2025年5月29日木曜日

男女雇用機会均等法における間接差別

 

男女雇用機会均等法では,性別を理由とする差別を禁止しています。

 

一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練

二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの

三 労働者の職種及び雇用形態の変更

四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

 

それ以外に間接差別も禁止しています。

 

間接差別とは

性別以外の事由を要件とする措置であって,他の性の構成員と比較して,一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを合理的な理由がないときに講ずること。

 

〈間接差別の例〉

・労働者の募集又は採用に当たって,労働者の身長,体重又は体力を要件とするもの

・総合職の労働者の募集又は採用に当たって,転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること

・労働者の昇進に当たり,転勤の経験があることを要件とすること

 

上記の場合であっても,合理的な理由がある場合は,間接差別とはなりません。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題31

男女雇用機会均等政策に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 常時雇用する労働者数が101人以上の事業主は,女性の活躍に関する一般事業主行動計画を策定することが望ましいとされている。

2 セクシュアルハラスメントを防止するために,事業主には雇用管理上の措置義務が課されている。

3 総合職の労働者を募集・採用する場合は,理由のいかんを問わず,全国転勤を要件とすることは差支えないとされている。

4 育児休業を取得できるのは,期間の定めのない労働契約を結んだフルタイム勤務の労働者に限られている。

5 女性労働者が出産した場合,その配偶者である男性労働者は育児休業を取得することが義務づけられている。

 

今日のテーマは,選択肢3に出題されています。

 

それでは,解説です。

 

1 常時雇用する労働者数が101人以上の事業主は,女性の活躍に関する一般事業主行動計画を策定することが望ましいとされている。

 

女性の活躍に関する一般事業主行動計画は,女性活躍推進法で規定されているものです。

 

常時雇用する労働者数が101人以上の事業主には,策定が義務づけられています。

 

努力義務ではありません。

 

2 セクシュアルハラスメントを防止するために,事業主には雇用管理上の措置義務が課されている。

 

これが正解です。

 

男女雇用機会均等法に規定されています。

 

3 総合職の労働者を募集・採用する場合は,理由のいかんを問わず,全国転勤を要件とすることは差支えないとされている。

 

前説のように,・総合職の労働者の募集又は採用に当たって,転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすることは,間接差別になり,禁止されます。

 

ただし合理的な理由があれば認められます。

 

〈合理的な理由の例〉

・広域にわたり展開する支店,支社等があり,広域にわたり展開する計画がある場合。

 

4 育児休業を取得できるのは,期間の定めのない労働契約を結んだフルタイム勤務の労働者に限られている。

 

育児休業は,有期契約の労働者でも取得できます。

 

2022年に,申出時点で入社1年以上という要件も原則として廃止されています。

 

  

5 女性労働者が出産した場合,その配偶者である男性労働者は育児休業を取得することが義務づけられている。

 

このような規定はありません。

2025年5月27日火曜日

社会福祉法が定める苦情の解決

 

社会福祉法では,苦情の解決のため,社会福祉事業の経営者に以下の努力義務を規定しています。

 

社会福祉事業の経営者による苦情の解決

第八十二条 社会福祉事業の経営者は,常に,その提供する福祉サービスについて,利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない。

 

 

また,都道府県社会福祉協議会に設置される運営適正化委員会が,福祉サービスに関する利用者等からの苦情の解決に当たります。

 

運営適正化委員会は,苦情の解決に当たり,当該苦情に係る福祉サービスの利用者の処遇につき不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは,都道府県知事に対し,速やかに,その旨を通知しなければなりません。

 

都道府県知事は,その通知に基づき,指導や指定の取消しなどを行います。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題30

福祉サービスの利用に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者に対し,常に,その提供する福祉サービスの利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならないと規定している。

2 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者が,福祉サービスの利用契約の成立時に,利用者へのサービスの内容や金額等の告知を,書面の代わりに口頭で行っても差し支えないと規定している。

