国試の合格基準点は,6割程度,90点程度です。
試験を実施している社会福祉振興・試験センターにとっては,25%の人がその基準を上回る程度の難易度になるように国家試験を設計することはとても重要な意味を持ちます。
合格基準点が,それよりも大きく上回っても,下回っても,だめなのです。
そのために・・・
①誰もが解ける問題
②勉強した人が解ける問題
③誰もが解けない問題
これらをバランスよく,配置していきます。
今日もテーマは,③誰もが解けない問題を取り扱います。
今日の問題は,その中でも超ど級の難易度の高い問題です。
それでは今日の問題です。
第25回・問題21
環境問題のとらえ方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 自然環境主義とは,生活上の知識や経験の集成である生活文化,地域に固有の環境への働きかけの伝統をもとに,当該地域の居住者の生活の立場から環境問題の所在や解決方法を考えようとする立場である。
2 自然資源の共同管理制度及び共同管理の対象である資源そのものを意味するコモンズは,環境資源の慣習的な共同管理制度を持つ伝統社会では環境保全に役立っていたが,私有財産制の社会には存在しない。
3 環境問題では,被害・苦痛を被る範囲である受苦圏と利益・便益を受ける範囲である受益圏とが一致しないことが多いなか,ニンビー(NIMBY)と呼ばれる社会運動が提起されると,その多くは社会的理解を得て,問題解決の促進に役立っている。
4 環境問題では,低所得層や人種的マイノリテイなど社会的弱者に対して被害が集中することがある。このような不平等を是正し,あわせて環境からの便益の分配における不平等も是正しようという考え方を環境正義という。
5 経済成長と環境保全は二律背反的なものであり,技術革新によって環境保全を図ることはできるが,同時に経済成長も持続していくことはできないという考え方をエコロジー的近代化という。
チームfukufuku21は,この問題の出題意図を話し合いました。
しかし,意義を見出すことはできませんでした。
一致した意見は・・・
覚える価値がない問題
とは言うものの,問題を解くことで,何らかの法則は見い出すことはできるかもしれません。
しかし,「内容は覚える価値なし」です。
消去のヒントになる選択肢もほとんどありません。
それでは,詳しく見ていきましょう。
1 自然環境主義とは,生活上の知識や経験の集成である生活文化,地域に固有の環境への働きかけの伝統をもとに,当該地域の居住者の生活の立場から環境問題の所在や解決方法を考えようとする立場である。
自然環境主義と言っている割に,「自然」と言う言葉は一切出てくることなく,逆に「生活」という言葉が3回も出て来ます。
ここから「生活」がキーワードになっているのではないかと推測することはできます。
しかし,×は付けられません。
こういう時は冷静に▲を付けておきましょう。
調べてみたら,やっぱり違っていました。
自然環境主義ではなく,生活環境主義だそうです。
2 自然資源の共同管理制度及び共同管理の対象である資源そのものを意味するコモンズは,環境資源の慣習的な共同管理制度を持つ伝統社会では環境保全に役立っていたが,私有財産制の社会には存在しない。
コモンズは,何のことか分かりません。
言い切り表現に正解少なし
覚えていますか。
久しぶりに出て来ました。
その逆の
曖昧表現に正解多し
もありましたね。
言い切り表現に正解少なし,は多くの事象の中でたった1回,例外が表われたら,その問題のロジックは崩れます。
問題を見てみましょう。
私有財産制の社会には存在しない。
存在しない,思い切りの良い言い切り表現です。
世界は広いです。
「存在しない」とよくぞ言い切ったと思います。
内容はまったく分からなくても,×は付けられそうです。
実際にこの選択肢は×です。
しかし,間違いの理由は,全然違うところにあります。
コモンズは共有地を意味するそうです。
私有財産制の社会だから共有地が存在するわけです。私有財産制でなければ共有地という概念は生まれて来ないでしょう。
つまり,コモンズは,共有財産制の社会には存在せず,私有財産制の社会にしか存在しない,ということです。
3 環境問題では,被害・苦痛を被る範囲である受苦圏と利益・便益を受ける範囲である受益圏とが一致しないことが多いなか,ニンビー(NIMBY)と呼ばれる社会運動が提起されると,その多くは社会的理解を得て,問題解決の促進に役立っている。
この時点では,ニンビーはまったく聞いたこともないものでした。
今は参考書に載っているので,勉強が進んだ人は,この意味は分かるかもしれません。
何だかよく分かりませんが,ニンビーというのが登場すると,問題解決してくれる,というのはスーパーマンみたいに感じます。
しかし世の中には残念ですが,スーパーマンもドラえもんも存在しません。
まったく分からないですが,そういうところから☓をつけたいところですが,こういう問題こそ▲を付けなければなりません。
調べてみるとニンビーは「自分の裏庭以外で」という言葉の頭文字だそうです。
先日,紹介したディンクスみたいなものですね。
総論賛成,各論反対,といったところでしょうか。
ごみの処理場は必要だけれど,自分の住むところでの建設は反対!
ということでしょう。
こういう人たちが運動を始めたら,問題の着地点を見出すどころか,対話にさえならないかもしれません。
よって×。
4 環境問題では,低所得層や人種的マイノリティなど社会的弱者に対して被害が集中することがある。このような不平等を是正し,あわせて環境からの便益の分配における不平等も是正しようという考え方を環境正義という。
環境主義もまったく分かりません。
しかし,1つめの選択肢と違い,環境主義という言葉通り,環境という用語がそれ以外に2回も出てきます。環境主義の意味は分かりませんが,
〇を付けたいところです。
しかし,ここは冷静に▲を付けます。
5 経済成長と環境保全は二律背反的なものであり,技術革新によって環境保全を図ることはできるが,同時に経済成長も持続していくことはできないという考え方をエコロジー的近代化という。
これは,少し想像できます。
なぜかと言えば,エコロジーも近代化もそれぞれで明確な意味があるからです。
「主義」はその言葉自体には意味を持ちません。
それに比べると,この選択肢は何とかなりそうな予感がしますね。
エコロジーは環境,近代化は社会の発展です。
経済が発展しないと近代化は進展しません。
エコロジー的近代化は,環境を大事にしながら近代化を図ることだと何となくでも分かれば良いです。
もちろんこの選択肢は間違いです。
さて残ったのは,5以外の4つです。
こうなるとどうしようもないです。
可能性としたら,4がそれっぽいのかな,とは思いますが,他のものも意味が分からない状態です。
こんな問題に時間をかけるのはもったいないです。
適当に正解を選んで,次に進むのが一番です。
今見ても,出題の意味が分かりません。
正解させたいのだったら,比較的分かりやすかった5つめのエコロジー的近代化を正解にした問題にすべきです。
それをしなかったしところに,合格基準点が72点という考えられないほど低くなってしまった理由が見えてきます。
第26回以降は,こんなとてつもなく難しい問題は,出題されたことがありません。