障したことです。


受動的権利とは,児童は弱い存在なので,守られるべきである,というものです。

能動的権利
とは,児童が積極的に意見を述べることができる(意見表明権),結社の自由などを認める,というものです。

歴史としては,ホワイトハウス会議における声明などがありますが,それらは,受動的権利に言及したものです。

それらは,〇〇宣言などは,法的拘束力を持たないものであるのに対し,条約は,法的拘束力を持つものです。

歴史的にみると,受動的権利を法的拘束力をもつ条約として規定し直したものが,「子どもの権利条約」だということになります。

それでは,今日の問題です。

第30回・問題138 

児童が「自由に自己の意見を表明する権利を確保する」と明記しているものとして,正しいものを1つ選びなさい。

1 児童福祉法

2 児童の権利に関する条約

3 児童虐待の防止等に関する法律

4 児童権利宣言

5 児童憲章


正解は,選択肢2

2 児童の権利に関する条約


子どもの権利条約を受けて,現在の児童福祉法は以下のように規定されています。

第一条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

今日の問題で「1 児童福祉法」を正解だと思った人は,別の面ですごい人かもしれません。

現在の児童福祉法およびこども基本法には,子どもの権利条約の精神が流れています。条約を批准するというのは,こういうことです。


児童福祉法の理念に関する記事
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/12/blog-post_4.html


こども基本法の目的
この法律は、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり、次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、その権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して、社会全体としてこども施策に取り組むことができるよう、こども施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及びこども施策の基本となる事項を定めるとともに、こども政策推進会議を設置すること等により、こども施策を総合的に推進することを目的とする。


<今日の一言>

国家試験は,きちっと覚えた者勝ちです。

こども権利条約に関しては,受動的権利とともに能動的権利を保障しているのが特徴である,というところがポイントです。

一つひとつをきっちり覚えて,得点力を伸ばしていきましょう。

国家試験は,基本をきちっと覚えた者が合格をつかみ取ります。


おまけの問題

第29回・問題138 

「児童の権利に関する条約」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 第1回ホワイトハウス会議で採択された。

2 日本政府は,この条約を批准するための検討を進めている。

3 児童の権利を,能動的権利と受動的権利に関する節に分けて規定している。

4 「児童とは,20歳未満のすべての者をいう」と規定している。

5 「自由に自己の意見を表明する権利の確保」について規定している。


正解は,選択肢5です。

5 「自由に自己の意見を表明する権利の確保」について規定している。

これが能動的権利そのものです。

ほかの選択肢のどこが間違っているのかは,次回で学んでもらうにして,間違えそうなものは,

3 児童の権利を,能動的権利と受動的権利に関する節に分けて規定している。

能動的権利と受動的権利を規定しているのは適切です。

おそらく,この問題は,

3 児童の権利を,能動的権利と受動的権利に関する節に分けて規定している。
5 「自由に自己の意見を表明する権利の確保」について規定している。

で迷う人がいたと思います。

しかし,ここで引っ掛けられてはいけません。

子どもの権利条約は,能動的権利を規定していることが特徴です。
「自由に自己の意見を表明する権利の確保」は,能動的権利そのものです。

これを自信もって正解にしなければなりません。

選択肢3を見たとき,子どもの権利条約を読んだことがない,わからない,と思ったら間違えます。
国家試験は,深い知識を求めるような出題はしません。
これは断言できます。

選択肢3が正解なら,

3 児童の権利として,能動的権利と受動的権利を規定している。

でよいはずです。

「節を分けて」という部分が余分です。

これが,チームfukufuku21が提唱している

人は,嘘をつくとき,饒舌になる

という解答テクニックです。

このテクニックを身につけることは難しいかもしれませんが,ここに気がつくことができれば,得点力は大幅にアップします。

3年の過去問を3回解いても,合格する知識は絶対につきません。これは断言します。
3年の過去問を3回解くことに意味があるとしたら,こういったところに気がつくことと言えるでしょう。

国家試験は人が作成します。そのため,よくよく問題文を見ると,間違い選択肢には,ほころびを生じていることがあるのです。

2025年1月28日火曜日

介護報酬と診療報酬との比較

 高齢者支援は,主に老人福祉法と介護保険法によって行われています。


介護保険は,2000年(平成12年)に導入されました。

老人福祉法は,社会福祉制度です。

介護保険法は,社会保険制度です。

多くの場合,社会福祉制度では,応能負担を採用します。

応能負担の「応能」とは,「支払い能力に応じて」といった意味です。
所得によって,支払う金額が定められます。

それに対して,社会保険制度では,応益負担を採用します。

応益負担の「応益」とは,「受けたサービス量に応じて」といった意味です。
ここで思い出してほしいのは,1962年(昭和37年)の社会保障制度審議会勧告です。

同勧告では,

一般所得者層に対する施策は「社会保険制度」
低所得者層に対する施策は「社会福祉制度」
生活困窮者に対する施策は「生活保護制度」

でそれぞれ対応するということを示しています。

老人福祉法は,社会福祉制度ですから,低所得者層を対象としている制度であると言えます。

それに対して,介護保険法は,社会保険制度ですから,一般所得者層を対象としている制度だと言えます。

介護保険が創設された際には「介護の社会化」ということが一つの目的でしたが,それよりも重視したいのは,一般所得者層を対象とした社会保険制度を取り入れたことです。

日本国民の多くは,一般所得者層です。

それまで介護問題は,一部の福祉ニーズだったものが,全国民の問題としてとらえたことになります。

そして,応益負担が導入されました。

当初,1割負担だったものが,一部は2割負担,そして現在は,現役並み所得者は3割負担となっています。

所得によって自己負担割合が変わることは,応能負担の考え方を一部導入したとも言えますが,サービス量に対して,一定割合を負担するという基本的枠組みは堅持されています。