3 福祉サービスを真に必要とする人に,資力調査を用いて選別主義的に提供すると,利用者へのスティグマの付与を回避できる。

4 福祉サービス利用援助事業に基づく福祉サービスの利用援助のために,家庭裁判所は補助人・保佐人・後見人を選任しなければならない。

5 福祉サービスの利用者は,自らの健康状態や財力等の情報を有するため,サービスの提供者に比べて相対的に優位な立場で契約を結ぶことができる。

 

今日のテーマは,選択肢1に出題されています。

 

問題づくりが下手な問題なので,知識がなくても正解できそうな問題かもしれません。

 

それでは,解説です。

 

1 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者に対し,常に,その提供する福祉サービスの利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならないと規定している。

 

これが正解です。苦情の解決は努力義務です。

 

苦情を適切に解決しなければならない。

 

と出題されると誤りとなります。

 

2 社会福祉法は,社会福祉事業の経営者が,福祉サービスの利用契約の成立時に,利用者へのサービスの内容や金額等の告知を,書面の代わりに口頭で行っても差し支えないと規定している。

 

(利用契約の成立時の書面の交付)

第七十七条 社会福祉事業の経営者は、福祉サービスを利用するための契約(厚生労働省令で定めるものを除く。)が成立したときは、その利用者に対し、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。

 一 当該社会福祉事業の経営者の名称及び主たる事務所の所在地

 二 当該社会福祉事業の経営者が提供する福祉サービスの内容

 三 当該福祉サービスの提供につき利用者が支払うべき額に関する事項

 四 その他厚生労働省令で定める事項

 

3 福祉サービスを真に必要とする人に,資力調査を用いて選別主義的に提供すると,利用者へのスティグマの付与を回避できる。

 

スティグマの付与を回避しやすいと言えるのは,普遍主義です。

 

選別主義を用いた制度の代表は,生活保護制度です。

 

スティグマを感じやすいのがイメージできるでしょう。

 

4 福祉サービス利用援助事業に基づく福祉サービスの利用援助のために,家庭裁判所は補助人・保佐人・後見人を選任しなければならない。

 

社会福祉法に規定される福祉サービス利用援助事業は,日常生活自立支援事業のことです。事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる人を対象とします。

 

補助人等を選任しなくても,判断能力があると認められれば利用できます。

 

5 福祉サービスの利用者は,自らの健康状態や財力等の情報を有するため,サービスの提供者に比べて相対的に優位な立場で契約を結ぶことができる。

 

利用者は,サービス提供事業者よりも情報などが不足しているため,契約するのに不利です。

 

これは,情報の非対称性と呼ばれるものです。

 

そのため,第三者評価など,サービスの内容を知る仕組みが必要です。

 

社会福祉事業の経営者には,以下の努力義務が規定されています。

 

福祉サービスの質の向上のための措置等

第七十八条 社会福祉事業の経営者は,自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより,常に福祉サービスを受ける者の立場に立つて良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければならない。

 

現在のところでは,第三者評価の受審義務があるのは,社会的養護施設(児童養護施設・乳児院・母子生活支援施設・児童心理治療施設・児童自立支援施設)のみです。

2025年5月25日日曜日

日本の将来推計人口

国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の将来推計人口」は,国勢調査のデータをもとに推計したもので,5年ごとに公表しています。


現時点(令和7年5月)の最新データは,令和2年(2020年)の国勢調査のデータをもとにした令和5年(2023年)推計です。


国家試験では,50年後のデータが出題されます。

2070年ということになります。


中位推計では,2070年の総人口は,9,159万人になると予想されています。


平成29年推計(2065年時点)よりもわずかながら人口減少が緩やかになっていますが,これは外国人の増加を期待しているためです。


それでは今日の問題です。


第35回・問題29

日本における人口の動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 第二次世界大戦後,1940年代後半,1970年代前半,2000年代後半の3回のベビーブームを経験した。

