この学習部屋は,2017年4月に始めました。
なかなか合格をつかむことができない仲間を応援することが目的でした。
そのため,2017年はあと数点上乗せするための方法,問題の読み取り方を徹底的に紹介しました。
2018年は,基本的に解答テクニックを封印して,問題の読み取り方の本質を紹介してきました。理由は,問題文がどんどん短くなっているので,しっかり実力を蓄えると問題が解けるようになってきたからです。
このことはとても重要なことです。
以前は,問題文が長かったために,一つの文章に二重三重にトラップを仕掛けることができたので,正しいように見えると,すべてが正しく見えてきてしまうのです。
別な言い方をすると,すべてが間違いに見えてきてしまうのです。
その結果として,合格基準点は,80点台の前半になることが多かったのです。
勉強した人も得点できなかったためです。
試験センターが合格率30%,合格基準点90点を理想だと考えているのではないかと思うことがよくあります。
つまらないミス,特に読み間違いによるものですが,こういうものは極力避けなければなりません。
そんなことで今日も解答テクニックを紹介しますが,本当に重要なのは,落ち着いた気持ちを持つことです。
心の余裕をもつための解答テクニックだと思うと,もっと落ち着けるのではないでしょうか。
それでは今日の問題です。
第25回・選択肢90 調査手法としての観察法に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 観察法は質的データを収集するための方法であり,量的データの収集においては用いられない。
2 統制的観察と非統制的観察の違いは,研究者が部外者として観察を行うか否かである。
3 フィールドワーカーの調査者としての立場は,「完全な参加者」から「完全な観察者」まで4段階があるが,よりよいデータ収集のためには「完全な観察者」の役割を目指すのが望ましい。
4 フィールドワークにおいて,観察されたことのメモをとる場合には,周囲の状況にかかわらず,観察を行ったその場で速やかにとることが望ましい。
5 参与観察において,その集団生活に慣れ,調査対象に同化し過ぎることは望ましくない。
今日の問題は,「魔の第25回国試」と呼んでいる合格基準点が過去最低の72点になった年の問題です。
「社会調査の基礎」らしい言い方をすると・・・
「範囲」は27です。(範囲=最大値―最小値)
第25回国試は,ひどい問題ばかりかというと,そうでもない問題もちゃんと存在します。
そのような問題がしっかり読めて得点を稼ぐことで,国家試験は合格できます。
それでは,解答テクニックを意識しながら解説していきましょう。
1 観察法は質的データを収集するための方法であり,量的データの収集においては用いられない。
これは間違いです。
言い切り表現に正解少なし
観察法は,面接法とともに質的調査の方法の中心です。
しかし量的データの収集にも使えます。
よく用いられるのが,街中での観察です。
例えば,通行する車の色を調べます。
同じ地域の歩く人のコートの色を調べます。
車の色とコートの色には関連があるのか
ほかの地域との差はあるのか,などを検証します。
色は名義尺度です。これはカテゴリー化されています。
なぜなら,調査員が,これは「赤」,あれも「赤」と判断してカウントしますが,この赤とあの赤では同じではありません。それをまとめて「赤」とカテゴリー化します。
名義尺度と順序尺度は,カテゴリー化された定性的データです。
これらをまとめるとクロス集計表となります。
クロス集計を見ただけでは,関連があるかどうかどうかわかりません。そこで「χ(カイ)二乗検定」などを用いて関連を調べます。
間隔尺度と比例尺度は,数値が連続した定量的データです。このままだとクロス集計表にまとめることができないので,数値を区切ってカテゴリー化します。そうすることでクロス集計表にまとめることができます。
クロス集計は,χ二乗検定などを使って関連を調べます。
しかし数値を区切っていない連続した定量的データではχ二乗検定ではなく,「ピアソンの積率相関係数」を用いて関連を調べます。
クロス集計(定性的データ) → χ二乗検定
定量的データ → ピアソンの積率相関係数
質的調査も仮説の検証のために行われることもありますが,基本的に,仮説の検証のために行うのは量的調査であることも覚えておきましょう。
質的調査のデータの分析方法でよく出題されるのは,「KJ法」と「グラウンデッドセオリー」ですが,いずれも仮説をベースにせず,分析を通して新しい発見をしていくものです。これも覚えておきたいです。