介護保険制度の介護給付は,介護報酬という形で,支給されます。

本来,保険給付は,被保険者に支給されますが,代理受領という制度を取り入れているので,被保険者は,1~3割の自己負担分を窓口で支払うだけですみます。

そして,自己負担分を引いた分が,サービス事業者に支払われます。

措置制度では,措置委託費が市町村から事業者に支払われます。そして利用者は所得によって決まった額を支払います。

介護報酬と診療報酬との比較

介護報酬
診療報酬
決定
厚生労働大臣
諮問
社会保障審議会
(介護給付費分科会)
中央社会保険医療協議会
単位
地域差あり
全国一律1点10
改定
3年ごと
2年ごと


こういった違いがあります。

それでは,今日の問題です。

第28回・問題131 

介護保険制度における介護報酬(介護給付費)と利用者負担に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 介護報酬の1単位の単価は,全国一律に定められ,地域による割増しはない。

2 介護報酬の算定基準を厚生労働大臣が定める際には,あらかじめ内閣総理大臣の意見を聴かなければならない。

3 居宅介護サービスにおける支給限度基準額を超えて介護サービスを利用する場合には,その超えた費用は全額が利用者負担となる。

4 施設サービスにおける食費と居住費は,生活保護の被保護者を除く市町村民税非課税世帯などの低所得者も全額の自己負担が求められる。

5 介護報酬は,2年に1回改定される。


介護保険サービスを利用する場合は,要介護認定を受けます。

要介護認定は,必要なサービス量を決定するという役割を果たしています。

要介護度に応じて,支給限度基準額が決定します。

その範囲で,保険給付されます。

その範囲を超えた量の介護サービスを利用すると,保険給付されないので,自己負担となります。

ということで,この問題の正解は,選択肢3

3 居宅介護サービスにおける支給限度基準額を超えて介護サービスを利用する場合には,その超えた費用は全額が利用者負担となる。

こういったところが,措置制度ではなく,契約制度らしい点だと思います。

それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。


1 介護報酬の1単位の単価は,全国一律に定められ,地域による割増しはない。

介護報酬の単価は地域差が設けられています。
地域差がないのは,診療報酬です。


2 介護報酬の算定基準を厚生労働大臣が定める際には,あらかじめ内閣総理大臣の意見を聴かなければならない。

意見を聴かなければならないのは,社会保障審議会(介護給付費分科会)です。


4 施設サービスにおける食費と居住費は,生活保護の被保護者を除く市町村民税非課税世帯などの低所得者も全額の自己負担が求められる。

施設サービスにおける食費と居住費は,居宅とのバランスをとるために,2005年(平成17年)10月に,原則自己負担となりました。

市町村民税非課税世帯などの低所得者は,それでは困ってしまうので,一部負担を残しました。

一部負担以外の部分は,特定入所者介護サービス費が給付されます。
一般所得者層を対象とした社会保険制度ですから,このように低所得者に対する対策はあります。


5 介護報酬は,2年に1回改定される。

介護報酬は,3年に1回改定されます。

3年に1回改定されるのは,診療報酬です。


<今日の一言>

国家試験では,今日の問題のように,介護報酬と診療報酬と絡めたように出題されることが多くあります。

勉強不足の人は,混乱しやすいからです。

2年だったかな,3年だったかな,とあやふやになります。

介護報酬や診療報酬のように,似たような制度は,違いを押さえておくことが必要です。
こういったところで足元がすくわれないようにしましょう。

精神保健福祉士の国家試験は要注意!

 精神保健福祉士の国家試験は,専門科目は社会福祉士の前日である土曜日の午後に実施されます。


社会福祉士の問題と精神保健福祉士の問題は,重複した内容が出題されることはめったにありません。


第37回の国家試験は,新しいカリキュラムによるものになることもあり,精神保健福祉士の問題は,要注意です。


同じ内容のものは出題されないとしても,出題のスタイルは,参考になります。


精神保健福祉士の国家試験問題は,2/1(土),日本ソーシャルワーク教育学校連盟(ソ教連)のホームページから入手できます。


http://jaswe.jp/kokushiinfo.html


掲載予定時間は未定ですが,ソ教連事務局が公表するものなので,夜中ということはないと思います。


問題を見ても解く必要はありません。

問題のスタイルを見ることだけにとどめて,寝るのが良いと思います。

何も変わっていなければ,安心できますし,変わった出題スタイルがあったら,心の準備ができます。

特記すべきことがあったら,日曜日にアップするもので紹介します。

2025年1月27日月曜日

調査票の配布と回収~あと数点アップするコツ

 

社会福祉士の国試を何度も受験しても合格できないという方がいらっしゃると思います。

そういった方は次の2つのタイプに分かれると考えられます。

①11月頃から過去問をちょこっと取り組むだけで国試に臨むタイプ

知識不足は否めません。

国試の出題範囲は広いので,過去3回国試で出題された内容では合格する知識には足りまん。

同じパターンを繰り返していれば結果は同じです。どこかで切り替えないといけません。

「運」で合格をつかむのは難しいです。

このタイプの人はおそらくこの学習部屋を目にすることは少ないはず。もし読んでするとしたら,今回は合格する可能性が大いにあります。それだけのノウハウを紹介してきました。
最後の最後まで頑張りましょう。


