2019年12月4日水曜日

児童福祉法の理念

児童福祉法は,1947年(昭和22年)にできた法律です。

この当時の日本は,GHQのもとにあり,福祉政策の多くはGHQの指示によって行われました。

児童福祉法もその一つです。

しかし,日本はGHQの指示をそのまま受け入れたのではなく,一歩も二歩も先に進めて,すべての児童の福祉の向上を目指して作られました。

そのおかげで,児童福祉法は改正を重ねながらも今日に至ります。

さて,現在の児童福祉法は以下のように規定されています。

(総則)
第一条
全て児童は,児童の権利に関する条約の精神にのっとり,適切に養育されること,その生活を保障されること,愛され,保護されること,その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
第二条
全て国民は,児童が良好な環境において生まれ,かつ,社会のあらゆる分野において,児童の年齢及び発達の程度に応じて,その意見が尊重され,その最善の利益が優先して考慮され,心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
児童の保護者は,児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。
国及び地方公共団体は,児童の保護者とともに,児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第三条
前二条に規定するところは,児童の福祉を保障するための原理であり,この原理は,すべて児童に関する法令の施行にあたって,常に尊重されなければならない。

(国及び地方公共団体の責務)
第三条

国及び地方公共団体は,児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう,児童の保護者を支援しなければならない。

ただし,児童及びその保護者の心身の状況,これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案し,児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあっては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう,児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあっては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう,必要な措置を講じなければならない。
市町村(特別区を含む)は,児童が心身ともに健やかに育成されるよう,基礎的な地方公共団体として,第十条第一項各号に掲げる業務の実施,障害児通所給付費の支給,保育の実施その他この法律に基づく児童の身近な場所における児童の福祉に関する支援に係る業務を適切に行わなければならない。
都道府県は,市町村の行うこの法律に基づく児童の福祉に関する業務が適正かつ円滑に行われるよう,市町村に対する必要な助言及び適切な援助を行うとともに,児童が心身ともに健やかに育成されるよう,専門的な知識及び技術並びに各市町村の区域を超えた広域的な対応が必要な業務として,第十一条第一項各号に掲げる業務の実施,小児慢性特定疾病医療費の支給,障害児入所給付費の支給,第二十七条第一項第三号の規定による委託又は入所の措置その他この法律に基づく児童の福祉に関する業務を適切に行わなければならない。
国は,市町村及び都道府県の行うこの法律に基づく児童の福祉に関する業務が適正かつ円滑に行われるよう,児童が適切に養育される体制の確保に関する施策,市町村及び都道府県に対する助言及び情報の提供その他の必要な各般の措置を講じなければならない。


児童福祉法は,児童福祉の理念法であり,また児童福祉サービスを規定したものです。
この辺りが高齢者福祉や障害者福祉の法体系とは異なるところです。

それでは,今日の問題です。


第29回・問題139 次の記述のうち,児童福祉法に規定されていることとして,正しいものを1つ選びなさい。

1 児童の福祉を保障するための原理は,すべて児童に関する法令の施行にあたって,常に尊重されなければならない。

2 国は,児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。

3 児童が就学年齢に達した後に,その自立が図られることその他の福祉を保障される権利を得る。

4 児童憲章を児童の福祉を保障するための原理としている。

5 全て国民は,児童の保護者を支援しなければならないとしている。


社会福祉士の国家試験を受験される方が意識しているかどうかは分かりませんが,現在の社会福祉士は,法制度を学ぶものです。

勉強していくうちに分からなくなることもあると思います。
そういったときは,まずは法制度に当たることが必要です。

ネットで探せば,さまざまな情報を手に入れることはできますが,その情報が正しいのか,または最新の情報であるのか,までは分かりにくいと思います。

そのため,まずは法制度そのものに当たることが必要です。
ただし,これから国家試験までは時間があまりありません。
すべての条文に目を通すことは難しいと思います。
というか,どこから出題されるかわからない中で,法を読むのは無駄と言えるでしょう。

しかし,各分野の主要な法については,法の最初に書かれているもの,つまり,法の目的,対象,国,都道府県,市町村の役割などについては,確認しておいてほしいと思います。

さて,今日の問題の正解は


1 児童の福祉を保障するための原理は,すべて児童に関する法令の施行にあたって,常に尊重されなければならない。

原理とは,例外のないルールです。例外のあるルールは「原則」といいます。


2 国は,児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。

第一義的責任を負うのは,児童の保護者です。


3 児童が就学年齢に達した後に,その自立が図られることその他の福祉を保障される権利を得る。

こんな規定はありません。


4 児童憲章を児童の福祉を保障するための原理としている。

児童の福祉を保障するための原理は,児童福祉法の第二条です。


5 全て国民は,児童の保護者を支援しなければならないとしている。

国民の責務は,以下のとおりです

児童が良好な環境において生まれ,かつ,社会のあらゆる分野において,児童の年齢及び発達の程度に応じて,その意見が尊重され,その最善の利益が優先して考慮され,心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。

児童の保護者を支援しなければならないのは,国です。


<今日の一言>

児童福祉法の理念は,法の成立以来,2016年(平成28年)に初めて改正されました。
法の理念の改正は,根本です。

今日の問題は,改正後,すぐに出題されたことになります。
小さな制度改正レベルのものは,ほぼ出題されません。

理念や定義など,法の根本にかかわるものは極めて重要なので,すぐ出題されることがありますが,それらはほとんどありません。

国民の責務に規定された「最善の利益」についてです。

もともとは,ジュネーブ宣言(1924)で打ち出され,戦後,児童権利宣言(1959)で受け継がれ,法的拘束力のある児童の権利に関する条約(1989)で,規定され直したものです。

同条約の日本の批准は1994年ですが,最善の利益が児童福祉法の理念に加わったのは,条約批准から20数年の時を経た2016年のことです。

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