出題基準では,前回まで取り組んでいた調査票の配布と回収の方があとで,今日の質問紙の作成方法と留意点の方が先になっています。
それはさておき,質問紙の作成方法と留意点が出題されたのは,以下の通りです。
第23回,第24回,第26回,第28回,第30回。
出題回数は多いのですが,ほぼ2回に1回の出題なので,第31回は出題の可能性は低いと言えますが,以前に書いたように,ヤマを張らない方針なので,ここもしっかり押さえておきたいと思います。
「社会調査の基礎」は,現行カリキュラムで加わった科目ですが,質問紙の作成方法は,旧カリキュラム時代から繰り返し出題されてきたものです。
その中で,最も出題回数が多いのは,ダブルバーレル質問です。
ダブルバーレルは,もともとは2連発銃のことを指します。
2連発銃とは,1回引き金を引いたら,2つの弾が同時に発射されるものです。
下手な鉄砲数打てば当たる
1発よりも相手に当たる確率は高くなるでしょう。
質問紙を作成する場合は,ダブルバーレル質問は不適切なものとなります。
ダブルバーレル質問は,1つの質問に複数の要素を含んだ質問です。
1つの質問で複数の要素があるのが2連発銃に似ているため,ダブルバーレル質問という名称がついているのです。
例としては,
リンゴやミカンなどの果物は好きですか?
リンゴは好きでもミカンは嫌い,逆にミカンは好きでもリンゴは嫌い,という人は答えられなくなってしまいます。
研修後アンケートなどでは,
講師の話の内容や声の大きさは適切でしたか?
といった質問をしてしまうと,果物と同じように話の内容は適切だったが,声が小さくて聞き取りにくかった,または,声の大きさはちょうどよく,歯切れも良かったけれど,話の内容が面白くなかった,という人は答えられなくなってしまいます。
質問紙の作成では,ダブルバーレル質問のほかに避けなければならない留意点はたくさんあります。
これから問題を解きながら,押さえていきましょう。
それでは早速今日の問題です。
第23回・問題80 質問文作成の注意点に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 「煙草は健康に悪いから吸うべきではない,という意見にあなたは賛成ですか,反対ですか」という質問は,ダブルバーレルな質問ではない。
2 「ごきょうだいは何人ですか」という質問には,回答者が判断に迷うようなあいまいさは存在しない。
3 「あなたは,宗教は大切だと思いますか」という質問の回答は,回答者本人の信心の強さ・弱さを表すものと解釈してよい。
4 「市民運動」という表現と「草の根の市民運動」という表現は,同じ意図で使われている場合でも,回答が異なってしまう可能性がある。
5 「ふだん朝食をとりますか」という質問文では「ふだん」が指すものがあいまいなので,「今朝は朝食をとりましたか」のように日時を特定しなければならない。
「質問紙の作成方法」も想像力が求められる選択肢の連続です。
「考えるのが面倒だ」と思うと思わなければ,必ず正解にたどり着くことができます。
もちろんダブルバーレル質問のように,最低限の知識は必要です。
それでは解説です。
1 「煙草は健康に悪いから吸うべきではない,という意見にあなたは賛成ですか,反対ですか」という質問は,ダブルバーレルな質問ではない。
これは間違いです。
ダブルバーレルになっているかが,明確にはわかりにくいからです。しかし,このタイプの問題は,ダブルバーレル質問だからこそ出題されていると考えることができます。
「煙草は健康に悪いから吸うべきではない」を分解すると
煙草は健康に悪い
という部分と
煙草は吸うべきではない
という部分に分解することができます。
煙草は健康に悪いけれど,煙草を吸うべきではないとは考えない。
あるいは
煙草を吸うべきではないとは思うけれど,それは健康に悪いという理由ではない。
といった人は答えられなくなってしまいます。
2 「ごきょうだいは何人ですか」という質問には,回答者が判断に迷うようなあいまいさは存在しない。
これも間違いです。
しかしどこがあいまいなのかが明確にはわかりにくいと思います。
あいまいさがあるからこそ出題している意味があると考えられます。