2 15~64歳の生産年齢人口は,高度経済成長期から1990年代後半まで減少を続け,以後は横ばいで推移している。

3 「『日本の将来推計人口』における中位推計」では,65歳以上の老年人口は2025年頃に最も多くなり,以後は緩やかに減少すると予想されている。

4 「2021年の人口推計」において,前年に比べて日本人人口が減少した一方,外国人人口が増加したため,総人口は増加した。

5 1970年代後半以降,合計特殊出生率は人口置換水準を下回っている。 

(注)1 「『日本の将来推計人口』における中位推計」とは,国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」における,出生中位(死亡中位)の推計値を指す。

2 「2021年の人口推計」とは,総務省「人口推計2021年(令和3年)10月1日現在」における推計値を指す。


この問題は,一つ前のデータを使って出題しています。

出題するときは,令和5年推計となります。


しかし,この問題自体は,最新のデータを知らずとも正解できる可能性はあります。

正解となったのは,選択肢5だからです。


5 1970年代後半以降,合計特殊出生率は人口置換水準を下回っている。


人口置換水準とは,親世代と子世代の人数が等しくなる出生率の水準のことです。


しかし,これでは意味がわかりにくいので,人口を維持するために必要な合計特殊出生率だと考えると良いです。


2人の親から2人の子が生まれるだけでは,人口は維持できません。

一般的には,2.1程度が必要だとされています。


日本の場合,乳児死亡率が低いため,2.1よりも少し低くても人口が維持できます。それでも,2.07前後は必要です。


日本が人口置換水準を下回ったのは,1974年(昭和49)年のことです。


段階の世代(第一次ベビーブーム)が子どもを多く生んだ時代(第二次ベビーブーム)の直後,人口置換率を下回ったことになります。


それでは,これ以外の解説です。


ただし,令和5年推計のデータで解説します。


1 第二次世界大戦後,1940年代後半,1970年代前半,2000年代後半の3回のベビーブームを経験した。


第二次ベビーブームの世代が社会に出た時代は,バブル景気崩壊のあとの不況でした。


そのため,企業は新卒採用を控えたため,正規採用されるのがとても困難でした。


いわゆる「就職氷河期」です。


子どもを産み育てるには,安定した収入が必要です。非正規雇用での収入は安定しないため,第三次ヘビーブームは起きずに終わりました。


歴史に「もし」はありませんが,もしバブル崩壊がなければ,現在の少子化傾向はもう少し違っていたことでしょう。


2 15~64歳の生産年齢人口は,高度経済成長期から1990年代後半まで減少を続け,以後は横ばいで推移している。


子が減り続けているため,生産年齢人口も減少を続けています。


3 「『日本の将来推計人口』における中位推計」では,65歳以上の老年人口は2025年頃に最も多くなり,以後は緩やかに減少すると予想されている。


令和5年推計によると,老年人口が最も多くなるのは,2043年頃だと予想されています。


4 「2021年の人口推計」において,前年に比べて日本人人口が減少した一方,外国人人口が増加したため,総人口は増加した。


外国人人口は増加していますが,その分よりも日本人人口が減少しているため,総人口は減少しています。


総人口がピークだったのは,2008年(平成20年)でした。2010年に一度だけ前年を上回りましたが,その年以外は,すべて前年を下回り続けています。

2025年5月23日金曜日

法の目的

 

近年の国家試験では,法の目的や基本理念が出題されるようになってきました。

 

多くの人は,その部分に力を入れて勉強することが少ないために,出題されると焦るのではないかと思います。

 

しかし,その法の目的には,その法が目指すものが書かれているので,覚えなくても何とかなります。

 

それでは,前説なしに今日の問題です。

 

35回・問題28 

生活困窮者自立支援法の目的規定に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い,生活困窮者の自立の促進を図ること。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

 

すべての文章を「生活困窮者の自立の促進を図ること」で締めくくっているために違いが見えにくくなっています。

 

