算術平均はよく算出するものです。
しかし算出平均は集団の様子を知るための手段の一つであり,それですべてが見えてくるものではありません。
が,必ずしもその集団の様子を正しく見ることができないので要注意です。
国家試験の平均点がA大学,B大学ともに70点だったとします。
どちらも受験者は10名だった場合,総得点は700点です。
しかし合格率は
A大学50%
B大学10%
といったように
大きな差が生まれることがあります。
これは得点にばらつきがあるためです。
今日の問題は難しいので,覚えられなけれは捨てましょう。
それでは今日の問題です。
第25回・問題88
変数の散布度(バラつき,散らばり具合)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 平均値と中央値の差は偏差と呼ばれ,散布度の指標としてしばしば用いられる。
2 最大値は,変数がどの程度大きな値まで広がっているかを示しているので,散布度の指標である。
3 四分位範囲(第3四分位数と第1四分位数の差)は,分布の両端からそれぞれ4分の1の測定値を捨てた後の,中央の半数の測定値の範囲であり,散布度として用いられる。
4 分散と標準偏差はいずれも散布度の指標であるが,この2つの間には必ずしも決まった関係はない。
5 散布度の指標である分散とは,個々の測定値と平均値の差の絶対値をすべて足し合わせたものである。
なにこれ?
という感じでしょう。
さすがは「魔の第25回国試」の問題です。この時点では出来てもできなくても良いと言える問題です。
なぜなら問題は難しければ難しいほどみんなが解けないので,得点に差がつかないためです。
実はこの問題には下敷きとなった問題があります。
第20回・問題48 心理尺度の分析に関する次の記述のうち,適切なものに〇,適切でないものに×をつけた場合,その組み合わせとして正しいものを一つ選びなさい。
A 標準偏差は,ある集団における尺度得点の散布度を示す統計量の一つである。
B 相関係数は,2つの集団間における尺度得点の平均値の差を示す統計の一つである。
C 分散分析は,3つ以上の集団間の尺度得点の平均値の差について検討する場合に用いる方法の一つである。
D 折半法は,同一集団において同じ心理尺度を使って繰り返し測定し,その一致度から信頼性を確認する場合に用いる方法の一つである。
(組み合わせ)
ABCD
1 ○○××
2 ○×〇×
3 〇××〇
4 ×〇〇×
5 ×〇×〇
答えは2。
この問題は,旧カリ時代の「心理学」で出題されたものです。これも難しいですね。
今日の問題と同程度の難易度です。おそらく多くの人は解けなかったでしょう。
それでは解説です。
1 平均値と中央値の差は偏差と呼ばれ,散布度の指標としてしばしば用いられる。
これは間違いです。
標準偏差は何度も出題されていますが,偏差が出題されたのは,その前もその後もこの時一回きりです。
偏差は,「平均値と測定値がどれほど離れているのか」を示したものです。
平均点が70点だったテストで,Aさんの点数は90点だったとき,「偏差」は20となります。
Aさんの成績がどれだけ平均値と離れているのかはわかりますが,クラス全体の点数のバラつきはわかりません。
バラつきをみるためには,偏差ではなく「分散」あるいは「標準偏差」を用います。
難しすぎですね。
2 最大値は,変数がどの程度大きな値まで広がっているかを示しているので,散布度の指標である。
これも間違いです。
散布度は測定値のバラつきを表わすものです。
最大値は一つの測定値がとんでもなく大きい場合,いわゆる外れ値というものになります。
そのため,最大値や最小値はバラつきを表わす散布度の指標になるように感じるかもしれません。
しかし,受験者10人の平均点が70点だったA大学とB大学で考えてみた場合,
A大学の最大値120点が1人,最小値20点が1人,そのほかの8人は70点。
B大学の最大値90点が1人,85点が1人,80点が1人・・・67点が1人,66点が1人,最小値が65点。
A大学の最大値は120点,最小値は20点
B大学の最大値は90点,最小値は65点
バラつきはA大学の方が大きいように見えます。
しかし,A大学は最大値と最小値を除けば,そのほかの受験者は全員70点です。
B大学は,85点,80点,67点,66点など,さまざまな点数の受験者がいます。
バラつきはB大学の方が大きくなります。
最大値や最小値はめったにいない外れ値であることがあるので,注意しなければなりません。
そのため,散布度を表わす指標とはならないのです。
3 四分位範囲(第3四分位数と第1四分位数の差)は,分布の両端からそれぞれ4分の1の測定値を捨てた後の,中央の半数の測定値の範囲であり,散布度として用いられる。
これが正解です。
しかし難しすぎです。
