2024年12月31日火曜日

減価償却~その2

 

今回も減価償却です。


減価償却とは,固定資産の取得原価をその耐用年数にわたり費用化する会計上の手続きのことです。


土地も固定資産ですが,減価償却の対象ではありません。


それでは,今日の問題です。


第33回・問題124

社会福祉法人の会計財務等に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 財務会計は組織内部における管理を目的としているため,通常,組織独自の会計ルールを用いる。

2 貸借対照表の純資産とは,外部から調達した負債である。

3 減価償却とは,固定資産(土地と建設仮勘定を除く)の取得原価をその耐用年数にわたり費用化する手続であり,過去に投下した資金を回収するものである。

4 流動資産とは,通常2年以内に費用化,現金化できるものである。

5 社会福祉充実残額とは,社会福祉法人における事業継続に必要な財産額をいう。


今日のテーマの減価償却は,選択肢3に登場しています。


それでは,解説です。


1 財務会計は組織内部における管理を目的としているため,通常,組織独自の会計ルールを用いる。


社会福祉法人の会計は,社会福祉法人会計基準が用いられています。


2 貸借対照表の純資産とは,外部から調達した負債である。


純資産は,資産から負債を引いたものです。



3 減価償却とは,固定資産(土地と建設仮勘定を除く)の取得原価をその耐用年数にわたり費用化する手続であり,過去に投下した資金を回収するものである。


これが正解です。


前説で書いたように,土地は固定資産ですが,減価償却の対象ではないことに注意が必要です。



4 流動資産とは,通常2年以内に費用化,現金化できるものである。


流動資産は,通常1年以内に費用化,現金化できる資産のことです。



5 社会福祉充実残額とは,社会福祉法人における事業継続に必要な財産額をいう。


社会福祉充実残額は,財産から事業継続に必要な財産額を引いたものです。


2024年12月30日月曜日

社会福祉法人の財務会計~減価償却

 社会福祉士の国家試験で出題される財務諸表は


貸借対照表

事業収支計算書

資金収支計算書


の3種類です。


貸借対照表

会計年度の期末の資産,負債,純資産を表わします。


貸借対照表の左側は借方と呼び,資産が示されます。

右側は貸方と呼び,負債と純資産が示されます。

借方の合計と貸方の合計は,一致します。

一致しないとすればどこかの計算が間違っています。


事業収支計算書

会計年度中の純資産の増減を表わします。


資金収支計算書

会計年度中の資金の増減を表わします。


今日のテーマは,減価償却です。


減価償却は,何度も繰り返して出題されていますが,固定資産を取得した経費を使用年によって,計上するものです。

土地も固定資産ですが,使用によって価値は下がらないので,減価償却の対象外です。


それでは,今日の問題です。


第29回・問題124 社会福祉法人の経営・会計に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 法人全体の財務諸表を作成しなければならない。

2 貸借対照表の貸方(右側)には,固定資産が計上される。

3 減価償却費はコストであるため,法人外部に資金流出する。

4 アカウンタビリティとは,間接金融を指す。

5 借入金返済の財源として,外部寄附者による寄附金を用いてはならない。


この問題は,考え込むと深みに入り込んでしまうものです。


というのは,正解は,選択肢1

1 法人全体の財務諸表を作成しなければならない。


どんな財務諸表を作成しなければならないのか,という問題ではなく,財務諸表を作成しなければならない,という内容です。


深く掘り下げれば,いくらでも掘り下げることができますが,そうすると正解できる人がいなくなってしまうので,絶対に掘り下げて出題することはないでしょう。


一応,ほんの選択肢も確認してみます。


2 貸借対照表の貸方(右側)には,固定資産が計上される。


貸方に計上されるのは,負債と純資産です。


借方に計上されるのは,固定資産と流動資産を合わせた資産が計上されます。


3 減価償却費はコストであるため,法人外部に資金流出する。


10年使用できる固定資産を100万円で購入した場合,この100万円を使用期間中,計上していきます。

これが減価償却費です。会計処理上の問題なので,実際には外部に流出しません。


外部に資金が流出するのは,固定資産を取得した時のみです。


4 アカウンタビリティとは,間接金融を指す。


アカウンタビリティは,説明責任のことです。


間接金融は,金融機関から資金を調達することです。

直接金融という用語もあり,金融機関を通さず,資金を調達することをいいます。


5 借入金返済の財源として,外部寄附者による寄附金を用いてはならない。


このような制約はありません。

2024年12月29日日曜日

社会福祉法人の財務管理~貸借対照表

 

国家試験に出題される財務諸表は

①貸借対照表
②事業活動計算書
③資金収支計算書

の3種類です。

そのうち,今回は,貸借対照表を紹介します。

 

(自)日(至)

借方

貸方

資産の部

負債の部

資産

負債

 流動資産

 流動負債

 固定資産

 固定負債

 

負債の部合計

 

