人名は覚える必要はありませんが,危機理論を提唱したキャプランは,予防の概念である予防モデルを提唱しています。
今日では,広くさまざまな分野で用いられています。
予防モデル
一次予防 |
問題を発生させないこと。 |
二次予防 |
問題を早期に発見,治療すること。 |
三次予防 |
問題を進行させない,問題を再発させないこと。 |
これだけを機械的に覚えていても国家試験を正解することはできません。
予防概念が出題される時は,たいていタクソノミーⅡ型(知識を使って思考して答える形式)で出題されています。
今日の問題もいかにもそうです。
第35回・問題3
次のうち,疾病の予防に関する記述として,正しいものを1つ選びなさい。
1 特定健康診査は一次予防である。
2 糖尿病予防教室は一次予防である。
3 ワクチン接種は二次予防である。
4 リハビリテーションは二次予防である。
5 胃がんの手術は三次予防である。
どうでしょうか?
それぞれの選択肢の内容を考えなければ答えられません。
まさしく「ザ・タクソノミーⅡ型」です。
それでは,解説していきます。
1 特定健康診査は一次予防である。
高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)に基づいて,40歳以上75歳未満の医療保険加入者に実施される特定健康診査の目的は,生活習慣病のリスクの早期発見です。
早期発見は,二次予防です。
特定健康診査は,メタボリックシンドロームに着目して実施されます。
メタボリックシンドロームの診断基準は,
・腹囲が基準以上(男性85センチメートル,女性90センチメートル)
・血圧,血糖,脂質の検査値が規定値以上
特定健康診査の結果によって生活習慣の改善が必要と判定されると特定保健指導が実施されます。
特定保健指導も二次予防です。
2 糖尿病予防教室は一次予防である。
これが正解です。糖尿病予防教室は,糖尿病にならないためのものです。
問題を発生させないこと(つまりは生活習慣病の予防)は,一次予防です。
3 ワクチン接種は二次予防である。
ワクチン接種は,感染症にならないために行うものです。
問題を発生させないこと(つまりは感染症の予防)は,一次予防です。
4 リハビリテーションは二次予防である。
医学リハビリテーションの中には,体力低下を予防するためのものも含まれます(この場合は一次予防)が,多くのリハビリテーションは,問題の悪化や再発予防のために行われます。
悪化や再発防止は,三次予防です。
少なくともリハビリテーションは,問題の早期発見である二次予防ではありません。
5 胃がんの手術は三次予防である。
治療は,二次予防です。
〈今日のおまけ〉
この問題は,不適切問題にはなりませんでしたが,一部に物議を醸しだしました。
厚生労働省のホームページにこんな記述があるからです。
特定健診・特定保健指導の仕組みは、40~74歳の方全員を対象として大規模な一次予防を行うという、世界に例のない先駆的な取組として、各国のマスメディア・政府関係者から取材を受けています。
しかし,特定健康診査は,明らかに一次予防ではありません。こんな文章は削除してほしいものです。
一次予防は,一般住民に対する健康指導でなければなりません。
特定健康診査は,生活習慣病のハイリスク者を発見するためのものです。
特定健康指導は,特定健康検査であぶり出された生活習慣病のハイリスク者に対して実施されます。