日常生活自立支援事業は,2000年の介護保険法,社会福祉法により,サービス利用が「措置」から「契約」になることから,サービス利用者の権利擁護のために,平成11年10月に導入されたものです。
利用対象者は,判断力が低下していても,契約の内容が判断できるほどの能力がある人です。
判断能力がそれよりも不十分な場合は,成年後見制度の利用を検討します
日常生活自立支援事業と成年後見制度が補完的なのは,権利擁護という同じ目的でつくられた制度であるからにほかなりません。これは忘れないでいてください。
さて,今日の問題は,短文事例問題です。
法制度に関する短文事例問題は,しっかり考えて解くことが大切です。
第25回・問題82 事例を読んで,Gさんへの対応に関する次の指摘のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Gさん(70歳,男性)は独居で身寄りがなく,初期認知症及びADL低下のため日常生活自立支援事業(以下「支援事業」という。)及び訪問介護を利用していた。あるとき,Gさんが自宅で倒れているのを訪問介護員が発見し,救急搬送した。訪問介護員は介護支援専門員及び支援事業の生活支援員に連絡し,いち早く駆けつけた生活支援員が医師に服薬や心身状況などを説明して,入院治療が行われた。2か月の入院加療でGさんの身体状況は改善したが,認知症が悪化し,医師から後見類型相当との診断がなされたので,市町村長申立てにより弁護士の後見人が選任された。
後見人はGさんのために支援事業の契約を結び,引き続き支援事業を利用した。その後,Gさんは脳内出血で倒れ,後見人が同意して開頭手術が行われた。
1 生活支援員は医師にGさんの心身状況などを漏らすべきではなかった。
2 支援事業の主体である社会福祉協議会が後見の申立てをすべきだった。
3 Gさんの同意なく後見申立てしたのであれば問題だ。
4 後見人が選任されたので,Gさんの支援事業の利用は禁止されるはずだ。
5 弁護士の後見人であっても,手術に同意する権限はないはずだ。
この問題は「魔の第25回国試」の問題です。勉強をしっかりしてきた人にとっては,それほど難しくないかもしれませんが,よくよく考えて答えを出せるほど時間的余裕がなかったと思います。
その辺りの話は何度も述べてきたのでここで省略します。
それでは解説です。
1 生活支援員は医師にGさんの心身状況などを漏らすべきではなかった。
これは間違いです。
すべての状況の中で,最も優先されるのは,生命の保護です。
訪問介護員が連絡したのは,介護支援専門員と生活支援員です。おそらく介護支援専門員の方が情報はたくさん持っているでしょう。しかしいち早く到着したのは生活支援員でした。
生命保護のために,生活支援員が持っている情報を医師に伝えることは極めて適切な行動です。
付け加えると,生活支援員は医師に心身状況などを漏らしたのでしょうか。「漏らす」というのは,守秘義務があるものを他の人に言ってしまうこと,あるいは言わなくて良いことを他の人に言ってしまうなどを言います。
この場合は「伝える」というのが正しいです。
たとえ「漏らす」が「伝える」となっていても間違いは間違いですが,この問題で看過できないのは,「漏らす」という表現をしたことです。
試験委員は受験生に対して「生活支援員は専門員と違って専門性は求められていない。だから生活支援員が持っている情報は取るに足らないと思うに違いない」と考えていたように感じるのです。
生活支援員に対して,あまりにも失礼だと思いませんか?
2 支援事業の主体である社会福祉協議会が後見の申立てをすべきだった。
これも間違いです。
社会福祉協議会は,後見開始の審判の請求権者ではありません。
3 Gさんの同意なく後見申立てしたのであれば問題だ。
これも間違いです。
本人の同意が必要なのは,補助のみです。成年後見,保佐ともに本人の同意は必要ありません。
4 後見人が選任されたので,Gさんの支援事業の利用は禁止されるはずだ。
これも間違いです。
後見人が選任されても,日常生活自立支援事業を利用できます。
例えば,日常的金銭管理は日常生活自立支援事業を活用するといった場合です。
これが先に述べた補完関係の一例です。
5 弁護士の後見人であっても,手術に同意する権限はないはずだ。
これが正解です。
後見事務は,財産管理と身上監護です。財産の管理は,預貯金の管理など。身上監護は,医療契約などの法律行為です。医療に対する同意は,身上監護に含まれません。
身寄りのない高齢者が増える昨今,医療同意権をどうするかが論議されているところです。しかし現在は医療同意権は後見人には付与されていません。
<今日の一言>
今日の問題は,思うよりも簡単ではありません。
その理由は,選択肢3があるからです。
これがなければ,多くの人は正解できたと思います。
これで分かるように,正解にたどり着くまで,他の選択肢の影響を大きく受けます。
国家試験は,5つの選択肢の中から答えを選ぶもの
一問一答式の勉強方法は,基礎力をつけるのに向きます。そのため適切な勉強だと言えます。
しかし,国試に近くなってきた時点では,一問一答式の勉強だけではなく,5つの選択肢になっている問題を解くのが良いです。
なぜなら,
国家試験は,5つの選択肢の中から答えを選ぶもの
だからです。
一問一答式の問題は,卓球に例えると一人で壁打ちの練習をしているようなものです。
実践力をつけるには,相手と打ち合わなければなりません。
5つの選択肢になっている問題,つまり過去問は,本当の国試ですから,本番の練習をするのには最適です。
そのために,このブログでは,過去にさかのぼって,過去問を解説しているのです。
本番(国試)を意識した勉強は,国試合格に必要です。ぜひ国試までお付き合いください。
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