純資産の部

純資産

 基本金

 国庫補助金等特別積立金

 その他の積立金

純資産の合計

資産の部合計

負債の部及び純資産の部合計

 

※実際には,借方,貸方とは書かれていない。


貸借対照表は,上記のようにまとめて,ある時点(当該会計年度末)の「資産」「負債」「純資産」の状況を示す計算書類です。

この図の上部に示したように,左半分を「借方」(かりかた)と呼びます。

右半分は「貸方」(かしかた)と呼びます。

これらは簿記用語です。

「借方」という言葉のイメージから「負債」のことをいうと思いがちですが,借方は,負債ではなく,「資産」を示します。

こういったところが国試ではねらわれるポイントとなります。

簿記をわが国に紹介したのは,福沢諭吉だと言われています。

Bookkeeping
を簿記と訳し,その際にDebitを借方,Creditを貸方と訳しました。
もうちょっとわかりやすく訳してくれていたら,良かったのにと思います。

しかし,明治の人たちは,今と違って英語をそのまま使わず苦労して日本語を作っていったことはすごいと思います。

借方,貸方は今一歩ですが,Bookkeepingを簿記と訳したのは秀逸だと思いませんか。


さて,財務諸表に戻ります。

貸借対照表は,ある時点(当該会計年度末)の状態を示すものです。

事業活動計算書と資金収支計算書は,ある一定期間(当該会計年度)の状態を示すものです。

そこを核にして覚えていきましょう。

それでは今日の問題です。


27回・問題119 

社会福祉法人の会計や財務諸表に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1
 社会福祉法人は,その会計や財務諸表をインターネットや広報などにおいて公表する必要はない。

2
 貸借対照表とは,事業の収支の状態や継続性をみるために,当該会計年度における支払資金の増加及び減少の状況を表示するものである。

3
 資金収支計算書とは,資金の調達や資産への投入状況をみるために,当該会計年度末現在における資産,負債及び純資産の状態を表示するものである。

4
 財務諸表では,「土地」のように価値が上下する資産については,毎期一定の方法により償却計算を行わなくてはならない。

5
 社会福祉法人には,配当(利益処分)が認められておらず,「過去の利益の蓄積額」は,赤字経営をしない限り増加する特性がある。








今日の問題の正解は,

5 社会福祉法人には,配当(利益処分)が認められておらず,「過去の利益の蓄積額」は,赤字経営をしない限り増加する特性がある。

この出題は,その後に実施される「社会福祉法人改革」につながっていく内部留保(過去の利益の蓄積)の問題に関連するものです。

この選択肢を正解にすることの意味がそれほどあったとは思いませんが,あえて意味を見出そうとすると,今後は,社会福祉法人改革について,しっかり学んでくださいね,といった呼び水だったということくらいでしょう。


それでは,ほかの選択肢はどこが間違っているのかを確認していきましょう。


1 社会福祉法人は,その会計や財務諸表をインターネットや広報などにおいて公表する必要はない。

必要がないものをわざわざ出題する意味がありません。
もともとは,

社会福祉法人は,その会計や財務諸表をインターネットや広報などにおいて公表しなければならない。

という文章を否定形にすることで,間違い選択肢を生成するために,意味がない文章になってしまっています。

はっきりいうと,あまり高度な問題のつくり方ではないと言えます。

その分,受験生にとってはラッキーとなります。


2 貸借対照表とは,事業の収支の状態や継続性をみるために,当該会計年度における支払資金の増加及び減少の状況を表示するものである。

当該会計年度における支払資金の増加及び減少の状況を表示する計算書類は,資金収支計算書です。

当該会計年度というところから,事業活動計算書あるいは資金収支計算書であるとわかり,支払資金というところから資金収支計算書だと絞り込むことができます。


3 資金収支計算書とは,資金の調達や資産への投入状況をみるために,当該会計年度末現在における資産,負債及び純資産の状態を表示するものである。

当該会計年度末現在における資産,負債及び純資産の状態を表示する計算書類は,貸借対照表です。

資産は,表の左側である「借方」に記載し,負債及び純資産は,表の右側である「貸方」に記載します。


4 財務諸表では,「土地」のように価値が上下する資産については,毎期一定の方法により償却計算を行わなくてはならない。

減価償却において,土地は要注意です。減価償却の対象となるのは,建物や物品などの固定資産です。経年によって,価値が下がっていくからです。

価値が下がった分を費用化するのが減価償却です。土地は経年によって価値は下がらないために減価償却の対象とはなりません。


<今日の一言>

今日の問題の正解は,以下でした。

5 社会福祉法人には,配当(利益処分)が認められておらず,「過去の利益の蓄積額」は,赤字経営をしない限り増加する特性がある。

落ち着いてこの選択肢を読むことができれば,ごくごく普通のことを述べたことに気が付くことでしょう。

積立預金をしている人が,その積立を取り崩さなければ積立金は増えるということと同じです。

国試は,深読みしたら深みにはまります。

ごくごく普通すぎて,何か裏があるのでは,と勘繰ってはなりません。

国試問題をたくさん解いていくとわかっていきますが,今日の問題のように,意外にシンプルな内容の選択肢が正解になっていることがよくあります。

その逆に先読みすることもいけません。

事例問題でよくありますが,事例に書かれていないことを補足してしまうことです。

現場経験のある人は,そうなりがちなので,特に注意することが必要です。

2024年12月28日土曜日

個人情報保護法

 