それを外すと以下のようになります。

 

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行うこと。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずること。

 

すっかり丸裸になりました。

 

この状態で間違う人は,ほとんどいないではないかと思います。

 

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずること。

生活困窮者自立支援法

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずること。

生活保護法

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行うこと。

介護保険法

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずること。

教育基本法

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずること。

障害者基本法

 

ということで,正解は選択肢1でした。

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

 

この中で,生活困窮者を対象とすると明記されているのはこれだけです。

 

〈今日の一言〉


国試会場では,こういった問題は,共通部分を線で消して考えると良いです。

さらには,重要部分はアンダーラインや〇で囲みます。

 

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い,生活困窮者の自立の促進を図ること。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2025年5月21日水曜日

貨幣的ニードと非貨幣的ニード

  

福祉ニーズには,金銭給付によって充足できるものと金銭給付では充足できないものがあります。

 

日本社会事業大学の学長を務められた故・三浦文夫先生は,前者を「貨幣的ニード」,後者を「非貨幣的ニード」と呼びました。

 

古くからある福祉ニーズは,貧困です。

 

貧困に対しては,金銭給付されれば,そのニーズは充足します。こういったタイプの福祉ニーズが貨幣的ニードです。

 

しかし,介護や育児といった比較的新しい福祉ニーズは,金銭給付されても,提供されるサービスがなければ充足しません。

 

こういったタイプの福祉ニーズは,非貨幣的ニードといいます。

 

非貨幣的ニードを充足するためには,それに合わせたサービスの提供が必要です。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題27

福祉のニーズとその充足に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ジャッジ(JudgeK.)は,福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に,市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。

2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は,福祉ニーズを充足する部門を,インフォーマル,ボランタリー,法定(公定)の三つに分類した。

3 三浦文夫は,日本における社会福祉の発展の中で,非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで,あるいはそれに代わって,社会福祉の主要な課題になると述べた。

4 ブラッドショー(BradshawJ.)は,サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として,「規範的ニード」を挙げた。

5 フレイザー(FraserN.)は,ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況を,「必要解釈の政治」と呼んだ。

(注) 「ウルフェンデン報告」とは,1978 年にイギリスのウルフェンデン委員会が発表した報告書「The Future of Voluntary Organisations」のことである。

 

福祉ニーズが出題されると難しいなぁ,と感じる人もいるかもしれません。

 

しかし,福祉現場だけではなく,制度をつくる際にも何に着目するかというのは,とても重要です。

 

いわゆるニーズ判定です。

 

それでは,解説です。

 

1 ジャッジ(JudgeK.)は,福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に,市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。

 

ラショニングは,ここでは,割当と出題されていますが,配給とも訳されます。

 

配給と言えば,日本では第二次世界大戦の戦中戦後が頭に浮かぶ人もいるでしょう。

 

需要に対して,供給量が足りない場合,市場メカニズムに従うと,商品の金額が上がってしまいます。

 

そのようにならないために,ラショニング(配給)を行います。

 

例えば,10枚つづりのお米券は,一家族は,1セットのみといったように限定して販売します。

 

このように,ラショニングは,市場メカニズムを活用しないで,需要を満たす福祉政策です。

 

2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は,福祉ニーズを充足する部門を,インフォーマル,ボランタリー,法定(公定)の三つに分類した。

 

イギリスのウルフェンデン報告(1978年)が示した福祉サービスを提供する部門

・インフォーマル

・ボランタリー

・法定(公定)

・営利

 

重要な営利部門が抜けています。

 

営利部門が参入することで,競争原理が期待できます。

 

コスト削減も期待できるでしょう。

 

3 三浦文夫は,日本における社会福祉の発展の中で,非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで,あるいはそれに代わって,社会福祉の主要な課題になると述べた。

 

これが正解です。

 

今日の日本を考えてみるとよく理解できるでしょう。

 

