社会福祉士の国家試験は,平成元年に第1回試験が実施されました。
そのため,年号と国試の実施回が一緒でした。
それも第31回が最後です。
国試問題は第1回と第2回が非公開だったので,世に出回っている問題は,第3回以降です。
今,どの回の過去問を振り返っても,取り立てて変わったという感じはしないでしょう。
しかし,国試問題はいつも少しずつスタイルを変えて出題されています。
国試を終わった時の感想で最も多いのは「今年の出題は傾向が変わった」というものでしょう。
それはスタイルを変えているからです。現行カリキュラムの試験問題をどのように作るかを検討した時の報告書では,「出題スタイルはいろいろ変える」と明言しています
今見ると,その変化には気づきにくいですが,毎回,出題スタイルが違った問題があります。
そのため出題スタイルは,毎年少しずつ違います。それはずっと続いています。
そのため,もし出題の傾向が変わったと言うなら
今までと出題の傾向が変わって,去年と同じだった
というのが正しいです。国試問題は変化しています。
前回と今回は,調査結果の読み方の問題を紹介しています。
旧カリキュラム時代も含めて,調査結果を読み取る問題は,第26回と第27回のだった2回しか出題されたことはありません。
余談ですが,第26回国試から坂田周一先生が現在まで試験委員長を務めています。
今日の問題は第26回国試のものです。
その回を受験した人は,見たことがない出題スタイルにさぞかし驚いたことでしょう。
それでは今日の問題です。
第26回・問題88 事例を読んで,調査結果の読み方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Y市社会福祉協議会に勤める社会福祉士は,「いきいきサロン」を利用している高齢者100人へのアンケートで,日頃どのようなスポーツを行っているのかを尋ね,100人すべてから有効回答を得た。選択肢として,(a)ウォーキング,(b)水泳,(c)テニス,(d)その他のスポーツの4つを用意して,普段行っているものにすべて○を付けてもらった。○の数の集計結果は,(a)30,(b)15,(c)10,(d)25となった。
この結果について,K社会福祉士は次のように考えた。
1 ここから,100人中80人は普段何らかのスポーツを行っていると分かる。
2 スポーツを行っている人に限ると,(c)のテニスをする人は8分の1である。
3 この100人の中で,普段何もスポーツを行っていない人は少なくとも20人いてもっと多い可能性もある。
4 卓球は明記されていないので,実際はウォーキングより多かったかもしれない。
5 (d)その他のスポーツに〇を付けた25人のうち,ゲートボールをする人が15人いた場合には,エアロビクスをする人は10人以下になる。
この手の問題の訓練をしても二度と出題されないと思います。
それにもかかわらず,この時期にこの問題を紹介するのは,見たことのない出題スタイルの問題に出くわしても,あわてることなく問題に取り組んで欲しいからです。
国家試験は,今まで勉強してきた知識だけで勝負するのではなく,足りない知識は想像しながら解いていかなければなりません。
今日の問題は,知恵を試しているものです。
今のセンター試験でもおなじみですね。
マーク式の試験では,どうしても知識偏重になってしまいますが,こういった問題を含めることで,その限界に取り組んでいるのだと考えられます。
何度も受験しても合格をつかむことができないという方は,こういった問題をいかに得点できるかが極めて重要です。
解説を読めばわかった,ではなくて,解説なしで考えられることが大切です。
第32回国試以降を受験される方に心がけてほしいのは,問題を解く時,調べながらあるいは解説を読みながら解くのではなく,必ず自分の頭で考えてから解くようにしてほしいということです。
それを普段からしておくことで,国試では大きな力を発揮することができることでしょう。
とにかく国試では今まで見たことのない出題スタイルがされる問題があることだけは知っておきましょう。
それでは解説です。
1 ここから,100人中80人は普段何らかのスポーツを行っていると分かる。
これは間違いです。
これを正解にする人もいるでしょう。
しかし「複数回答可」の調査です。そこを見落とすと間違ってしまいます。
複数回答した人がいれば,何らかのスポーツをしている人は80人以下になります。
2 スポーツを行っている人に限ると,(c)のテニスをする人は8分の1である。
これも間違いです。
これを正解にした人もいるでしょう。
しかし,分母は80人であるかは不明です。80名かもしれませんし,80名ではないかもしれません。
そのため,テニスをしている人10人は,8分の1とはわかりません。
3 この100人の中で,普段何もスポーツを行っていない人は少なくとも20人いてもっと多い可能性もある。
これが正解です。
スポーツをしている人は,全員一人一つずつ回答した場合は,スポーツをしている人は80人です。複数回答した人の分が減っていきます。相対的にスポーツをしていない人の人数は増えます。
4 卓球は明記されていないので,実際はウォーキングより多かったかもしれない。
これも間違いです。
卓球は明記されていないのは正しいですが,その他のスポーツという項目があります。
その他のスポーツと答えた人が全員卓球だったとしたら25人です。
ウォーキングは30人です。
その他のスポーツが全員卓球だったとしても,ウォーキングの方が多いことがわかります。
5 (d)その他のスポーツに〇を付けた25人のうち,ゲートボールをする人が15人いた場合には,エアロビクスをする人は10人以下になる。
これも間違いです。
25人全員が一つしか選んでいないと仮定すると,
ゲートボール15人+10人(エアロビクス●人+その他のスポーツ●人)=25人
となります。
その他のスポーツが0人の場合,エアロビクス10人です。
しかし,例のごとく複数回答している可能性は否定できません。
ゲートボールをしている人全員がエアロビクスもしていて,その他のスポーツが0人の場合は,エアロビクスをしている人は25人となります。
15人(ゲートボールもエアロビクスもしている人)+10人(エアロビクスだけしている人)=25人
<今日の一言>
今日の問題は,はっきり言えば,社会福祉士の試験らしからぬ問題です。
頭の体操のようなものです。
勉強していなくても機転の利く人なら正解できるかもしれません。
問題のねらいは良かったのですが,機転の利く人が得点できるという問題は,よくなかったのでしょう。
そこでその次の年の第27回では,テーマは同じでもガラッと内容を変えたと思われます。
第27回問題
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/01/12_23.html
国試は,みんなが解けない問題が多ければ,合格基準点が下がります。
逆に
みんなが解ける問題が多ければ,合格基準点は上がります。
だからといって特別な勉強が必要だというわけではありません。
あくまでも6割ラインの努力をもって国試に臨めば,勝手に合格基準点は上下に代わるだけです。
今日のようなスタイルの問題は,もう出題されないでしょう。
しかし大切なことは,どんなスタイルのものであっても,動じないことです。
スタイルが変わった問題例
第27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1 つ選びなさい。
1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ
2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ
3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ
4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ
5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ
ベヴァリッジ報告=1942年=5つの巨人悪
といった覚え方をしていた人は面を食らった気持ちになった問題だと思います。
「こんなことは勉強して来なかった,困った」
と思ったでしょう。
この問題は「現代社会と福祉」で出題されたものです。この科目は,旧カリキュラム時代の「社会福祉原論」と違い,福祉政策を学ぶための科目に変わっています。
そのため,この問題は,ベヴァリッジ報告を使いながら,現在を考えさせる問題になっているのです。
ベヴァリッジ報告の5つの巨人悪を正確に覚えていなくとも,その当時と今では何が違うのかを考えた時,4以外は古典的なリスクであることがわかります。
大切なことは,難しいと思った問題に突き当たったとき,なげやりにならないことです。
なげやりになって,思考を止めることは絶対にしないようにしましょう。
必要なことは,想像力を最大限に発揮して問題に取り組むことです
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