質問紙に記入する方法は
調査対象者が記入する自記式(自計式)
調査者が記入する他記式(他計式)
があります。
自記式の「自」というのは誰のことを言っているのか分かりにくいので,国試ではこういったところがねらわれます。
自記式の「自」は,自分(調査者)ではなく,調査対象者のことを指します。
しっかり押さえましょう。
それでは今日の問題です。
第26回・問題86 質問紙を用いる調査方法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 訪問面接法,留置法,郵送法,電話法を自記式か他記式かに着目して分類すると,訪問面接法と電話法が他記式であり,留置法と郵送法が自記式である。
2 犯罪や性行動など,多くの調査対象者が自分からは答えたがらない質問内容については,郵送法よりは調査員が訪問して質問する訪問面接法の方が適している。
3 訪問面接法では,調査員と調査対象者が面接することになるが,両者の関係によって回答結果が影響を受けることはない。
4 他記式に比べて自記式は,社会的に望ましい内容に同調する回答の選択を選びがちになる。
5 留置法では,調査票回収時に調査員が,本当に調査対象者が回答を記入したかどうかのチェックをしてはいけない。
想像力が必要な問題は結構あります。
頭を柔らかくしておくことが必要です。これについては<今日の一言>で解説します。
それでは解説です。
1 訪問面接法,留置法,郵送法,電話法を自記式か他記式かに着目して分類すると,訪問面接法と電話法が他記式であり,留置法と郵送法が自記式である。
これが正解です。
訪問面接法と電話法は調査者が記入するので,他記式です。
留置法は,調査者が調査対象者に調査票を渡して,後日回収するといった配布・回収う方です。留置法と郵送法は自記式です。
2 犯罪や性行動など,多くの調査対象者が自分からは答えたがらない質問内容については,郵送法よりは調査員が訪問して質問する訪問面接法の方が適している。
これは間違いです。
人に言いにくいことは,自記式の方が向いています。
「私は〇〇フェチです」なんてことは,調査員には言いにくいものでしょう。
想像力が求められる問題です。
これと同じようなタイプの問題が第30回にも出題されています。
訪問面接調査法は,プライバシーに関わる質問をするのに適している。
今日の問題と同じように,訪問面接調査法などの他記式は,人に言いにくいものはあまり適さないと言えます。人に言いにくい質問は,郵送法,留置調査法など,自記式が適します。
この問題は後日詳しく解説します。
3 訪問面接法では,調査員と調査対象者が面接することになるが,両者の関係によって回答結果が影響を受けることはない。
これも間違いです。
調査員と調査対象者がもし知り合いであれば,「この人はこんなことを考えていたのか」と思われたくないという心理が働くこともあります。
そうすると,無難な回答をするかもしれません。たとえ知り合いでなくとも,同じような心理は働くことは十分に考えられます。
4 他記式に比べて自記式は,社会的に望ましい内容に同調する回答の選択を選びがちになる。
これも間違いです。
社会的に望ましい内容に同調する回答の選択を選びがちになるのは,他記式です。自分で記入する自記式では比較的本音で答えやすくなります。
5 留置法では,調査票回収時に調査員が,本当に調査対象者が回答を記入したかどうかのチェックをしてはいけない。
これも間違いです。
留置法では,誰が実際に記入したのかが分からないので,回収時に確認するのは大切なことです。
<今日の一言>
国家試験で,何度も受験してもなかなか合格できないという人の傾向を考えてみたいと思います。
今までの勉強を通して,知識は十分あると考えられます。
中には10回以上受験している人もいます。
第26回の国家試験を受験された方は,その時に今日の問題は解けたでしょうか。
多くの方は,解けなかったのではないかと考えます。
それと同じように第30回・問題88も正解できなかったのではないでしょうか(この問題は後日解説します)。
これらの問題は,「自記式」(自計式)「他記式」(他計式)の意味を正しく理解しておくという基礎力は最低限必要とされていますが,それに加えて想像力が必要です。
何度も国試にチャレンジされている方は,とてもまじめな方です。
そうでなければおそらくとっくに受験をあきらめていることでしょう。
しかし真面目な故に,国試ではがちがちになってしまって柔軟な思考ができなくなる傾向があります。
今日の問題は,「後から問題を読めば解けた」というタイプの問題だと思います。
よくよく読んでみたら,選択肢1の自記式,他記式の記述は正しいことが分かります。
しかし,国試で必要なことは,「後から問題を読めば解けた」ではなく,「試験会場で解けた」でなければなりません。
合格基準点に届かなかった人で「後から読んでも解ける問題がなかった」という方は,明らかに知識不足です。そういった方は,ひたすら1年をかけて勉強すべきです。
そうではなく,「後から問題を読めば解けた」という問題が数問あり,それが正解できていれば,合格点に到達していたという方が圧倒的に多いと思います。
そういった方は,要注意です。
抽象的な言い方をすれば,
慎重になりすぎて正解にたどりつけなかった
と言えるからです。
真面目な方は,勉強していた時に,分からない言葉が出てきたら,その都度調べて対応していたと思います。
しかし,国試会場では,調べることはできませんし,教えてくれる人もいません
国試で得点を伸ばす人の特徴は
答えが分からなくても,正解にたどりつくことができるセンスの持ち主です。
具体的に言えば,
大胆に考えることができる柔軟な思考です。
もちろんベースになる知識はしっかり持っていることは必要です。
しかしそれでも分からないものは出題されます。
その時に「これは●●のことを述べているのだろう」と推測するのと「この言葉は分からない。困った」と行き詰ってしまうのでは,大きな差があります。
「大胆に考える」とは,分からないことがあっても,おおよその意味をつかむことにほかなりません。
国家試験会場は独特の緊張感にあふれています。冷静になるのはとても難しいことです。
最後の力となるのは,
大胆に考える柔軟な思考です。
これができると国試では必ず合格基準点を超えることができます。
試験委員の仕掛けたトラップをうまく避けることができるからです。
慎重なことは必要です。
しかし慎重になりすぎて,ここに引っ掛けがあるのはないかと疑い始めたら自滅します。
今の国家試験問題は,文字数が少ないので言い回しで引っ掛けることでできないこともあり,素直に考えたほうが良い結果となります。
出題基準に示された内容をしっかり積み重ねてきた人は,ちゃんと合格基準点を超えられます。今の国試問題はそのように作られています。
後は,自信をもって,国試に臨む強いこころを持つことです。そうすれば,必ず合格基準点を超えられます。
特に何度も受験されてきた方は,強いこころをもって「大胆に考える」ということを心がけましょう。そうすれば,必ず合格基準点を超えられます。
出題基準に示された内容をしっかり積み重ねてきた人は,ちゃんと合格基準点を超えられるように今の国試問題は作られています。
自信をもって,国試に臨むことができる強いこころを持ちましょう!!
そのためには,必要以上に不安になることなく,今までの勉強をひたすら繰り返すことが何よりも大切です。
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