個人情報保護法は知っていても実際に同法に目を通したことがある人はそれほど多くないかもしれません。

 

個人情報保護法で規定されているさまざまな定義を整理します。


個人情報

 生存する個人に関する情報であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(文書,図画若しくは電磁的記録)に記載され,若しくは記録され,又は音声,動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

二 個人識別符号が含まれるもの

 

個人識別符号

一 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字,番号,記号その他の符号であって,当該特定の個人を識別することができるもの

二 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ,又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され,若しくは電磁的方式により記録された文字,番号,記号その他の符号であって,その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ,又は記載され,若しくは記録されることにより,特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの

 

要配慮個人情報

本人の人種,信条,社会的身分,病歴,犯罪の経歴,犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別,偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

 

個人情報取扱事業者

個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし,次に掲げる者を除く。

一 国の機関

二 地方公共団体

三 独立行政法人等

四 地方独立行政法人

   

個人情報取扱事業者は,以前は,個人データの取扱量が一定数以上に限定されていましたが,現在はその規定はありません。

 

また,国や地方公共団体等は含まれません。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題117 個人情報の保護に関する法律に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 個人情報取扱事業者には,地方公共団体が含まれる。

2 個人情報取扱事業者の義務は,規定されていない。

3 健康診断やその他の検査の結果の情報の取得に当たっては,原則として本人の同意を得ることが必要とされている。

4 個人情報の有用性に配慮しつつ,個人情報取扱事業者の権利利益を保護することを目的としている。

5 個人情報保護に関する官民を通じた基本となる事項を定めた法律である。

 

 

法を知らないと正解するのはかなり難しい問題です。

 

それでは解説です。

 

1 個人情報取扱事業者には,地方公共団体が含まれる。

 

かなりびっくりですが,個人情報取扱事業者には,国や地方公共団体等は含みません。

 

2 個人情報取扱事業者の義務は,規定されていない。

 

もちろん規定されています。

 

3 健康診断やその他の検査の結果の情報の取得に当たっては,原則として本人の同意を得ることが必要とされている。

 

これが1つめの正解です。

 

4 個人情報の有用性に配慮しつつ,個人情報取扱事業者の権利利益を保護することを目的としている。

 

目的としているのは,個人の権利利益です。

 

5 個人情報保護に関する官民を通じた基本となる事項を定めた法律である。

 

これが2つめの正解です。

 

この問題の難易度が高いのは,

受験生は個人情報保護法について詳しくないため,選択肢1で引っ掛けられてしまうからです。

 

本当にびっくりしますが,個人情報取扱事業者には,国や地方公共団体等が含まれないのです。

2024年12月27日金曜日

コンプライアンスとガバナンス

 

今日のテーマは「コンプライアンスとガバナンス」です。


コンプライアンスは,「法令遵守」と訳されます。



法令なので,本来は,法律,省令等を守るという意味です。


最近では,組織が独自に決めたルールを守るという意味合いで用いられることもあります。

テレビでも「最近はコンプライアンスが厳しい」といったような話を聞くようになってきました。



ガバナンスは,「企業統治」「内部統制」と訳されます。


組織も人と同じように意思決定して活動します。


組織が適正な意思決定を行うために必要なのが,ガバナンスです。


ガバナンスのない組織は,本来の意味のコンプライアンスを無視しだし,最悪の場合は。指定の停止や取消といったペナルティを受けることになります。


ガバナンスが効いていない組織は,とても危険です。


それでは,今日の問題です。



第31回・問題119 

福祉サービスの経営に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 CSR(Corporate Social Responsibility)は,福祉サービス事業者には求められない。