②落ち着いて問題を解けば毎年合格点に達していたという方

毎年,あと数点の差で不合格になるタイプです。理論的には,毎年勉強を続けていれば,その分の知識は増えるはずです。

しかし,実際の国試では,例えば,前回は1点差だったのに,今回は5点差になった,ということもあります。

これは国試突破には知識のほかには,別の要素があることを示しています。

②のタイプの方が合格をつかむのが,実は大変です。

この学習部屋は,そういった人が合格するために始めたものです。

別な要素とは

知識を超えた想像力

もその一つです。

試験委員の出題意図を考えるというのもあるでしょう。

これらを規定時間内に行うには,思考訓練が必要です。

②のタイプの方は,とにかく真面目なタイプに多いです。

そのため,国試会場では緊張感のあまり,柔軟な思考ができなくなってしまうのです。


今日の問題も,想像力を発揮することが必要なタイプの問題です。


第30回・問題88 

質問紙調査の方法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 郵送調査法は,返送時に氏名を記入する必要があるため,匿名性を確保するのが難しい。 

2 訪問面接調査法は,プライバシーに関わる質問をするのに適している。

3 複雑で難しい質問には,自記式で質問紙に記入する方法が適している。

4 留置調査法は,他記式なので,記入漏れや記入ミスを抑制できる。

5 調査対象者本人の回答であるかを確認するには,他記式による記入が望ましい。


緊張する国試会場で,普段通りの力を発揮するのは決して簡単なことではありません。


それでは解説です。


1 郵送調査法は,返送時に氏名を記入する必要があるため,匿名性を確保するのが難しい。

これは誤りです。

郵送調査には様々な方法があります。もちろんその中には,返送時に指名を記入する必要があるものもあるかもしれません。そうなると匿名性はなくなってしまいます。

しかし,すべての郵送調査で指名を記入しなければならないという決まりはありません。

郵送調査のメリットは経費と労力をあまりかけないで実施できることです。その反面,デメリットとしては,回収率が低いことがあります。

記名式の調査票では本音はかけませんし,それでなくても回収率は低いものをさらに低くしてしまう恐れがあります。


2 訪問面接調査法は,プライバシーに関わる質問をするのに適している。

これも誤りです。

第26回,第28回国試で同じようなスタイルの問題が出題されています。

第26回国試問題
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/01/25.html

第28回問題
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/01/35.html

想像力を発揮する時のポイントは,極端な例を挙げて考えることです。

第26回では以下のような問題が出題されています。

犯罪や性行動など,多くの調査対象者が自分からは答えたがらない質問内容については,郵送法よりは調査員が訪問して質問する訪問面接法の方が適している。

これを参考に極端な例を考えてみると

犯罪では

「あなたは今まで万引きをしたことがありますか」


性行動では

「あなたはどのような頻度で性交を行いますか」

といったことです。

こういった質問は,訪問面接調査には向かないことがわかるでしょう。

無記名式の郵送調査でも答えにくいかもしれませんが,これらの質問が必要な調査であれば,訪問面接調査では本当の話は聞くことは難しいです。

このことについては<今日の一言>で解説します。



3 複雑で難しい質問には,自記式で質問紙に記入する方法が適している。

これも誤りです。

自記式(自計式),他記式(他計式)が理解できていないとこれを正解にしてしまうかもしれません。

間違いやすいものがねらわれます。

自記式(自計式) → 調査対象者が調査票に記入するもの
他記式(他計式) → 調査者(調査員)が調査票に記入するもの

この場合,「自」が誰のことなのかが言葉だけでは推測することができないために,ねらわれるのです。

「自」は調査対象者

しっかり覚えておきましょう。

解説に戻ると,複雑で難しい質問は,他記式が適しています。なぜなら調査対象者が答えにくそうにしている様子を見ながら,質問の補足説明などができるからです。

自記式の調査の代表は,郵送調査と留置調査です。もし質問の意味がわからなければ,連絡先に聞くこともできるかもしれませんが,多くの人はそんなことはしないので,答えないか適当に答えることになるでしょう。


4 留置調査法は,他記式なので,記入漏れや記入ミスを抑制できる。

これも誤りです。

先に書いたように,留置調査は,郵送調査と並んで自記式の代表的なものです。

記入漏れや記入ミスのことは「測定誤差」といいます。

全数調査であっても標本調査であっても測定誤差は生じます。他記式でも測定誤差は生じますが,一般的には調査対象者が記入する自記式よりも調査者(調査員)が記入する他記式の方が測定誤差の発生は抑制できると考えられます。



5 調査対象者本人の回答であるかを確認するには,他記式による記入が望ましい。

これが正解です。

他記式は,調査者(調査員)が,調査対象者から聞き取って記入するものです。そのため,誰の回答なのかが確認できます。

自記式の代表である郵送調査も留置調査も,調査者(調査員)の目の前で回答するわけではないので,誰が回答したものかわかりません。

そのために,第26回国試で出題されたように,留置調査では,回収の時に誰が記入したまのか確認することも行われます。


<今日の一言>

国試の合格基準は,6割程度です。6割と明示できないのは,問題の難易度によって点数が上下させるからです。

勉強していると覚えきれていないことで,焦りや不安が高まっていきます。しかし今まで勉強してきたことは,必ず身についています。

理解しにくいものは,ほかの受験生も同じです。国試ではおそらくそういったものが出題された問題の正解率は低いはずです。

合格基準が7割程度だとすれば,国試の難易度は何倍にも高まります。

しかし6割程度なら,今まで覚えてきたもので十分に戦えるはずです。

後は「セット入れ替え手法」に気を付けるために,知識を整理していくことでしょう。


セット入れ替え手法対策
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/01/blog-post_5.html

