今回は,組織に関する基礎理論のうち,官僚制を取り上げたいと思います。
ウェーバーが提唱した官僚制は,組織を機能させる仕組みをいいます。
官僚組織に限定されたものではありません。
〈官僚制の特徴〉
①ルールの明確化
②上下関係の明確化
③文書主義
④家計と経営の分離
⑤職務の専門化と専門職員の採用
日本の近代化は,明治維新以降に行われました。明治政府を主導したのは,薩長出身の指導者ですが,そのうち長州藩は,徹底した文書主義が取られていました。大量の文書は現存し,そのおかげでその当時のことを詳しく知ることができます。
長州藩の文書主義が,明治政府でも生き続け,結果として日本の近代化が進んだことは,実に興味深いことです。
さて,それでは今日の問題です。
第25回・問題120
組織構造や環境に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 あらゆる環境に適した組織化の唯一最善の方法が存在するという考え方を,コンティンジェンシーアプローチと呼ぶ。
2 外部環境が不確実であるほど,組織は多くの規則や手続きを備え,明白な階層構造を持ち,中央集権化された機械的な管理システムとなる傾向にある。
3 有機的な管理システムでは,仕事内容が専門分化され,垂直方向のコミュニケーションが多く見られる。
4 官僚制は,ルールや手続き,専門化と分業,権限の階層構造などの特徴を持ち,組織を有効に機能させる上で利点がある。
5 組織にとって,環境不確実性の低い状況とは,外部環境が複雑で不安定な場合をいう。
とても難しいものが並んでいます。
しかし,前説でわかるように正解は,選択肢4です。
4 官僚制は,ルールや手続き,専門化と分業,権限の階層構造などの特徴を持ち,組織を有効に機能させる上で利点がある。
官僚制が行き過ぎて,ルールを守ることが目的化することを,マートンは「官僚制の逆機能」と呼びました。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 あらゆる環境に適した組織化の唯一最善の方法が存在するという考え方を,コンティンジェンシーアプローチと呼ぶ。
コンティンジェンシー理論は,リーダーシップ理論のところで詳しく学びますが,方法論は状況によって変わるというものです。状況適合理論と訳されます。
2 外部環境が不確実であるほど,組織は多くの規則や手続きを備え,明白な階層構造を持ち,中央集権化された機械的な管理システムとなる傾向にある。
外部環境が不確実という状況は,変化が大きいことを指しています。
変化が大きい時は,変化に合わせて組織も有機的に変化していかなければなりません。
中央集権的な管理システムでは,判断するのに時間がかかりますし,また機械的であれば,変化に対応できないおそれもあります。
3 有機的な管理システムでは,仕事内容が専門分化され,垂直方向のコミュニケーションが多く見られる。
垂直方向のコミュニケーションが多くみられるのは,機械的な管理システムです。
5 組織にとって,環境不確実性の低い状況とは,外部環境が複雑で不安定な場合をいう。
これは引っ掛けです。
環境不確実性の低い状況は,外部環境が安定している状況
環境不確実性の高い状況は,外部環境が複雑で不安定な状況
今は冷静に読めると思いますが,国試会場では,こういったものは見落としがちです。
<今日の一言>
官僚制は,ウェーバーの提唱した支配システム(伝統的支配,カリスマ的支配,合理的支配)のうち,ルールによる支配システムである「合理的支配」をよりすすめたものです。
近代化によって,脱魔術化,あるいは世俗化というものがおきます。
近代以前は,神聖的なものが社会を支配していたのです。
官僚制と支配システム,そして官僚制の逆機能は,社会学と社会システムでも出題されるので,しっかり覚えておきましょう。