2 CSV(Creating Shared Value)とは,企業や法人の価値を共有するために情報開示を進める概念である。

3 バランス・スコアカードとは,財務面の評価手法である。

4 コンプライアンスを達成するには,ガバナンスが重要である。

5 福祉サービスの改善活動であるPDCAには,現場職員が関わらないことが望ましい。


カタカナ用語が連発する問題です。


しかし,問題づくりが下手なので,この問題自体はそれほど難しくないと思います。

おそらく,今後はこんな下手な問題を見ることはできなくなるでしょう。

その分,勉強不足の人が合格するのはかなり難しくなります。


それでは解説です。


1 CSR(Corporate Social Responsibility)は,福祉サービス事業者には求められない。



CSRは,Corporate(企業) Social(社会) Responsibility(責任),つまり企業の社会的責任のことです。


福祉サービス事業者,特に社会福祉事業を経営することを主目的とする社会福祉法人には,大きな社会的責任があります。


社会福祉法人は,税制面で営利企業よりも優遇されているからです。



2 CSV(Creating Shared Value)とは,企業や法人の価値を共有するために情報開示を進める概念である。


CSVは,Creating(創造) Shared (共有)Value(価値),つまり共有価値を創造するという意味です。


これでは意味がわかりませんが,社会に役立つ企業を目指す企業理念といった意味合いになります。


その組織だけが儲かればよいというものではなく,企業活動を通して社会貢献を目指すという考え方です。



3 バランス・スコアカードとは,財務面の評価手法である。



バランス・スコアカードは,経営の評価手法であることは適切です。


しかし,評価指標は,財政,顧客,業務プロセス,学習と成長,4つで成り立ちます。



4 コンプライアンスを達成するには,ガバナンスが重要である。


これが正解です。


ガバナンスが効いていないと,コンプライアンスを達成することは難しいと思います。


一時期,食品会社で賞味期限を変えて大問題になったことがあります。


誰も「それはまずいよ」と言い出せない組織風土があったのかもしれません。


そうではなく,誰もが「それは変じゃない?」と言える組織,つまり内部統制があれば,法令を破るようなことはない組織となるはずです。



5 福祉サービスの改善活動であるPDCAには,現場職員が関わらないことが望ましい。


PDCAは,現場職員がかかわってこそ,機能していきます。

2024年12月26日木曜日

経営体制~外部環境への対応

 現状維持は衰退!!


今どき,はやらない熱血コンサルタントが言いそうなセリフです。

しかし,環境は常に変化していくことは事実です。

平成から令和に代わるときに,昭和から平成に代わるときを振り返る映像がたくさん紹介されていました。変化したことはたくさんあります。

福祉の世界が大きく変わったのは2000年のことです。モダニズムの時代だった20世紀最後の年に,社会福祉事業法が社会福祉法になり,介護保険法が施行されました。

この大きなうねりの中,バブル経済の象徴のようなジュリアナ東京の元・経営者が介護保険事業に乗り出したこともあります。

ちなみにジュリアナ東京の開業は1991年なので,実際にはバブルははじけた後のことです。

営利企業が参入することは,介護保険以前にはまず考えられないことだったと思います。
その後,障害福祉にも支援費制度を経て,障害者自立支援法が施行されていきます。

変化が大きくなればなるほど,既存のものの見方・考え方を変えなければなりません。

江戸末期の各藩の動きを考えると一目瞭然です。

変化が少ない時は,前例主義が活きます。
変化が大きくなればなるほど,変革が必要です。

社会は常に変化しています。

だからこそ

現状維持は衰退!!

変化に機敏に対応しなければ,組織は必ず衰退します。




それでは今日の問題です。


第30回・問題121 

組織と外部環境に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 科学的管理法は,複雑な外部環境の変化に対応して組織を管理するために考案された。

2 外部環境や経営戦略が大きく変化した場合でも,組織構造はできるだけ変えないことが望ましい。

3 内部規則を重視する組織文化を持つ組織は,外部環境の大きな変化に対応しやすい。

4 外部環境である政策や制度の変更は,組織の経営戦略に影響を与える。

5 短期的な外部環境の変動に対応して,組織の使命・理念を頻繁に変えることが望ましい。




明確なルールに基づく「官僚制」は,環境変化の小さい時には機能するかもしれませんが,変化が大きくなったときは,もしかすると,カリスマ的支配のような支配システムの方がより変化に対応できるのかもしれません。

日本で言えば,織田信長です。彼のカリスマ性がなければ,百戦錬磨の織田家臣団を効率的に動かして,天下統一の一歩手前までたどり着くことはできなかったのではないでしょうか。

社是を復唱していれば,もしかすると,明智光秀による謀反は起きなかったかもしれません。

さて,この問題の正解は,選択肢4です。


4 外部環境である政策や制度の変更は,組織の経営戦略に影響を与える。

政策や制度は,経営戦略に大きく影響するのは当然のことです。

例として,2019年に再開された商業捕鯨を挙げます。

大型船で商業捕鯨を行っていた企業は,商業捕鯨を行いたくても禁止されたわけですから,経営戦略は変えざるを得なかったことでしょう。

制度・政策の変更は,経営戦略に影響を与えないわけがありません。


それでは,ほかの選択肢も確認していきましょう。


1 科学的管理法は,複雑な外部環境の変化に対応して組織を管理するために考案された。

科学的管理法は,作業効率を高めるために標準的な作業量を決めて,賃金に差をつけたものです。

外部環境への対応ではなく,内部環境に対する働きかけです。


2 外部環境や経営戦略が大きく変化した場合でも,組織構造はできるだけ変えないことが望ましい。


環境が変われば,適切な組織構造も変化します。

「望ましい」「望ましくない」は,正解になりにくいものです。覚えておきましょう。


3 内部規則を重視する組織文化を持つ組織は,外部環境の大きな変化に対応しやすい。

内部規則を重視する組織は,変化が小さい時は機能しますが,今までの価値観では対応できなくなったとき,江戸時代で言えば,いわゆる黒船来航のような大きな変化には対応困難です。