知識が不足していれば,知識はしっかりつけなければなりません。

今日の問題で正解できるための必要条件は,自記式と他記式の違いがわかっていることです。

逆にこれがわかっていないと正解するのはかなり難しいです。想像力を発揮するためには,適切な知識がベースにあることが必要だからです。

今日の問題で,試験委員が隠したメッセージは,

2 訪問面接調査法は,プライバシーに関わる質問をするのに適している。

のように思います。

この試験は社会福祉士になるための試験です。

社会福祉調査の中にもソーシャルワーク要素を含ませていると考えられます。

訪問面接調査は,利用者宅に訪問しての訪問調査,アセスメント,モニタリングなどソーシャルワークでは多くの場面で行われるものです。

試験委員が隠したメッセージは,訪問面接でご利用者,あるいは家族が本音を話してくれるのは決して簡単なものではないということなのではないでしょうか。

ご利用者,家族は,援助者が聴くので仕方なく答えているのかもしれません。クライエント―ワーカーという関係性だからようやく成り立っているものです。

ソーシャルワーク専門職としては,クライエントが話したがらない内容についても知らなければならないことがあります。

例えば,医療ソーシャルワーカーの業務指針にある「受療援助」などがそれに当たります。なぜ受療を拒否しているのか,その本音を知ることです。

「社会福祉調査の基礎」を苦手としている人が多いようですが,突破口は必ず開けます。


想像してごらん

ジョン・レノンは言いました。

想像した先には,正解が待っています。さらにその先には,念願の国家資格が待っています。

資格を得た自分の姿を想像してごらん

今まで自分を応援してくれた人から「おめでとう」と言われたときのことを想像してごらん


今は辛いときだからこそ,明るい未来を想像することが必要です。

それが,あと数点アップするための究極のコツです!!

2025年1月26日日曜日

事例の中でのシステム理論


知識は価値を伴って実践力になっていきます。

実践力を伴わない知識では意味がありません。

人によって,「実践は実践」「勉強は勉強」と割り切ることが必要だ,という人もいます。

しかし,それは今の国試を知らない人です。

現在のカリキュラムは,科目名に「●●学」「●●論」という言葉がありません。

学問や理論を学ぶものではないことを示しています。


国試の問題に批判が出ることがありますが,すべての問題には意図があり,社会福祉士としての実践に必要なものです。

ソーシャルワークには。無意図のものはありません。

それでは,事例問題を見てみましょう。

第25回・問題99 

事例を読んで,家族システムの視点に基づいたA社会福祉士の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
Bさん(48歳,男性)は,専業主婦の妻(46歳),息子(17歳),娘(14歳)と4人暮らしである。Bさんは,優秀な会社員であり,家族関係も良好であった。ところがBさんは,半年くらい前から物忘れが増え,仕事のミスが目立ち,病院で検査をした結果,若年性の認知症であると告げられた。Bさんは自暴自葉になり,妻や2人の子どもに対して当たり散らすなど,家族関係は悪化した。妻から相談を受けた医療ソーシャルワーカーのA社会福祉士は,Bさんとその家族に対応した。

1 家族間相互のストレスを緩和するために,一時的に別居することを勧めた。

2 家族システムの開放を目指して,近隣住民にBさんの家族を頻繁に訪問して見守ってもらうように依頼した。

3 家族関係悪化の原因は,Bさんの荒れた態度だと判断し,その改善を図るために,Bさんとの面接を繰り返した。

4 家族の規範に配慮しつつ,Bさんの状態に対応して,それぞれの役割を見直すよう家族で話し合うことを促した。

5 家族内で問題が解決できるように,妻との面接を繰り返した。


こういった問題で注意しなければならないのは「●●に基づいた」「●●に基づいて」というものです。

事例の中で,より適切な対応があっても「●●に基づいた」ものでなければ,正解にはなりません。

こういった出題がなされるのは,ワーカーには様々な視点が必要だということです。
支援の方法論には,答えがたくさんあります。

方法論をたくさん持っているのが優れたワーカーだと言えるのかもしれません。

さて,今日の問題の答えは,

4 家族の規範に配慮しつつ,Bさんの状態に対応して,それぞれの役割を見直すよう家族で話し合うことを促した。

システム理論は,人と環境を一体のものとしてとらえ,人と環境の「交互作用」に着目するところに特徴があります。

Bさんと家族の交互作用を活用したものは,この選択肢しかありません。

1 家族間相互のストレスを緩和するために,一時的に別居することを勧めた。
3 家族関係悪化の原因は,Bさんの荒れた態度だと判断し,その改善を図るために,Bさんとの面接を繰り返した。
5 家族内で問題が解決できるように,妻との面接を繰り返した。

これらは,すべてシステムの構成要素,Bさん,妻を一体のものととらえたものではありません。

2 家族システムの開放を目指して,近隣住民にBさんの家族を頻繁に訪問して見守ってもらうように依頼した。

家族システムの解放という何だかわからないものを含めていますが,「交互作用」は活用していません。

地域福祉の問題なら,これが正解であっても不思議ではありません。

しかし設問に「システム理論に基づいて」という条件がつけられているので,この選択肢は「より適切」とは言えないものとなります。


<今日の一言>

「現場実践を知っているから,事例問題は得意だ」と言う人は多いです。

しかし,事例問題は決して易しくありません。

「得意だ」と思っていると慎重さを欠きますので注意が必要です。

今日の問題のように知識が必要な事例があるからです。

2025年1月25日土曜日

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義について

  ソーシャルワークの定義は,2000年に採択されたものを用いてきましたが,2014年に新しく,「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」が採択されています。

 

28回国試以降毎年出されています。


旧・定義

ソーシャルワーク専門職は,人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して,社会の変革を進め,人間関係における問題解決を図り,人びとのエンパワーメントと解放を促していく。

ソーシャルワークは,人間の行動と社会システムに関する理論を利用して,人びとがその環境と相互に影響し合う接点に介入する。

人権と社会正義の原理は,ソーシャルワークの拠り所とする基盤である。

 

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義

ソーシャルワークは,社会変革と社会開発,社会的結束,および人々のエンパワメントと解放を促進する,実践に基づいた専門職であり学問である。

社会正義,人権,集団的責任,および多様性尊重の諸原理は,ソーシャルワークの中核をなす。

ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャルワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造に働きかける。

