時間は限られています。
分からない問題に時間をかけていたら,あっという間に時間は過ぎていきます。
本来正解しなければならない問題も正解できないことになります。
すべてを理解しようと思ったら,深みにはまります。
それでは,今日の問題です。
第25回・問題24
福祉社会の歴史に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 スウェーデンでは,1960年代初頭に福祉サービスを体系化した社会サービス法が制定され,それに基づき高齢者福祉や児童福祉のサービスが急速に発展した。
2 日本では,1960年代のいわゆる国民皆年金の成立を踏まえて,それを補完する形で企業による退職一時金制度の整備が行われ始めた。
3 アメリカでは,1960年代に,貧困層への対策として,食糧補助のためのフード・スタンプ制度や就学前教育としてのヘッド・スタート計画などが導入された。
4 イギリスでは,1970年代まで母子世帯の母親は自らが稼ぎ手役割を果たすことが自立であるとする政策理念のもとに,就労促進策力が展開された。
5 ドイツでは,1980年代の失業長期化への対応として,失業保険での失業手当の請求権を有しない者に対してミーンズ・テスト付きでの給付を行う失業扶助制度が導入された。
今日の問題は,各国の福祉に関する問題です。
この当時の試験委員長は,古川孝順先生でした。
古川先生の最後の年です。専門は福祉政策です。
第19回の国家試験が古川先生が試験委員長になった最初の試験でしたが,古川先生の専門の「社会福祉原論」が難しすぎて,0点になった人が続出したのをよく覚えています。
古川先生の置き土産のこの年の問題は,本当に難しいものになりました。
やっぱり自分の専門領域の問題は厳しく見るからでしょう。
それでは詳しく見ていきましょう。
1 スウェーデンでは,1960年代初頭に福祉サービスを体系化した社会サービス法が制定され,それに基づき高齢者福祉や児童福祉のサービスが急速に発展した。
社会サービス法は,何度か出題されています。
1960年代ではなく,1982年です。
よって×。
この法律がもとになり,エーデル改革が進められました。
この法律は,イギリスの「地方自治体社会サービス法」(1970)に名称が似ているので,それに引っ掛けて出題されることもあります。
イギリス 地方自治体社会サービス法(1970)
スウェーデン 社会サービス法(1982)
間違えないように覚えておきましょう。
2 日本では,1960年代のいわゆる国民皆年金の成立を踏まえて,それを補完する形で企業による退職一時金制度の整備が行われ始めた。
退職金は,皆年金になる前から存在しています。
よって×。
3 アメリカでは,1960年代に,貧困層への対策として,食糧補助のためのフード・スタンプ制度や就学前教育としてのヘッド・スタート計画などが導入された。
アメリカは社会保障制度が整っていないイメージはあると思いますが,それでも最低ラインの福祉(残余的)はやっています。
最初は,世界大恐慌の対策だった社会保障法(1935)です。
この時にADC(クリントンによって廃止されたAFDCの前身)や医療保険などが整備されました。
次は,貧困の発見がなされ,公民権運動などが激しくなっていった1960年代です。
この時に,メディケア,メディケイド,フード・スタンプ制度,ヘッド・スタート計画なとが成立していきます。
よって正解です。
いつ始まったのかは,多くの人は知らなかったはずです。
これを正解にするのは勇気が必要だったことでしょう。
4 イギリスでは,1970年代まで母子世帯の母親は自らが稼ぎ手役割を果たすことが自立であるとする政策理念のもとに,就労促進策力が展開された。
イギリスと言えば,ブレア政権の時のポジティブウェルフェア政策が有名です。
この政策は「福祉から就労へ」という政策です。
つまり,それ以前は就労ではなく福祉が重視されていたということになります。
よって×。
ブレアと時を同じくして,アメリカではクリントンがAFDCを廃止して,TANFを導入しています。
これもイギリスと同じ「福祉から就労へ」の流れです。
5 ドイツでは,1980年代の失業長期化への対応として,失業保険での失業手当の請求権を有しない者に対してミーンズ・テスト付きでの給付を行う失業扶助制度が導入された。
ドイツの就労支援策はほとんど日本では紹介されていないので,分からない人が多かったことと思います。
これがこの問題を難しくしている理由です。
失業扶助制度を導入したのは1970年代だそうです。
よって×。
1980年代は,景気が冷え込み,失業扶助制度が批判されることとなり,給付の引き下げを行うこととなりました。
ドイツでは,イギリスやアメリカよりも先に「福祉から就労へ」の道を開いていたことになります。
<今日の一言>
世界の流れは,
「就労から福祉へ」ではなく
「福祉から就労へ」です。