4 ブラッドショー(BradshawJ.)は,サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として,「規範的ニード」を挙げた。

 

サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型は,感得されたニードです。

 

規範的ニードは専門職などが望ましい状態と比較することで,ニードの有無を判断するニードです。

 

ブラッドショーは,ニーズを以下のように類型化しています。

 

感得されたニード

(フェルト・ニード)

ニードがあることを本人が自覚したニード

表明されたニード

(エクスプレスト・ニード)

ニードがあることを自覚した結果,行動に出たニード

規範的ニード

(ノーマティブ・ニード)

社会的に望ましい状態(社会規範)に照らしてみてニードがあるとみなされるニード

比較ニード

(コンパラティブ・ニード)

サービス受給していないが,サービス受給している人と比べてみることでニードがあるとされるニード

 

 

5 フレイザー(FraserN.)は,ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況を,「必要解釈の政治」と呼んだ。

 

必要解釈の政治とは,世の中に起きている事象に対して,ニーズ判定を行う政治手法です。

 

ニーズの中身が,当事者によってではなく,専門職によって客観的に決定されている状況は,必要充足の政治といいます。

 

福祉制度を作り上げていく過程で必要なのが,「必要解釈の政治」,制度を運営していく過程,つまりストリードレベルの官僚(行政の窓口担当者)が必要なのが「必要充足の政治」です。

2025年5月19日月曜日

日本の救貧制度の整理

 現行の生活保護法に至るまでの流れをまず押さえましょう。



治以降の日本の救貧制度は以下の4つです,


①恤救規則

②救護法

③旧・生活保護法

④現・生活保護法


発展過程はこれらを押さえておくだけで大丈夫です。

たったこれだけです。



恤救規則


救済の対象 ➡ 無告の救民(児童は13歳以下の孤児,老人は70歳以上の老衰者)
救済の方法 ➡ 米代の金銭給付 ※コメの現物給付じゃないよ!!
救済の実施 ➡ 国 ※地方じゃないよ!!


救護法

救護の対象 ➡ 65歳以上の老衰者,障害などで仕事に支障がある者など。
 ※「性行著しく不良又は著しく怠惰な場合は救護しなくてもよい」「扶養義務者が扶養できる者は,急迫な事情がある場合を除いて保護しない」。

救護の種類 ➡ 生活扶助 医療扶助 助産扶助 生業扶助(4種類) 
救護の実施 ➡ 市町村
補助機関  ➡ 方面委員 ※協力機関ではないよ!!


旧・生活保護法

保護の対象 ➡ 「無差別平等の原則」。ただし欠格条項あり(労働意欲がない, 素行不良者,扶養可能な扶養義務者がいるなど)。「扶養義務者が扶養できる者は,急迫な事情がある場合を除いて保護しない」。しかし,「無差別平等」は打ちだしている。

保護の種類 ➡ 生活扶助 医療扶助 助産扶助 生業扶助 葬祭扶助(5種類) 
保護の実施 ➡ 市町村
補助機関  ➡ 民生委員
元になるもの ➡ 社会救済(SCAPIN775) ※GHQによる指令書です。



現・生活保護法

保護の対象 ➡ 本来の「無差別平等の原則」が実現。
保護の種類 ➡ 生活扶助 医療扶助 助産扶助 生業扶助 葬祭扶助 教育扶助 住宅扶助 + 介護扶助(8種類) 
保護の実施 ➡ 市町村
保護機関  ➡ 福祉事務所
補助機関  ➡ 社会福祉主事
協力機関  ➡ 民生委員
元になるもの➡ 日本国憲法第25条(生存権)


それでは今日の問題です。


第35回・問題26

福祉六法の制定時点の対象に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 児童福祉法(1947年(昭和22年))は,戦災によって保護者等を失った満18歳未満の者(戦災孤児)にその対象を限定していた。

2 身体障害者福祉法(1949年(昭和24年))は,障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし,その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられていた。