200年以上継続した江戸幕府はその後崩壊していくことになります。
反対に下級武士が今までの発想にとらわれることなく,生き生きと活躍できた藩が力をもつもとにつながっていきます。


5 短期的な外部環境の変動に対応して,組織の使命・理念を頻繁に変えることが望ましい。

短期的な変化に対応するものは,戦術です。

使命及び理念は,長期的なものですから,頻繁に変えることはありません。
抽象的な表現がなされているので,変える必要がないのです。

ここでも,「望ましい」が使われていますね。


<今日の一言>

第22回の問題と異なり,今日の問題は人名が使われていません。

例えば,選択肢1に人名をつけてみると

1 テイラー(Taylor,F.W.)は,複雑な外部環境の変化に対応して組織を管理するために科学的管理を考案した。

という文になります。

主張したいのは,

重要なのは,人名ではなく,その中身である

ということです。

多くの受験生は,歴史と人名を苦手としています。

しかし,人名を正しく覚えておかなければならないのは,

児童福祉領域で出題される

留岡幸助
石井十次
石井亮一
野口幽香

といった面々や

社会理論系で出題される

ウェーバー
マッキーバー
テンニース

などといった古典的な人たちです。

これらは,実績が重要なので

留岡幸助=家庭学校

といった覚え方をしても最低限何とかなるのに対し

テイラー=科学的管理法

といった覚え方は,完全にミスマッチです。

覚えるべき優先度は,人名ではなく,その内容です。

科学的管理法=標準的な作業量を決めて賃金に差をつけた

といったものとなります。

私たちチームfukufuku21は,学習ノートをつくることはおすすめしません。

ノートを作ると,ノートに書きこむことが目的になってしまうおそれがありますし,自分が書いたノートを使って勉強したとき,先ほどのようなミスマッチがあれば,得点力につながらないからです。

私は書いて覚える派です

という方がいます。漢字を覚えるときは,何度も書いて覚えたでしょう。
それは,漢字を正しく覚えることが必要だからです。

しかし,社会福祉士の国試は,丸暗記が役立つものはまずありません。

書いて覚える派であったとすれば,ノートに書き込むのではなく,使っている参考書に気がついたこと,特に押さえておきたいことを書き込むのが良いです。

そうすれば,参考書+ノートではなく,参考書1つで勉強できます。

何度も受験して,合格基準点に到達しない方は,ぜひ学習方法を見直してみましょう。
覚えるべきポイントがずれるいわゆるミスマッチが起きているかもしれません。

メイヨーら=ホーソン実験を行った

といった覚え方では,国試では絶対に得点につながりません。


重要なのは,人名ではなく,その中身である

2024年12月25日水曜日

リーダーシップ理論~パス・ゴール理論

 今回がリーダーシップ理論の最終回です。


今回は,コンティンジェンシー理論の一つである「パス・ゴール理論」と行動理論の一つである「マネジリアル・グリッド」を紹介したいと思います。

まずは,パス・ゴール理論です。

ブルームらの期待理論に基づき,魅力的なゴール(目標)に至る明確なパス(経路)を示すことがリーダーの役割だとします。

ブルームらの期待理論
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/08/20190808.html
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/08/20190809.html


パス・ゴール理論は,コンティンジェンシー理論です。
変化する状況として「環境的要因」と「個人的要因」を挙げています。

























パス・ゴール理論では,リーダーの行動をこの図のように「指示型リーダーシップ」「参加型リーダーシップ」「支援型リーダーシップ」「達成志向型リーダーシップ」に分類していますが,現時点では,ここまで詳しく覚える必要性はないと言えます。

さて,次はマネジリアル・グリッドです。

マネジリアル・グリッドは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸でリーダーシップのスタイルを分析するものです。




























マネジリアル・グリッドでは「9・9型」が最も優れたリーダーシップであるとしています。「グリッド」は「格子」を意味しています。

PM理論を格子状に細かくしたものが,マネジリアル・グリッドだと押さえるとよいでしょう。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題120 

リーダーシップの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。

3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。



バランスのよい問題だと思います。

勉強不足の人は,まったく解けない問題でしょう。

難易度が高いので,勉強をしっかりした人でも正解するのは大変です。

しかし,こういった問題であっても,落ち着いてさえいれば,糸口は見つけられるので,決して焦ることはないです。焦ると問題文が正しく読めなくなるので要注意です。



さて,正解は,選択肢1


1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。


パス・ゴール理論を述べたそのままズバリの内容です。


それでは,ほかの選択肢はどこが間違っているのかを確認していきましょう。


2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。

条件適合理論=コンティンジェンシー理論では,リーダーの行動は,それぞれ異なります。


理論

状況

リーダーの行動スタイル

フィードラー理論

人間関係,タスク内容,リーダー権限

仕事志向型(タスク志向型)

