社会福祉士の国試に出題されるものは,2012年から運用されている「社会福祉法人新会計基準」に基づく,会計管理が中心です。
新しいカリキュラムでは,「資金調達」が加わっています。
今のカリキュラムの出題基準には,その部分は明記されていませんが,カリキュラムが変わる前に,資金調達に関する出題もされるようになるでしょう。
社会福祉法人新会計基準は,今までいくつかの会計ルールで行われていたものを統一したものです。
国試で出題される財務諸表は,
①貸借対照表
②事業活動計算書
③資金収支計算書
の3種類です。
計算書類
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目的
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貸借対照表
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当該会計年度末(ある時点)の財政状態を明らかにするもの。
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事業活動計算書
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当該会計年度(ある一定期間)の収益と費用を計算するもの。「純資産」の増減を明らかにする。
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資金収支計算書
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当該会計年度(ある一定期間)の資金繰りを計算して,「支払資金」と呼ばれる運転資金(貸借対照表の流動資産と流動負債の差)の増減を明らかにするもの。
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この中で,最も国試に多く出題されているのは,①貸借対照表です。
詳しい内容は,問題の解説を通して,今後随時紹介していきたいと思います。
とりあえず覚えておきたいのは,上記の表の内容でよいです。少しずつ知識を増やしていきましょう。
それでは今日の問題です。
第23回・問題117 福祉サービスの収支,会計に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 介護保険サービスや障害福祉サービスの対価として事業者が受け取る費用の単価については,地域を問わず全国一律の金額を厚生労働大臣が定めている。
2 介護保険サービスや一部サービスを除いた障害福祉サービスにおいては,事業者は,指定事業所ごとに経理を区分するとともに,各サービスの事業の会計とその他の事業の会計を区分しなければならない。
3 減価償却とは,長期間にわたって使用される固定資産の取得に要した支出を,その資産が使用できる期間にわたって費用配分する会計上の手続きであり,福祉サービスのために利用する土地や建物もその対象となる。
4 事業活動収支計算書又は事業活動計算書とは,事業活動を営むに当たり,どのようにして資金を調達し,それがどのような資産に投入されているかをみることを目的として,ある時点の資産,負債,純資産を示したものである。
5 貸借対照表とは,事業の経営状態や事業の継続性を明らかにすることを目的として,ある一定期間の事業活動収入(収入)と事業活動支出(費用)の状態を示したものである。
新会計基準では,事業活動収支計算書又は事業活動計算書は,事業活動計算書に統一されて,内容も若干変わっています。しかし国試は細かいまでは出題されません。
この問題が,会計に関する初めての出題となったものです。
覚えていてほしいのは,最初はそれほど詳しい問題は出題されないことです。
それでは,誰もが正解できなくなってしまうからです。
さて,この問題の正解は,
2 介護保険サービスや一部サービスを除いた障害福祉サービスにおいては,事業者は,指定事業所ごとに経理を区分するとともに,各サービスの事業の会計とその他の事業の会計を区分しなければならない。
新会計基準で作成しなければならないものは以下のものを作成しなければなりません。
①法人全体
②事業別(社会福祉事業,公益事業,収益事業)
③拠点別
④サービス別
今日の問題が出題されたのは,新会計基準が第23回(2009年1月)なので,内容は若干異なりますが,拠点別,サービス別の計算書類を作成しなければなりません。
それでは,ほかの選択肢も確認していきましょう。
1 介護保険サービスや障害福祉サービスの対価として事業者が受け取る費用の単価については,地域を問わず全国一律の金額を厚生労働大臣が定めている。
診療報酬は,全国一律の費用が設定されていますが,介護報酬と障害福祉サービス等報酬は,地域によって差があります。
診療報酬は,全国「一律」ですが,多くの場合「一律に」といった内容が含まれる選択肢は,正解になりにくい傾向があることを覚えておきましょう。
3 減価償却とは,長期間にわたって使用される固定資産の取得に要した支出を,その資産が使用できる期間にわたって費用配分する会計上の手続きであり,福祉サービスのために利用する土地や建物もその対象となる。
減価償却は,この後も幾度も出題されてくる要注意アイテムです。
固定資産は,固定資産税の対象となります。
しかし,建物や物品は,時間とともに古くなり,取得した時点よりも価値が下がっていきます。
価値が下がった分を費用化する会計上の手続きが,減価償却です。
国試では「減価償却の対象には『土地』も含まれる」と出題されますが,土地は,時間の経過とともに価値は下がらないので,減価償却の対象ではありません。価値が下がるどころか,逆に価値が上がることさえあります。
減価償却は,価値が下がった分を毎年の費用として計上するものであり,実際に外部に資金が流出するものではないことを合わせて覚えておきましょう。
4 事業活動収支計算書又は事業活動計算書とは,事業活動を営むに当たり,どのようにして資金を調達し,それがどのような資産に投入されているかをみることを目的として,ある時点の資産,負債,純資産を示したものである。
新会計基準によって,事業活動収支計算書又は事業活動計算書は事業活動計算書に統一されています。
ある時点の資産,負債,純資産を示したものは「貸借対照表」です。
国試に出題される財務諸表のうち,「ある時点」の状態を示すのは,貸借対照表しかありません。
事業活動計算書と資金収支計算書は,ある一定期間の状態をしめす計算書類です。
5 貸借対照表とは,事業の経営状態や事業の継続性を明らかにすることを目的として,ある一定期間の事業活動収入(収入)と事業活動支出(費用)の状態を示したものである。
ある一定期間の事業活動収入(収入)と事業活動支出(費用)の状態を示したものは,事業活動計算書です。
ここでは,収入と費用となっていますが,新会計基準によって,収入は「収益」と変更になっています。
ただし,国試ではそんな細かいところまで,問われることはありません。
<今日の一言>
今日の問題は,一見するととても難しいものに見えるでしょう。
実際に,簡単なものではありません。
しかし,先に述べたように,国試は初めて出題するときの癖のようなものがあります。
この問題では,会計は,事業所別,サービス別に分けて作成しなければならない,という内容のものが正解となりました。
これも正解にするのは,難しいですが,うまく減価償却の選択肢を避けることができたら,選択肢4と5の財務諸表は正解になりにくいので,正解にたどりつくことができます。
これが国試の癖と言えるものです。
たくさん問題を解くと,こういった癖も見えてくるでしょう。
そうすれば,得点力はぐんぐん上がります。
多くの人は,財務諸表の内容で混乱させられてしまうと思いますが,初回の出題の場合,多くはそこには正解は含まれることは少ないのです。