とはいうものの,四分位範囲,箱ひげ図,分散等は,現在は高校で学ぶ数学Ⅰの内容に含まれ,2020年以降は中学2年生で学ぶことになります。
つまり,将来の中学生や現在の高校生でも知っていることになります。
四分位範囲はよんぶんいはんいと読みます。読み方さえわかりませんよね。
四分位範囲は,測定値の小さい値から順番に並べて,それを4等分します。そのうち,小さい方と大きい方の25%ずつを除いた中央値を中心とした50%が四分位範囲です。
大きいほうと小さいほうの25%には,いわゆる外れ値を含みます。
社会福祉士の受験生データは発表されていませんが,模試なら受験生データを発表している団体があります。
それをみると,130点も取っている人がいます。そういう数字をみるとすごいなあ,自分はだめだなあ,と思ってしまうかもしれません。
しかしそれらは外れ値です。めったに取れるものではありません。
そのため,外れ値になるような測定値を除いた,中央値を中心とした全体の50%で集団のバラつきをみるのが四分位範囲です。
これならバラつきを表わす散布度の指標になりそうだと思いませんか?
平均点が同じ大学であっても,このような散布度を使えば,バラつき具合が見えてきます。
4 分散と標準偏差はいずれも散布度の指標であるが,この2つの間には必ずしも決まった関係はない。
これも間違いです。
分散は,平均値と測定値の差(つまり偏差)を2乗して,それをすべて足したものをデータの個数で割ったものです。
2乗する理由は,-1と1はゼロにより相殺されてしまうので,それを防ぐためです。
標準偏差は,分散の平方根です。
平方根を求める理由は,分散のときに2乗しているので,それをもとの数値に近く見せるためです。
このように,分散と標準偏差は別のものではありません。
分散も標準偏差も数値が大きい方がバラつきが大きいことを表わします。
5 散布度の指標である分散とは,個々の測定値と平均値の差の絶対値をすべて足し合わせたものである。
これも間違いです。
絶対値とは,マイナスとプラスの方向に関係なくゼロからどれだけ離れているかの数値です。
マイナス1は1,プラス1も1です。
分散は,単純に足すのではなく,偏差(個々の測定値と平均値の差)を2乗して,すべて足し合わせたものです。
<今日の一言>
今日の問題をみると,こんなことまで勉強していなければならないのか,と思うかもしれません。
しかし決してそんなことはありません。
試験センターは受験生のデータはほとんど出しません。
そのため,模試のように受験者の正解率はわかりませんが,第25回の合格基準点が72点という過去最低になったことを考えると,この問題は多くの人が解けなかったのではないかと思います。
今日の問題のような難しい問題が解ける人は外れ値となる点数を取る人です。
最近は,これほど難しい問題は出題されなくなっていますが,それでも難易度の高い問題はたくさんあります。
今日の問題に出てきた内容では最大値を除いた「偏差」「分散」「標準偏差」「四分位範囲」のうち,第25回以降の国試で出題されたのは,「分散」のみです。
分散は,第27回国試で出題されているので,しっかり覚えておきたいです。
分散とは
偏差(個々の測定値と平均値の差)を2乗して,すべて足し合わせたものです。
標準偏差とは
分散の平方根です。
平方根とはルートです。分散が4の場合の平方根は2です。
<おまけ>
国試には,とても難しい問題も出題されます。しかし,ちゃんと努力してきた人は,それらが解けなくてもほかの問題で得点できます。
試験センターが目指しているのは,約30%の人が90点以上取れる国試です。
そこに至る道にはまだまだ紆余曲折があるかもしれませんが,少なくとも約30%の人が100点以上取れる国試ではありません。
そういった面では,合格基準点が発表されるようになった第15回以降,合格基準点が最大値99点の第30回国試は,外れ値となるものでしょう。
国試がどんな出題になろうとも,ちゃんと努力してきた人は,ボーダーラインを超えられます。
大丈夫。あなたはそれだけの努力をしてきました。
今までの努力は決して裏切ることはありません。国試合格への扉は,あなたに向かって大きく開かれようとしています。
1 平均値と中央値の差は偏差と呼ばれ,散布度の指標としてしばしば用いられる。
2 最大値は,変数がどの程度大きな値まで広がっているかを示しているので,散布度の指標である。
3 四分位範囲(第3四分位数と第1四分位数の差)は,分布の両端からそれぞれ4分の1の測定値を捨てた後の,中央の半数の測定値の範囲であり,散布度として用いられる。
4 分散と標準偏差はいずれも散布度の指標であるが,この2つの間には必ずしも決まった関係はない。
5 散布度の指標である分散とは,個々の測定値と平均値の差の絶対値をすべて足し合わせたものである。
なにこれ?