3 (新)生活保護法(1950年(昭和25年))は,素行不良な者等を保護の対象から除外する欠格条項を有していた。

4 老人福祉法(1963年(昭和38年))は,介護を必要とする老人にその対象を限定していた。

5 母子福祉法(1964年(昭和39年))は,妻と離死別した夫が児童を扶養している家庭(父子家庭)を,その対象外としていた。


今日のテーマは,選択肢3に出題されています。


それでは解説です。


1 児童福祉法(1947年(昭和22年))は,戦災によって保護者等を失った満18歳未満の者(戦災孤児)にその対象を限定していた。

現在の児童福祉法の児童の定義は,

児童とは、満十八歳に満たない者

この定義は,児童福祉法ができた当初から同じです。

戦災孤児に限定していません。


2 身体障害者福祉法(1949年(昭和24年))は,障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし,その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられていた。

障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし,その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられているのは,障害者基本法です。


3 (新)生活保護法(1950年(昭和25年))は,素行不良な者等を保護の対象から除外する欠格条項を有していた。

欠格条項があったのは,救護法と(旧)生活保護法です。

日本国憲法に基づいて作られた(新)生活保護法には,無差別平等の原理があります。

貧困に陥った理由は問われません。


4 老人福祉法(1963年(昭和38年))は,介護を必要とする老人にその対象を限定していた。

老人福祉法では老人を定義していませんが,対象は限定していません。


5 母子福祉法(1964年(昭和39年))は,妻と離死別した夫が児童を扶養している家庭(父子家庭)を,その対象外としていた。

これが正解です。

現在の母子及び父子並びに寡婦福祉法は,当初は母子を対象としていました。

その後,寡婦を対象に加え,さらに父子が加わり,現在に至ります。

2025年5月17日土曜日

福祉の歴史に登場する人物

 

今日の問題で出題されている人物の過去の出題回数は以下の通りです。

(第3~37回国家試験)

 

石井十次

岡山孤児院

18

山室軍平

救世軍

5回

留岡幸助

家庭学校

15

野口幽香

二葉幼稚園

7回

石井亮一

滝乃川学園

7回

 

以前に調べた時には,留岡幸助がトップでしたが,いつのまにか石井十次がトップになっていました。

 

いずれにせよ,この2人の出題頻度は飛びぬけています。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題25

近代日本において活躍した福祉の先駆者に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 石井十次は岡山孤児院を設立した。

2 山室軍平は家庭学校を設立した。

3 留岡幸助は救世軍日本支部を設立した。

4 野口幽香は滝乃川学園を設立した。

5 石井亮一は二葉幼稚園を設立した。

 

これは,ものすごくシンプルに出題されていますが,これは珍しいです。

 

この問題の答えは,

 

1 石井十次は岡山孤児院を設立した。

 

あとは,解説しません。

2025年5月15日木曜日

小さな政府

 今回は,小さな政府を学びます。


小さな政府とは,財政支出が小さい政府のことです。


歴史的には,アダム・スミスが「夜警国家」(国家の機能を最小限にとどめる国家)を主張したことで知られます。


その後,20世紀の後半に出てきたイギリスのサッチャー首相に代表される新自由主義も小さな政府を目指すものです。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題24

福祉政策に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 アダム・スミス(Smith,A.)は,充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。

2 マルサス(Malthus,T.)は,欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために,包括的な社会保障制度の整備を主張した。

3 ケインズ(Keynes,J.)は,不況により失業が増加した場合に,公共事業により雇用を創出することを主張した。

4 フリードマン(Friedman,M.)は,福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。

5 ロールズ(Rawls,J.)は,国家の役割を外交や国防等に限定し,困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。