この定義は,各国および世界の各地域で展開してもよい。

 

「エンパワメントと解放」は,旧・定義とグローバル定義が共通する部分です。

 

原理は,旧・定義では「人権と社会正義」でしたが,グローバル定義では,それに「集団的責任」と「多様性の尊重」が加わっています。

 

大きく変わっているのは「地域・民族固有の知」を基盤とするところです。

そして,「各国および世界の各地域で展開してもよい」とされました。

 

それでは今日の問題です。

 

29回・問題92 

「ソーシャルワークのグローバル定義」(2014年)におけるソーシャルワークの中核をなす原理として,正しいものを1つ選びなさい。

1 個人的正義

2 集団主義

3 自民族中心主義

4 自己責任

5 多様性尊重 

(注) 「ソーシャルワークのグローバル定義」とは,2014年7月の国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)の総会・合同会議で採択されたものを指す。

 

正解は,選択肢5の「多様性尊重」です。

 

グローバル定義を知らずとも正解できそうな問題です。

まだグローバル定義が浸透していなかったからでしょう。

 

28回・問題92 

2014年の「ソーシャルワークのグローバル定義」に関する次の記述のうち適切なものを1つ選びなさい。

1 ウェルビーイングの増進を目指して,人間関係の問題解決を図ることが新たに加えられた。

2 ソーシャルワークは,専門職であるとともに政策目標であることが明示された。

3 これまで過小評価されてきた地域・民族固有の知を認めるものとなっている。

4 先進国の意見や実情を尊重し,マクロレベルの社会政策と社会開発を重視している。

5 西洋における集団主義重視への懸念が示された。

(注) 「ソーシャルワークのグローバル定義」とは,20147月の国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)の総会・合同会議で採択されたものを指す。

 

この問題は,グローバル定義が初めて出題された記念すべきものです。

これ以降,続けて出題されています。

 

さて,正解です。

 

3 これまで過小評価されてきた地域・民族固有の知を認めるものとなっている。

 

グローバル定義を一度でも目にした人なら,「地域・民族固有の知」はとてもインパクトがあって,印象に残るものでしょう。

 

さすが初めての出題だなぁ,と思います。実に受験生にやさしいものを正解にしたと思います。

 

皆さんもそう思いませんか?

 

それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。

 

1 ウェルビーイングの増進を目指して,人間関係の問題解決を図ることが新たに加えられた。

 

ウェルビーイングの増進を目指して,人間関係の問題解決を図ることは,旧・定義にあったものです。

 

2 ソーシャルワークは,専門職であるとともに政策目標であることが明示された。

 

ソーシャルワークは専門職であるとは明記されていますが,政策目標ということばは使われていません。

 

4 先進国の意見や実情を尊重し,マクロレベルの社会政策と社会開発を重視している。

 

マクロレベルの社会政策と社会開発を重視していることは適切ですが,先進国ではなく,開発途上国の意見が重視されたものです。

 

開発途上国でクライエントの権利擁護を行おうと思うと,社会が変わること自体が必要なことが多いのです。

 

5 西洋における集団主義重視への懸念が示された。

 

懸念が示されたのは,西洋における個人主義への偏重です。

 

これは,ソーシャルワークが欧米生まれであることに関係しています。特にCOSの活動を通して発展したケースワーク(個別援助技術)は,リッチモンドの功績によって科学化されていきますが,今はSDGsの時代です。

ソーシャルワークも地球規模の広い視点が必要だということなのでしょう。

ソーシャルワークは,誇り高いものです。


30回・問題92 

「ソーシャルワークのグローバル定義」(2014年)におけるソーシャルワーク専門職の中核となる任務として,正しいものを1つ選びなさい。

1 人々のエバリュエーション

2 技術開発の促進

3 自民族中心主義の促進

4 自己変革の促進

5 人々のエンパワメントと解放

(注) 「ソーシャルワークのグローバル定義」とは,2014年7月の国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)の総会・合同会議で採択されたものを指す。

 

グローバル定義は,暗唱できるくらいには覚えておきたいです。


ソーシャルワーク専門職の中核となる任務

 

社会変革と社会開発,社会的結束,および人々のエンパワメントと解放を促進する

 

ということで,正解は,

 

5 人々のエンパワメントと解放

 

ということになります。


2025年1月24日金曜日

保護観察制度

 保護観察制度は,更生保護法の中心をなします。


民法の成年年齢は20歳から18歳に引き下げられていますが,少年法の少年の年齢は,20歳のままで変更がありません。


そのために,18歳と19歳は新しく特定少年と規定され,18歳未満の少年とは異なる扱いがなされます。


保護観察の第1号と第2号は,少年を対象としていますが,特定少年に関しては少し異なります。


特定少年の保護処分は


・少年院送致

・2年間の保護観察

・6か月の保護観察


の3種類です。


児童自立支援施設・児童養護施設送致がありません。考えてみると,これまでも18・19歳の少年には,児童自立支援施設・児童養護施設送致は適用されていなかったのかもしれません。


児童自立支援施設・児童養護施設は,児童福祉施設だからです。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題147

保護観察に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護観察は,保護観察対象者の居住地を管轄する保護観察所が行う。