人間関係志向型

SL理論

メンバーの習熟度,意欲

教示的リーダーシップ

説得的リーダーシップ

参加型リーダーシップ

委任的リーダーシップ

パス・ゴール理論

環境的要因,個人的特性

指示型リーダーシップ

参加型リーダーシップ

支援型リーダーシップ

達成志向型リーダーシップ




このようにまとめることができますが,リーダーの行動スタイルまでは覚えなくても,それぞれはコンティンジェンシー理論であることが理解できていれば,おそらく国試では答えられるはずです。

リーダーシップを「構造づくり」と「配慮」に分類したのは,オハイオ州立大学研究です。


3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

故・三隅先生の理論は,PM理論です。今は落ち着いて問題文を読んでいるので,SL理論をPM理論に読み間違うことはないと思います。

しかし,国試会場では,普段はしないようなミスをします。

この問題もPM理論と読み間違う恐れは十二分にあります。


4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。



任務遂行志向とは,おそらく仕事志向型(タスク志向型)と同意語です。

そうすれば,この2つに分類したのは,フィードラー理論だということになります。

しかしそれを正確にわかっていなくとも,カリスマ的リーダーシップは,もともとはウェーバーの支配システムであり,リーダーシップ理論ではないので,このような分類はしないだろうと想像することができるでしょう。


5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。


マネジリアル・グリッドは,この時が初めての出題でした。

1のパス・ゴール理論を正解にできないとこの選択肢の正否を判断できないので,消去法で正解にたどり着くことができません。

2024年12月24日火曜日

リーダーシップ理論の総まとめ(永久保存版)

 リーダーシップ理論には,3つの流れがあります。

 

①特性理論

②行動理論

③状況適合理論(コンティンジェンシー理論)

 

特性理論は,昔のリーダーシップ理論です。

端的に言えば,優れた能力が持つ者がリーダーとなる。

リーダーシップは,生得的だというものです。

 

優れたリーダーはどのような資質を持っているのか,ということを研究していきます。

 

しかし,結論は出ることなく,特性理論にとって代わったのが「行動理論」です。

行動理論では,優れたリーダーは資質によるものではなく,行動が優れていると考えます。

 

PM理論,レヴィンらのリーダーシップ理論,マネジリアル・グリッドなどが行動理論となります。

行動理論の特徴は,優れたリーダーシップ行動は「〇〇だ」と提示していることです。

 

行動理論をもう一歩進めたものが「状況適合理論(コンティンジェンシー理論)」です。

コンティンジェンシー理論は,特定のリーダーシップ行動が優れているとするとするのではなく,適切なリーダーシップ行動は,状況によって変わると考えるものです。

 

フィードラー理論,SL理論,パスゴール理論などがコンティンジェンシー理論となります。

 

コンティンジェンシー理論の特徴は,先述のように,適切なリーダーシップ行動は状況によって変わるものなので,優れたリーダーシップ行動は「〇〇だ」とは言いません。


〈PM理論〉 行動理論


マネジリアル・グリッド〉 行動理論













PM理論では「PM型」,マネジリアル・グリッドでは「9・9型」が最も優れたリーダーシップであるとしています。「グリッド」は「格子」を意味しています。

PM理論を格子状に細かくしたものが,マネジリアル・グリッドだと押さえるとよいでしょう。


〈フィードラー理論〉  コンティンジェンシー理論





















フィードラー理論は,コンティンジェンシー理論ですから,「タスク(仕事)志向型」と「人間関係志向型」のリーダーシップは,状況によって変わると考えるところに特徴があります。


〈SL理論〉  コンティンジェンシー理論




























SL理論が着目しているのは,メンバーの仕事(タスク)に対する習熟度と意欲です。


この図の矢印は,メンバーの習熟度と意欲を表わしています。

<メンバーの習熟度と意欲>

低い → 教示的リーダーシップ
高い → 委任的リーダーシップ

この過渡期にあるものが,説得的リーダーシップであり,参加的リーダーシップです。



〈パス・ゴール理論〉 コンティンジェンシー理論


























ブルームらの期待理論に基づき,魅力的なゴール(目標)に至る明確なパス(経路)を示すことがリーダーの役割だとします。



このほかに国家試験では,ウェーバーの支配システム,レヴィンらのリーダーシップ理論,オハイオ州立大学研究,ミシガン大学研究などが出題されています。


ウェーバーの支配システムはともかく,レヴィンらのリーダーシップ理論,オハイオ州立大学研究,ミシガン大学研究は,行動理論に位置づけられます。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題120 