「ごきょうだい」といった場合は,最近はひらがな表記をすることで,男性の兄弟,女性の姉妹両方を示すようになっていますが,きょうだいと聞くと,「姉妹はいるけれど,兄弟はいない」と考えてしまう恐れがあります。
ほかには,自分を含めるのかどうか,といったあいまいさもあります。
3 「あなたは,宗教は大切だと思いますか」という質問の回答は,回答者本人の信心の強さ・弱さを表すものと解釈してよい。
これも間違いです。
質問には,一般的なことを尋ねるインパーソナル質問と,個人の内容を尋ねるパーソナル質問があります。
第30回国試では,
「家事は一般的に夫婦で平等に分担すべきですか」という質問文では,回答者が自分の家庭でそうすべきだと考えているかどうかは分からない。
という出題がなされて,正解となっています。
あなたは,宗教は大切だと思いますか
家事は一般的に夫婦で平等に分担すべきですか
という部分はどちらもインパーソナルな質問です。
どちらも,個人の内容を尋ねるものとはなっていません。
個人の内容を尋ねるなら
あなたは,宗教を信仰していますか
あなたの家庭では,夫婦で平等に家事を分担していますか
といった内容の質問をしなければなりません。
4 「市民運動」という表現と「草の根の市民運動」という表現は,同じ意図で使われている場合でも,回答が異なってしまう可能性がある。
これが正解です。
一定の意味やイメージのあることを「ステレオタイプ」と言います。
この場合の一定の意味やイメージとは単に「市民活動」というよりも「草の根」が地べたを這いずり回った市民活動というイメージがあるということです。
言葉が違うので,当然受け手のイメージも変わります。当然ですね。
5 「ふだん朝食をとりますか」という質問文では「ふだん」が指すものがあいまいなので,「今朝は朝食をとりましたか」のように日時を特定しなければならない。
これも間違いです。
ふだんがあいまいだと感じるのでしたか,
「あなたは,週に何回朝食をとりますか」
といった質問にします。
「今朝は朝食をとりましたか」
という質問にあいまいさはありませんが,今日たまたま朝食はとったけれど,久しぶりに朝食をとった,という人もいるかもしれません。
<今日の一言>
法制度は覚えるのは得意だけれど,理論系の問題は苦手
という人はたくさんいます。
合格する人でも,もしかするとそうかもしれません。
法制度の方が問題数が多いので,それはそれでよいと思います。
しかし,法制度はしっかり覚えておかなければ,正解することができないですが,理論系の問題は,想像力で解くことができるものがあります。
その分,なかなか事前の対策が取りにくいという面もありますが,最低限の知識があれば,突破口を見つけ出すことができるでしょう。
こういった問題で正解できたときは,結構気持ちが良いものですよ。
最後の仕上げにぜひ学習部屋をお役立てください。
最新の記事
消費者契約法
契約を取り消すことができる制度として,クーリング・オフ制度があります。 しかし,利用できるのは,訪問販売や電話に勧誘などによって契約したものに限られます。 消費者契約法は,以下のような場合に取り消すことができます。 出典:消費者庁「知っていますか? 消費者契約法―早わかり!消費...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
平成元年度の改正カリキュラムでは,当初はあったものの,平成19年度のカリキュラム改正でなくなったものがいくつか復活しています。 その1つがコミュニティワーク(地域援助技術)です。 地域共生社会の実現に求められる社会福祉士を養成するためには,コミュニティワークが必要だからでしょう。...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。 誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。 社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
今回は,福祉ニードを取り上げたいと思います。 ニーズは,ニードの複数形ですが,明確な使い分けはなされていないようです。 どちらも同じ意味だととらえて良いでしょう。 ブラッドショーは,ニーズを以下のように類型化しています。 ...