2 保護観察の対象者は,自らの改善更生に必要な特別遵守事項を自分で定める。

3 保護観察処分少年の保護観察期間は,保護処分決定の日から,原則として18歳に達するまでの期間である。

4 保護観察の良好措置として,仮釈放者には仮解除の措置がある。

5 保護観察の不良措置として,少年院仮退院者には退院の措置がある。


問題自体は難しいですが,正解すること自体はそれほど難しくはありません。


過去問を正解できることも大切ですが,正解以外のものを覚えないと過去問を解くことの意味はなさなくなります。


それでは解説です。


1 保護観察は,保護観察対象者の居住地を管轄する保護観察所が行う。


これが正解です。この問題を正解するのは,それほど難しくないという理由がわかると思います。


逆に,この選択肢を正解として選べなかったら,つまり消去法を使って正解するのはとても難しい問題です。


それではそのほかの解説です。


2 保護観察の対象者は,自らの改善更生に必要な特別遵守事項を自分で定める。


特別遵守事項を定めるのは,保護観察所の長あるいは地方更生保護委員会です。


3 保護観察処分少年の保護観察期間は,保護処分決定の日から,原則として18歳に達するまでの期間である。


保護観察処分少年の保護観察期間は,保護処分決定の日から,原則として20歳に達するまでの期間です。


4 保護観察の良好措置として,仮釈放者には仮解除の措置がある。


保護観察は,保護観察官と保護司によって,指導監督と補導援護という方法で行います。


そのうち,遵守事項を守っているか確認するのは,指導監督に当たります。


保護観察には,良好措置というものがあり,態度が良好であれば,本退院などがあります。


しかし,仮釈放者,つまり3号観察の者には,良好措置の制度はありません。


仮釈放者に良好措置として,仮解除してしまうと,裁判所が決めた刑期が変わってしまうためです。


5 保護観察の不良措置として,少年院仮退院者には退院の措置がある。


少年仮退院者,つまり2号観察の者が,本退院するのは,保護観察の良好措置です。


不良措置で退院するのはおかしなことになってしまうでしょう。


〈今日の注意ポイント〉


この問題には,保護観察官と保護司が出題されていませんが,これらの職種の役割が出題されます。


その際,「それぞれ役割分担がある」という内容のものが出題されることがよくあります。


しかし,更生保護法には役割分担の規定はありません。かなりの頻度で出題されているので,注意が必要です。

2025年1月23日木曜日

障害者総合支援法における国・都道府県・市町村の役割

 今回のテーマは,「障害者総合支援法における国・都道府県・市町村の役割」です。

 

この前に気を付けておきたいのは,障害者分野の法制度には,障害者基本法が存在していることです。

 

近年では,こどもの分野でも「こども基本法」が作られていますが,「●●基本法」は,省庁の枠を超えて,総合的な施策を推進するためのものです。

 

すべての「●●基本法」がそうなっているかは分かりませんが,社会福祉士の国家試験で出題されているものは,内閣府が所管しています。

 

「●●基本法」を受けて,それぞれの省庁で具体的な法制度を形成していきます。

 

障害者分野では,以下のような構成です。

 

内閣府


障害者基本法


各省庁


障害者総合支援法(厚生労働省)

障害者雇用促進法(厚生労働省)

バリアフリー法(厚生労働省・国土厚生省)

など


 

もう一つ気を付けたいのは,計画です。

 

障害者分野の主な計画には,障害者基本法の障害者計画,障害者総合支援法の障害福祉計画があります。

 

中央省庁が定めるのは,障害者基本法の障害者基本計画は「政府」,障害者総合支援法の基本指針は「厚生労働大臣」です。

 

障害者総合支援法の実施主体は,市町村です。

 

と言っても都道府県の役割がないわけではありません。

 

余談ですが,福祉サービスの提供の責任を市町村が担うのは,スウェーデンとそっくりです。

 

福祉サービスは,基礎的地方公共団体であるコミューンが担います。

 

スウェーデンでは,医療サービスの提供は,広域的地方公共団体であるレギオン(ランスティングから組織変更したもの)が担います。

 

日本でも医療は,市町村ではなく,都道府県の範疇です。これもスウェーデンそっくりです。

 

日本に話を戻します。

 

障害者総合支援法の実施主体は市町村ですが,都道府県が担うものもあります。

 

〈障害者総合支援法で都道府県が担う事務〉

 

・障害福祉サービス事業者の指定

・指定一般相談支援事業者の指定

・都道府県の障害福祉計画の策定

・地域生活支援事業のうち,都道府県が行うもの

・自立支援医療のうち,精神通院医療の支給決定

 

これら以外は,基本的に市町村の役割です。

 

それでは,今日の問題です。

 

26回・問題58 

「障害者総合支援法」における行政の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 都道府県知事は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。

2 地域生活支援事業の実施については,市町村は必ず行わなければならないが,都道府県はその判断に任されている。

3 厚生労働大臣は,障害福祉サービス等の提供体制を整備するために障害者基本計画を定める。

4 都道府県知事は,障害福祉サービス受給者証を交付する。

5 都道府県は,基幹相談支援センターを設置しなければならない。

 

この問題は,極めてスタンダードな問題です。

 

国・都道府県・市町村の役割の違いが明確にわかるからです。良い問題だと思います。

 

それでは,解説です。

 

1 都道府県知事は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。

 

これが正解です。

 

障害福祉サービス事業者の指定を行うのは,都道府県知事です。

 

都道府県の役割の一つには,事業者を指定する基盤整備があります。

 

ところが介護保険には,市町村がかかわる地域密着型サービスが存在します。

 これは例外事項です。

 

障害者総合支援法にも例外事項が存在します。

 

事業者指定は基本的に都道府県の役割ですが,指定特定相談支援事業者の指定は市町村の役割となっています。


指定一般相談支援事業者の指定は都道府県の役割です。


指定特定相談支援事業者の指定  → 市町村


指定一般相談支援事業者の指定  → 都道府県

 


2 地域生活支援事業の実施については,市町村は必ず行わなければならないが,都道府県はその判断に任されている。

 

介護保険法の地域支援事業には,都道府県が行うものは存在しませんが,障害者総合支援法の地域生活支援事業には,市町村,都道府県,それぞれに必須事業が存在します。

 

