「戦略」(strategy=ストラテジー)はもともと軍事用語でしたが,それをビジネスの世界に持ち込んだのは,アンゾフ(Ansoff,I.)です。
その業績で,アンゾフは「経営戦略の父」と呼ばれるそうです。
さて,経営戦略を復習してみたいと思います。
経営戦略は,長期ビジョンに立って作られます。
経営戦術は,場面に合わせた作戦です。
二の手,三の手も同時に作られることがあります。
ビジネスの世界では,失敗しても命まで取られることありませんが,実際の戦争では,先述の失敗は死ぬことを意味します。
失敗は許されません。
それでは,今日の問題です。
第24回・問題114 福祉サービス提供組織の経営を考える上で基礎となる戦略や経営理論に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 アンゾフ(Ansoff,I.)は,経営における意思決定を,日常業務的意思決定,管理的意思決定,戦略的意思決定の3層に区分した。
2 チャンドラー(Chandler.A.)は,経営戦略を,短期の基本目標を定めた上で,その目標を実現するために行動を起こしたり,経営資源を配分したりすることと定義した。
3 アンドルーズ(Amdrews,K.)は,戦略を形成するプロセスとして,外部環境の機会と脅威を重要視し,組織内部の弱みや強みについての評価は必要でないとした。
4 ミンツバーグ(Mintzberg.H.)は,戦略は,当初に明確に意図する必要があり,当初に明確に意図しなかったものが実現しても,それは戦略ではないとした。
5 ユヌス(Yunus,M.)は,「ソーシャルビジネス」の利益は,不測の事態に備えるために必要であるが,利益をビジネスの拡大に再投資してはならないとした。
人の名前が並んでいます。
こういった問題では,人の名前がわからなければ正解できない,という問題はほとんどありません。
そのため,以下のように読み替えることができます。
1 経営における意思決定は,日常業務的意思決定,管理的意思決定,戦略的意思決定の3層に区分することができる。
2 経営戦略は,短期の基本目標を定めた上で,その目標を実現するために行動を起こしたり,経営資源を配分したりすることをいう。
3 戦略を形成するプロセスでは,外部環境の機会と脅威を重要視し,組織内部の弱みや強みについての評価は必要ではない。
4 戦略は,当初に明確に意図する必要があり,当初に明確に意図しなかったものが実現しても,それは戦略ではない。
5 「ソーシャルビジネス」の利益は,不測の事態に備えるために必要であるが,利益をビジネスの拡大に再投資してはならない。
人の名前を合わせて出題する理由は,問題にあいまいさを生じさせないためです。
しかしそれは,国試という性格のためであり,受験生には関係ないことです。
そういった意味で,知らない人名が出題されても,それに動揺しなければ正解できる糸口を見つけ出せます。
この問題の正解は,
1 アンゾフ(Ansoff,I.)は,経営における意思決定を,日常業務的意思決定,管理的意思決定,戦略的意思決定の3層に区分した。
しかしこれを正解にするすることは,難しいです。しかしほかの選択肢を消去していくことでこの選択肢が残ります。
国試は2種類の問題があります。
1.正解はこれしかないと思える問題
2.ほかの選択肢を消去していくことで,正解できる問題
今日の問題は,2のタイプです。
1のタイプは,ほかの選択肢を消去することができず,というか,意味不明のものもあり,正解の選択肢を選ぶことができなければ,正解することはほとんどできません。
それでは,ほかの選択肢はどこが間違っているのか確認していきましょう。
2 チャンドラー(Chandler.A.)は,経営戦略を,短期の基本目標を定めた上で,その目標を実現するために行動を起こしたり,経営資源を配分したりすることと定義した。
戦略は,長期ビジョンに立ったものです。
3 アンドルーズ(Amdrews,K.)は,戦略を形成するプロセスとして,外部環境の機会と脅威を重要視し,組織内部の弱みや強みについての評価は必要でないとした。
経営資源を分析する手法には,SWOT分析があります。
SWOT分析を知らなくても,文章的に消去できるものでしょう。
〇〇は含まれるが,△△は含まれない。
というタイプの文章は,間違い選択肢を作るときの常套手段です。
この選択肢では,「組織内部の弱みや強みについての評価は必要でないとした」の部分が「△△は含まれない」に当たります。必要でないものをわさわざ述べる必然性がありません。
それなのにこのような文章を出題することになる理由は,もともとは「含まれる」という文章を「含まれない」に変更して間違い選択肢を生成しているからです。
こういったところに気がつけば,つまらないミスはかなり減らすことができるようになるでしょう。
4 ミンツバーグ(Mintzberg.H.)は,戦略は,当初に明確に意図する必要があり,当初に明確に意図しなかったものが実現しても,それは戦略ではないとした。
これも選択肢3と同じく
〇〇は含まれるが,△△は含まれない。
というロジックで組み立てられた文章です。
5 ユヌス(Yunus,M.)は,「ソーシャルビジネス」の利益は,不測の事態に備えるために必要であるが,利益をビジネスの拡大に再投資してはならないとした。
これも選択肢3と4と同じく
〇〇は含まれるが,△△は含まれない。
というロジックで組み立てられた文章です。
ということで選択肢1が残ります。
この問題で,正解にたどり着くポイントは,戦略は長期のものである,ということを知っていることです。
これはとても重要なことです。
<今日の一言>
先述のように,国試には
1.正解はこれしかないと思える問題
2.ほかの選択肢を消去していくことで,正解できる問題
のタイプがあります。
今日の問題は,2のタイプです。
このタイプの問題は,「解けた」という実感がほとんど得られることはありません。
試験が終わってから,家路までの足取りが重くなる理由は,こういった問題が出題されるからです。
多くの問題は,この2つのタイプの折衷的なものです。
折衷タイプは,1のタイプと違うのは,間違い選択肢も間違っているポイントがわかることです。
こういった問題が多ければ,国試が終わったあとに解けた実感が得られますが,そうではないのが国試の難しいところです。
2のタイプは,解答速報の模範解答を見て,初めて正解できたことを知ります。
2のタイプが多ければ,手ごたえがないので,国試が終わったあとには「難しかった。落ちた」という気持ちになります。
午前中の科目の共通科目には,こういったタイプの問題が多くあります。
解けた実感がなくても,気持ちを切り替えて,午後の問題に取り組むことが大切です。
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