かなり難易度が高い問題です。


もしかすると高校生のほうが正解できるかもしれません。

正解となったものは,「政治・経済」で学ぶものだからです。


正解は,選択肢3です。

3 ケインズ(Keynes,J.)は,不況により失業が増加した場合に,公共事業により雇用を創出することを主張した。


これをケインズ主義といいます。


1929年におきた世界大恐慌に対して,アメリカでは,ニューディール政策を行いました。


その時のベースとなったものがケインズ主義です。この思想は,小さな政府に対して,大きな政府といいます。


思い出したでしょうか。


ほかの選択肢も解説します。


1 アダム・スミス(Smith,A.)は,充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。


アダム・スミスが出張したのは,小さな政府です。


2 マルサス(Malthus,T.)は,欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために,包括的な社会保障制度の整備を主張した。


マルサスが主張したのは,著書「人口論」の中で,救貧法は,貧困を増大させるというものです。


食糧には限界があり,貧困者が救貧法によって救済されることで人口が増大し,食糧と人口の差が貧困を生み出すと考えました。


欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために,包括的な社会保障制度の整備を主張したのは,ベヴァリッジです。


4 フリードマン(Friedman,M.)は,福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。


フリードマンが出張したのは,小さな政府です。


5 ロールズ(Rawls,J.)は,国家の役割を外交や国防等に限定し,困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。


ロールズが提唱したのは,格差原理です。


格差原理とは,社会的な不平等が認められるのは、最も恵まれない人々に収入,機会,自由などを配分する場合のみと考える原理です。


国家の役割を外交や国防等に限定し,困窮者の救済を慈善事業に委ねることとは,アダム・スミスが主張した夜警国家のことです。

2025年5月13日火曜日

積極的自由と消極的自由


今回は,積極的自由と消極的自由を学びたいと思います。


積極的自由とは,自分の意思で行動できる自由です。


消極的自由とは,他者から干渉されない自由です。


政治哲学に重ねると以下のようになります。


積極的自由 → 自由主義

消極的自由 → 自由至上主義


それでは今日の問題です。


第35回・問題23

福祉に関わる思想や運動についての次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 バーリン(Berlin,I.)のいう積極的自由とは,自らの行為を妨げる干渉などから解放されることで実現する自由を意味する。

2 ポジティブ・ウェルフェアは,人々の福祉を増進するために,女性参政権の実現を中心的な要求として掲げる思想である。

3 1960年代のアメリカにおける福祉権運動の主たる担い手は,就労支援プログラムの拡充を求める失業中の白人男性たちであった。

4 フェビアン社会主義は,ウェッブ夫妻(Webb,S.&B.)などのフェビアン協会への参加者が唱えた思想であり,イギリス福祉国家の形成に影響を与えた。

5 コミュニタリアニズムは,家族や地域共同体の衰退を踏まえ,これらの機能を市場と福祉国家とによって積極的に代替するべきだとする思想である。



この問題を見た受験生は,びっくりしたのではないかと思います。

こういった問題は,必ずしも解けなくても良いです。


しかし,今は覚えておきたいです。


それでは,解説です。


1 バーリン(Berlin,I.)のいう積極的自由とは,自らの行為を妨げる干渉などから解放されることで実現する自由を意味する。


自らの行為を妨げる干渉などから解放されることで実現する自由は,消極的自由です。


2 ポジティブ・ウェルフェアは,人々の福祉を増進するために,女性参政権の実現を中心的な要求として掲げる思想である。


ポジティブ・ウェルフェアとは,「福祉から就労へ」を意味する考え方です。


具体的には,就労するための訓練などを強化する施策です。


3 1960年代のアメリカにおける福祉権運動の主たる担い手は,就労支援プログラムの拡充を求める失業中の白人男性たちであった。


1960年代の福祉権運動の中心は,黒人でした。


4 フェビアン社会主義は,ウェッブ夫妻(Webb,S.&B.)などのフェビアン協会への参加者が唱えた思想であり,イギリス福祉国家の形成に影響を与えた。


これが正解です。


ウェッブ夫妻は,ナショナルミニマム(国家による最低限度の生活保障)を提唱した人物として知られます。


フェビアン社会主義とは,イギリスにおける社会主義思想です。


ウェッブ夫妻の夫であるシドニー・ウェッブは,フェビアン協会の創立者の一人です。フェビアン協会は,その後の労働党の母体となりました。


5 コミュニタリアニズムは,家族や地域共同体の衰退を踏まえ,これらの機能を市場と福祉国家とによって積極的に代替するべきだとする思想である。


コミュニタリアニズムは,家族や地域共同体を重視する政治哲学です。

2025年5月11日日曜日

地域共生社会とは

 