障害者総合支援法の地域生活支援事業に都道府県の役割が存在している理由は,市町村が実施するには向かない専門的なサービスを実施する必要があるからです。

 

3 厚生労働大臣は,障害福祉サービス等の提供体制を整備するために障害者基本計画を定める。

 

厚生労働大臣は,障害福祉サービス等の提供体制を整備するために定めるのは,「基本指針」です。

 

障害者基本計画は,障害者基本法に定められ,政府が多岐にわたる障害者施策の基本方針を定めます。

 

4 都道府県知事は,障害福祉サービス受給者証を交付する。

 

障害福祉サービス受給者証を交付するのは,市町村長です。

 

都道府県知事が交付するものは,身体障害者福祉法の身体障害者手帳,根拠法が存在しない療育手帳,精神保健福祉法の精神障害者保健福祉手帳です。

 

5 都道府県は,基幹相談支援センターを設置しなければならない。

 

基幹相談支援センターは,市町村が設置します。

以前は,設置は任意でしたが,現在は,努力義務に変わっています。


なお,介護保険法の地域包括支援センターの設置は,今も任意のままです。


基幹相談支援センターの設置 → 努力義務

地域包括支援センターの設置 → 任意

2025年1月22日水曜日

障害福祉サービスの覚え方

 日本の障害者福祉は,障害種別ごとに発展してきたことが特徴です。


2005年(平成17年)の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)は,障害種別をなくした障害福祉サービスに一元化したのが特徴です。


障害者福祉になじみがないとそれでも複雑に思うかもしれません。


高齢者福祉と異なり,就労支援系のサービスがあるのが,少しばかり複雑に感じさせる理由なのかもしれません。


しかし,旧体系に比べるとずっとシンプルで覚えやすくなっています。


障害福祉サービスは,名称で覚えることが可能です。


例えば,就労支援系サービスは,


就労していない → 就労移行支援 → 就労継続支援(A型・B型)

                 → 就労定着支援 


のイメージで覚えると押さえると良いです。


就労していない者が一般就労を目指して「就労支援移行」,一般就労できれば,「就労定着支援」,一般就労できなければ「就労継続支援」を利用する


というイメージです。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題58 

「障害者総合支援法」の障害福祉サービスに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 生活介護とは,医療を必要とし,常時介護を要する障害者に,機能訓練,看護,医学的管理の下における介護等を行うサービスである。

2 行動援護とは,外出時の移動中の介護を除き,重度障害者の居宅において,入浴,排せつ,食事等の介護等を行うサービスである。

3 自立生活援助とは,一人暮らし等の障害者が居宅で自立した生活を送れるよう,定期的な巡回訪問や随時通報による相談に応じ,助言等を行うサービスである。

4 就労移行支援とは,通常の事業所の雇用が困難な障害者に,就労の機会を提供し,必要な訓練などを行うサービスである。

5 就労継続支援とは,就労を希望し,通常の事業所の雇用が可能な障害者に,就労のために必要な訓練などを行うサービスである。

(注) 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。


早速解説です。


1 生活介護とは,医療を必要とし,常時介護を要する障害者に,機能訓練,看護,医学的管理の下における介護等を行うサービスである。


法制度では「医療」は「療養」という名称が使われることが多いようです。


障害福祉サービスでは,「介護」の名称がつくのが複数ありますが,そのうち医療に関するものは「療養介護」です。


生活介護は,高齢者分野ではデイサービスに近いです。

つまり,医療は含まない通所系サービスです。


国家試験では,居宅介護(介護保険では訪問介護)と混同させるように出題されるので,注意が必要です。



2 行動援護とは,外出時の移動中の介護を除き,重度障害者の居宅において,入浴,排せつ,食事等の介護等を行うサービスである。


重度障害者というヒントがあります。


重度訪問介護だとわかります。


行動援護は,知的障害者や精神障害者に対する外出支援です。


似たものには,同行援護があります。これは,視覚障害者に対する外出支援です。


3 自立生活援助とは,一人暮らし等の障害者が居宅で自立した生活を送れるよう,定期的な巡回訪問や随時通報による相談に応じ,助言等を行うサービスである。


これが正解です。


もしも自立生活援助がわからずとも,「自立した生活」というヒントから「自立生活援助」だと考えることが可能です。


4 就労移行支援とは,通常の事業所の雇用が困難な障害者に,就労の機会を提供し,必要な訓練などを行うサービスである。


通常の事業所の雇用が困難な障害者に対する就労支援サービスは,就労継続支援です。


A型は,雇用契約を締結して利用します。


B型は,雇用契約を締結しないで利用します。


5 就労継続支援とは,就労を希望し,通常の事業所の雇用が可能な障害者に,就労のために必要な訓練などを行うサービスである。


就労を希望して通常の事業所の雇用が可能な障害者が利用するのは,就労移行支援です。

就労継続支援と異なり,期間を定めて利用するのが特徴です。

2025年1月21日火曜日

「基本指針」「基本計画」は要注意!!

