地方自治法では,以下のように規定されます。
地方公共団体は,法人とする。
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普通地方公共団体は,地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。
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市町村
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市町村は,基礎的な地方公共団体として,都道府県が処理するものとされているものを除き,一般的に,前項の事務を処理する。
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都道府県
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市町村を包括する広域の地方公共団体として,広域にわたるもの,市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理する。
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市町村は,基礎的地方公共団体であることは分かりました。
都道府県は,その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものであることも分かりました。
ここまでは,どこの参考書ににも書いてあることでしょう。
さて,それで何が市町村が処理することが適当でないと認められるものとなるのでしょうか。
以下のようなものが,基本的にそれに当たると考えられます。
市町村が処理することが適当でないと認められるものの例
①専門的な判断が求められるもの
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②サービスの質の向上及び専門職に対する研修
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③事業者の指定。 など
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もちろん,これらには例外はあります。
基本を押さえて,そのうえで例外を覚えるのが確実であり,効率が良い覚え方です。
それでは,今日の問題です。
第25回・問題142 児童家庭相談における児童相談所と市町村の制度的関係に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 児童虐待を受けた児童については,住所地を管轄する市町村が通告を受理し,必要に応じ子どもの心理学的,社会学的,医学的判定を行う。
2 市町村は,乳児院,児童養護施設等入所型の児童福祉施設への措置を必要と認める場合には,その児童を児童相談所に送致する。
3 市町村長は,療育手帳についての申請を受け付け,児童相談所の判定結果をもとに療育手帳を交付する。
4 児童相談所長は,児童委員の職務について,市町村長に委任して必要な指示をすることができる。
5 児童相談所長は,児童福祉法第33条に基づく一時保護に関して,必要な場合,市町村長が一時保護するよう指示することができる。
改めてこの問題を見ると,市町村と都道府県の役割の違いがよく分かるものです。
逆に言えば,しっかり押さえておかなければ,正解することは難しいものです。
さて,この問題の正解は,選択肢2です。
2 市町村は,乳児院,児童養護施設等入所型の児童福祉施設への措置を必要と認める場合には,その児童を児童相談所に送致する。
市町村は,基礎的地方公共団体として,基本的な住民サービスを実施します。
高齢者や障害者の入所措置は,1990(平成2)年の福祉関係八法改正によって,都道府県から市町村に権限移譲されています。
児童の場合は
通所 → 市町村
入所 → 都道府県
というように,現在も役割が分かれています。
その理由は,
児童の施設入所は「①専門的な判断が求められるもの」だからです。
児童にとって,施設入所は,家族と離れたものとなってしまいます。
これを聞いて,あることを思い出す人もいるのではないでしょうか?
あることとは?
ホワイトハウス会議声明
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1909
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児童は緊急やむを得ない理由がない限り,家庭生活から引き離されてはならない。
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アメリカ
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児童にとって,施設入所は,家庭生活から引き離されてしまうことを意味します。
そのため,専門的な判断が求められます。
入所の必要性は,児童相談所など専門機関が判断することになります。
その結果を受けて,都道府県知事が入所の措置を行います。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 児童虐待を受けた児童については,住所地を管轄する市町村が通告を受理し,必要に応じ子どもの心理学的,社会学的,医学的判定を行う。
「心理学的,社会学的,医学的判定」は,市町村が行う事務の範囲を超えます。
もちろん,これらの判定は,専門機関である児童相談所が行います。
3 市町村長は,療育手帳についての申請を受け付け,児童相談所の判定結果をもとに療育手帳を交付する。
障害者に関する手帳には,
身体障害者手帳
療育手帳
精神障害者保健福祉手帳
の3種類があります。
これらに共通するのは,等級の判定を行うことです。
そのため「①専門的な判断が求められるもの」に当たります。
したがって,都道府県が行う事務となります。
手帳であっても,母子健康手帳は,等級の判定はありません。
こういったものは,市町村の役割となります。
4 児童相談所長は,児童委員の職務について,市町村長に委任して必要な指示をすることができる。
都道府県知事
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指揮監督
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市町村長
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指示出し
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児童相談所長
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調査の委嘱
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児童委員に指示を出すのは,市町村長であることは適切ですが,児童相談所長が市町村長に委任するものではありません。
5 児童相談所長は,児童福祉法第33条に基づく一時保護に関して,必要な場合,市町村長が一時保護するよう指示することができる。
一時保護は,「①専門的な判断が求められるもの」です。
市町村が行う事務の範囲を超えます。
児童の一時保護は,児童相談所長が行います。
<今日の一言>
市町村は,基本的に「①専門的な判断が求められるもの」は行いません。
「行いません」というよりも「行えません」の方が適切でしょう。
例外として,市町村が行うものとして「要介護認定」と「障害支援区分認定」があります。
高齢者分野や障害者分野で働いている人にとっては,これらは市町村が行うものである,ということは常識でしょう。しかし,これらは例外です。
本来の市町村の持つ機能では,これらは手に余るものです。
そのために,市町村をサポートするものとして「介護認定審査会」「市町村審査会」が設置されます。
これらの審査会の判定の結果によって,市町村は認定することができます。
高齢者分野をよく知る人にとって,もう一つ注意すべきことがあります。
それは「③事業者の指定」です。
介護保険では,地域密着型サービスや介護予防サービス,居宅介護支援事業者,市町村が事業者の指定の指定を行っていますが,基本的に事業者の指定は,都道府県の役割です。
このほかに市町村が行う事業者の指定は,特定相談支援事業者と障害児相談支援事業者がある程度です。