第1段階 特性理論 リーダーとしての資質を持った者がリーダーとなる。
第2段階 行動理論 優れたリーダーは行動が優れている。
第3段階 状況適合理論(コンティンジェンシー理論) 状況に合わせて,適切なリーダーシップのスタイルは変わる。
行動理論が誕生した背景は,特性理論で,優れたリーダーの資質を研究してもうまく説明できなかったことによります。
ここから,リーダーシップに対する研究視点は,優れた資質を持った者がリーダーとなるという考え方から,優れたリーダーシップは訓練によって身につけられるものであることに変わっていきます。
さて,今回はフィードラー理論を取り上げたいと思います。
フィードラー理論は,状況適合理論(コンティンジェンシー理論)に分類されます。
第31回国試では,パスゴール理論について,その内容が出題されたので,コンティンジェンシー理論も詳しく出題される可能性がなくはないですが,コンティンジェンシー理論は,適切なリーダーシップは,状況によって変わるものであると考える理論である,という理解は最低でも必要です。
ちょっと踏み込んでみたいと思います。
フィードラー理論はリーダーシップのスタイルを「タスク(仕事)志向型」と「人間関係志向型」に分類しました。
ここまでは,PM理論とほぼ同じです。
PM理論は,PM型のリーダーシップが最も優れたものである,と位置付けています。
フィードラー理論は,コンティンジェンシー理論ですから,「タスク(仕事)志向型」と「人間関係志向型」のリーダーシップは,状況によって変わると考えるところに特徴があります。
フィードラー理論 |
フィードラー理論を図示すると,こういった図になります。
これでわかるように,状況には「人間関係」「タスク(仕事)内容」「リーダー権限」の3種類があります。
PM理論に比べると複雑なので,詳細は出題されても,正解にはなり得ないだろうと思います。
それでは今日の問題です。
第23回・問題115 リーダーシップ理論に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 リーダーシップとは,組織の上位者が,下位にある個人や集団に対して影響を及ぼして,組織目標の達成を促すプロセスである。
2 リーダーシップとは,組織の理念やあるべき姿を示し,個人や集団を統率し,導くことであり,部下に対する配慮やネットワークづくりといったものは含まれない。
3 リーダーシップは,「行動」からではうまく説明できず,それを発揮する人の能力・資質などの「特性」に着目する方がよく説明できる。
4 オハイオ州立大学の研究によれば,リーダーシップ行動は「構造づくり」と「配慮」から説明でき,「構造づくり」と「配慮」の両方が高いリーダーの下で,メンバーの業績度と満足度が高まる可能性が高いとした。
5 フィードラー理論によれば,リーダーとメンバーの関係が良好で,仕事の内容・手順が明確な場合は,「タスク志向型」のリーダーより,「人間関係志向型」のリーダーの方が,よい業績が得られるとした。
今なら,参考書に記載されているので,ある程度勉強が進んでいる人ならそれほど難しくはないかもしれません。
しかし,この国試を受験した人は,本当に難しかったことでしょう。
それでも,この国試の前年の問題が手がかりとなり,何とか正解に近づく道はあります。
さて,この問題の正解は
4 オハイオ州立大学の研究によれば,リーダーシップ行動は「構造づくり」と「配慮」から説明でき,「構造づくり」と「配慮」の両方が高いリーダーの下で,メンバーの業績度と満足度が高まる可能性が高いとした。
これを正解にすることは,ほとんど不可能です。しかし,ほかの選択肢をうまく消去できれば,この選択肢が何とか残るというスタイルの問題です。
それでは,ほかの選択肢も確認していきましょう。
確実に消去できるのは,以下の2つです。
2 リーダーシップとは,組織の理念やあるべき姿を示し,個人や集団を統率し,導くことであり,部下に対する配慮やネットワークづくりといったものは含まれない。
5 フィードラー理論によれば,リーダーとメンバーの関係が良好で,仕事の内容・手順が明確な場合は,「タスク志向型」のリーダーより,「人間関係志向型」のリーダーの方が,よい業績が得られるとした。
2 リーダーシップとは,組織の理念やあるべき姿を示し,個人や集団を統率し,導くことであり,部下に対する配慮やネットワークづくりといったものは含まれない。
これが不正解だと判断できるポイントは,「含まれない」という表現が含まれた選択肢は,正解になりにくい傾向があることです。
この選択肢を国試の常連さんであるPM理論に当てはめて考えてみたいと思います。
部下に対する配慮は,M機能(集団維持機能)に当たります。
ネットワークづくりは,クライエントのニーズを充足するために行うと考えると,PM理論では,P機能(目標達成機能)に当たります。
いずれもリーダーシップに含まれます。
5 フィードラー理論によれば,リーダーとメンバーの関係が良好で,仕事の内容・手順が明確な場合は,「タスク志向型」のリーダーより,「人間関係志向型」のリーダーの方が,よい業績が得られるとした。
フィードラー理論では,人間関係が良好,タスク内容が単純な場合は,タスク志向型の方が良い業績を得られるとしています。
しかし,フィードラー理論は,コンティンジェンシー理論ですから,ここまでの知識がなくても,リーダーシップスタイルには,決まった型がないという理解をしていれば,消去できることでしょう。
実際にこの後に,フィードラー理論は何回か出題されていますが,ここまで詳細な出題はされたことがありません。
1 リーダーシップとは,組織の上位者が,下位にある個人や集団に対して影響を及ぼして,組織目標の達成を促すプロセスである。
リーダーシップのイメージは,上位者から下位者に対するものである,思われがちです。しかし,実際には,メンバー同士,下位者から上位者,部門間,など様々なリーダーシップが存在します。
3 リーダーシップは,「行動」からではうまく説明できず,それを発揮する人の能力・資質などの「特性」に着目する方がよく説明できる。
この問題で正解にたどりつくために,最も重要な選択肢です。
前説のように,リーダーシップ研究には「特性理論」と「行動理論」があります。
特性理論ではリーダーシップをうまく説明できなかったために,行動理論が誕生しました。
この選択肢がうまく消去できれば,
4 オハイオ州立大学の研究によれば,リーダーシップ行動は「構造づくり」と「配慮」から説明でき,「構造づくり」と「配慮」の両方が高いリーダーの下で,メンバーの業績度と満足度が高まる可能性が高いとした。
が残って,正解することができます。
オハイオ州立大学研究の特徴は,ここで述べられているように「構造づくり」(ゴールに至る道筋をつくることなど)と「配慮」を適切に行うリーダーが良いリーダーシップであるところです。
ここから創造できると思いますが,オハイオ州立大学研究は,コンティンジェンシー理論に含まれません。
<今日の一言>
第23回国試で出題されたオハイオ州立大学研究に関する問題は,時を超えて,第31回国試では
2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。
と出題されました。
先述のように,オハイオ州立大学研究は,コンティンジェンシー理論ではありません。