今回は,地域共生社会を学びます。

 

地域共生社会とは・・・ 

制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会。

 

詳しく述べると・・・

 

「縦割り」という関係を超える

・制度の狭間の問題に対応

・介護,障害,子ども・子育て,生活困窮といった分野がもつそれぞれの専門性をお互いに活用する

・1機関,1個人の対応ではなく,関係機関・関係者のネットワークの中で対応するという発想へ

 

「支え手」「受け手」という関係を超える

・一方向から双方向の関係性へ

・一方向の関係性では,本人の持つ力を引き出すという発想になりにくい。

 

「世代や分野」を超える

・世代を問わない対応

・福祉分野とそれ以外の分野で一緒にできることを考える

(例:保健医療,労働,教育,住まい,地域再生,農業・漁業など多様な分野)

 

住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく

・地域住民や地域の多様な主体が参画し,暮らし続けたいと思える地域を自ら生み出していく。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題22

次の記述のうち,近年の政府による福祉改革の基調となっている「地域共生社会」の目指すものに関する内容として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 老親と子の同居を我が国の「福祉における含み資産」とし,その活用のために高齢者への所得保障と,同居を可能にする住宅等の諸条件の整備を図ること。

2 「地方にできることは地方に」という理念のもと,国庫補助負担金改革,税源移譲,地方交付税の見直しを一体のものとして進めること。

3 普遍性・公平性・総合性・権利性・有効性の五つの原則のもと,社会保障制度を整合性のとれたものにしていくこと。

4 行政がその職権により福祉サービスの対象者や必要性を判断し,サービスの種類やその提供者を決定の上,提供すること。

5 制度・分野ごとの縦割りや,支え手・受け手という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が我が事として参画すること等で,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていくこと。

 

答えは,前説によってすぐわかると思いますが,解説します。

 

1 老親と子の同居を我が国の「福祉における含み資産」とし,その活用のために高齢者への所得保障と,同居を可能にする住宅等の諸条件の整備を図ること。

 

これは,高齢者社会が目指すもののことです。

 

 

2 「地方にできることは地方に」という理念のもと,国庫補助負担金改革,税源移譲,地方交付税の見直しを一体のものとして進めること。

 

これは,三位一体改革のことです。

 

 

3 普遍性・公平性・総合性・権利性・有効性の五つの原則のもと,社会保障制度を整合性のとれたものにしていくこと。

 

これは,社会保障制度審議会の1995年勧告で示されたものです。

 


4 行政がその職権により福祉サービスの対象者や必要性を判断し,サービスの種類やその提供者を決定の上,提供すること。

 

これは,措置制度のことを述べたものです。

 

5 制度・分野ごとの縦割りや,支え手・受け手という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が我が事として参画すること等で,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていくこと。

 

これが正解です。

 

〈今日の一言〉

 

地域共生社会のほかで覚えておきたいのは,措置制度です。

 

2000年(平成12年)の社会福祉法によって,それまで福祉サービスを利用するためには,行政に申し込んで行政が判断する(措置制度)が,サービス提供事業者と契約する契約制度へと変更され,現在に至ります。

しかし,現在でも,児童福祉,高齢者福祉などには措置制度が残ります。

児童福祉では,里親委託や児童養護施設などの社会的養護など,高齢者福祉では,養護老人ホームへの入所などは,現在でも措置によってなされます。

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