という感じでしょう。
さすがは「魔の第25回国試」の問題です。この時点では出来てもできなくても良いと言える問題です。
なぜなら問題は難しければ難しいほどみんなが解けないので,得点に差がつかないためです。
実はこの問題には下敷きとなった問題があります。
第20回・問題48 心理尺度の分析に関する次の記述のうち,適切なものに〇,適切でないものに×をつけた場合,その組み合わせとして正しいものを一つ選びなさい。
A 標準偏差は,ある集団における尺度得点の散布度を示す統計量の一つである。
B 相関係数は,2つの集団間における尺度得点の平均値の差を示す統計の一つである。
C 分散分析は,3つ以上の集団間の尺度得点の平均値の差について検討する場合に用いる方法の一つである。
D 折半法は,同一集団において同じ心理尺度を使って繰り返し測定し,その一致度から信頼性を確認する場合に用いる方法の一つである。
(組み合わせ)
ABCD
1 ○○××
2 ○×〇×
3 〇××〇
4 ×〇〇×
5 ×〇×〇
答えは2。
この問題は,旧カリ時代の「心理学」で出題されたものです。これも難しいですね。
今日の問題と同程度の難易度です。おそらく多くの人は解けなかったでしょう。
それでは解説です。
1 平均値と中央値の差は偏差と呼ばれ,散布度の指標としてしばしば用いられる。
これは間違いです。
標準偏差は何度も出題されていますが,偏差が出題されたのは,その前もその後もこの時一回きりです。
偏差は,「平均値と測定値がどれほど離れているのか」を示したものです。
平均点が70点だったテストで,Aさんの点数は90点だったとき,「偏差」は20となります。
Aさんの成績がどれだけ平均値と離れているのかはわかりますが,クラス全体の点数のバラつきはわかりません。
バラつきをみるためには,偏差ではなく「分散」あるいは「標準偏差」を用います。
難しすぎですね。
2 最大値は,変数がどの程度大きな値まで広がっているかを示しているので,散布度の指標である。
これも間違いです。
散布度は測定値のバラつきを表わすものです。
最大値は一つの測定値がとんでもなく大きい場合,いわゆる外れ値というものになります。
そのため,最大値や最小値はバラつきを表わす散布度の指標になるように感じるかもしれません。
しかし,受験者10人の平均点が70点だったA大学とB大学で考えてみた場合,
A大学の最大値120点が1人,最小値20点が1人,そのほかの8人は70点。
B大学の最大値90点が1人,85点が1人,80点が1人・・・67点が1人,66点が1人,最小値が65点。
A大学の最大値は120点,最小値は20点
B大学の最大値は90点,最小値は65点
バラつきはA大学の方が大きいように見えます。
しかし,A大学は最大値と最小値を除けば,そのほかの受験者は全員70点です。
B大学は,85点,80点,67点,66点など,さまざまな点数の受験者がいます。
バラつきはB大学の方が大きくなります。
最大値や最小値はめったにいない外れ値であることがあるので,注意しなければなりません。
そのため,散布度を表わす指標とはならないのです。
3 四分位範囲(第3四分位数と第1四分位数の差)は,分布の両端からそれぞれ4分の1の測定値を捨てた後の,中央の半数の測定値の範囲であり,散布度として用いられる。
これが正解です。
しかし難しすぎです。
とはいうものの,四分位範囲,箱ひげ図,分散等は,現在は高校で学ぶ数学Ⅰの内容に含まれ,2020年以降は中学2年生で学ぶことになります。
つまり,将来の中学生や現在の高校生でも知っていることになります。
四分位範囲はよんぶんいはんいと読みます。読み方さえわかりませんよね。
四分位範囲は,測定値の小さい値から順番に並べて,それを4等分します。そのうち,小さい方と大きい方の25%ずつを除いた中央値を中心とした50%が四分位範囲です。
大きいほうと小さいほうの25%には,いわゆる外れ値を含みます。
社会福祉士の受験生データは発表されていませんが,模試なら受験生データを発表している団体があります。
それをみると,130点も取っている人がいます。そういう数字をみるとすごいなあ,自分はだめだなあ,と思ってしまうかもしれません。
しかしそれらは外れ値です。めったに取れるものではありません。
そのため,外れ値になるような測定値を除いた,中央値を中心とした全体の50%で集団のバラつきをみるのが四分位範囲です。
これならバラつきを表わす散布度の指標になりそうだと思いませんか?