リーダーシップの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。

3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。



苦手だ,と思う人にとっては,ちんぷんかんぶんでしょう。

しかし,リーダーシップ理論の出題頻度は高いので,苦手だと思わず覚えるしかありません。

それでは解説です。



1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

これが正解です。

パス・ゴール理論は,コンティンジェンシー理論です。



2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。


リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約されるとしたのは,オハイオ州立大学研究です。

オハイオ州立大学研究は,行動理論です。


3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

三隅先生が提唱したのは,PM理論です。

PM理論も行動理論です。



4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類するのは,フィードラー理論です。


フィードラー理論は,コンティンジェンシー理論です。


5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。

マネジリアル・グリッドが最も理想的なリーダーシップだとしたのは,「9・9型」です。

マネジリアル・グリッドは,行動理論です。

2024年12月23日月曜日

リーダーシップに関する基礎理論~レヴィンらのリーダーシップ理論~

 今回は,レヴィンらが提唱したリーダーシップ理論を紹介したいと思います。


国試問題からリーダーシップ理論を追っかけているので,体系的ではないことをお許しください。


レヴィンらが提唱したリーダーシップのスタイル


 ①専制型リーダーシップ

 ②放任型リーダーシップ

 ③民主型リーダーシップ


このうち,最も優れているのは「民主的リーダーシップ」だとしています。


これでわかるように,行動理論です。コンティンジェンシー理論ではありません。


それでは,今日の問題です。



第26回・問題122 

リーダーシップに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 人間関係を友好的に保つための配慮と,集団目標の達成に向けてメンバーを統合する体制づくりは,専制的リーダーシップの特徴である。

2 リーダーシップのあり方として,状況に合わせたスタイルや行動が重視される。

3 変革型リーダーシップは,安定した環境において効力を発輝するといわれている。

4 リーダーシップは,組織的に位置づけられた公式的な管理者だけが発揮できるものである。

5 フォロワーがリーダーを支えるフォロワーシップは,リーダーシップに影響を与えることはない。





この問題の答えは,選択肢2です。


2 リーダーシップのあり方として,状況に合わせたスタイルや行動が重視される。


これは「コンティンジェンシー理論」を述べたものです。

コンティンジェンシー理論は,現代のリーダーシップ研究の主流です。


リーダーシップ理論に関連する問題を出題する時は,必ずコンティンジェンシー理論を中心として展開されることでしょう。


それでは,ほかの選択肢はどこが間違っているのか確認していきましょう。



1 人間関係を友好的に保つための配慮と,集団目標の達成に向けてメンバーを統合する体制づくりは,専制的リーダーシップの特徴である。


これがレヴィンらのリーダーシップ理論に関連するものです。

レヴィンらが提唱したリーダーシップのスタイルは,以下のものでしたね。


①専制型リーダーシップ

②放任型リーダーシップ

③民主型リーダーシップ


それぞれのスタイルを詳しく説明しておりませんが,専制型(専制的)リーダーシップという言葉から,いわゆるワンマン型のリーダーシップだとイメージできることでしょう。

人間関係を友好的に保つための配慮と,集団目標の達成に向けてメンバーを統合する体制づくりは,民主型リーダーシップです。



3 変革型リーダーシップは,安定した環境において効力を発輝するといわれている。


変革型リーダーシップを聞いたことがなくても,「変革型」と「安定した環境」は,馴染まないことはイメージできることでしょう。


安定した環境では,前例に従うのが一番です。


変革型が必要なのは,環境変化が大きい状況です。


江戸時代に黒船が来航して,江戸幕府は混乱し,各藩に意見を求めたことから幕府の威厳が低下していきます。変化に対応できた雄藩が次の時代を作っていきます。


歴史小説が,いつも経営者に人気があるのは,歴史にはいくつも学ぶべき点を見つけることができるからでしょう。



4 リーダーシップは,組織的に位置づけられた公式的な管理者だけが発揮できるものである。


リーダーシップは,上位者から下位者だけではなく,同僚に対して,下位者から上位者に対して,他部門に対して,など様々な側面があります。



5 フォロワーがリーダーを支えるフォロワーシップは,リーダーシップに影響を与えることはない。


新しい言葉としてフォロワーシップが出現してきました。

リーダーシップは,人と人の関連性の中で発揮するものです。


フォロワーの態度形成は極めて大きな意味を持ちます。



<今日の一言>


国試は,勉強不足の人にとっては,とても難しいものです。

しかし,勉強した人は得点できるように,工夫されているのが今の国試です。断言できます。


ポイントをしっかり押さえていけば,必ず合格基準点は越えます。


なぜなら,多くの受験生は勉強不足で国試に臨むので,せっかく試験委員が点数を取りやすいように問題を作っているにもかかわらず,そこに気がつかないからです。


こういったところでどんどん差がついていくので,勉強不足の人は,合格基準点を上回ることが極めて厳しくなります。


しっかり勉強した人は,点数が取れる試験です。

2024年12月22日日曜日

リーダーシップに関する基礎理論~コンティンジェンシー理論

今回は,リーダーシップ理論を取り上げます。


特性論は,優れたリーダーシップを発揮できるのは,優れた素養を生まれ持ったリーダーである,という考え方です。


ところが,研究を進めても,優れた素養について,共通するものを見出すことができず,衰退します。


現代は,優れたリーダーシップは,行動によって決まるとされる行動理論に移ってきています。


さらに今日では,優れたリーダーシップ行動は,状況によって変わるとする「コンティンジェンシー理論」が提唱されています。

当然ながら,コンティンジェンシー理論は,「最も優れたリーダーシップ行動は〇〇である」といったことは言いません。


それでは,今日の問題です。


第29回・問題123 

リーダーシップに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 コンティンジェンシー理論では,特定のリーダーシップ行動の普遍的有効性を重視する。

