量的調査で多く用いられる方法は,質問に答えてもらう質問紙調査ではないでしょうか。
国家試験の出題基準では
5)質問紙の作成方法と留意点
6)調査票の配布と回収
が示されています。
順番で言えば,「質問紙の作成方法と留意点」が先ですが,簡単であり,出題頻度の高い6)を先に紹介したいと思います。
国試に出題されたのは,第25回,第26回,第28回,第29回,第30回です。
3年連続の出題ですし,第27回に出題されていないことから,第31回には出題されない可能性は高いです。
しかしヤマを張らない主義を推し進める立場では,これ以上の高確率の出題頻度のものはそんなに多くはないので外すわけにはいかないのです。
これまでに出題されたもの
郵送調査法
個別面接調査法
RDD
集合調査法
留置調査法
インターネット調査
自記式(自計式)
他記式(他計式)
5回も出題されているのに,出題されているのは,たった7項目です。
つまり同じ内容が繰り返し出題されているのです。
間違うのはもったいないです。
それでは今日の問題です。
第25回・問題87社会調査におけるデータ収集方法に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
1 郵送調査法においては,未回収の対象者に対して何度か督促を行うことを想定してあらかじめ督促状を準備する。
2 個別面接調査法は,個々の対象者に調査員が直接面接して行う自計式の調査である。
3 RDD(Random Digit Dialing)法を用いた電話調査では,対象とする調査地域の電話帳を用いる。
4 集合調査法は,一種の集団効果が作用してバイアスが生じることがある。
5 留置調査法では,対象者を個別に訪問するため,対象者本人の回答であることを確認できるというメリットがある。
第25回国試から「2つ選ぶ」問題が出題されるようになりました。
2つ選ぶ問題の出題数(共通科目・専門科目合わせて)は以下の通りです
第25回 12問
第26回 16問
第27回 15問
第28回 20問
第29回 12問
第30回 11問
第28回の20問は多すぎたという反省があったのか分かりませんが,次の第29回から数が減っています。
2つ選ぶ問題の数が少ないということは,突然2つ選ぶ問題が出現することを意味します。うっかりミスも起きがちになりますので,十二分に気を付けましょう。
それでは解説です。
1 郵送調査法においては,未回収の対象者に対して何度か督促を行うことを想定してあらかじめ督促状を準備する。
これは正解です。
調査票の配布・回収の方法でよく使われるのが,郵送法です。
郵送調査法のメリットはコストがあまりかからないため,手軽に行える方法であるのがメリットです。しかしデメリットは回収率が低いことです。
突然調査票が送られてきたとしたら,あなたは協力しますか?
もちろん協力してくれる人がいるため,郵送調査法は成り立ちますが,一般的には協力してくれる人はそんなに多くはないと思います。
そこで回収率を高めるため,督促状を郵送するという方法を取ります。
督促状をあらかじめ準備するのは,時間を置かずに送付するためです。送付時期が遅くなると,督促状の効果が薄れるためです。
2 個別面接調査法は,個々の対象者に調査員が直接面接して行う自計式の調査である。
これは間違いです。
自計式(自記式)と他計式(他記式)は理解しにくいために,引っ掛けで何度も何度も出題されています。
自は,調査対象者が「自ら」記入することを指しています。
他は,調査者が調査対象者に代わって記入するため「他」と表現します。
個別面接調査法は,調査員が記入するので「他計式」です。
個別面接調査法は,直接面接して行うので,人には言いにくいことは答えにくいということを理解しておく必要があります。
質問したことが調査対象者の本音であるとは限らないということです。
3 RDD(Random Digit Dialing)法を用いた電話調査では,対象とする調査地域の電話帳を用いる。
これも間違いです。
RDDは,コンピュータでランダムに電話番号を発生させて電話をかけます。
電話帳を用いるのは伝統的な方法ですが,現代では電話帳の代わりにRDDを用いて電話調査を行います。
4 集合調査法は,一種の集団効果が作用してバイアスが生じることがある。
これは正解です。
集合調査法は,他の人もいるため,回答に影響を受ける可能性があります。
5 留置調査法では,対象者を個別に訪問するため,対象者本人の回答であることを確認できるというメリットがある。
これは間違いです。
留置調査法は,調査員が調査票を配布する方法です。郵送調査法に比べると回収率が高いのがメリットですが,コストがかかります。
またデメリットとしては,誰が回答したか分からないということもあります。
そこで,回収の時に「回答していただいたのは●●さんですか」と確認する方法もあります。本当は在宅高齢者に対する調査だったにもかかわらず,在宅高齢者の家族が変わりに回答しているということもあり得るからです。
<今日の一言>
調査票の配布・回収は,メリット・デメリットを整理しておくことが大切です。
おそらく,今まで国試に出題された内容を理解できれば,大丈夫だと思います。
今回も含めて,全5回ありますので,ぜひ参考にしてみてください。
次回から順に取り上げていきます。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...