今回も調査票の配布と回収です。
国家試験は,時間との戦いです。
時間内に解けなければなりません。「ゆっくり考えれば解ける」ではだめなのです。
国家試験の文字数が減ってきているのは,今まで何度も伝えてきたとおりですが,その逆に,柔軟な思考や想像力が求められる問題が出題されるようになっています。
そのような問題に対応するのは結構大変です。
タイマーで1問を解く時間を計って解く練習をするという人がいます。
チームfukufuku21は,そのような練習はあまりおすすめできないと考えています。
なぜなら,今書いたように柔軟な思考や想像力が求められる問題があるので,ちょっと立ち止まらなければならないこともあるからです。
そういった問題は,時間をかけて解くことも必要です。
午前2時間15分で83問,午後1時間45分で67問が収まればよいです。
その時間をいくつかのブロックに分けて,目安をつけておくと良いと思います。
すべての問題を90秒で解こうと思うと焦りが生じて,せっかく解ける問題もミスしてしまうことになりますので,注意が必要です。
さて,今日の問題も想像力が求められる問題です。
第29回・問題87 社会調査における調査票を用いた方法に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 郵送調査は,回答者が十分に時間をかけて回答することができるため,質問項目数の上限がないというメリットがある。
2 集合調査は,特定の団体が集まる会合の場で実施できるため,代表性のある標本を確保しやすいというメリットがある。
3 電話調査は,近年,固定電話に加え,携帯電話を持つ人が増えてきたため,回収率が高いというメリットがある。
4 留置調査は,調査票を配布したその場で回答がなされないため,他の方法に比べて回収率が低いというデメリットがある。
5 インターネット調査は,インターネット上で調査対象者を公募する場合,代表性の偏りが生じるというデメリットがある。
前回と前々回で紹介した問題で出題された項目とほとんど一緒ですが,メリット,デメリットは切り口が変わるので,決して簡単な問題ではないです。
柔軟な思考と想像力が求められる問題とはこういった内容のものです。
今日の問題は,自分が調査対象者だとしたらどうなのだろうと想像することが必要です。
それでは,解説です。
1 郵送調査は,回答者が十分に時間をかけて回答することができるため,質問項目数の上限がないというメリットがある。
これは間違いです。
自分が調査対象者だとしたら,質問項目が多いと答えるのが面倒だと思いませんか?
郵送調査は,事業所などに送られてくることが多いと思います。
回答する義務や義理がなければ,無視することも多いと思います。そのため,郵送調査は手軽にできる調査である反面,回収率が低くなります。
質問項目が多いと面倒なので,さらに回収率が下がってしまいます。
そのため,質問項目数に上限は存在しませんが,適切な項目数は存在するのです。
質問が1,000項目もあったら大変です。
2 集合調査は,特定の団体が集まる会合の場で実施できるため,代表性のある標本を確保しやすいというメリットがある。
これも間違いです。
集合調査は,調査対象者に集まってきてもらって,その場で調査する方法です。
代表性のある標本を確保するためには,無作為抽出でなければなりません。
特定の団体が集まる会合の出席メンバーを無作為抽出したところで,もともと会合に集まっている人は,ある目的や興味・関心が共通しているので,代表性のある標本にはなり得ません。
極端な例を言えば,ある政党の会合に集まっている場で,世論調査を行った場合,一般的な意見とは違うものとなってしまいます。
3 電話調査は,近年,固定電話に加え,携帯電話を持つ人が増えてきたため,回収率が高いというメリットがある。
これも間違いです。
携帯電話では,知らない番号からかかってきたら電話には出ないという人は結構います。
そのため,携帯電話が普及したとしても,回収率が高くなるは限りません。
4 留置調査は,調査票を配布したその場で回答がなされないため,他の方法に比べて回収率が低いというデメリットがある。
これも間違いです。
郵送調査は,突然送られてくることが多いので,調査に協力しようと思う人はそれほど多くはありません。
それに対して,留置調査は,調査員が訪問してお願いするので,協力してくれる可能性は高いです。
回収率が低いのは,郵送調査
これだけはしっかり押さえておきたいです。
5 インターネット調査は,インターネット上で調査対象者を公募する場合,代表性の偏りが生じるというデメリットがある。
これが正解です。
経費も労力も最もかからないのは,インターネット調査です。インターネットにつながるPC等があれば,実施することができます。
しかし,インターネット調査は,調査に協力してくれる人がその内容に興味がある人が回答します。
興味がない人はそこにアクセスすることもわざわざ時間をかけて回答することもないでしょう。
現在のところ,インターネット調査で無作為抽出する方法は開発されていません。
<今日の一言>
今日の問題は,決して難易度が高い問題ではありません。
そのため,解説を読めば「ああ,なるほど」とわかるでしょう。
しかし,国試会場で正しく正解を選ぶのは,簡単ではありません。
先述のように,柔軟な思考と想像力が必要だからです。
国試対策としてたくさんの問題を解く必要があるのは,柔軟な思考と想像力を高める訓練でもあるのです。
社会科学系の学問である社会福祉学は,看護学や医学などの自然科学系とは違った難しさが存在しています。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...