今回の問題は中央政府の役割です。

社会福祉士の国家試験では,厚生労働省と内閣府のものが出題されています。


内閣府が所管している法制度の代表

・障害者基本法

・子ども・子育て支援法


それでは,今日の問題です。



第30回・問題46 

次の記述のうち,厚生労働大臣の役割として,正しいものを1つ選びなさい。

1 介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針を定める。

2 都道府県が老人福祉計画に確保すべき老人福祉事業の量の目標を定めるに当たって従うべき基準を定める。

3 障害者基本法に規定される障害者基本計画を作成しなければならない。

4 市町村が市町村地域福祉計画を策定する際に参酌すべき基準を定める。

5 子ども・子育て支援事業計画の基本的な指針を定める。




国は,市町村・都道府県の上位計画である,基本指針,基本計画を策定します。

注意すべきなのは,厚生労働大臣ではなく,内閣総理大臣(政府)が定めるものがあることです。


それでは解説です

1 介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針を定める。

これが正解です。


2 都道府県が老人福祉計画に確保すべき老人福祉事業の量の目標を定めるに当たって従うべき基準を定める。

従うべき基準
標準
参酌すべき標準


というレベルがあります。

拘束力が高いのは,従うべき基準

拘束力が中くらいなのは,標準

拘束力が低いのは,参酌すべき標準


従うべき基準が定められるのは,職員配置,建物などの大きさなどです。

標準を定めるのは,施設や通所施設の定員などです。

参酌すべき標準が定められるのは,民生委員の定員などです。

確保すべき老人福祉事業の量の目標は,地域の実情によって変わります。

従うべき基準は適さないと思えればOKです。

正しくは,参酌すべき標準です。よって間違いです。


3 障害者基本法に規定される障害者基本計画を作成しなければならない。

障害者基本法は,特別な法律です。

なぜなら,障害者施策は,障害者権利条約に沿った国際的な協調が必要であり,多面的な施策が必要だからです。

そのため,内閣府が所管しています。内閣総理大臣が司令塔となり,関係省庁に対して,障害者施策を推進していきます。

障害者基本計画は,政府が作成します。よって間違いです。


4 市町村が市町村地域福祉計画を策定する際に参酌すべき基準を定める。

地域福祉計画には,国による上位計画がないことが特徴です。

よって,間違いです。


5 子ども・子育て支援事業計画の基本的な指針を定める。

子ども子育て支援法を含めた子ども・子育て関連3法も内閣府が所管しています。

そのため基本指針を定めるのは,内閣総理大臣となります。

よって間違いです。


〈今日のまとめ〉

 基本指針,基本計画を定めるのは,国です。

 その中には,厚生労働大臣が定めるものと内閣総理大臣(政府)が定めるものがあります。

 内閣総理大臣(政府)が定めるものは

 障害者基本計画
 子ども・子育て支援事業計画の基本指針


 要注意です!!

2025年1月20日月曜日

社会福祉法における地域福祉の推進の規定

社会福祉法は,地域共生社会の実現に向けて,近年は頻繁に改正を重ねています。

 

現在の地域福祉の推進については,以下のように規定されています。

 

(地域福祉の推進)

第四条 地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない。

 2 地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者(以下「地域住民等」という。)は、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるように、地域福祉の推進に努めなければならない。

 3 地域住民等は、地域福祉の推進に当たつては、福祉サービスを必要とする地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。)、保健医療、住まい、就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要とする地域住民の地域社会からの孤立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の活動に参加する機会が確保される上での各般の課題(以下「地域生活課題」という。)を把握し、地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関(以下「支援関係機関」という。)との連携等によりその解決を図るよう特に留意するものとする。

 

この中で注意すべきなのは,2点あります。

 

①地域福祉の推進主体

 ・地域住民

 ・社会福祉を目的とする事業を経営する者

 ・社会福祉に関する活動を行う者

 

これらは「地域住民等」と表記されます。

 

②地域住民等は,生活課題を把握し,支援関係機関との連携等によりその解決を図るよう特に留意するものとする。

 

地域住民等と表記されると違和感がありますが,これで良いのです。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題36 

社会福祉法に規定されている地域福祉に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 地域住民等は,地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に努めなければならない。

2 市町村は,市町村地域福祉計画を市町村社会福祉協議会が策定する地域福祉活動計画と一体的に策定しなければならない。

3 都道府県は,福祉サービスを必要とする地域住民の地域生活課題を把握し,支援関係機関と連携して解決を図るよう留意しなければならない。

4 社会福祉を目的とする事業を経営する者は,地域福祉の推進に係る取組を行う他の地域住民等に助言と指導を行わなければならない。

5 国及び地方公共団体は,地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めなければならない。

 

知識がなければ,正解するのはかなり難しいと思うかもしれません。

 

しかしおかしな内容の選択肢もあるので,落ち着いて問題を読めば,正解できなくもないでしょう。

 

この問題の正解は,選択肢5です。

5 国及び地方公共団体は,地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めなければならない。

 

迷うのは,義務なのか,努力義務なのか,だと思いますが,丁寧に読んでいけば,消去法でこの選択肢が残ります。

 

それでは,消去していきたいと思います。

 

1 地域住民等は,地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に努めなければならない。

 

体制の整備は,国あるいは地方公共団体が行うものです。

 

この場合(域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制)の整備を行うのは,市町村の役割です。

 

2 市町村は,市町村地域福祉計画を市町村社会福祉協議会が策定する地域福祉活動計画と一体的に策定しなければならない。

 

市町村によっては,地域福祉活動計画は,市町村地域福祉計画と一体のものとして作成しているところもあります。

 

しかし,だからといって,法で規定されていると考えるのは浅はかです。こんな規定はありませんし,地域福祉活動計画は根拠法はない民間計画です。かなり重要なことだと思いますが,意外とこの視点が抜け落ちるみたいです。

 

3 都道府県は,福祉サービスを必要とする地域住民の地域生活課題を把握し,支援関係機関と連携して解決を図るよう留意しなければならない。

 

地域住民に対して,直接的なサービスを行うのは,市町村です。

 

都道府県が行うのは,広域的な立場から行うものや専門性の高いものなどです。

 

この基本を押さえておくと何かと役立つと思います。

 

4 社会福祉を目的とする事業を経営する者は,地域福祉の推進に係る取組を行う他の地域住民等に助言と指導を行わなければならない。

 

このような規定はありません。

 

ということで,選択肢5が残ります。

 

こういった問題を解く際,重要なことは慌てて答えを選ばないことです。

どこかにヒントはあるものです。試験委員もそのように作っている様子が問題からうかがえます。

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