2 行動アプローチでは,リーダーシップという影響力の実体をリーダー個人の身体的・精神的資質として捉える。

3 変革型リーダーシップ論では,メンバー個々の動機づけや知的刺激を排除するリーダーの行動を重視する。

4 リーダーシップの特性論では,課題志向型と人間関係志向型の二つの行動を重視する。

5 フォロワーシップ理論では,フォロワーの自律性を引き出すリーダーの役割を重視する。


リーダーシップ理論の知識がないと,うんざりしてしまうような問題かもしれません。




正解は,


5 フォロワーシップ理論では,フォロワーの自律性を引き出すリーダーの役割を重視する。



改めて読むと「なるほど」と思うかもしれませんが,正解だと思うのはなかなか難しい問題です。



その理由は,以下です。これが混乱させる要因です。


4 リーダーシップの特性論では,課題志向型と人間関係志向型の二つの行動を重視する。



特性論は,リーダーシップ行動を重視するものではなく,優れたリーダーは優れた素養を生まれ持っていると考えるものです。


つまり,リーダーシップは学ぶものではなく,リーダーになるべき人がリーダーになると考えて良いでしょう。特性論は,あまりに前時代的だと思いませんか。



特性論を述べたものは,


リーダーシップという影響力の実体をリーダー個人の身体的・精神的資質として捉える。


よほどひねくれた試験委員でない限り,特性論を正解にする問題はないように思います。


特性論では,リーダーシップは学ぶことができないと考えます。


それよりは,コンティンジェンシー理論を学んでもらった方が良いです。


コンティンジェンシー理論には,


フィードラー理論


SL理論


パス・ゴール理論


などがあります。



コンティンジェンシー理論を押さえるポイントは,適切なリーダーシップは,状況によって変わるものであるというところです。


コンティンジェンシー理論にもかかわらず,唯一の方法がある,といったものは,すべて間違いとなります。最低でもこれだけは押さえておきたいです。


ほかの選択肢も一応確認します。


1 コンティンジェンシー理論では,特定のリーダーシップ行動の普遍的有効性を重視する。


もしこれが正解だと思ったとしたら,コンティンジェンシー理論の理解が不足していると言えるでしょう。


コンティンジェンシー理論は,状況に合わせて適切なリーダーシップは変わる,というものです。特定のリーダーシップ行動の普遍的有効性を重視しているのは,行動理論です。


PM理論ではあれば,PM型

マネジリアル・グリッドであれば,9・9型

レヴィンらのリーダーシップ理論であれば,民主型リーダーシップ


これらが最も優れたリーダーシップだと提唱しています。


コンティンジェンシー理論は,状況によって適切なリーダーシップ行動は変化するので,どの状況に対しても有効である普遍的な行動スタイルはありません。



2 行動アプローチでは,リーダーシップという影響力の実体をリーダー個人の身体的・精神的資質として捉える。


リーダーシップという影響力の実体をリーダー個人の身体的・精神的資質として捉えるのは「特性理論」です。特性理論ではリーダーシップ研究には限界があり,その後出てきたのが「行動理論」です。



3 変革型リーダーシップ論では,メンバー個々の動機づけや知的刺激を排除するリーダーの行動を重視する。


またまた変革型リーダーシップが出題されています。


リーダーシップ行動には,状況によって程度は変化しますが,動機づけや知的刺激への働きかけは,必ず存在します。


変化が大きければ大きいほど,その変化についていけず,反発する人も出てくるでしょう。


人はロボットではありません。外の変化にも対応しなければなりませんが,同時に内部環境にも目を向けることが大切です。



4 リーダーシップの特性論では,課題志向型と人間関係志向型の二つの行動を重視する。


特性論(特性理論)は,選択肢2で述べたように,リーダーシップという影響力の実体をリーダー個人の身体的・精神的資質として捉えるものです。

最新の記事

障害福祉サービスの覚え方

 日本の障害者福祉は,障害種別ごとに発展してきたことが特徴です。 2005年(平成17年)の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)は,障害種別をなくした障害福祉サービスに一元化したのが特徴です。 障害者福祉になじみがないとそれでも複雑に思うかもしれません。 高齢者福祉と異なり,...

過去一週間でよく読まれている記事