2019年1月2日水曜日

虐待防止法の整理(1/3)

社会福祉士の試験は,出題基準に示された内容を軸に出題されています。

出題範囲はとてつもなく広く感じるかもしれませんが,一応有限です。

「権利擁護と成年後見制度」では,出題基準のどこに位置付けられるのかが明確ではないように思うものがあります。

それが今回から取り組む虐待防止法です。

参考書などでは,便宜上「6 権利擁護活動の実際」に分類していることが多いようです。

社会福祉士の場合は,あえてこの科目で虐待防止法で出題しなくても,他の科目で出題することができますが,精神保健福祉士の場合は,第25回国試(精神保健福祉士の場合は第15回)に「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」が専門科目から共通科目に移動するまで,虐待防止法を学ぶ機会は「権利擁護と成年後見制度」しかなかったのです。

社会福祉士を受験する人にとっては,専門科目とこの科目の2科目で出題されるので,家確実に覚えておきたい領域です。

国試で出題されたのは3回,第23回,第25回,第29回です。

その今回は,第25回の問題を取り上げます。

この年は,先述のように「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」が専門科目から共通科目に引っ越ししてきた年です。

それが影響したのだと思いますが,ほかの2回に比べて内容が難しいです。

それでは今日の問題です。

第25回・問題83 「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 この法律において「障害者虐待」とは,養護者による障害者虐待,障害者福祉施設従事者による障害者虐待のことをいう。

2 この法律では,虐待の通報があった場合,市町村の障害者福祉担当職員は,当該障害者の住所又は居所に速やかに立入調査をしなければならない。

3 この法律により,市町村は市町村障害者虐待防止センター,都道府県は都道府県障害者権利擁護センターとしての機能を果たすことが義務づけられた。

4 この法律では,国及び地方公共団体に,成年後見制度の利用促進のための措置を講じることを求める規定は定められていない。

5 この法律の施行により,障害児の虐待防止に関する事項は,「児童虐待防止法」ではなくこの法律の対象となった。

この問題の難易度は極めて高いものでしょう。

そのため,この時点では得点できなくてもよかった問題です。

国試には,「得点できなくても良い」というレベルで出題している問題が存在します。

それについては,<今日の一言>で述べていますので,ぜひご参考にしてください。

それでは解説です。

1 この法律において「障害者虐待」とは,養護者による障害者虐待,障害者福祉施設従事者による障害者虐待のことをいう。

これは間違いです。

障害者虐待防止法における障害者虐待には,「使用者による虐待」が含まれるのが特徴です。

別な言い方をすれば,

「使用者による虐待」が含まれるのは「障害者虐待防止法のみ」!

ちょっと表現を変えるだけで,グッと覚えやすくなるでしょう。こういった小さな積み重ねが国試会場では大きな力となるのです。

なお,使用者とは,雇用者を指します。

野島伸司氏脚本のTVドラマ「聖者の行進」で描かれた障害者虐待は,放映当時社会に大きな波紋を広げましたが,実際に起こった使用者による虐待事件をもとにつくられたものです。

使用者による虐待が起きる可能性があることは,絶対に忘れてはなりません。


2 この法律では,虐待の通報があった場合,市町村の障害者福祉担当職員は,当該障害者の住所又は居所に速やかに立入調査をしなければならない。

これも間違いです。

実際にこの年の国試を受験した人の多くは,この選択肢を正解にしたのではないかと思います。

「住所又は居所に速やかに立入調査をしなければならない」ではなく,正しくは「住所又は居所に立ち入り,必要な調査又は質問をさせることができる」です。

つまり,立入調査は義務ではなく,任意だということです。


3 この法律により,市町村は市町村障害者虐待防止センター,都道府県は都道府県障害者権利擁護センターとしての機能を果たすことが義務づけられた。

これが正解です。

市町村は市町村障害者虐待防止センター,都道府県は都道府県障害者権利擁護センターとしての機能を果たすことが義務づけられています。

これは,市町村,都道府県が通報先に規定(都道府県は使用者による虐待の場合の通報先)されたことに関連しています。実際は自治体直営でなくても委託可能です。


4 この法律では,国及び地方公共団体に,成年後見制度の利用促進のための措置を講じることを求める規定は定められていない。

これも間違いです。

内容うんぬんよりも,「定められていない」というのは文章的に正解にはなりにくいものです。国試に出題するのは意味があることだという大前提があります。

「定められていること」を出題するのは意味があります。

「定められていないこと」を出題するのは意味がないことです。

もちろん定められています。


5 この法律の施行により,障害児の虐待防止に関する事項は,「児童虐待防止法」ではなくこの法律の対象となった。

これも間違いです。

障害児の虐待防止は,発見が極めて難しいものです。

そのため,障害者虐待防止法だけではなく,状況に合わせて児童虐待防止法,児童福祉法などを適用することになります。


<今日の一言>

国試の合格基準は,6割程度の得点があった者です。

「6割程度」であって「6割」ではないので,自己採点で90点前後だった人は,合格発表当日まで悶々として過ごすことになります。

「6割以上」と明記できない理由は,問題の難易度によって受験生の点数が大きく変わるからです。

そこで難易度で合格基準を補正することになります。

補正基準は明らかにされていませんが,チームfukufuku21は,受験生全体の問題ごとの正解率から算出しているのではないかと推測しています。

試験センターは,当初見込みとして平均して60%程度の正解率になるように出題します。

試験センターは第1回国試からの受験者の膨大なデータがあるので,どんな問題ならどのくらいの正解率になるのか,おおよそ予測できるはずです。

実際には,予測通りにはなりません。正解率60%よりも上回った場合は,ブラス補正,それよりも下回った場合は,マイナス補正します。

その結果として,合格基準点が上下します。これがチームfukufuku21の推測です。

なお,当初予想の60%ですが,今日の問題のような難易度が高い問題を出題する場合は,どこかの問題で難易度が低い問題を出題すれば,バランスが取れます。

正解率0%という問題があっても,正解率100%の問題があればよいのです。

さて,ここからが結論です。

みんなが解けない問題はみんなが解けないので,受験者に差がつかないため,正解できなくても良いのです。

その代わり,みんなが解ける問題は,確実に得点しなければなりません。

あるいは,家に帰る途中で問題を解いたら答えが分かった,という問題を極力なくすことです

受験者の能力は,みんなそんなに変わりません。勉強は誰もが辛いものです。

国試会場では,とにかく落ち着いて,問題をじっくり読むことが大切です。

落ち着くことができれば,普段以上の力を発揮することもできます。

これからの勉強では覚えていないことが分かってくるので,とても焦ると思います。

しかし,国試の問題の中には必ず答えがあります。

覚えられていないと思っても何度も繰り返して勉強することで,国試当日の「ひらめき」につながります。

国試問題が難しいと思ったらひらめくことはないでしょう。

国試の問題の中には必ず答えがあります。

限りないものから選ぶのではなく,たった5つの選択肢の中から,1つ,あるいは2つ選ぶだけのことです。

難しそうに見えるだけで,勉強をしっかりやってきた人が落ち着いてよくよく見ると正解にたどり着けるタイプの問題が大半です。

難しい問題にぶち当たったときは,試験委員からの挑戦状です。
勉強してきた人だけが分かるようなヒントを隠しています。

名探偵になったつもりで,問題に仕掛けられたなぞ解きを楽しみましょう!!

そういった心に余裕をもつことで,国試での得点力は飛躍的に伸びることでしょう。

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