今回も標本調査に取り組んでいきましょう。
量的調査には,母集団すべてを調査する「全数調査」と母集団から標本を抽出する「標本調査」があります。
全数調査は,母集団すべてを調査するので,母集団の性質を正しく知ることができます。
しかし,母集団が大きいと母集団すべてを調査するのが大変なので,標本調査が行われます。
抽出する標本は,母集団の性質と同じようにならなければなりません。
そのために「無作為抽出」という方法を取ります。
しかし,全数調査ではないので,どのように緻密に設計したものでも,母集団の性質とはぴったり同じになりません。これを「標本誤差」といいます。
それでは今日の問題です。
第30回・問題86 全数調査と標本調査に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 標本調査の場合,測定誤差は生じない。
2 無作為抽出による標本調査の場合,母集団の性質について統計的に推測できる。
3 標本調査の場合,標本誤差は生じない。
4 全数調査の場合,測定誤差は生じない。
5 全数調査の場合,母集団から一部を取り出し,取り出した全員を対象に調査する。
問題としてのバランスが悪い問題です。選択肢の長さがバラバラです。
標本調査と全数調査で分けるとこのような形になると思いますが,問題の美しさから言えば,
1 標本調査の場合,測定誤差は生じない。
2 標本調査の場合,標本誤差は生じない。
3 全数調査の場合,測定誤差は生じない。
4 全数調査の場合,母集団から一部を取り出し,取り出した全員を対象に調査する。
5 無作為抽出による標本調査の場合,母集団の性質について統計的に推測できる
とした方が良かったように思います。
測定誤差,標本誤差はセットになるものですね。
「セット入れ替え手法」には十分に気を付けなければなりません。
しかし,この問題では,測定誤差,標本誤差の両方を出題しているので,勉強をしっかりした人は引っかかりにくいことでしょう。
セット入れ替え手法で,要注意なのは,セットになるものを両方出題する場合ではなく,セットの一方だけを出題するバターンです。
セットになるものが出題されたときは,その部分を特に注意してみましょう。
それでは解説です。
1 標本調査の場合,測定誤差は生じない。
これは間違いです。
測定誤差は,実際に測定する時のミスです。
ご記入,未回答などのことです。
測定誤差は,標本調査でも全数調査でも生じます。人が行うことですから当然ですね。
2 無作為抽出による標本調査の場合,母集団の性質について統計的に推測できる。
これが正解です。
母集団の性質を統計的に推測できる,というのは,抽出した標本の平均点,平均体重,平均年収などを出したとき,母集団も同じような数値になっているだろうと推測できるといった意味です。
実際の国試では,これを正解にするのは勇気がいることでしょう。
なぜなら「推測できる」という言い切り型になっているからです。
しかし国試はそれほどいやらしい出題はしません。
素直に考えるのが良いです。「無作為抽出であっても,母集団の性質を推測するのは難しいだろう」と変に勘繰るのは間違いのもとです。
十分気を付けましょう。
3 標本調査の場合,標本誤差は生じない。
これは間違いです。
標本調査は,全数調査ではないので,どれだけ緻密に設計した標本調査であっても,標本誤差を生じます。
一般的に,標本誤差を小さくするためには,サンプル数を多くすることを行います。
それでも標本誤差は生じます。
4 全数調査の場合,測定誤差は生じない。
これも間違いです。
全数調査は,母集団すべてを調査するので標本誤差は生じません。
しかし,ご記入,未回答などは生じます。これを測定誤差といいます。
測定誤差は,全数調査でも標本調査でも生じます。
また,後日紹介する,調査対象者が記入する「自記式」でも調査者が記入する「他記式」でも測定誤差は生じます。
「自記式」「他記式」もセットものです。
セット入れ替え作問法にくれぐれも注意しましょう!!
5 全数調査の場合,母集団から一部を取り出し,取り出した全員を対象に調査する。
これも間違いです。
国家試験会場ではうっかりミスをしてしまいそうな文章ですが,全数調査は母集団すべてを調査します。母集団から一部を取り出すと全数調査ではなくなってしまいます。
<今日の一言>
社会調査は,多くの人にとってなじみがあまりない領域だと思います。
そのため「何となく勉強が難しそう」というイメージがあると思います。
そういった意味では,現行カリキュラムの第1回国試の第22回国試問題は「難しい科目」というイメージ戦略に成功したと言えます。
実際には,それほど難しくないのに,受験生が勝手に「難しい」と思って苦手意識を持っているため,自滅してくれるのです。
このブログを読んでくれている方は,そのイメージをぜひ払しょくして,大いに得点していただきたいと思います。
国試の合格基準点がもし高止まりするようなことがあれば,他の受験者に差をつけられるのは,「社会調査の基礎」だと考えています。
しばらくこの科目が続きますが,国試までお付き合いくださいね。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...