話を戻します。
言い切り表現に正解少なし
を考えてみましょう。
10,000の事象があった場合,1回でも例外が発生すると,その命題は成立しなくなってしまいます。9,999回はそうであったとしても,たった1回でも例外があると成り立たないのです。
それに対して
あいまい表現に正解多し
は,「●●することがある」
といったものです。
10,000の事象があった場合,1回でも例外が発生すると,その命題は成立します。9,999回はそうでなかったとしても,たった1回でも例外があると成り立つのです。
①のび太君は,テストで100点を取ることはない。(言い切り表現)
②のび太君は,テストで100点を取ることもある。(あいまい表現)
ドラえもんののび太君だって,たまには100点を取ることもあるでしょう。このように②の「あいまい表現に正解多し」の方が,成立しやすいのです。
2 統制的観察と非統制的観察の違いは,研究者が部外者として観察を行うか否かである。
これも間違いです。
これだけは,知識がないと解けないものかもしれません。
研究者が部外者として観察を行うか否か,の違いがあるのは,参与的観察と非参与的観察です。
前回の問題では
参与観察と非参与観察の違いは,観察に当たって,調査者が観察対象者に具体的な指示を出すか出さないかである。
いう出題がありましたね。これは間違いです。
統制的観察,非統制的観察は,知らないと解けないと思うかもしれませんが,内容をよく読んでみると,参与的観察と非参与的観察であることがわかります。焦るとだめです。気をつけてくださいね。
統制的観察と非統制的観察の違いでは,観察ポイントをあらかじめ決めて観察するか否かの違いです。
例えば,先述の通行するときの車を観察する時,「色」を調べると言いました。
これは「色」という観察ポイントを決めているので,統制的観察となります。
そういったことを決めないで,観察するのが非統制的観察です。色だけではなく,メーカー,車の種類,など別な視点も持ちながら,観察していきます。
3 フィールドワーカーの調査者としての立場は,「完全な参加者」から「完全な観察者」まで4段階があるが,よりよいデータ収集のためには「完全な観察者」の役割を目指すのが望ましい。
これも間違いです。
「望ましい」「望ましくない」は,正解になりにくいものです。
非参与的観察の場合は,「完全な観察者」の役割を目指すのが望ましいかもしれません。
しかし参与的観察の場合は,場面場面によって役割が変わります。生活をともにして観察を行っている場合,他の人が食事の準備や洗濯をしているのに,手伝うことをせずに「完全な観察者」に徹していたら,追い出されてしまうかもしれません。
そんなときは一緒に食事の準備,洗濯をして,「完全な参加者」となります。
4 フィールドワークにおいて,観察されたことのメモをとる場合には,周囲の状況にかかわらず,観察を行ったその場で速やかにとることが望ましい。
これも間違いです。
「望ましい」「望ましくない」は正解になりにくいものです。
完全な観察者になっているときは,その役割に徹します。メモするならそれが一段落してからが「望ましい」と言えるでしょう。
5 参与観察において,その集団生活に慣れ,調査対象に同化し過ぎることは望ましくない。
これが正解です。
「望ましい」「望ましくない」は基本的に正解になりにくいものです。
そのことを逆手にとった出題もできます。
参与観察は,その集団に慣れることはとても重要です。非参与観察では見せてくれないものを見せてくれることもあります。
しかし,同化しすぎると客観的な観察が妨げられることもあります。何事も度を過ぎると不適切になるものです。
<今日の一言>
今日の問題は,ちゃんと勉強してきた人にとっては,決して難しいものではないでしょう。
しかし,試験会場ではうっかりミスは起きるものです。
国試問題は人が作成しています。
将来的には,AI(人工知能)が作成する時代もやってくるかもしれません。
しかし,それはもう少し先の話です。
人が作るものには,どこかに手がかりがあるものです。
問題文が短くなっている現在の問題では解答テクニックが使えるものは少なくなっているかもしれませんが,こういうものを知っておくことで心の余裕が生まれます。
緊張感あふれた国試会場では,心の余裕をもって臨むことが本当に大切です。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...