平均点が同じ大学であっても,このような散布度を使えば,バラつき具合が見えてきます。
4 分散と標準偏差はいずれも散布度の指標であるが,この2つの間には必ずしも決まった関係はない。
これも間違いです。
分散は,平均値と測定値の差(つまり偏差)を2乗して,それをすべて足したものをデータの個数で割ったものです。
2乗する理由は,-1と1はゼロにより相殺されてしまうので,それを防ぐためです。
標準偏差は,分散の平方根です。
平方根を求める理由は,分散のときに2乗しているので,それをもとの数値に近く見せるためです。
このように,分散と標準偏差は別のものではありません。
分散も標準偏差も数値が大きい方がバラつきが大きいことを表わします。
5 散布度の指標である分散とは,個々の測定値と平均値の差の絶対値をすべて足し合わせたものである。
これも間違いです。
絶対値とは,マイナスとプラスの方向に関係なくゼロからどれだけ離れているかの数値です。
マイナス1は1,プラス1も1です。
分散は,単純に足すのではなく,偏差(個々の測定値と平均値の差)を2乗して,すべて足し合わせたものです。
<今日の一言>
今日の問題をみると,こんなことまで勉強していなければならないのか,と思うかもしれません。
しかし決してそんなことはありません。
試験センターは受験生のデータはほとんど出しません。
そのため,模試のように受験者の正解率はわかりませんが,第25回の合格基準点が72点という過去最低になったことを考えると,この問題は多くの人が解けなかったのではないかと思います。
今日の問題のような難しい問題が解ける人は外れ値となる点数を取る人です。
最近は,これほど難しい問題は出題されなくなっていますが,それでも難易度の高い問題はたくさんあります。
今日の問題に出てきた内容では最大値を除いた「偏差」「分散」「標準偏差」「四分位範囲」のうち,第25回以降の国試で出題されたのは,「分散」のみです。
分散は,第27回国試で出題されているので,しっかり覚えておきたいです。
分散とは
偏差(個々の測定値と平均値の差)を2乗して,すべて足し合わせたものです。
標準偏差とは
分散の平方根です。
平方根とはルートです。分散が4の場合の平方根は2です。
<おまけ>
国試には,とても難しい問題も出題されます。しかし,ちゃんと努力してきた人は,それらが解けなくてもほかの問題で得点できます。
試験センターが目指しているのは,約30%の人が90点以上取れる国試です。
そこに至る道にはまだまだ紆余曲折があるかもしれませんが,少なくとも約30%の人が100点以上取れる国試ではありません。
そういった面では,合格基準点が発表されるようになった第15回以降,合格基準点が最大値99点の第30回国試は,外れ値となるものでしょう。
国試がどんな出題になろうとも,ちゃんと努力してきた人は,ボーダーラインを超えられます。
大丈夫。あなたはそれだけの努力をしてきました。
今までの努力は決して裏切ることはありません。国試合格への扉は,あなたに向かって大きく開かれようとしています。